10 / 17
10・不穏と決意
しおりを挟むルルーシェ様を部屋に送り、俺は再び森に戻った。
森の奥には、ふーちゃんたちがのんびりしてる。
『あ、マイトさん』
『おう』
『やっほ~』
『ぶも』
俺が手を出すと、文鳥のふーちゃんが乗ってくる。
ふーちゃんの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を閉じた。
『う~ん。マイトさんに撫でられるのは気持ちいいですね』
「ははは………」
たぶん、もうこんなことは出来ない。
俺はもう、覚悟を決めていた。
「ふーちゃん。今までありがとうね」
『どうしたんです?』
「俺、もう一度……魔王領土へ行く。魔王は倒せなくても、せめてレオンたちをぶん殴ってやる」
『おいおい、死ぬ気かよ?』
「多分ね。王国も全軍を挙げて魔王領度へ進行すると思う」
『無謀ね。あの勇者4人相手じゃムリよ』
「分かってる。でも、この人間界を守るために戦わないと」
『ぶも……』
『マイトさん、勇者4人は、この人間界を管理するんですよね。だったら抵抗しない方がいいんじゃないですか?』
「……だけど、それは魔王の支配と変わらない。レオンたちはもう、魔王の軍団の一員だから、人間たち相手にどんなことをするか分からない」
『かーっ。でもまぁ、大事なモン守るために戦うなんてカッコいいねぇ。もしかして……あのお姫さんかい?』
「…………」
ルルーシェ様は確かに美人だし、一緒に居てドキドキした。
あの人の笑顔を、崩したくない。
「うん、覚悟は決まった。俺はルルーシェ様のために戦うよ。そのために死ぬなら惜しくない」
俺は立ち上がり、左手に装備した籠手と一体型の盾を見つめる。
守りが主体で戦闘の力は無い。
だけど、守るために戦うならこれ以上の力は無い。
「出兵まで出来るだけ来るよ。じゃあね」
俺は森を後にした。
友達になったモンスターたちに背を向けて。
俺は、俺に出来ることをやろう。
**********************
「何故、何故これが……どういうことなんだ……」
「ま、魔王……さま?」
「クソ、ワケが分からん。ここは人間界の魔王領土だぞ!?」
魔王は、取り乱していた。
ウラヌスを寝室に連れて行くことなど、すでに忘れていた。
そして、勇者たちに向き直る。
「おい!! お前たち以外の……最後の勇者の遺体を確認しに行け!! 聖なる武具も落ちているはずだ、行け!!」
「は、はははいっ!!」
レオンたちはダッシュで城の外へ。
魔王を心配したウラヌスのみが残り、魔王に話しかけた。
「あ、あの……どうなされたんですか?」
「ウラヌス、あの勇者は死んでない可能性がある」
「え……」
魔王の手には、2センチほどの赤い文鳥の羽があった。
「まさか………人間界に」
**********************
『で、どーすんだ?』
ギンガ王国の森の奥で、1匹の黒蛇が言う。
『ボクは行きますよ。マイトさんには世話になりましたし、そのためなら……』
『アナタね……昔の名前は捨てたんでしょ?』
『今回は別です。それに、魔王が人間界を支配したら、美味しいケーキが食べられなくなっちゃいますからね』
『確かにな。まさか勇者が裏切るとは思わなかったぜ。今まではいー感じで均衡が保たれてたけど、今回はダメだな。マイト1人じゃどーにもならん』
『ぶも』
白い子犬と緑の豚も相づちを打つ。
赤い文鳥はパタパタとホバリングした。
『皆さんはお好きにどうぞ。そもそも、ボクだけで』
『アホたれ。オレも行くぜ、まぁケーキの礼だ』
『あたしもよ。せっかくだし、遊んであげる』
『ぶも!!』
『……はぁ、皆さんは魔王領土に住んでたんですよね? ボクみたいに人間たちの環境で暮らしてないのに、どうしてそこまで?』
『別にいーだろ。まぁ……マイトはいいヤツだ。フツーはこんな黒い蛇見たら逃げ出すぜ?』
『ま、あたしたちと喋れる人間なんて居ないし、マイトが死んだらケーキが食べれなくなるしね』
