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ユーリ領地

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 マサムネたちは、三台の大型荷車に馬を二頭ずつ繋ぎ、六頭連れて行くことにした。
 残り四頭は村に寄付。あまり多くても世話が大変だし、馬車を引いている間はゴロウたちも無防備になり、護衛がユメだけしかいないのだ。
 ユメは強い。
 盗賊団が百人程度なら、一人で全く問題ない。

「はぁ~……戦いたいわねぇ」

 そんな物騒なことを呟きながら、馬車の屋根に上り、二本の愛刀をクルンと回す。
 マサムネは、地図を見ながら情報を整理していた。

「村長の話では『亜人は猫亜人が多かった。食糧難。ユーリ領地の主要都市に住んでいる』だったな……ふむ。まずは衣食住の確認をして……主要都市を整備することから始めるか。その前に信頼を勝ち取る必要もあるな。食料は山ほどあるし、食料に困ってるなら炊き出しでもやって……あ!! しまった……怪我や病気になってる亜人も……待て、俺たちも怪我や病気にかかる可能性がある。しまった、医者がいない……くそ、俺の知識に医術はあるけど、簡単な薬草の調合や応急手当くらいだ。くそ、医術関係の本……荷物にあるな。よし、今日から読もう。それと、食料は山ほどあるけど無限にあるわけじゃない。自給自足の流れを作って、いずれは流通も復活させないと……」

 ブツブツと、頭の中で整理し、メモを取る。
 ユーリ領地まであと半月ほど。情報を整理し、備えをしておく。
 
「ゴロウ、トゥー、ノゾミ、ユメ……そして俺。半月しかないけど、領地の管理に必要な技能を習得しておく必要がある。戦闘だけじゃ駄目だからな……よし」

 マサムネは、情報の整理を続けた。
 揺れる馬車の中で、驚異的な集中力を見せていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 すっかり野営の準備にも慣れ、五人は折り畳み式のテーブルを囲んでいた。
 マサムネは、全員に話をする。

「みんなに、領地に着いた時にやってもらいたいことがある」
「やってもらいたいこと?」
「ああ。最優先で行うべきことは、亜人たちとの信頼を構築することだ。これはもちろん俺がやる。みんなには、それぞれこなしてほしいことがある」

 まずは、トゥー。

「トゥー、村長の話によると、亜人たちはユーリ領地の主要都市『ユリコーン』に集まって住んでいるらしい。おそらく瓦礫の山に身を寄せているだけだと思うが……着の身着のままの可能性が高いから、亜人たちの衣類を仕立てて欲しいんだ」
「衣類、ですか?」
「ああ。トゥーは裁縫が得意だろう?」
「はい。あ……もしかして」
「ああ。トゥーのスキル《閃光》なら、通常の倍以上の速度で服を仕立てられる」
「なるほど……戦う以外にスキルを使うとは。考えたこともありませんでした」
「ユーリ領地まであと半月ほどだ。スキルと裁縫の同時行使に慣れてくれ」
「かしこまりました」

 幸い、生地は山ほどある。盗賊のアジトから大量の高級布が出てきたのだ。売ればけっこうな値段になるが、もちろん売るなんてことはしない。
 次は、ゴロウ。

「ゴロウ。お前には田畑の整備をしてもらいたい。スキル《筋力増強》で、田畑を耕してほしい。自給自足のための第一歩だ……任せていいか?」
「もちろんです。子供のころは農民でしたので、農作業の知識はあります。お任せください」
「頼りにしている。亜人との関係を結んだら、彼らにも手伝ってもらうつもりだ。その時の指導も任せるよ」
「はい」
「それと、家屋の修繕も……できるか?」
「大丈夫です。傭兵時代、一通りのことはやったんで」
「すごいな……」

 ゴロウは実に頼もしい。
 果物の苗、野菜の種も山ほどある。盗賊の戦利品だけでなく、村で分けてもらったのもあった。
 そして、ノゾミ。

「ノゾミは、料理担当だ。亜人の女性たちに調理指導を」
「かしこまりました」
「いろいろ雑用も頼むから、その時はよろしく」
「はい。お任せください」

 そして、最後にユメ。
 ユメはワクワクしているのか、目を輝かせていた。

「あー……ユメは、その、魔獣を狩って肉の確保。あと……亜人の男性たちに狩りの仕方とかを」
「なんか思ってたのと違うし! 私、女の子よ!?」
「わ、わかってるよ。でも適任者がお前しかいないんだ……ダメか?」
「むー……まぁいいわ」

 ユメはムスッとしてしまった。
 そして、最後にマサムネ。

「俺は亜人たちとの交渉や、運営について考える。亜人たちにも手伝ってもらうつもりだ」

 亜人は亜人の考えがある。それを聞き、マサムネの案と合わせ最適な答えを出し、ユーリ領地を発展させていく。それがマサムネの仕事だ。
 こうして、各個人の役目が決まった。

「みんな、改めてよろしく頼む」

 マサムネは、この仲間たちとならやれる。そう思った。

 ◇◇◇◇◇◇

 それから半月───マサムネたちの馬車は、ついにユーリ領地に入った。
 辺境、戦地ということだけあり、街道もあまり整備されていない。いや……整備されていたが、ここ数年ですっかり寂れてしまったようだ。
 獣道のような道を進み、少し開けた場所に到着……ついに到着した。

「見えた。あそこがユーリ領地の主要都市ユリコーンだ」
「……ねぇ、ここ……大丈夫なの?」
「…………」

 ユーリ領地。
 まず、戦地というだけあり、地面に草があまり生えていない。大量の血を大地が吸い、草木の成長を妨げているようだ。
 そして……ユリコーン。
 遠目からでもわかった。ユリコーンは瓦礫の山にしか見えない。かろうじて家屋だとわかるようなあばら家が立ち並び、大きな川が都市を横断している。郊外には畑のようなものも見えた。
 主要都市と言う割に、規模が小さい……まるで町だ。
 
「……とにかく、ユリコーンに入ろう。ノゾミ、周囲の警戒を」
「はい。ですが……すでに複数の気配を感知しました。どうやら、我々の接近に気付かれたようです」
「え」
「数は三。亜人を確認。どうしますか」
「攻撃はするな。ユメ、馬車を守ってくれ。ノゾミ、ゴロウとトゥーにも警戒を。俺が交渉するから、ノゾミは俺の《影》に」
「かしこまりました」
「よし。最初が肝心だ……行くぞ」
「マサムネ、気を付けてね」
「ああ」

 マサムネは深呼吸をし、馬車を止めて下りた。
 情報通り、猫亜人が三人、緊張した顔つきでマサムネを見ている。
 やせ細り、ボロキレを纏い、青白い肌をした……子供だった。
 マサムネは、柔らかい笑みを浮かべて言った。

「初めまして。私の名はマサムネ・サーサ。この地に赴任した領主だ」

 辺境の戦地跡ユーリ領地の領主として、マサムネは頭を下げた。
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