手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

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第三章 地歴の国アールマティ

紅葉の町『粛慎』

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 ようやく見えてきた、紅葉の町『粛慎』
 脇道を出てオスクール街道に入り進むと、最初に見えたのは。

「で、でっか!! なんだあれ……」
「わぁ……」
「綺麗……」

 町の中心に立つ『巨木』だ。
 すっごく大きな樹木だ。まだ町に入っていないのに見える。
 オレンジ、黄色、朱色の葉っぱが入り混じった巨木で、モミジやイチョウみたいな葉っぱが一つの樹木に生い茂っている……もう聞くまでもないけど。

「あれが、『大樹紅葉』ってやつか?」
「うん。立派なものだろう? 今はちょうど葉が満開の時期だから、美しさも際立ってる」
「綺麗だけど、町の悩みの一つに、落ち葉の掃除が大変ってのあるみたいなのよね」

 愛沙が苦笑する……まあ、あれだけデカい木の落ち葉掃除は大変だろうな。
 粛慎の周りは、どこも木々が美しく色づいている。不思議だな……ハルワタート王国の海やクシャスラ王国の大風車とは違う、大自然の美しさを感じる。

「さ、町に入ったら宿を取ろう。僕と愛沙で案内するよ」
「見どころはやっぱり『大樹紅葉』ね。近くで見るとまた迫力あるわよ!!」
「わくわくしますね、リーンベル」
「うん、たのしみ」

 リーンベルは日傘をクルクル回す。最近わかったが、機嫌がいいときは日傘を回すようだ。
 俺は、ムサシに言う。

「戦いもないし、こういう観光の旅こそ、俺が望んでいたモンだよ」
『きゅる?』
「お前も、戦いなんかしたくないだろ? いくら属性とか形態とか切り替えられるとしてもさ」
『きゅい~』

 平和が一番。
 行く先々で、いちいち厄介なバトルしてられないっての。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、粛慎に入ると……なんともまあ、趣のある町だった。
 古い中華風の街並みだ。生えている木々がどれも紅葉で色づいているので、雰囲気もいい。
 露店では饅頭、餃子みたいな点心系が売ってる。正式な名前はわからないが、どう見ても蒸籠で蒸してるし、道行く人が饅頭食ってる。
 建築物も中華的な……凝った装飾の物が多い。

「わぁ、素敵な町並み……」
「あそこ、おじさんがお喋りしてる」

 リーンベルが見たのは、ステージみたいなところでお喋りしている漢服のおじさんだ。手には扇子を持ち、動きを混ぜて踊りながらお喋りしている……なんだ、あれ?

「あれは『漫談』っていう、岩月の娯楽の一つだよ。なんて言えばいいかな……」
「一人演劇、って感じ?」
「さすが愛沙。ま、そんな感じ。一つの物語を、ああやって一人で演技しながら披露するんだ」
「へえ、でも……疲れそう」
「あはは、まあそうだね」

 おじさんは汗だくだ。
 でも、観客は聞き入ってるし、要所要所で笑っている。
 他にも、手品や踊りなど、いろんな芸をしている人たちがいる。

「ここは観光地だからね、ああいう曲芸を生業にしている人たちが集まるのよ」
「そういうこと。さ、宿に行こう。ところで……路銀は足りてるかい?」

 玄徳に言われ、俺と愛沙は顔を見合わせる。
 共用の財布をチェック……うん、まだまだ余裕ある。
 が、エルサが言う。

「レクス。最近その……楽しんでばかりで、冒険者活動してないですよね」
「そ、そうだな……なあ玄徳、ここ冒険者ギルドあるか?」
「あるよ。まさか、依頼受けるつもり?」
「まあ、そうだな。観光しつつ、遊び代くらいは稼がないと」

 なんか、このままだと怠け者になりそうな気がする。
 せっかく冒険者なんだし、少しは活動しないとな。

「レクスくん、エルサ。お金足りないなら、私出すよ?」

 リーンベルはポケットに手を突っ込み、白金貨を何枚も出した……いやいや、さすがにダメだ。

「友達から金は借りない。な、エルサ」
「はい。これは、私たちの問題です。でも……リーンベル、ありがとう」
「う、うん。余計なことだった、ごめんね」

 さて、玄徳と愛沙のおススメ宿に向かう。
 町の中心にある『紅葉旅宿』という五重の塔みたいな宿を取った。二人部屋と三人部屋を取り、まずはみんなでお昼へ。
 お昼は、粛慎にある麺屋に行った。
 川魚を使ったスープ、そして野菜を練り込んだ麺……うーむ、プロの仕事だ。すごく美味い。
 お昼の後は、みんなで『大樹紅葉』を見に行った。

「……いやはや、わかっていたけど」

 見上げるほどデカいことはわかっていた。
 すごい。ジャンボジェットの胴体よりも太い木の幹に、血管みたいに枝分かれした木の枝。そして、カラフルで様々な形の葉っぱ……もう、スケールが違いすぎる。
 地球にあったら、まず間違いなく世界遺産認定されているであろう巨木。
 俺たちは、大樹紅葉を囲う柵のギリギリまで近づき、巨木を見上げていた。

