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4・それぞれの成長と赤い文鳥
しおりを挟む俺たちは成長し、14歳になった。
身長も伸び、体格もがっしりしてきた気がする。
城での訓練も慣れ、俺はレオンと稽古していた。
「はぁぁぁっ!!」
「おぉぉっ、とと」
レオンの聖剣による猛攻を、俺は左手の盾で弾く。
右手には剣を持ってるが、正直使う暇が無い。
「でりゃっ!!」
「おわっ!?」
聖剣で盾が弾かれ、そのまま首筋にピタッと剣先が当てられる。
「へへ、悪いなマイト」
「ったく、強すぎるんだよレオン」
「これで俺の1000勝0敗だな」
「ちぇ、言うなよ……」
「へへ、また明日勝負だな」
訓練場でレオンと稽古するのは日課になっていた。
そして、離れた場所ではサテナがいる。
「………シッ!!」
「おお……」
「やっぱ早いな……」
サテナの周囲には、10本ほどの丸太があり、サテナが太刀を抜くと同時に切り倒される。
叩きつけるようなレオンの剣とは違い、斬るための剣技だ。
あれがサテナの武具の能力の1つだろう。
「ふぅ……あら? 終わったのね。じゃあマイト、私と勝負よ」
「え、あ、いや……ちょっと疲れたし、今日はここまで」
「……へぇ、逃げるのかしら?」
ズイッとサテナは近づいてくる。
この2年、サテナはかなり女らしくなった。
胸はデカいしスタイルもいい。長い黒髪はポニーテールに纏められ、何とも言えない色香を醸し出していた。
「えぇと……」
「おうサテナ、オレとやろうぜ!!」
「イヤよ。貴方は乱暴なんですもの」
「んだと!?」
ああ、始まった。
この2人はいっつもケンカするからな。
俺は2人の間に割り込むと、『感知』が危険を察知した。
「おいレオン……っ!!」
「シッ!!」
「おっと!!」
突如、矢が飛来した。
俺は盾で弾き、レオンとサテナは抜刀して矢を斬り落とす。
「おいネプチュン、危ないだろ!!」
「えっへへ~~、ごめんごめん。みんななら平気かなって」
どこに居たのか、ネプチュンが現れる。
どうやら『聖弓エルブーン』の能力の1つ、隠密の力で隠れてたみたいだ。
「あれ、ウラヌスは?」
「ああ、今日は座学だって」
「そっか。また新しい魔術を習ってるんだ」
ネプチュンはあまり変わらない。
胸も身長も、ほんの少~~~~し大きくなっただけだ。
ま、変わらないのがいいってこともある。うん。
すると、訓練場に1人の少女が現れた。
「レオンさま~~~~~っ!!」
「お、リリ」
「レオン様、鍛錬お疲れ様です。この後お暇ですか?」
「おう。今日はもう空いてるぜ」
「で、では……わたくしのお茶会にいらして下さいな。いい茶葉が手に入りまして、ぜひレオン様に味わって頂きたいのです」
「いいぜ。じゃあマイトたちも……」
「じゃ、お疲れさんレオン。またな」
「……失礼します。リリーシャ様」
「じゃあね~~」
空気を読んだ俺たちは、その場を後にする。
まぁそういうことだ。リリーシャ姫はレオンに恋してる。
「では参りましょうレオンさま。どうぞわたくしのお部屋へ」
「おう。なぁリリ、お茶もいいけど腹減ったぜ」
「ふふ、美味しいケーキがありますわ」
「おぉ!! さっすがリリだぜ」
レオンはリリーシャ様に連れられ消えていった。
リリーシャ様の希望で、レオンは敬語を免除されてる。
それにしても馴染みすぎじゃね?
「さて、今日はおしまいね」
「ああ。ネプチュンは?」
「あたしも。もうすぐウラヌスが戻ってくるから……あ、来た」
「みんな~~~~~っ!!」
訓練場のドアを開け、ウラヌスが来た。
短かった髪は長くなり、くせっ毛のロングヘア。
身長も伸び、出るとこはしっかり出た幼馴染みの少女がそこにいた。
「わわわっ!?」
「おっと、危ない」
「きゃうっ!?」
転びそうになったウラヌスを抱きかかえ、俺の胸の中に飛び込む。
フワリといい香りがし、俺の胸は高鳴った。
「あ、ありがとマイト」
「あ、ああ。その……気を付けろよ」
「うん」
ニッコリとウラヌスは微笑む。
やばい、すっげぇ可愛い。
「むぅぅ~~~っ!! ちょっとウラヌス、くっつきすぎっ!!」
「きゃあっ!? も、もうネプチュン、なにするのよっ」
「マイトから離れなさいよ~~っ!!」
「お、おいネプチュン、くっつくなっての!!」
ネプチュンが俺の腕にじゃれつき、対抗したのかウラヌスもくっつく。
ヤバい、ネプチュンはともかくウラヌスは成長してる。二の腕に柔らかい物が……ぐふ。
「こら、いい加減にしなさい」
ここでサテナ。
残念だけど助かるぜ。
「ウラヌス、ネプチュン。せっかくだし3人でお茶をしましょう」
「いいけど、マイトは?」
「俺はパス。ちょっと用事がある」
「えぇ~~~~~っ」
「悪い。じゃあな」
3人を残して俺は訓練場を出た。
シャワーを浴びて着替え、城下町に出る。
この2年で町にも随分慣れたモンだ、今じゃ行きつけの店もある。
「さーて、買い物して行くかね」
俺は行きつけのお菓子屋でケーキを買い、いつのも場所へ。
ちなみに、聖なる武具は常に装備することが義務付けられている。
さて、この国で出来た親友に会いに行こう。
**********************
俺は城に続く森の奥で、指笛を吹く。
「お~~い、ふーちゃ~~ん」
すると、俺の肩に1羽の文鳥が留まった。
「やぁふーちゃん。元気?」
『やぁマイトさん。ボクは相変わらずですよ。お!? ケーキですか?』
「ああ、一緒に食べようぜ」
俺の肩に留まるのは、真っ赤な身体をした文鳥。
名前はふーちゃん。俺が名付けた。
俺は町で買ったケーキの箱を開け、ふーちゃんの好物のショートケーキを皿に移す。
自分用にも同じショートケーキを取りだし、地面に座って食べ始める。
『いやー美味い!! 人間が作るお菓子は美味しいですねぇ~』
「だろ? ふーちゃんも文鳥なのにグルメだな」
『いやははは。魔界にはこんな美味しい食べ物なかったですから』
「ははは。そういえば、ふーちゃんと出会ってもう2年か……」
********************
出会いは2年前。この国に来て1ヶ月ほど経ったある日のこと。
鍛錬が終わり、俺は1人で町に出かけ、散歩がてら歩いていた。
ちなみに、左手には『聖盾パンドラ』を装備してる。
寝るときや風呂以外は、常に装備しろと言われたからだ。だけど不思議と邪魔だとは感じない。むしろ体の一部のようにしっくりくる。
やはり城下町は村とは違う。
村には雑貨屋が1軒しかなかったが、ここでは雑貨屋どころか商店や飲食店があふれてる。
オシャレなカフェにホットドッグや焼き鳥なんかの出店、冒険者たちが集う酒場、鉄を打つ音が響く武器防具屋など様々だ。
俺はキョロキョロしながら歩き、いい匂いのする1軒の店に注目した。
「……ケーキ屋か」
そういえば、ウラヌスやネプチュンが欲しがってたな。
ここは1つ、みんなにお土産を買ってお茶でもしようか。
村を出るとき、お小遣いは貰った。
それに、月に一度だけ、王国からもお小遣いが支給される。
俺はショートケーキを買い、食べ歩き用にクッキーを買う。
クッキーを齧りながら、のんびりと城へ続く森の中を歩いた。
森と言っても道幅は広く、特に何かがあるわけじゃない。
動物も小鳥以外は住んでないみたいだし、あくまで観賞用の森なんだろう。
俺は好奇心で、少しだけ道を外れて森に入った。
ケーキは保冷剤も入ってるし、夜のデザートとして食べればいい。
人で賑わう町もいいけど、やっぱり自然が俺は好きだ。
もしかしたら、ちょっとだけホームシックになってるのかもしれないな。
「~~~~っ、はぁ……」
深呼吸。
俺は背伸びをして、森の空気を吸い込んだ。
木々の隙間から射す柔らかな光、川が流れる水の音、そして風が運ぶ緑の匂い。
思った以上に気持ちいい。ここは俺の憩いの場所にしよう。
「そうだ、レオンたちも連れて来よう」
『……んん、いい匂いですね』
「へ?」
丁寧な成人男性の声が聞こえた。
俺は周囲を見渡すが、それらしき影はない。
『感知』の能力は常に発動してるので、見えない物や聞こえない音など、集中すればいくらでも聞き取れる。だけど人間の気配は感じない。
「だ、誰だ……?」
『おや。まさかボクの声が聞こえるんですか?』
「は、ど、どういう意味だよ?」
俺は警戒した。
武器はない、あるのは『聖盾パンドラ』のみ。
残念だけどこの盾に攻撃能力はない。
『ああ、警戒しないで下さい。いい匂いがしたのでつい。それに、ボクの声が聞こえるとは思ってなかったので……申し訳ありません』
「あ、えーと……はい』
『おっとスミマセン。失礼します』
「え……」
声は聞こえるが、俺がキョロキョロしてるのに気付いたのだろう。
俺の肩に、1羽の文鳥が留まった。
「ぶ……文鳥? しかも、赤い?」
『初めまして。お名前を伺っても宜しいですか?』
「うぉぉっ!?」
真っ赤な文鳥は、口をパクパクさせて喋った。
「ぶ、文鳥が……喋った!?」
『いえ、ボクは文鳥ではありません。正確には魔界から来た鳥です』
「ま、魔界!? じゃあ、モンスター!?」
『人間たちはそう呼びますね。それで、お名前を伺ってもよろしいですか?』
「え、あ……ま、マイトだけど」
『マイトさんですか。よろしくお願いしますね』
「あ、はい」
じゃなくて。
モンスター……って、この文鳥が?
