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日常編㉑
第623話、気まぐれシオン
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ある日、仕事休みのシェリーと一緒に、バーでお酒を飲んでいた。
「でさぁ、アヴァロンがどんどん大きくなってるの。最初はあんなに小さかったのに、もう大人のドラゴンと変わらなくてさ、でも親離れできないのか、ギネヴィアやアグラヴェインのいる厩舎に行って甘えたりして、もうすっごく可愛いのよ」
「そうかー……生まれた時から見てるけど、本当に大きくなったよなぁ」
「うんうん。アヴァロンもいつかお嫁さんもらうんだし、親離れしてほしいわねー……あ、そうだ。お兄ちゃん、最近ラクシュミに会った?」
「ラクシュミ? そういや、全く見ないな……」
「だよね。魔道具の勉強するって、ディミトリ商会に行ったらしいけど……」
「せっかくだし、探してみるか?」
「そうだね、いちおう、親戚だし」
俺はワインを一気に煽り、シェリーもオレンジカクテルを飲み干す。
けっこうな酒精だ。少し酔ったかも。
シェリーも、顔が赤い。そして、そのままテーブルに突っ伏してスヤスヤ寝てしまった。
シェリーをベッドまで運び、俺は一人で飲みなおす。
「はぁ……」
外は、雨が降っていた。
すると、ドアがノックされる。
「アシュト、いる?」
「ん、ミュディ?」
ミュディが入ってきた。珍しいな。
俺の隣に座り、セントウカクテルを注文し、ちびちび飲み始めた。
「ふぅ~……おいしい」
「ミュディ、ここに来るの珍しいな。しかも嬉しそうだし」
「ふふ、わかる?」
いいことでもあったのかな。
すると、セントウカクテルを飲み干し、おかわりを注文して言う。
「あのね、シオンちゃんが私の部屋にいるの、知ってるでしょ?」
「ああ。シオン、お前に懐いてるんだよな」
「うん。で、最近はシオンちゃん、ルミナちゃんも部屋に連れてくるの。シオンちゃん、ルミナちゃんを抱きしめて寝るんだけど……私のベッドで寝るから、私も一緒にルミナちゃんと寝れるの!! しかもしかも、ルミナちゃんのネコミミを触っても、怒られないのよ!!」
「そ、そうか……」
「ああもう、ルミナちゃんをついにナデナデできてうれしくて……興奮したから、少しお酒飲んで覚まそうかなーと」
「…………ああ、うん」
ま、まぁ……ミュディが幸せならいいや。
ルミナも、シオンがミュディを受け入れてるから触るのを許可したんだろうな。
すると、ミュディが言う。
「あのね、シオンちゃん……彫金のお仕事してるだけど」
「彫金? そういえば、お前の道具を使って作ってたみたいだな」
「うん。お仕事の手はすっごく早いの。手先がすごく器用だし、お願いした仕事もすぐに終わらせちゃうし、完璧なんだけど」
「なんだけど?」
「その……『同じものを作る』技術はすごいんだけど、『自分で何かを作る』ことが全くできないの。完成品のコピーを作るだけで、自分から、自分の作品を作ることは絶対にないんだ」
「……そう、なのか?」
「うん。自分のオリジナルを作るように言うと『興味ない』って言うし……」
「うーん……でも、無理強いすることでもないだろ?」
「……うん」
「まだ、村に来て日が浅いし、ゆっくり覚えさせればいいさ」
「……そうだね。うん、ありがとうアシュト」
「ああ」
シオン。そういえば最近見ないけど……どこにいるのかな。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
ミュディの部屋。
シオンの部屋にもなりつつある部屋。シオンはミュディのベッドでゴロゴロしていた。
今は一人ではない。ルミナを抱きしめている。
「みゃうぅぅ」
「おい、怪我はもう大丈夫なのか?」