「この木、神様が植えたって言われてるらしいよ」
「神様?」
「うん。ま、わからないけどね」

 玄徳が「あはは」と笑う。
 神様か……俺を『レクス』に転生させた神様か、ドラゴンをくれる神様か、それとも樹木の神様とか? まあ……こんな立派な木を植える神様だ。きっといい神様だろう。
 しばらく大樹紅葉を眺め、満足した。

「ふう……さて、このあとどうする?」
「しばらく自由行動しようか。僕、ちょっと『退魔士協会』に行ってくる」
「あ、私も行くよ。じゃ、みんなまたあとで」

 玄徳、愛沙が行ってしまった。
 これはチャンス。

「エルサ、リーンベル。少し話していいか?」

 俺は、玄徳と愛沙のことで、二人に話をすることにした。

 ◇◇◇◇◇◇

 やって来たのは点心屋。
 カフェというか、こういう茶屋しかない。
 ほうじ茶っぽいお茶に饅頭のセットを頼む……お昼食べた後に饅頭ってけっこうキツイ。エルサとリーンベルはモグモグ食べているけど。
 さて、俺はお茶を置いて言う。

「玄徳と愛沙のことなんだけど……お前ら、知ってる?」
「「…………」」

 エルサとリーンベルが顔を見合わせ、リーンベルが言う。

「私、アールマティ王国での旅が終わったらリューグベルン帝国に帰る、代わりに愛沙と玄徳が仲間になって……とは言った」
「わたし、愛沙さんに相談されました。『私は行けるかわからない。玄徳を連れて行って』って……」
「俺も似たようなもんだ。俺の場合、玄徳は愛沙も一緒に行けたらいいなって感じだけど」

 つまり、こういうことだ。
 玄徳は俺たちに同行する。でも、愛沙が一緒だと嬉しい。
 愛沙は一緒に行きたいけど、実家である蓬家で退魔士として活躍することも考えている。その場合、一緒には行けないから玄徳をよろしく……って感じだ。

「エルサは、玄徳が仲間になれば嬉しいか?」
「はい。玄徳さん、強いし、物知りだし……でも、愛沙さんがいればもっと嬉しいです」
「だよな……結局、俺たちは愛沙の判断を待つしかない、ってことか」
「……無理強いさせるのも悪いし」

 リーンベルがそう言うと、俺とエルサがため息を吐く。
 すると、モミジみたいな葉っぱが風に乗り、俺たちのテーブルへ。

「……とりあえず、俺たちはどんな結果でも受け入れるしかない、な」
「はい……」
「……うん」

 こうして、現状確認だけで終わった。
 この日、みんなで夕食を食べ、粛慎での一日が終わるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 俺、エルサ、リーンベルは冒険者ギルドへ、玄徳と愛沙は退魔士協会へ向かった。
 久しぶりに依頼を受ける。玄徳と愛沙も、路銀を稼ぐために依頼を受けるそうだ。
 さっそく冒険者ギルドへ。
 粛慎の冒険者ギルドはかなり広い。しかも中華風建築だし、受付嬢もチャイナ服みたいなの着てる。
 依頼掲示板の前で依頼を確認すると。

「……討伐依頼しかないな」
「あ、ある意味ではすごいですね……クシャスラ王国では採取依頼しかなかったですし」
「どれにしよっか?」

 討伐依頼がかなりあった。
 というか、討伐レートが書いてないのもある。退魔士協会から回ってきた依頼もあるようだ。
 俺は一枚の依頼を手に取る。

「妖魔『烏文化うぶんか』討伐……見ろよこれ、筆で書いてある」

 依頼書はかなり達筆だ。しかも、烏文化とかいう魔獣の絵も描かれている。
 見た感じ、オークみたいな魔獣かな。

「報酬は金貨十枚。けっこう強いのかな?」
「どうでしょう……討伐レートは?」
「書いてない。でも、金貨十枚はおいしいな」
「受ける? 私はいいよ」
「じゃあ、これでいいか」

 受付嬢に見せると、あっさり受領された。
 冒険者カードは見せたが、軽いチェックだけで終わる。ハルワタートやクシャスラだったら、等級の確認して、依頼が受けられるかどうかの確認もあるんだが。
 
「では、お気をつけてー」
「あ、どうも」

 受付嬢さんに言われた。なんか適当だなあ。

「とりあえず、烏文化とかいう魔獣の出現地まで行ってみるか」
「はい。行きましょう!!」
「三人って久しぶりだね」

 こうして、俺たちは久しぶりに、冒険者ギルドでの依頼を受けるのだった。

『きゅるる~』
「お、起きたか。よく寝たか?」
『きゅいい』

 ムサシも起きたし、まあ何とかなるだろうな。
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