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第三章 地歴の国アールマティ

微妙な二人

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 旅は順調に進んだ。
 野営で振舞った『レクスオリジナル異世界カレー』は大好評。異世界のスパイスは中毒性でもあるのか、エルサが野営のたびに「カレー……ま、毎日はダメですよね」と聞いてくる。
 玄徳、愛沙にも好評だが、さすがに毎日だと飽きる。
 ちなみに、カレーはひと段落……今はラーメンの研究をしている。
 ある日の野営。

「れ、レクス……何してるんだい?」
「いや、ラーメンスープの研究だよ。オークの骨、乾燥させた魚や海藻、山の幸で出汁を取ってる」

 ぐつぐつ煮える大鍋。
 麺は『女子』で大量に買った。ラーメン屋で麺の打ち方も聞いたし、チャーシューの作り方も教わった。あとは時間のある時に麺打ちの練習と、オリジナルスープの開発をする。
 でも……野営で麵打ちってかなり大変なんだよな。
 アイテムボックスの中にある麺は生麵だから長く持たないし、やっぱり自分で打つしかないんだが……やはり、作り方を教わったと言っても、見様見真似で麺打ちは難しい。
 スープも微妙だし……俺の日本知識じゃ、乾物や骨なんかで出汁を取ることくらいしかわからん。
 玄徳は鍋をのぞき込む。

「ラーメンか……実は、僕も興味あるんだ」
「お、いいね。一緒に研究するか?」
「いいのかい? じゃあ……」

 こうして、ラーメンスープは玄徳と共同でやることになった。
 そして、女子たちが水浴びから戻る。

「あれ、何してんの?」
「スープの開発だよ。ラーメンスープ」
「へ~、玄徳も一緒に?」
「うん。愛沙も一緒に……というか、みんなでやらないかい?」
 
 玄徳の提案に、エルサが挙手。

「わたし、やってみたいです。ラーメン……あの味が、旅先でいつでも食べれたら最高ですね」
「…………」

 と、リーンベルが俯く。

「……いいなあ」

 リーンベルとの別れも近い……一緒に研究しても、完成までは辿り着けないかもしれん。
 すると、テーブルで寝ていたムサシが起き、リーンベルの肩に乗る。

『きゅるる~』
「わ……うん、ごめんね。ありがとう」
『きゅい』

 ムサシが俺の肩へ。どうやら、リーンベルを慰めたようだ。
 俺は、エルサと愛沙と玄徳にスープを任せ、リーンベルの元へ。

「な、リーンベル……本当に、リューグベルン帝国に戻らなきゃいけないのか?」
「……うん。私、六滅竜だから。レヴィアタンと一緒に、祖国を守らないと」

 リーンベルが右手の紋章を見せると、青く、淡く輝く。

『レクス。気持ちはわかるけど……この旅も、随分と無理をしての同行なの。私としても、あなたたちの旅に同行させて、世界を見てもらいたいけど……ね』
「レヴィアタン……わかってる。お前にも感謝しなきゃな」
『ふふ。私に感謝するくらいなら、リーンベルに楽しい思い出をたくさん作ってあげてね』
「ああ、わかってる」

 紋章の輝きが消えた。
 俺はリーンベルに言う。

「リーンベル。時間は少ないかもしれないけど……これからもっと、楽しい思い出を作るからな。さ、ラーメンスープの研究でもしようぜ」
「……うん!!」

 リーンベルはにっこり笑い、俺と一緒にエルサたちの元へ向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 五人での旅は楽しかった。
 紅葉の美しいアールマティ王国では、気候も一定なのか穏やかで過ごしやすい。余生を過ごすならこんな感じのところがいいな……なんて思ってしまう。
 粛慎に向かう途中、魔獣が何度か現れたが、五人で協力して倒せた。
 俺、愛沙が前衛。リーンベル、玄徳が中衛、エルサが後衛でサポートという布陣に自然となる。
 リーンベルが抜けても、四人での布陣に変更はない。
 道中、野営の最中に俺は愛沙と摸擬戦をした。

「よ、ほっ」
「はいはいっ、ほいっ」

 俺は両手に木剣、愛沙は長い棒で摸擬戦を行う。
 コンコンコンと棒がぶつかる音が響く。軽い準備運動みたいなものだし本気じゃない。
 愛沙の武器は薙刀。突き刺すこともできるが、刀身で斬る動きがメイン。しかも間合いが取りづらいし、双剣でもかなりやりにくい。
 摸擬戦を終え、俺は愛沙と話をする。

「レクスの二刀流、なんていうか……もともとあった型を双剣流にアレンジした感じ?」
「お、わかるのか?」
「なんとなくね」

 俺の流派はドラグネイズ流剣術だ。そこに、ゲームキャラの使っていた必殺技を自分なりにアレンジして加えた、
いうなれば自己流の双剣術。ゲーム云々言っても伝わらないし割愛。

