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ユーリ領地

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 王国を出発して数時間。
 ユーリ領地は、マルセイユ王国から馬車で一か月ほどのところにある僻地中の僻地……というか、つい最近まで戦地だった土地だ。
 大勢の血を吸った大地は草木が生えず、かつて集落だった土地や建物は荒れ、住んでいた住人たちは逃げ出し、逃げなかった人は囚われ、奴隷にされた。
 馬車の中で、マサムネはユメに説明する。

「そんなの知ってるわよ。というか、サーサ公爵家が管理を命じられたのに、管理者どころかまともな整備すらしていない土地にマサムネを送るってところよ。ってか、奪った土地を管理もしないでほったらかしって……馬鹿じゃないの?」
「ユメ、やめろって……仕方ないんだよ。サーサ公爵家は戦争の後始末に追われて、優先度の低いユーリ領地は後回しにされたんだ」
「で、忘れてたと。亜人が戻って住み着いてるかもしれない土地に、たったこれだけの人数で向かって管理しろって? 公爵のおじ様も馬鹿じゃないの?」
「ユメ……」

 ユメは、思ったことをはっきりいうタイプの子だ。
 相手が王だろうと変わらない。ユメの父も何度ハラハラさせられたことか。
 だが、そこが魅力的なところでもある。

「ねぇ……ユーリ領地の現状、ほんとに何もわからないの?」
「最新の資料でも一年前の物だからな……土地は荒れ、主要都市は瓦礫の山状態、亜人たちが隠れて暮らしている集落がいくつかあり……これだけ」
「はぁぁ~……バッカみたい」

 ユメが呆れるのも無理はない。
 それくらい、マルセイユ王国ユーリ領地はどうでもいい領地なのだ。

「亜人、どのくらいいるのかな」
「わからない……」
「最初に言っておくけど、危険が迫れば斬るから」
「……わかってる」
「ノゾミ、あなたも遠慮しないでね」
「御意」

 馬車の窓が開き、ノゾミがにゅっと顔を出した。
 そんなに大きな声で話してたわけじゃないのに、聞こえてたのか。

「ねぇマサムネ、あんたって亜人に偏見持ってる?」
「いや別に?」
「私もよ。ってか、亜人種って可愛いじゃん。亜人差別主義者は『人間以下』とか言うけどね。以前、私の前で亜人の子苛めてたクソ野郎の顔面、思いっ切り蹴り飛ばしてやったわ」
「か、過激だな……」

 亜人。
 ヒトならざるモノ、と言われている人と動物の混合種族。
 多くの者の外見は人だが、体毛が多かったり尻尾が生えていたりする。言葉も通じるし食べる物も同じ……だから、人ならざるモノとして差別される。
 マルセイユ王国に住む亜人は多くが奴隷だ。逃げ出し、王国のスラム街で暮らす亜人も多いと聞く。

「マサムネ、あんたはこれからそういう場所で領主やんのよ。ちゃんとやりなさいね」
「ああ。戦いじゃあまり役に立たないけど、俺には『閃き』のスキルがある。上手くやってみせるさ」
「閃きねぇ……それ、前から使ってたけどあんまり役に立たない能力じゃん」
「ちょ、直前じゃダメなんだよ。ある程度情報が集まってから『閃』く場合が多いんだ」

 俺のスキル『閃き』は、困難な状況に文字通り『閃』くのだ。
 閃きが発動するためには、ある程度の情報が必要だし、時間がかかる。なので、戦いのさなかに剣を振っている最中に閃くことはない。閃いたところで身体が付いていかず、一本取られるのが落ちである。
 なので、政治や統治にこそ『閃き』は役に立つ……と、踏んでいた。

「困難な状況こそ、俺にうってつけだ。最初は絶望したけど……今はもう大丈夫。亜人たちといい関係性を結んで、しっかり領主をやってみるよ」
「うんうん! さっすが私のマサムネ、かっこいい!」
「はは、ありがとう、ユメ」
「うん!」

 幼馴染で、婚約者のユメ……可愛いし強いし、本当にいい子だ。
 ユメのためにも、立派な領主になってみせる!
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