「ん、治った」
包帯はすでに取れている。
シオンは、ルミナのネコミミをぺろぺろ舐め、ようやくルミナを解放した。
「ん、治ってる」
「ん」
「悪かったな。もうしない」
「みゃう……うん」
「よし、じゃあおやつにするぞ」
シオンは、ミュディが置いていったお菓子の入った籠からチコレートを取り出し、ルミナに渡す。
ルミナもチコレートをモグモグ食べながら、ミュディの机を見た。
そこには、小さな金属片やハンマーなどの道具がある。
「みゃう、あれなに?」
「彫金。金属に傷を付けて模様を描くんだ。そうすれば『お菓子の元』と交換してくれる」
お菓子の元、というのはベルゼ通貨のことで、シオンはお金を全てお菓子に交換している。
ルミナも興味があるのか、ミュディの机をチラチラ見ていた。
「お前もやってみるか?」
「みゃ……いいのか?」
「ああ、簡単だぞ」
二人は机に移動し、シオンがお手本を見せる。
エルダードワーフが作った彫金細工だ。金属のプレートに絵を彫るだけとシオンは言う。
簡単そうに言うが、全く同じ絵を彫るなんて、普通はできない。
ルミナは、お手本を参考にせず、猫の絵を彫り始めた。
「お前、これと同じにしないと意味がないぞ」
「みゃう。でも、ネコがいい」
「む」
すると、部屋の隅で寝ていたニコニコアザラシのモフ助と、ルミナに懐いている黒猫の子供が起きた。
モフ助はルミナの足下へ、黒猫は机に飛び乗り、ルミナの手元で丸くなる。
『ニャア』
「待ってろ。今、お前の顔を彫ってやるからな」
『ニャ』
「…………」
シオンは思った。
同じものを、同じように彫れば『お菓子の元』と交換してくれる。でも、ルミナは自分の好きな物を、好きなように彫っている……これでは、お菓子の元にならない。
『もきゅう』
「お前も彫ってほしいのか? わかった、一緒に彫ってやる」
『きゅぅぅぅ』
『ニャア』
「わかったって。危ないから手に乗るな」
「…………あたしも、やろうかな」
シオンは、予備の彫金板を取り出し、ルミナの隣で彫り始めた。
◇◇◇◇◇◇
ミュディが部屋に戻ると、シオンとルミナがベッドで並んで寝ていた。
『もきゅう』
「あら、モフ助。ふふ、お腹減った?」
『きゅぅぅ』
モフ助が、ミュディの足にまとわりつく。どうやらお腹が減ったようだ。
餌をあげようと抱っこすると、黒猫も一緒に来た。
そのまま部屋を出ようとして気付く。
「あれ、これは……」
机の上には、やりかけの彫金細工。
金属板に刻まれた絵は、可愛いネコとニコニコアザラシ。
お世辞にも上手いとはいえない。でも、不思議な温かみがあった。
「ふふ、ルミナちゃんと……こっちは、シオンちゃんかな? コピー品しか作らなかったのに、ルミナちゃんに触発されて、自分の作品を作ったのかも」
シオンも、ネコとニコニコアザラシの彫り物をしていた。
こちらは、ルミナより下手だ。コピーこそ完全にこなすシオンだが、オリジナルは苦手なようだ。
「……ふふ」
ミュディは、安心していた。
シオンも、これからはオリジナルの作品を作り出すだろう。
ルミナのおかげかな、と思いつつ……ミュディはそっと部屋を出た。
「でさぁ、アヴァロンがどんどん大きくなってるの。最初はあんなに小さかったのに、もう大人のドラゴンと変わらなくてさ、でも親離れできないのか、ギネヴィアやアグラヴェインのいる厩舎に行って甘えたりして、もうすっごく可愛いのよ」
「そうかー……生まれた時から見てるけど、本当に大きくなったよなぁ」
「うんうん。アヴァロンもいつかお嫁さんもらうんだし、親離れしてほしいわねー……あ、そうだ。お兄ちゃん、最近ラクシュミに会った?」
「ラクシュミ? そういや、全く見ないな……」
「だよね。魔道具の勉強するって、ディミトリ商会に行ったらしいけど……」
「せっかくだし、探してみるか?」
「そうだね、いちおう、親戚だし」