手乗りサイズの可愛い文鳥にしか見えないぞ。
『あの、敵意はありません。ボクは魔界を捨ててこっちに移住したんです。魔界の陰気な空気より、人間界の青く美しい空のほうが好きなんですよ』
「そ、そうなんだ……」
うーん。たぶん『感知』のおかげで声が聞こえるんだな。
敵意は感じないし、こうしてみるとスゴく可愛い。
「あの、キミの名前は?」
『名前……まぁ、好きに呼んで下さい』
「そう? じゃあ……ふーちゃんかな」
『ふーちゃん?……いいですね』
「ああ。フワっとした文鳥のふーちゃん……いいね」
『はい。では、よろしくお願いしますね』
こうして、俺とふーちゃんは出会った。
『所で……その箱、何ですか?』
「これ? ああ、ケーキだよ。よかったら食べる?……っていうか食べれる?」
『おお!! 是非とも味わいたい。なんとも芳しい香りが……』
「じゃあ、信頼の証に」
レオンたちにやるつもりだったけど、別にいいか。
それに、このサイズじゃそんなに食えないだろうしね。
俺はケーキの箱を開け、付属の紙皿に1切れのせる。
ハンカチを地面に敷いて皿を置くと、ふーちゃんが皿の上に着地、そのままケーキに頭を突っ込んだ。
そして、キツツキのように高速でケーキを啄み、あっという間に完食した。
「は、早い」
『これは美味しいですね!! 木の実や昆虫とは比べ物にならない味です!!』
「えっと、おかわり食べる?」
『ぜひ!!』
ふーちゃんは、ケーキ5切れを完食した。
この文鳥の体のどこに入ったんだ?
『いや~……ごちそうさまです。最高でした』
「う、うん」
『あの……厚かましいんですが、また頂けませんか? お礼はしますので』
「い、いいよ。そのうちね」
『はい。お願いします』
こうして、俺はふーちゃんと親友になった。
数日に1回、ケーキを買ってふーちゃんと食べるのが楽しみの1つになった。
これが、俺とふーちゃんの出会いだった。
**********************
昔のことを思い出しつつ、俺はいまさらな質問をした。
「それにしてもふーちゃん、キミってなんで喋れるの?」
『さぁ? ボク意外にも喋れるモンスターはいますよ。だけど、マイトさんみたいな感知がないと、ボクたちの声は聞き取れないでしょうけどね』
「ふーん。あ、クリームついてる」
俺はクリームまみれの顔をナプキンで拭き取る。
ケーキを食べるのに、顔をケーキに突っ込ん食べるから仕方ない。
『いやはやスミマセン』
「いいって」
それにしても、文鳥サイズなのにケーキ一切れをキレイに食べ尽くす。
サイズ的に可笑しいけど、モンスターだからってことにしておこう。
『いやー……毎度毎度ありがとうございます。何かお返しできればいいんですけど』
「いいって。俺が好きでやってるんだからさ」
『ですが……』
「全く、ふーちゃんは律儀………ん?」
『おや、誰か来ましたね』
ケーキの皿を箱にしまい、ふーちゃんは俺の肩に乗る。
振り向くと、そこに居たのはキレイな金髪の少女だった。
「る、ルルーシェ様……?」
「………」
俺に驚いたのか、すぐに行ってしまった。
『ふむ。かなりの美少女ですな。まさかマイトさんの……?』
「違うって、この国のお姫様だよ。ふーちゃん、この森に住んでるのにお姫様の顔知らないの?」
『ははは。この森の外のことは知りませんな。興味が無いので』
「あっそ……」
ふーちゃんは俺から飛び立つと、顔の前でホバリングした。
『ではマイトさん、ボクは昼寝しますので。失礼します』
「ああ。また来るよ」
ふーちゃんは飛んで行った。
相変わらず変なモンスターだな。可愛いけど。
「それにしても……」
ルルーシェ様は、ここで何してたんだ?
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