12 / 39
『慈悲』と『死』
しおりを挟む
クリードの手を『慈悲』ことフローレンスは振り払う。
自分の手をさすり、冷たい目で目の前にいるアサシンを見た。
フードのせいで顔が見えない。だが、目の前のアサシンが誰とかはどうでもいい。フローレンスの任務は、第三王女ラスピルの暗殺だ。
すると、フローレンスは口を歪め───消えた。
『ふふ、まぁいいわ。アサシン……あなたの死はもう決定している。第三王女ラスピルと一緒に、この『幻惑』の中で消えなさい』
「…………」
幻惑。
それがフローレンスのスキル。
周囲の景色が歪んでいく。崖下だったのに黒い森に変わり、コウモリが何匹も飛び始めた。
クリードはナイフを抜き、深呼吸。
「…………チッ」
出血が多い。
体力も少ない。全開時の四割程度だろう。
クリードはナイフを抜き、倒れているルーシアを軽く蹴る。
「第三王女ラスピルに覆いかぶされ。何が来るかわからない、その身をもって守れ」
「りょう、かい……」
大怪我をしているはずのルーシアは、身体を引きずりラスピルに覆いかぶさる。
どんな状態だろうと任務を優先。たとえクリードが大怪我をしてルーシアが立っていたとしても、同じようなことをするだろう。
コウモリが何匹も飛び、足下には何匹もの蛇がウネウネしていた。
「───」
だが、クリードは惑わされない。
幻惑。それならば、景色が切り替わる前の光景が全て。自分たちは『転移』したわけではない。景色が変わっただけで、崖下にいるままだ。
クリードは神経をとがらせる。
そして───。
「───ッ!? っぐ」
クリードの左肩に、細いナイフが突き刺さった。
狙いは喉だった。一瞬の気配を読み取り身体を捻らなければ死んでいた。
そう、フローレンスの戦術は、幻惑に乗じた暗殺。
クリードたちは、術中にはまっていた。
今は、ヘタに動けない。クリードだけなら離脱できる。だが、気を失っている第三王女ラスピルは動かせない。ヘタに動かせばいい的だ。
クリードは、肩に刺さったナイフを抜く。
深呼吸し、自らの影を動かす。
『影……ふぅん』
どこからか、フローレンスの声が聞こえた。
だが、声は森全体に響くように聞こえてくる。音の位置で探すことはできない。
そして、大量のコウモリが上空を埋め尽くす。
「ッチ───」
ほんの一瞬、上空に気を取られた瞬間───クリードの右足にナイフが刺さる。
クリードはナイフを抜く。血が出るが、ナイフに毒が塗られている可能性を考えれば、多少なり出血してもすぐに抜くのが好ましい。
どのみち、出血が多く長くもたない。
なら、やることは一つ。
「ふぅ……」
『あら?……諦めるの?』
「…………」
クリードは、構えを解いた。
目を閉じ、全神経を集中させる。
コウモリが飛ぶ。蛇や百足が足下を蠢く。ネズミがよじ登ってくる。蛾が飛んで頭にくっつく。ドロドロした液体が口の中に入ってくる。
「───…………」
『ふふ……さようなら』
そして───飛んできた。
ナイフ。狙いは心臓。飛んできた方角。風を切る音。軌道。それらすべてを一瞬で計算。ナイフは躱せずに心臓へ突き刺さる。
『───っぎ、やぁぁぁぁ!?』
「見つけた───」
クリードは、ナイフが刺さると同時に持っていたナイフを投擲。幻惑が解除され、右手を押さえたフローレンスが藪から転がってきた。
クリードのナイフは、フローレンスの右手を貫通していた。
「ぎ、ぎぃぃ~~~っ……い、痛い。この、野郎……」
「…………」
クリードは、両手の『カティルブレード』を展開する。
だが、フローレンスは立ち上がり『幻惑』を展開。森が再び闇に包まれる。
クリードは別のナイフを抜き、投擲した。
『っがァァァァァ!?』
