手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう

文字の大きさ
上 下
35 / 129
第三章 地歴の国アールマティ

次の町へ

しおりを挟む
 翌日。
 ベッドから起きて欠伸をする俺。

「ふぁぁ……ん~、買ったばかりの寝間着、着心地いいな」

 シルクみたいな肌触りで気持ちいい。リーンベルはどう思ったかな?
 着替えて一階に降りると、ムサシを撫でているエルサリーンベルがいた。

「よ、早いな」
「おはようございます。レクス」
「レクスくん、おはよう」
『きゅるる~』

 ムサシが俺の紋章へ飛び込むと、魔力が減った……朝食の時間だ。
 宿の食堂へ向かい朝食をオーダーすると、運ばれてきたのは朝粥だ。野菜や鶏肉を入れた、お腹に優しそうな粥料理……こういうのいいな、新鮮な気分。
 レンゲで粥を食べていると、リーンベルが言う。

「こういう朝食、はじめてかも」
「わたしもです。お米とかパンならわかるんですけど……おかゆ、でしたっけ」
「そういや、お粥って食べたことないんだな」
「はい。お米は炊いて食べる物だとしか……それに、貴族はあまり食べないので」
「私もほとんど食べたことないけど……でも、このおかゆ美味しいね」

 サラサラしたお粥は食べやすいし、あったかくておいしい。
 あっという間に完食し、食後のお茶を飲んでいた。

「で、今日はどうする? 観光するか?」

 俺がそう言うと、エルサが言う。

「昨日、いろいろ調べてみたんですけど……この『灰燐』はハルワタート王国とアールマティ王国を繋ぐ港町というだけで、際立って珍しい観光地ではないみたいです。でも、ここから先にある『天民てんみん』という町は、鳥の町として有名みたいですよ」

 出た、エルサのパンフレット!! 
 テーブルにいくつもパンフレットを並べる……かなりの数だ。
 するとリーンベルが。

「鳥の町……鳥料理が有名なの?」
「いえ。鳥の町『天民』は、特殊ジョブ『鳥使いバードラー』が集まる街みたいです。とにかく鳥が多い町で、けっこう有名みたいですよ」
「鳥使い……特殊ジョブ?」
「えっと。『竜滅士』がリューグベルン帝国だけにしかないジョブみたいな感じです。ちなみに、ハルワタート王国には『潜水士』で、クシャスラ王国には『吟遊詩人』っていう特殊ジョブがあるんですよ」
「し、知らなかった」

 特殊ジョブ……そんなのあったのか。
 後出し情報……まあ別にいいや。あんま関係なさそうだし。

「じゃあ、その鳥の町に行くか。あ……じゃあ今日は、この港町で旅支度をしていこう。その鳥の町までのルートはあるか?」
「はい。えっと……オスクール街道だと定期馬車で一日、徒歩だと三日。迂回ルートだと四日ほどかかりますね」

 エルサ、わかってるな。
 俺はリーンベルに聞く。

「な、リーンベル。オスクール街道は安心安全だけど、俺たちは迂回したりして景色を楽しんだり、野営とかもする。今回は……うん、最近ずっと高級宿でのんびりしてるし、野営しながら行きたいな。リーンベル、それでいいか?」
「もちろん。野営……私、修行時代はけっこうしたけど、最近はぜんぜん。たのしみ」
「エルサもいいか?」
「はい!! ハルワタート王国で買った食材とか使いたいですしね」
「よし。じゃあ今日はみんなで旅支度をして、明日は自由時間、明後日出発だ」

 宿を延長する必要はなくなった。
 こうして、俺たちは予定を立ててその日を過ごすのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日、三人で旅の準備をする。
 食材や保存食、薪、リーンベル用のテントや寝袋、野営道具……半日かけて準備を終えた。
 そして現在、港から少し離れたカフェ……茶屋だな、そこでお茶を飲んでいる。

「このお茶、不思議な味がしますね……」
『きゅるる~』
「なんか、黒い……?」

 いつもは紅茶だが、ここでは黒豆茶っぽいのが出てきた。
 文化違うなあ……でも、俺は紅茶よりこっちのが好みかも。
 お茶菓子も、クッキーなどではなく饅頭とか点心っぽいのだし。
 あんこ入り饅頭、黒豆茶にすごく合う。

「うまい。この饅頭、出発前にいっぱい買おうぜ」
「賛成。これおいしい……」

 リーンベルも饅頭をモグモグ食べている。
 すると、エルサが「こほん」と咳ばらいをした。

「あの、レクス、リーンベル……今夜の夕食ですけど」
「「?」」

 エルサは一枚のパンフレットを見せる。
 そこには「アールマティ王国名産の山菜鍋」と書かれていた。

「ハルワタート王国では海産がメインでしたけど、アールマティでは山菜が多く使われた鍋や、山の魔獣肉でしっかり味を出した肉鍋があるみたいです。その~……お鍋、食べませんか?」
「エルサ、ほんとに鍋好きだな……いや、俺も好きだけど」
「お鍋……うん、たべたい」
『きゅいい』
「じゃあお鍋にしましょう!! やったあ……ふふふ」

 エルサ、もしかしたら七国全ての名産鍋を制覇するかもしれん。
 その日の夜。
 エルサは激辛山菜鍋を大満足で完食。俺は肉鍋、リーンベルは山菜鍋を完食した。
 肉鍋うまかった……鳥メインでヘルシーだ。山菜鍋も山の幸がふんだんに使われ、いい匂いがしていた……激辛gはまあ、察してくれ。
 鍋屋で食後のお茶を楽しんでいると、俺たちの席の後ろから話が聞こえてくる。

「聞いたか、ついに出たってよ……」
「ああ。『四凶しきょう』だろ。話題になってたぞ」
「『天民』じゃ大騒ぎらしいぜ。もう災害レベルだ……『岩槍軍』も大変だ。冒険者たちも稼ぎ時といえばそうだろうけどよ」

 なんか聞こえてくるな。しきょうって何だろうか?
 ま、別にいいか。

「さて、腹いっぱいになったし帰るとするか」
「はい。明日は自由行動ですね、リーンベルは予定ありますか?」
「と、とくにないけど」
「じゃあ、わたしとお買い物しませんか?」
「い、いいよ。私なんかでよければ」
「ふふ、じゃあ決まりですね。あ、レクス……今回は女の子だけで行きますので、ごめんなさい」
「気にしなくていい。俺もムサシとのんびりする」

 こうして、港町での夜は過ぎていく。

 ◇◇◇◇◇◇

 そして翌日。
 午前中はムサシとのんびりし、午後は武器屋に行くことにした。
 港町の武器屋……銛とか売ってるのかなーと適当に考えていたが、売っているのは独特な武器だった。

「剣……青龍刀か? 薙刀、トンファーにヌンチャク、鉤爪とか鎖鎌……クセの強そうな武器が多いな」

 武器を眺めていると、新聞を読んでいた店主がジロっと俺を見る。

「……あんた、冷やかしかい。そうなら帰りな、ここは観光地じゃねぇよ」
「…………」
「……なんだ、その顔」

 俺は怒り……いや、ちょっと感動していた。
 これまでの武器屋は「やたらフレンドリー」で対応が少し鬱陶しかったが……この武器屋の店主は「ぶっきらぼうな髭面おじさん」だった。
 対応も異世界ラノベにありそうな頑固おやじの武器屋っぽいし……実はこういうの望んでいたんだよ。
 俺が笑顔なのに不信感を持ったのか、おじさんが言う。

「変なヤツだな。見たところ冒険者だろ? 四凶が出たってのに、お気楽なもんだ」
「しきょう?」
「……あんた。ああそうか、よそモンか。なら仕方ねぇな」
「そういや、昨日の鍋屋でもそんな話聞いたな。あの、その「しきょう」って何ですか?」
「……まあいい」

 おじさんは新聞を閉じる。

「『四凶』ってのは、この歴地の国アールマティに古くから存在する、討伐レートSS+の四体いる魔獣のことだ」
「と、討伐レートSS+って……そんなのがいるんですか?」

 魔獣の討伐レート。
 一般的なのはF~Bくらい。Aが出るとヤバイ、Sはかなりヤバイ、SSはマジでヤバイ。そしてSS+は騎士団とかが部隊を率いて戦うレベル。
 後で知ったことだが、サルワはSSで、タルウィはSS+だ。
 つまり、タルウィと同じ強さの魔獣が四体も、アールマティには存在する。

「や、ヤバイですね」
「ああ。今、冒険者ギルドと『岩槍軍』が手ぇ組んで討伐に動いてる。だが、なかなか上手くいかないようだ」
「あれ? アールマティには竜滅士……六滅竜『地』がいるはずじゃ」
「動かねぇんだよ」
「…‥え?」
「常駐の竜滅士を追い返し、六滅竜『地』がここに居座ってる。だが……国を守るでもない、怪しげな要塞みたいなのを建てて、引きこもってやがるんだ。噂じゃ、妙な魔獣を生け捕りにしたとか、討伐レートSの魔獣をとにかく捕獲してるとか……何度か使者を送ったらしいが、無視だとよ」

 どういうことだろうか?
 六滅竜『地』がいることは知ってるけど……常駐の竜滅士を追い出したってのは初めて聞いた。
 リーンベルは……まあ、嫌いって言ってたし知らないだろうな。

「あんた、鳥の町『天民』に行くつもりか?」
「ええ、そうです」
「気ぃつけな。あの町、四凶の一体『渾沌こんとん』の被害にあったばかりで、気ぃ立ってるらしいぜ」
「う……あ、ありがとうございます」

 四凶か……どういう魔獣なんだろうか。
 せっかくなので、武器屋でトンファーと三節混を買い、アイテムボックスに入れた。
 そして、宿に戻る道中、適当なベンチに座ってムサシを召喚した。

「な、ムサシ……アールマティでも厄介ごとになりそうな気がするよ」
『きゅるる~』

 ムサシは嬉しそうに鳴き、俺の周りを飛び回るのだった。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。