大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編㉓

第663話、ミュディはかわいいものが好き

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「はぁぁ~……可愛い」

 アシュトたちがドラゴンエイジ森国へ行ってる頃。
 緑龍の村は、相変わらずの日常……特に事件もなく平和な時間が流れていた。
 が、屋敷でシェリーとエルミナは顔を合わせ訝しんでいる。
 理由は、ミュディ。
 火のついていない暖炉の前でうつぶせになり、足をパタパタさせてニコニコしている。
 何をしているのか? 視線の先には、マットに寝転ぶ猫たち。

「みんな可愛い♪ ずっと見てられるぅ~……♪」
「「……」」

 シェリーは、こそっとエルミナに聞く。

「ミュディ、何してんの?」
「猫と子供たち見てるけど……」
「今朝、私が家を出た時もあの態勢だったわ」
「マジで? あたしが訓練に出た時もあの態勢だったけど……」

 つまり、数時間以上、あのままだ。
 マットの上に寝ているのは数匹の猫、そしてルミナとシロネ、ミュア、マンドレイクとアルラウネだ。
 すると、シェリーたちに気付いたミュディ。

「あ、二人とも。ね、ね、こっち来てこっち」
「え、ええ」
「な、なに?」

 言われた通り近づき、ミュディは静かに言う。

「ほら、見て」
「「……?」」
「ふにゃ……」

 ミュディが指差した先にはシロネがいる。
 ルミナに甘えるように抱きつき、静かに寝息を立てている。
 息を吸うと白いネコミミが萎れ、吐くとネコミミがピンと立つ。そのネコミミがルミナの顎にちょこちょこ触れ、ルミナのネコミミがぴこぴこっと動く。
 ミュアの尻尾に甘えるように、マンドレイクとアルラウネが手でそっと触れていた。

「あぁぁ……かわいい♪ みんな本当に可愛いわぁ」
「「…………」」

 確かに可愛いが、数時間も寝転んで見るようなものでもない。
 二人はそっとその場から離れ、屋敷を出た。

 ◇◇◇◇◇

 家を出た二人は、そのまま散歩がてら歩いていた。

「ね、シェリー……ミュディってさ、昔からあんなに可愛い物好きなの?」
「そーねー……部屋にぬいぐるみとかはあったけど、今みたいに興奮することはなかったけどなー」
「まぁ、私も女だし、可愛いのは好きだけどね」
「あたしも。お、噂をすれば」
『もきゅ~』

 ニコニコアザラシの子供が、二人の前に現れた。
 二人はしゃがみ、ふかふかの頭を撫でる。

「は~モフいわねぇ。あ、そういえば……ミュディの部屋に何匹か、ニコニコアザラシの子供がいたわね」
「あ、確かに。そういや、ミュディの部屋に遊びに行ったときに、ニコニコアザラシのぬいぐるみいっぱいあったっけ……かわいくて抱きしめてみたら、本物混じってて驚いたわ」

 シェリーが苦笑する。
 二人は、タヌスケ商店へ行く。すると店主のタヌスケが揉み手しながら現れた。

「へへへ、奥さん方……どうも」
「やっほ。ね、飲み物ある?」

 エルミナが言うと、タヌスケはキョロキョロして安堵していた。
 シェリーが首を傾げる。

「どうしたの?」
「いえ……ミュディ様はいないかと」
「ミュディなら、家でネコたちを愛でてるけど」
「……ほっ」

 明らかに安堵していた。
 エルミナは気になったのか、しゃがんでタヌスケに聞く。

「なになに。ミュディのこと苦手なの?」
「……い、いえ。へへへ、その……ミュディ様、あっしらの頭を撫でたり、抱っこしたがりやして。まぁその……あっしらも大人の男なんで、気恥ずかしいというか」
「「……あぁ」」

 納得だった。
 豆狸族たちは、身長が小さくぬいぐるみのように可愛い。
 ミュディが抱っこしたがるのも納得だった。
 二人は飲み物を買い、歩きながら飲む。

「うーん、可愛いの好きも病気ねー……」
「タヌスケもだけど、ブラックモールたちもよく抱っこしてたわね。大人のブラックモールは抱っこするとすごく嫌がるけど、子供をお菓子で釣って抱っこして撫でまわしてるの見たことあるわ」
「あー……エルミナも見たんだ。実はあたしも見た」

 二人が飲んでいるのは、砂糖とミルクを入れたカーフィー。正式名称は『カフィオレ』だ。
 アシュトやローレライはブラックで飲んでいるが、エルミナたちはよくこのカフィオレを飲む。飲んだ容器は村に設置されているゴミ箱に捨て、談笑していた。
 エルミナが大きく伸びをして、シェリーに提案する。

「ね、せっかく休みだしさ、浴場行く? 村長湯で、軽く飲みながらお喋りしない?」
「いいね。エルミナと一緒の休みで、こうしてお喋りするの久しぶりだしね。ローレライもクララベルもいないし、ミュディは可愛いのに夢中だし」
「じゃ、行こっか」

