上 下
447 / 492
日常編㉑

第623話、気まぐれシオン

しおりを挟む
 ある日、仕事休みのシェリーと一緒に、バーでお酒を飲んでいた。

「でさぁ、アヴァロンがどんどん大きくなってるの。最初はあんなに小さかったのに、もう大人のドラゴンと変わらなくてさ、でも親離れできないのか、ギネヴィアやアグラヴェインのいる厩舎に行って甘えたりして、もうすっごく可愛いのよ」
「そうかー……生まれた時から見てるけど、本当に大きくなったよなぁ」
「うんうん。アヴァロンもいつかお嫁さんもらうんだし、親離れしてほしいわねー……あ、そうだ。お兄ちゃん、最近ラクシュミに会った?」
「ラクシュミ? そういや、全く見ないな……」
「だよね。魔道具の勉強するって、ディミトリ商会に行ったらしいけど……」
「せっかくだし、探してみるか?」
「そうだね、いちおう、親戚だし」

 俺はワインを一気に煽り、シェリーもオレンジカクテルを飲み干す。
 けっこうな酒精だ。少し酔ったかも。
 シェリーも、顔が赤い。そして、そのままテーブルに突っ伏してスヤスヤ寝てしまった。
 シェリーをベッドまで運び、俺は一人で飲みなおす。

「はぁ……」

 外は、雨が降っていた。
 すると、ドアがノックされる。

「アシュト、いる?」
「ん、ミュディ?」

 ミュディが入ってきた。珍しいな。
 俺の隣に座り、セントウカクテルを注文し、ちびちび飲み始めた。

「ふぅ~……おいしい」
「ミュディ、ここに来るの珍しいな。しかも嬉しそうだし」
「ふふ、わかる?」

 いいことでもあったのかな。
 すると、セントウカクテルを飲み干し、おかわりを注文して言う。

「あのね、シオンちゃんが私の部屋にいるの、知ってるでしょ?」
「ああ。シオン、お前に懐いてるんだよな」
「うん。で、最近はシオンちゃん、ルミナちゃんも部屋に連れてくるの。シオンちゃん、ルミナちゃんを抱きしめて寝るんだけど……私のベッドで寝るから、私も一緒にルミナちゃんと寝れるの!! しかもしかも、ルミナちゃんのネコミミを触っても、怒られないのよ!!」
「そ、そうか……」
「ああもう、ルミナちゃんをついにナデナデできてうれしくて……興奮したから、少しお酒飲んで覚まそうかなーと」
「…………ああ、うん」

 ま、まぁ……ミュディが幸せならいいや。
 ルミナも、シオンがミュディを受け入れてるから触るのを許可したんだろうな。
 すると、ミュディが言う。

「あのね、シオンちゃん……彫金のお仕事してるだけど」
「彫金? そういえば、お前の道具を使って作ってたみたいだな」
「うん。お仕事の手はすっごく早いの。手先がすごく器用だし、お願いした仕事もすぐに終わらせちゃうし、完璧なんだけど」
「なんだけど?」
「その……『同じものを作る』技術はすごいんだけど、『自分で何かを作る』ことが全くできないの。完成品のコピーを作るだけで、自分から、自分の作品を作ることは絶対にないんだ」
「……そう、なのか?」
「うん。自分のオリジナルを作るように言うと『興味ない』って言うし……」
「うーん……でも、無理強いすることでもないだろ?」
「……うん」
「まだ、村に来て日が浅いし、ゆっくり覚えさせればいいさ」
「……そうだね。うん、ありがとうアシュト」
「ああ」

 シオン。そういえば最近見ないけど……どこにいるのかな。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ミュディの部屋。
 シオンの部屋にもなりつつある部屋。シオンはミュディのベッドでゴロゴロしていた。
 今は一人ではない。ルミナを抱きしめている。

「みゃうぅぅ」
「おい、怪我はもう大丈夫なのか?」
「ん、治った」

 包帯はすでに取れている。
 シオンは、ルミナのネコミミをぺろぺろ舐め、ようやくルミナを解放した。

「ん、治ってる」
「ん」
「悪かったな。もうしない」
「みゃう……うん」
「よし、じゃあおやつにするぞ」

 シオンは、ミュディが置いていったお菓子の入った籠からチコレートを取り出し、ルミナに渡す。
 ルミナもチコレートをモグモグ食べながら、ミュディの机を見た。
 そこには、小さな金属片やハンマーなどの道具がある。