「無駄だ。負傷した時点でもうお前に勝ち目はない。その血の匂いは覚えた」
『な、な……」
幻惑が解除された。
フローレンスの右腕にナイフが刺さっている。
そして、ナイフを強引に引き抜くと、フローレンスは逃げ出した。
「…………」
だが、暗殺者クリードは逃がさない。
フードを押さえ、口もとを歪め跳躍。一瞬で消えた。
◇◇◇◇◇◇
「はっ、はっ、はっ、はっ……っ!!」
フローレンスは、血だらけの腕を押さえながら逃げ出した。
逃げる場所は『閃光騎士団』の隠し部屋。この森に隠されている隠れ家の一つ。
たとえ疑われようが、もう演習場には戻れない。今は命が大事だ。
フローレンスは、周囲をキョロキョロと見る……森、気配は感じない。どうやらアサシンは撒けた……はずがない。
「くそ。くそ、クソ……!! このあたしが、『慈悲』のフローレンスが……このまま戻っても『勝利』に粛清される……こうなったら、逃げるしか……でも、騎士団も教団も追ってくる……ちくしょう」
フローレンスは歯噛みする。
とにかく今は、逃げるしか───。
「───え」
だが、逃げられなかった。
上空から、黒い影が落ちてきた。
その影は最初から真上にいたかのように現れた。
フローレンスの顔面を鷲掴みにすると、右腕の『カティルブレード』を展開。モガモガと何かを言おうとしているフローレンスを無視し、刃を喉に突き刺した。
「ッこふぅーーーーーー」
ギョロン! とフローレンスの目玉が回転。そのまま静かに倒れ事切れた。
戦いは、派手である必要がない。
他者の眼から隠れ、静かに迅速に終わらせる戦いもある。
今回は、けっこうな騒ぎになってしまった。まだ薪小屋には大勢の生徒がいる。そろそろ、薪係が戻ってこないと他の生徒が薪小屋に向かうだろう。
「…………ッチ」
クリードは、フローレンスの死体を担いでルーシアたちの元へ戻った。
自分の手をさすり、冷たい目で目の前にいるアサシンを見た。
フードのせいで顔が見えない。だが、目の前のアサシンが誰とかはどうでもいい。フローレンスの任務は、第三王女ラスピルの暗殺だ。
すると、フローレンスは口を歪め───消えた。
『ふふ、まぁいいわ。アサシン……あなたの死はもう決定している。第三王女ラスピルと一緒に、この『幻惑』の中で消えなさい』
「…………」
幻惑。
それがフローレンスのスキル。
周囲の景色が歪んでいく。崖下だったのに黒い森に変わり、コウモリが何匹も飛び始めた。
クリードはナイフを抜き、深呼吸。
「…………チッ」
出血が多い。
体力も少ない。全開時の四割程度だろう。
クリードはナイフを抜き、倒れているルーシアを軽く蹴る。
「第三王女ラスピルに覆いかぶされ。何が来るかわからない、その身をもって守れ」
「りょう、かい……」
大怪我をしているはずのルーシアは、身体を引きずりラスピルに覆いかぶさる。
どんな状態だろうと任務を優先。たとえクリードが大怪我をしてルーシアが立っていたとしても、同じようなことをするだろう。
コウモリが何匹も飛び、足下には何匹もの蛇がウネウネしていた。
「───」
だが、クリードは惑わされない。
幻惑。それならば、景色が切り替わる前の光景が全て。自分たちは『転移』したわけではない。景色が変わっただけで、崖下にいるままだ。
クリードは神経をとがらせる。
そして───。
「───ッ!? っぐ」
クリードの左肩に、細いナイフが突き刺さった。
狙いは喉だった。一瞬の気配を読み取り身体を捻らなければ死んでいた。
そう、フローレンスの戦術は、幻惑に乗じた暗殺。
クリードたちは、術中にはまっていた。
今は、ヘタに動けない。クリードだけなら離脱できる。だが、気を失っている第三王女ラスピルは動かせない。ヘタに動かせばいい的だ。