 二人は村長湯へ歩き出す。
 すると、白猫族のハクアが、着替えを入れた手提げを手に現れた。
 やや髪が濡れていることから、湯上りだとわかった。

「エルミナさん、シェリーさん、こんにちは」
「やっほ、ハクア」
「ハクアさん、こんにちは」

 ハクアはペコっと頭を下げる。
 
「いつもシロネがお世話になっています」
「あー、ミュアたちとよくお泊りしてるわね。逆に、ハクアのところにミュアたちが行くこともあるでしょ?」
「ええ。ふふ……シロネにいっぱいお友達ができて、毎日とても楽しそうで……この村に住むことができて、あの子も喜んでいます」

 ハクアは嬉しそうに笑い「あ、そうだ」と思いだしたように言う。

「シロネ、ミュディさんがお気に入りのようで……最近はうちにも泊まりに来てくれて、よくお菓子を一緒に食べて、甘えるように抱きついて寝ちゃうんですよ」
「「え……」」

 ミュディがハクアの家に泊まりに行ってることを、二人は初めて知った。
 確かに、シロネはよくミュディに甘えている。

「シロネ、ミュディさんに髪を梳いてもらったり、耳をマッサージしてもらうのが本当に好きで……」
「そ、そうなんだ……」
「ミュディ……ほんとに好きなことには夢中ね」

 ちょっと呆れつつ、ハクアと別れた。
 二人は村長湯へ。
 誰もいない村長湯。脱衣所で服を脱ぎ、冷蔵庫に入っていたお酒を桶に入れ、グラスを二つ持って浴場へ。
 身体を洗い、少しぬるめの内湯に入る。

「ほい、エルミナ」
「ん、ありがとー……シェリーも」
「うん」

 セントウ酒をグラスに注いで乾杯。キュッと飲む。

「っはぁ~……おいしい。シェリー、昼間から飲むのもけっこういいでしょ?」
「確かにね~……癖になっちゃうかもぉ」
 
 さっそくほろ酔いの二人。
 湯もぬるめなので、のぼせることもないだろう。
 二人の話題は、アシュト……ではなく、ミュディのことだ。

「ミュディ、可愛いの……っていうか、子供が好きなのよ。ったく、お兄ちゃんももう少し頑張ってさ、ミュディ自身の子供をさぁ」
「あ~……わかる。私も子供欲しいわ。でもでも、ハイエルフって妊娠しにくいのよねぇ。まぁ、のんびりやっていくわ」
「ってかさぁ、原因はお兄ちゃんにもあるわけよ。お兄ちゃんの部屋、毎日ルミナとか、マンドレイクやアルラウネがいるし。最近はミュアやシロネもよく行ってるみたいだしぃ……まさか、一緒に寝るわけにはいかないし」
「あ~……あの子たち、アシュトと寝るの好きなのよね。ルミナとか毎日甘えまくってるし。ツンツンした野良猫だったのに、今じゃ甘えまくりの飼い猫なのよねぇ」
「だよねぇ~……夫婦生活も大変よ」

 ぐちぐち言いながらお酒を楽しんでいると、脱衣所が騒がしくなった。
 扉が開くと、大勢いた。

「にゃあー!!」
「みゃう、うるさいぞ」
「ふにゃあ」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「わぅぅん。くさいー……」
「はいはーい。みんな、ちゃんと髪と身体を洗ってからね~」

 子供たちとミュディだ。
 エルミナが言う。

「ちょっと、どうしたのよ」
「あはは……実は、みんなに飲み物を運んでたら、ネコにつまずいちゃって寝ているみんなの上にミルクをこぼしちゃったのよ。みんなミルクまみれで、遊びにきたライラちゃんもミルクで滑って転んじゃって。あ、みんな入ってきてねー」
『ニャー』『にゃあ』『ニャゥゥ』『もきゅ』

 子猫や親猫、ニコニコアザラシも入ってきた。
 シロネが白猫を抱っこし、ミュディに差し出す。

「ふにゃ、あらう」
「うん。みんなで綺麗にしようね。じゃあみんな、ネコたちを綺麗に洗おうね~」
「にゃうー」「みゃうー」
「まんどれーいく」「あるらうねー」

 子供たちは猫を洗い始め、ミュディはニコニコアザラシの子供を洗い出す。
 そして、洗い終えると、今度は一人ずつ髪や身体を洗い始めた。

「はい、シロネちゃん、眼を閉じてね~」
「ふにゃぅぅ」
「ふふ、マッサージもしま~す」

 ミュディは、シロネのネコミミを揉み洗いし始めた。
 その光景を見ながら、シェリーはエルミナに言う。

「あれ、お母さんみたいよね……ミュディ、自分の子供できたら溺愛しそう」
「うーん……そうね、いいお母さんになるわ」

 そう言い、エルミナはセントウ酒をグラスに注いた。
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