「それと、ハンマー……なんでハンマー?」
「いやまあ、打撃強いし」

 それもゲームキャラの武器なんだよな。まあ言わんけど。
 でも、打撃が強いってのは間違いない。何度か見せたが、俺のは基本叩き潰すだけだ。
 
「あと、銃だっけ。見たことない武器だけど……あれ、強いよね」
「ああ。でもまあ、弾丸一発作るのにかなり手間かかる。鍛冶屋に持ち込んでも断られることあるし」

 いちおう、到着した町などにある鍛冶屋に、弾丸のレシピや金型、火薬なんかを持ち込んで依頼するんだが、けっこう断られるんだよな。
 銃は骨董品……火薬、クソ高いし仕方ないけど。

「総合的に見ると、斬撃、打撃、銃撃だっけ? まあ、まとまってるね」
「おう。自分でもそう思う」
「そこに、ムサシとの連携……」

 愛沙が見たのは、エルサと玄徳がムサシにラーメン出汁用の乾物を食べさせているところだった。
 おいおいムサシ、夕飯前に食うのはほどほどにしておけ。
 と、俺は玄徳をジッと見る愛沙に聞く。

「な、愛沙……お前、どうするか決めたのか?」
「あー……」

 以前、愛沙に聞いた。
 俺とエルサの旅に同行するかどうか。
 
「俺とエルサの気持ち、変わってない。きっと四人なら、楽しく旅ができると思う……リーンベルがいればもっと最高なんだけどな」

 リーンベルは帰るので仕方ない。
 想像する……次は砂漠の国アシャ。延々と続くクソ暑い砂漠を、汗ダラダラで歩く俺、エルサ、玄徳、愛沙……うげぇ、なんか急に行きたくなくなった。

「やっぱ、実家は大事か?」
「うん。家族のみんなは優しいから……私も、家族が大事。蓬家の退魔士として岩月にいたい気持ちもある。でも……レクス、エルサ、玄徳と四人で、世界を巡る旅をしたい気持ちもある」

 薄紫色のツインテールが揺れ、空を見上げる。

「悩むなぁ~……」
「ま、ゆっくり考えてくれ。俺としては来て欲しいけど……どんな答えを出そうとも受け入れるよ」
「うん。ね、玄徳はやっぱり行くのかな」
「わからん。お前の傍にいたいって言うかもしれないし」
「ば、馬鹿なこと言わないでよ」

 いやマジ……まあ、これ以上は言わない。
 恋愛的な告白は、玄徳の口から言うべきだろうしな。
 すると、ムサシが俺の元に飛んできた。

『きゅるる~』
「お、どした? 腹減ったか?」
『きゅいい!!』

 メシ寄越せ!! と言わんばかりに俺の右手に飛び込むと、魔力が減る感覚がした。
 メシ食ったら寝るだけだろう。ま、今日はもう出てこないかな。

「とりあえず、俺たちもメシにするか」
「ええ。そういえば今日は『カレーの日』よね。早く用意した方がいいんじゃない?」
「あ、そっか」

 三日に一度、カレーの日を設けたんだった。
 カレーのレシピはまだ秘密。苦労して再現したんだ、悪いが仲間でもレシピ公開はまだしない。
 エルサたちの元へ戻ると。

「レクス、今日はカレーの日ですよ!!」
「わ、わかってるって。そんな鼻息荒げるなよ」
「は、鼻息とか荒げてません!!」
「あはは。さて、僕は野菜を切るよ。愛沙は……先に、川で汗を流してきたら?」
「お、気が利くこと言うじゃん。ね、エルサも行こ。あれ? リーンベルは……あ、寝てる」

 リーンベルは椅子で寝ていた。
 読書していたのか、テーブルに本が乗っている。
 エルサと愛沙が川に水浴びに行っている間、俺と玄徳が料理をする。

「……あのさレクス。愛沙と何を話してた?」
「お前がヤキモチ焼くような内容じゃないぞ」
「そ、それは知ってるけど……もしかして、旅に同行する話かい?」
「ま、そうだな。愛沙としては実家も大事で、俺たちと旅もしたいって思ってるらしい……」
「……そっか」
「で、玄徳。お前は?」
「……僕は、見聞を広めるために、きみたちの旅に同行するよ。僕の符術も役に立つだろう?」
「正直、めちゃくちゃ助かってる」

 俺はスパイスを確認しながら思う。
 符術……敵を縛る『縛』の符術だけでもかなり助かる。それに玄徳は多様で、魔法よりも早く符による攻撃ができる。エルサほどじゃないが回復もできるし。
 器用貧乏とか言うが、一つを極めたものより、多様なことができる方が強いと俺は思った。

「僕は……愛沙を誘って、愛沙に答えを出してもらうよ」
「……ああ」
「でも、みんなで冒険もしたいよね」
「……だな」
「さて、明日には『粛慎』に着く。観光地だから、みんなで楽しもうね」
「おう……」

 なんというか……玄徳と愛沙に話を聞くことしかできないな。
 一度、エルサとリーンベルに相談してみるかね。
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