「みゃう、あれなに?」
「彫金。金属に傷を付けて模様を描くんだ。そうすれば『お菓子の元』と交換してくれる」

 お菓子の元、というのはベルゼ通貨のことで、シオンはお金を全てお菓子に交換している。
 ルミナも興味があるのか、ミュディの机をチラチラ見ていた。

「お前もやってみるか?」
「みゃ……いいのか?」
「ああ、簡単だぞ」

 二人は机に移動し、シオンがお手本を見せる。
 エルダードワーフが作った彫金細工だ。金属のプレートに絵を彫るだけとシオンは言う。
 簡単そうに言うが、全く同じ絵を彫るなんて、普通はできない。
 ルミナは、お手本を参考にせず、猫の絵を彫り始めた。

「お前、これと同じにしないと意味がないぞ」
「みゃう。でも、ネコがいい」
「む」

 すると、部屋の隅で寝ていたニコニコアザラシのモフ助と、ルミナに懐いている黒猫の子供が起きた。
 モフ助はルミナの足下へ、黒猫は机に飛び乗り、ルミナの手元で丸くなる。

『ニャア』
「待ってろ。今、お前の顔を彫ってやるからな」
『ニャ』
「…………」

 シオンは思った。
 同じものを、同じように彫れば『お菓子の元』と交換してくれる。でも、ルミナは自分の好きな物を、好きなように彫っている……これでは、お菓子の元にならない。
 
『もきゅう』
「お前も彫ってほしいのか? わかった、一緒に彫ってやる」
『きゅぅぅぅ』
『ニャア』
「わかったって。危ないから手に乗るな」
「…………あたしも、やろうかな」

 シオンは、予備の彫金板を取り出し、ルミナの隣で彫り始めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ミュディが部屋に戻ると、シオンとルミナがベッドで並んで寝ていた。

『もきゅう』
「あら、モフ助。ふふ、お腹減った?」
『きゅぅぅ』

 モフ助が、ミュディの足にまとわりつく。どうやらお腹が減ったようだ。
 餌をあげようと抱っこすると、黒猫も一緒に来た。
 そのまま部屋を出ようとして気付く。

「あれ、これは……」

 机の上には、やりかけの彫金細工。
 金属板に刻まれた絵は、可愛いネコとニコニコアザラシ。
 お世辞にも上手いとはいえない。でも、不思議な温かみがあった。
 
「ふふ、ルミナちゃんと……こっちは、シオンちゃんかな? コピー品しか作らなかったのに、ルミナちゃんに触発されて、自分の作品を作ったのかも」

 シオンも、ネコとニコニコアザラシの彫り物をしていた。
 こちらは、ルミナより下手だ。コピーこそ完全にこなすシオンだが、オリジナルは苦手なようだ。

「……ふふ」

 ミュディは、安心していた。
 シオンも、これからはオリジナルの作品を作り出すだろう。
 ルミナのおかげかな、と思いつつ……ミュディはそっと部屋を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚 〇書籍化決定しました!! 竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。 十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。 特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。 レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。 手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!

独身おじさんの異世界ライフ~結婚しません、フリーな独身こそ最高です~

さとう
ファンタジー
 町の電気工事士であり、なんでも屋でもある織田玄徳は、仕事をそこそこやりつつ自由な暮らしをしていた。  結婚は人生の墓場……父親が嫁さんで苦労しているのを見て育ったため、結婚して子供を作り幸せな家庭を作るという『呪いの言葉』を嫌悪し、生涯独身、自分だけのために稼いだ金を使うと決め、独身生活を満喫。趣味の釣り、バイク、キャンプなどを楽しみつつ、人生を謳歌していた。  そんなある日。電気工事の仕事で感電死……まだまだやりたいことがあったのにと嘆くと、なんと異世界転生していた!!  これは、異世界で工務店の仕事をしながら、異世界で独身生活を満喫するおじさんの物語。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。