『んだよ、結局はケーキかよ』
『いいでしょ別に、美味しかったんだもん』
『ぶもも!!』
小さなモンスターたちも、覚悟を決めた。
**********************
「……おい、ここだよな」
「多分……」
「で、でも……なんもないよ?」
レオンたちは、マイトが吹き飛ばされた辺りを重点的に調べていた。
そして、吹き飛ばされた距離を計算し、おおよその位置に向かうと、地面が陥没してる場所を発見した。しかし。
「……まさか、マイトのヤツ生きてる?」
「恐らく。見事に何もないし、モンスターが死体を食べたにしても、衣服や装備の欠片もない。それに、『聖盾パンドラ』も見つからない……」
「ね、ねぇレオン、サテナ……もしかしてマイト、ギンガ王国に帰ったんじゃ……」
「チ、あの野郎……!!」
「これで私たちはお尋ね者ね。まぁ関係ないけど」
「だな。人間界を支配しちまえば、そんなの関係ねぇ」
「と、とにかく魔王様に報告しよっ!!」
3人は、魔王城へ帰還した。
急ぎ謁見の間に向かい、魔王バルバロッサに報告する。
「……そうか」
「ま、魔王様……マイトが生きてるのが、そんなにヤバいんですか?」
「いや、考えすぎかもしれん。だが……」
魔王の手には、真っ赤な文鳥の羽があった。
サテナが、首をかしげて質問する。
「あの、その羽は……?」
「………これか、これは」
すると、魔王の掌にあった羽が、いきなり燃え尽きた。
「な、何が……!?」
「ま、魔王様、無事ですか!?」
ネプチュンが驚き、ウラヌスが心配する。
だが、魔王はつまらなそうに嗤うだけだった。
「予定変更だ。これより人間界に向けて進行する、1ヶ月で準備を整えろ。それと、これから私は全力で力を回復させる。恐らく9割ほどの力を取り戻せるはずだ」
「え、ええっ!? マジですか!?」
「急げ!!」
それだけ言うと、魔王は寝室へ消えた。
4人の勇者は唖然としたが、指示に従うほか無かった。
「とにかく、指示に従おうぜ」
「ええ。モンスターたちを城の前に」
「おっけ~。ふふふ、なんかやる気出てきたよ!!」
「みんな、目的のために頑張ろう、それぞれの目指す未来へ!!」
4人の勇者は合図も無く武具を構え、掲げる。
幼馴染みとして、そして大切な仲間として、目的を果たすため。
「オレは、自分だけのハーレム王国を作るため」
「私は強い者が集まる武人の国を作るため」
「あたしはお菓子がいっぱいの王国を作るため」
「私は……魔王様の妃になるため」
ドス黒く、暗黒に染まった聖なる武具。
醜い欲望の色が、そのまま現れているようだった。
こうして、魔王軍と呼ばれるモンスター部隊は、人間界に進行を始めた。
1
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説
勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載。
愛しい彼女に浮気され、絶望で川に飛び込んだ俺~死に損なった時に初めて激しい怒りが込み上げて来た~
こまの ととと
恋愛
休日の土曜日、高岡悠は前々から楽しみにしていた恋人である水木桃子とのデートを突然キャンセルされる。
仕方なく街中を歩いていた時、ホテルから出て来る一組のカップルを発見。その片方は最愛の彼女、桃子だった。
問い詰めるも悪びれる事なく別れを告げ、浮気相手と一緒に街中へと消えて行く。
人生を掛けて愛すると誓った相手に裏切られ、絶望した悠は橋の上から川へと身投げするが、助かってしまう。
その時になり、何故自分がこれ程苦しい思いをしてあの二人は幸せなんだと激しい怒りを燃やす。
復讐を決意した悠は二人を追い込む為に人鬼へと変貌する。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。
ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる