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初めての野営と自己紹介
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馬車は進み、お昼の時間になった。
小川が流れていたのでその近くに馬車を止め、持ってきた調理道具と食材で料理をする。
料理は、メイドのトゥーとノゾミが担当し、ゴロウはかまどや薪を準備。マサムネとユメは主なので手伝いはしない……というわけにはいかなかった。
「俺も何か手伝うよ」
「いえ、マサムネ様は休んでいてください。食事の支度は私の仕事です」
トゥーにあっさり拒否された。
確かに、包丁も握ったことのないマサムネに何かできるとは思えない。
貴族として、サーサ公爵家の跡取りとしての教育は受けた。だが、料理や野営の知識はなかった。なので、ゴロウやトゥーを頼るしかない。
ユメは、マサムネに聞いた。
「ところでさ、ユーリ領地に向かうまで食事とか食材とか大丈夫なの?」
「一応、馬車に一月分くらいの食料はある。ユーリ領地に着いたら、そこでなんとかしなくちゃいけない。ユーリ領地の近くにある村で補給できればいいけど……」
マサムネは地図を見る。
ユーリ領地の近くに村が示されている。戦火を免れた小さな村だ。領土の境目にある村なので戦争の被害にはあっていないはず。
「よし。ちょっとやってみるか」
「お、スキル使うのね!」
「ああ」
マサムネは、『閃き』のスキルを使うことにした。
腕を組み、目を閉じ、首を少しだけ傾ける。
そして、スキルを発動させ、当面の問題について考える。
「食料……一か月分……ユーリ領地に着く前の分……その後……ふーむ」
頭の中で、いろいろな答えがぐるぐる回る。
ユメはわくわくしながらマサムネを見て、ノゾミが怪訝そうに質問した。
「あの、ユメ様……マサムネ様は何を考えているんですか?」
「ふっふっふ。マサムネはスキルを使ってるの。ああやって考えて、最適な答えを出すのよ。見てなさい……」
しばし、マサムネは考えこみ───目を開けた。
そして、ピーン!とマサムネが人差し指を立てた。
「『閃いた!』……食糧事情をある程度抑える方法を思いついたぞ!」
「おお、待ってたわ! どんなの?」
「ああ。その前に、食事を食べてからにするか」
「えー……まぁいいけど」
ちょうど、トゥーが食事の支度を終えたので、全員で食べることにした。
せっかくなので、全員に話を聞いてもらおうとマサムネは考えた。
従者と食事をする主などいないが、マサムネは気にしていない。むしろ、これから共にユーリ領地へ向かう仲間のことを、もっと知りたかった。
折り畳みの簡易テーブルに、全員を座らせた。
食事を済ませ、片付けをしようと立ち上がるトゥーとノゾミを押さえて言う。
「みんな、これから一緒にユーリ領地へ向かう仲間として、お互いのことをよく知っておいた方がいいと思うんだ。だから、身分とか関係なく、言いたいことや困ったことは必ず共有するようにしよう。ってわけで……まずは自己紹介から」
マサムネは、最初に自分から自己紹介した。
「俺はマサムネ。十七歳で、サーサ公爵家長男だ。弟のタックマンとの決闘に敗れて、辺境の地ユーリ領地の領主になった。領主といっても上手くやれるか全くわからない。だから、みんなの協力が必要だ……みんな、どうか俺に力を貸してくれ!」
マサムネは、隠すこともはぐらかすこともない、事実を告げた。
弟に負け、王国を追放同然な扱いで領主になったことは、全員が知っている。それを恥じることなく伝え、身分が下の従者に偽りなく伝えたことに、従者たちは驚き……好感を持った。
「私はユメ。カザーマ公爵家の長女でマサムネの婚約者。夫を支えるためにユーリ領地まで行くわ。スキルは《戦乙女》で、マルセイユ王国最強騎士団『紅蓮部隊』を二割の力で壊滅に追い込んだこともあるわ。まぁ、戦いなら任せなさい」
全員がドン引きするような自己紹介だ。当の本人は満足しているようだが。
そして、ノゾミが頭を下げる。
「ユメ様のメイドで護衛で世話係のノゾミです。ユメ様の命を狙った元暗殺者ですが返り討ちに合い、組織から消されそうになったところをユメ様に救われました。私の命はユメ様の物。ユメ様が望むことはなんでもします。どうかよろしくお願いします」
「おいおいおい!? ユメ、暗殺者!? はぁ!? えぇ!?」
「マサムネうるさい。ノゾミは私のメイド、それでいいでしょ」
「…………」
ちなみに、ノゾミの所属していた暗殺組織は、ユメによって壊滅させられている。
そして、トゥーが頭を下げた。
「元格闘家のトゥーです。怪我で格闘家を引退し、仕事を探していたところ、公爵家にスカウトされました。メイドとしての仕事は一通り習得しています。怪我で引退となっていますが、女の身でありながらあまりにも強すぎたため、とういうのが真相です。正直、ユーリ領地など行きたくありませんが……よろしくお願いします」
「…………よ、よろしく」
トゥーも、とんでもない素性だった。
もしかしてゴロウは……と、マサムネは見る。
「ゴロウです。元傭兵で傭兵団を率いていました。ですが、数年前の戦争で団が壊滅し、生き残った自分は公爵家に救われ今に至ります。公爵家の命令でマサムネ様にお仕えします……よろしくお願いします」
「…………よろしく、ゴロウ」
ゴロウは、戦争経験者だった。
こうして、仲間の紹介が終わった。
全員、けっこうな過去を持っている。マサムネが一番普通な気がしないでもない。
「よし。みんな……改めてよろしく!」
マサムネの声は、全員によく響いた。
小川が流れていたのでその近くに馬車を止め、持ってきた調理道具と食材で料理をする。
料理は、メイドのトゥーとノゾミが担当し、ゴロウはかまどや薪を準備。マサムネとユメは主なので手伝いはしない……というわけにはいかなかった。
「俺も何か手伝うよ」
「いえ、マサムネ様は休んでいてください。食事の支度は私の仕事です」
トゥーにあっさり拒否された。
確かに、包丁も握ったことのないマサムネに何かできるとは思えない。
貴族として、サーサ公爵家の跡取りとしての教育は受けた。だが、料理や野営の知識はなかった。なので、ゴロウやトゥーを頼るしかない。
ユメは、マサムネに聞いた。
「ところでさ、ユーリ領地に向かうまで食事とか食材とか大丈夫なの?」
「一応、馬車に一月分くらいの食料はある。ユーリ領地に着いたら、そこでなんとかしなくちゃいけない。ユーリ領地の近くにある村で補給できればいいけど……」
マサムネは地図を見る。
ユーリ領地の近くに村が示されている。戦火を免れた小さな村だ。領土の境目にある村なので戦争の被害にはあっていないはず。
「よし。ちょっとやってみるか」
「お、スキル使うのね!」
「ああ」
マサムネは、『閃き』のスキルを使うことにした。
腕を組み、目を閉じ、首を少しだけ傾ける。
そして、スキルを発動させ、当面の問題について考える。
「食料……一か月分……ユーリ領地に着く前の分……その後……ふーむ」
頭の中で、いろいろな答えがぐるぐる回る。
ユメはわくわくしながらマサムネを見て、ノゾミが怪訝そうに質問した。
「あの、ユメ様……マサムネ様は何を考えているんですか?」
「ふっふっふ。マサムネはスキルを使ってるの。ああやって考えて、最適な答えを出すのよ。見てなさい……」
しばし、マサムネは考えこみ───目を開けた。
そして、ピーン!とマサムネが人差し指を立てた。
「『閃いた!』……食糧事情をある程度抑える方法を思いついたぞ!」
「おお、待ってたわ! どんなの?」
「ああ。その前に、食事を食べてからにするか」
「えー……まぁいいけど」
ちょうど、トゥーが食事の支度を終えたので、全員で食べることにした。
せっかくなので、全員に話を聞いてもらおうとマサムネは考えた。
従者と食事をする主などいないが、マサムネは気にしていない。むしろ、これから共にユーリ領地へ向かう仲間のことを、もっと知りたかった。
折り畳みの簡易テーブルに、全員を座らせた。
食事を済ませ、片付けをしようと立ち上がるトゥーとノゾミを押さえて言う。
「みんな、これから一緒にユーリ領地へ向かう仲間として、お互いのことをよく知っておいた方がいいと思うんだ。だから、身分とか関係なく、言いたいことや困ったことは必ず共有するようにしよう。ってわけで……まずは自己紹介から」
マサムネは、最初に自分から自己紹介した。
「俺はマサムネ。十七歳で、サーサ公爵家長男だ。弟のタックマンとの決闘に敗れて、辺境の地ユーリ領地の領主になった。領主といっても上手くやれるか全くわからない。だから、みんなの協力が必要だ……みんな、どうか俺に力を貸してくれ!」
マサムネは、隠すこともはぐらかすこともない、事実を告げた。
弟に負け、王国を追放同然な扱いで領主になったことは、全員が知っている。それを恥じることなく伝え、身分が下の従者に偽りなく伝えたことに、従者たちは驚き……好感を持った。
「私はユメ。カザーマ公爵家の長女でマサムネの婚約者。夫を支えるためにユーリ領地まで行くわ。スキルは《戦乙女》で、マルセイユ王国最強騎士団『紅蓮部隊』を二割の力で壊滅に追い込んだこともあるわ。まぁ、戦いなら任せなさい」
全員がドン引きするような自己紹介だ。当の本人は満足しているようだが。
そして、ノゾミが頭を下げる。
「ユメ様のメイドで護衛で世話係のノゾミです。ユメ様の命を狙った元暗殺者ですが返り討ちに合い、組織から消されそうになったところをユメ様に救われました。私の命はユメ様の物。ユメ様が望むことはなんでもします。どうかよろしくお願いします」
「おいおいおい!? ユメ、暗殺者!? はぁ!? えぇ!?」
「マサムネうるさい。ノゾミは私のメイド、それでいいでしょ」
「…………」
ちなみに、ノゾミの所属していた暗殺組織は、ユメによって壊滅させられている。
そして、トゥーが頭を下げた。
「元格闘家のトゥーです。怪我で格闘家を引退し、仕事を探していたところ、公爵家にスカウトされました。メイドとしての仕事は一通り習得しています。怪我で引退となっていますが、女の身でありながらあまりにも強すぎたため、とういうのが真相です。正直、ユーリ領地など行きたくありませんが……よろしくお願いします」
「…………よ、よろしく」
トゥーも、とんでもない素性だった。
もしかしてゴロウは……と、マサムネは見る。
「ゴロウです。元傭兵で傭兵団を率いていました。ですが、数年前の戦争で団が壊滅し、生き残った自分は公爵家に救われ今に至ります。公爵家の命令でマサムネ様にお仕えします……よろしくお願いします」
「…………よろしく、ゴロウ」
ゴロウは、戦争経験者だった。
こうして、仲間の紹介が終わった。
全員、けっこうな過去を持っている。マサムネが一番普通な気がしないでもない。
「よし。みんな……改めてよろしく!」
マサムネの声は、全員によく響いた。
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