クリードは、肩に刺さったナイフを抜く。
深呼吸し、自らの影を動かす。
『影……ふぅん』
どこからか、フローレンスの声が聞こえた。
だが、声は森全体に響くように聞こえてくる。音の位置で探すことはできない。
そして、大量のコウモリが上空を埋め尽くす。
「ッチ───」
ほんの一瞬、上空に気を取られた瞬間───クリードの右足にナイフが刺さる。
クリードはナイフを抜く。血が出るが、ナイフに毒が塗られている可能性を考えれば、多少なり出血してもすぐに抜くのが好ましい。
どのみち、出血が多く長くもたない。
なら、やることは一つ。
「ふぅ……」
『あら?……諦めるの?』
「…………」
クリードは、構えを解いた。
目を閉じ、全神経を集中させる。
コウモリが飛ぶ。蛇や百足が足下を蠢く。ネズミがよじ登ってくる。蛾が飛んで頭にくっつく。ドロドロした液体が口の中に入ってくる。
「───…………」
『ふふ……さようなら』
そして───飛んできた。
ナイフ。狙いは心臓。飛んできた方角。風を切る音。軌道。それらすべてを一瞬で計算。ナイフは躱せずに心臓へ突き刺さる。
『───っぎ、やぁぁぁぁ!?』
「見つけた───」
クリードは、ナイフが刺さると同時に持っていたナイフを投擲。幻惑が解除され、右手を押さえたフローレンスが藪から転がってきた。
クリードのナイフは、フローレンスの右手を貫通していた。
「ぎ、ぎぃぃ~~~っ……い、痛い。この、野郎……」
「…………」
クリードは、両手の『カティルブレード』を展開する。
だが、フローレンスは立ち上がり『幻惑』を展開。森が再び闇に包まれる。
クリードは別のナイフを抜き、投擲した。
『っがァァァァァ!?』
「無駄だ。負傷した時点でもうお前に勝ち目はない。その血の匂いは覚えた」
『な、な……」
幻惑が解除された。
フローレンスの右腕にナイフが刺さっている。
そして、ナイフを強引に引き抜くと、フローレンスは逃げ出した。
「…………」
だが、暗殺者クリードは逃がさない。
フードを押さえ、口もとを歪め跳躍。一瞬で消えた。
◇◇◇◇◇◇
「はっ、はっ、はっ、はっ……っ!!」
フローレンスは、血だらけの腕を押さえながら逃げ出した。
逃げる場所は『閃光騎士団』の隠し部屋。この森に隠されている隠れ家の一つ。
たとえ疑われようが、もう演習場には戻れない。今は命が大事だ。
フローレンスは、周囲をキョロキョロと見る……森、気配は感じない。どうやらアサシンは撒けた……はずがない。
「くそ。くそ、クソ……!! このあたしが、『慈悲』のフローレンスが……このまま戻っても『勝利』に粛清される……こうなったら、逃げるしか……でも、騎士団も教団も追ってくる……ちくしょう」
フローレンスは歯噛みする。
とにかく今は、逃げるしか───。
「───え」
だが、逃げられなかった。
上空から、黒い影が落ちてきた。
その影は最初から真上にいたかのように現れた。
フローレンスの顔面を鷲掴みにすると、右腕の『カティルブレード』を展開。モガモガと何かを言おうとしているフローレンスを無視し、刃を喉に突き刺した。
「ッこふぅーーーーーー」
ギョロン! とフローレンスの目玉が回転。そのまま静かに倒れ事切れた。
戦いは、派手である必要がない。
他者の眼から隠れ、静かに迅速に終わらせる戦いもある。
今回は、けっこうな騒ぎになってしまった。まだ薪小屋には大勢の生徒がいる。そろそろ、薪係が戻ってこないと他の生徒が薪小屋に向かうだろう。
「…………ッチ」
クリードは、フローレンスの死体を担いでルーシアたちの元へ戻った。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる