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第一章 風車の国クシャスラ

風車の国クシャスラ

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 馬車は順調に進み、ようやく見えてきた。
 風はやや強いが、天気はいい。
 馬車から身を乗り出したリリカが指をさす。

「レクス、エルサ、あれを見て!! あれがクシャスラ王国の名物、『大風車』だよ!!」
「「おお~……!!」」

 馬車から見えたのは、巨大な『風車』だった。
 遠目でもわかる。あり得ないくらいデカい『風車』が回っている。
 声も出せずに眺めていると、リリカが胸を張って言う。

「風車の国クシャスラは、見ての通り『段差』の地形に作られた国なの」

 確かに、段々畑みたいな地形だ。棚田って言えばいいのか?
 段差の一番上にあるのが王城で、驚いたことに大風車は王城に直接くっついて回っている。
 段差ごとに大小さまざまな風車が回っており、壮大な光景に目が奪われる。
 
「すごい光景だ……!!」
「そうでしょ? 観光客はみんな、この街道でクシャスラの光景に釘付けになるから、『釘付け街道』なんて言われてるくらいなのよ」
「確かに納得ですね……」

 周囲には、風車塔がいくつもあり、風の力で風車がよく回っている。
 風車の周りには麦畑……そういや風車って粉挽きとかのために回ってるんだっけ。王城にある風車も粉挽き……じゃあなさそうだけど、何だろうか?

「なあリリカ。風車って何のために回ってるんだ? 粉挽きか?」
「お、知ってるね。周りにある風車は粉挽きがメインだけど、城壁の内側にある風車は、国の象徴よ。風車の国、風の国、風が吹くから風車が回る。風車が回るからここはクシャスラ……ってわけ」
「へえ……なんか、神秘的だな」
「ふふ、ありがと」

 なぜかお礼を言われた。なんでだろうか?
 
「あたし、この国が好きだからさ……喜んでもらえるとうれしいよ!!」
「ははは、この光景を見られただけで、リューグベルン帝国を出てよかったって思えるよ。な、エルサ」
「はい。世界って広いなー……って思いました」
「なにそれ。あはは」

 風車の光景に感動していると、馬車が正門に到着した。
 騎士団の馬車なので検問を素通り……そしてそのまま馬車が城下町を進む。

「なあ、どこまで行くんだ?」
「ごめん。城下町にある騎士団の詰所まで行くね。そこでお礼をするから」

 馬車は城下町を進み、大きな白い建物の前で停車した。
 建物には、交差した剣と風車のマークが付いている。リリカの鎧にも付いているマークなので、これがクシャスラ騎士団のマークなのだろう。
 馬車から降りると、青い髪にピアスをしたイケメンが出迎えてくれた。

「ようリリカ。怪我がなさそうで安心したぜ」
「グレイズ隊長……!!」
「……スミスとヘドのことは聞いた。すまなかった……中隊を分けることさえしなければ、こんなことには」
「違います。隊長の判断は間違っていません!! 全ては、あたしたちが未熟だったから……」

 リリカと隊長さんのやり取りを聞いていると、隊長が俺たちを見た。

「そちらは、リリカを助けてくれた冒険者さんたちだな? はじめまして。オレはクシャスラ騎士団第二中隊長グレイズだ。リリカを救ってくれたこと、感謝する」
「いえ。俺たちも力が足りず……もう少し急いでいれば、団員さんを救えたかも」
「……その言葉だけで嬉しいよ」

 グレイズさんは指輪のアイテムボックスから大きな包みを出すと、俺に渡す……ってこれ、中身全部金貨じゃないか!! とんでもない大金だぞ!?

「命の礼を金で済ますのは無粋だが、受け取ってくれ」
「いやいや、こんな大金……」
「もらってくれ」

 ……これ以上は拒否できなかった。
 俺とエルサがこの金をもらうことで、リリカを救ったことに対しての礼になる。
 エルサも、これ以上は拒否しなかった。

「わかりました。もらいます」
「ああ。……リリカ、お前は十日間の休養を言い渡す。十日間きっちり休んで、十日後にはいつものお前で戻って来い」
「……はい!!」
「では勇敢なる冒険者たち。これで失礼する」

 グレイズさんは騎士の敬礼をして、部下と去っていった。
 別の馬車が到着すると、そこから布に包まれた二つの遺体が運び出される。リリカはそれを見て口元を歪め、涙を堪えながら敬礼をしていた。
 詳しくは聞いていないけど……きっと、大事な仲間だったのだろう。
 しばらくそのまま俺たちも遺体を見送ると、目元を拭ったリリカが言う。

「さて、あたしは十日間の休養になったから、あなたたち二人を案内できるよ!!」
「リリカさん……その」
「あー、俺ちょっと疲れたし、案内はまだ大丈夫だ。リリカ、お前も少し休めよ」
「……レクス。うん、そうする。宿はどうする?」
「城下町の中心に行けば、そこそこいい宿あるだろ?」
「うん。おすすめは、『風車亭』って宿かな。料理はおいしいし、お部屋にお風呂も付いてるんだよ。お値段もお手頃だし人気あるところ。今は風が強くて観光客も少ないから、いい部屋に泊れると思う」
「よし、じゃあそこにするか」
「そうですね。じゃあリリカさん、また」
「うん。休んだら会いに行くね!!」

 リリカは手を振って走り去った……空元気っぽいし、まだ無理しない方がいいだろうな。

「レクス、ありがとう」
「え?」
「リリカさんに気を遣ったんですよね」
「まあ、仲間が死んだばかりだしな……空元気もけっこう疲れるだろ。一人になって大泣きするくらいの時間は必要だと思う」
「……はい」

 俺とエルサは、しばらく詰所を眺めていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、宿の確保だ。
 リリカのアドバイスで聞いた『風車亭』に徒歩で向かう。
 騎士団の詰所は正門の傍だから、町の中心まではそこそこ歩くことになる。
 風も強い……でも、住人たちは慣れているのか、普通に歩いている。

「わあ……レクス、見てください。あそこにも風車が」
「ほんとだ。小さいけど……お、あそこにも」

 城下町は、風車がいっぱいあった。
 街灯には全て小さな風車がついており、住居にもいろいろな形の風車がある。風も強いし、ほとんどすべての風車がクルクル回転していた。
 城下町の中心に到着。やはり冒険者ギルド、大手の武器防具屋、道具屋などの主要設備が揃っている。
 高級そうな宿もいくつか並んでいるが……あったあった。
 
「レクス、あそこですね」
「ああ。風車亭……すごいな、風車塔みたいな宿だ」

 大きな風車がくっついた宿屋だ。
 中に入ると、円柱の空間で、中央に螺旋階段がある。
 カウンターで二部屋確保すると、リリカの言った通りお客は少ないようだ。
 いい部屋を二つ確保、部屋を確認すると、小さいながらもお風呂がついていた。まあ、ツボみたいな浴槽とシャワーだけだが、あるとないでは話が違う。
 部屋を確認し、再びエルサと合流。一階ロビーに降りた。

「時間は……夕方前か。夕食はどうする?」
「そうですね……街で食べるのもいいけど、今日は宿の食事にしましょうか。街は、リリカさんが案内してくれるみたいですし、せっかくなのでそれまでは散策しないようにしませんか?」
「いいね。同じこと考えていた」

 宿屋の主人に夕食を頼み、そのまま地下の食堂で食事。
 この日は部屋で過ごすことを決め、俺とエルサは自分の部屋に戻った。
 部屋に戻るなり、俺はムサシを召喚。
 テーブルにそっと置き、俺はムサシを撫でた。

「なあムサシ。体調悪いのか? ずっと大人しいけど……」
『……きゅう』

 どうも、ウィンドワーウルフとの戦闘後からムサシの調子が悪い。
 紋章から出ようとせず、召喚しても丸まったまま動かない。
 
「ドラゴンが病気になるなんて聞いたことないけど……」
『……きゅー』
「何かあったらすぐ言えよ。お前が元気ないと、俺もつらいんだ」
『……』

 ムサシを紋章に戻し、俺はベッドにダイブする。
 とりあえず……ようやくリューグベルン帝国を脱して、風車の国クシャスラに入った。
 ムサシの不調は気になるけど、まずはこの国を楽しむとしよう。
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