俺はワインを一気に煽り、シェリーもオレンジカクテルを飲み干す。
けっこうな酒精だ。少し酔ったかも。
シェリーも、顔が赤い。そして、そのままテーブルに突っ伏してスヤスヤ寝てしまった。
シェリーをベッドまで運び、俺は一人で飲みなおす。
「はぁ……」
外は、雨が降っていた。
すると、ドアがノックされる。
「アシュト、いる?」
「ん、ミュディ?」
ミュディが入ってきた。珍しいな。
俺の隣に座り、セントウカクテルを注文し、ちびちび飲み始めた。
「ふぅ~……おいしい」
「ミュディ、ここに来るの珍しいな。しかも嬉しそうだし」
「ふふ、わかる?」
いいことでもあったのかな。
すると、セントウカクテルを飲み干し、おかわりを注文して言う。
「あのね、シオンちゃんが私の部屋にいるの、知ってるでしょ?」
「ああ。シオン、お前に懐いてるんだよな」
「うん。で、最近はシオンちゃん、ルミナちゃんも部屋に連れてくるの。シオンちゃん、ルミナちゃんを抱きしめて寝るんだけど……私のベッドで寝るから、私も一緒にルミナちゃんと寝れるの!! しかもしかも、ルミナちゃんのネコミミを触っても、怒られないのよ!!」
「そ、そうか……」
「ああもう、ルミナちゃんをついにナデナデできてうれしくて……興奮したから、少しお酒飲んで覚まそうかなーと」
「…………ああ、うん」
ま、まぁ……ミュディが幸せならいいや。
ルミナも、シオンがミュディを受け入れてるから触るのを許可したんだろうな。
すると、ミュディが言う。
「あのね、シオンちゃん……彫金のお仕事してるだけど」
「彫金? そういえば、お前の道具を使って作ってたみたいだな」
「うん。お仕事の手はすっごく早いの。手先がすごく器用だし、お願いした仕事もすぐに終わらせちゃうし、完璧なんだけど」
「なんだけど?」
「その……『同じものを作る』技術はすごいんだけど、『自分で何かを作る』ことが全くできないの。完成品のコピーを作るだけで、自分から、自分の作品を作ることは絶対にないんだ」
「……そう、なのか?」
「うん。自分のオリジナルを作るように言うと『興味ない』って言うし……」
「うーん……でも、無理強いすることでもないだろ?」
「……うん」
「まだ、村に来て日が浅いし、ゆっくり覚えさせればいいさ」
「……そうだね。うん、ありがとうアシュト」
「ああ」
シオン。そういえば最近見ないけど……どこにいるのかな。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
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ミュディの部屋。
シオンの部屋にもなりつつある部屋。シオンはミュディのベッドでゴロゴロしていた。
今は一人ではない。ルミナを抱きしめている。
「みゃうぅぅ」
「おい、怪我はもう大丈夫なのか?」
「ん、治った」
包帯はすでに取れている。
シオンは、ルミナのネコミミをぺろぺろ舐め、ようやくルミナを解放した。
「ん、治ってる」
「ん」
「悪かったな。もうしない」
「みゃう……うん」
「よし、じゃあおやつにするぞ」
シオンは、ミュディが置いていったお菓子の入った籠からチコレートを取り出し、ルミナに渡す。
ルミナもチコレートをモグモグ食べながら、ミュディの机を見た。
そこには、小さな金属片やハンマーなどの道具がある。
「みゃう、あれなに?」
「彫金。金属に傷を付けて模様を描くんだ。そうすれば『お菓子の元』と交換してくれる」
お菓子の元、というのはベルゼ通貨のことで、シオンはお金を全てお菓子に交換している。
ルミナも興味があるのか、ミュディの机をチラチラ見ていた。
「お前もやってみるか?」
「みゃ……いいのか?」
「ああ、簡単だぞ」
二人は机に移動し、シオンがお手本を見せる。
エルダードワーフが作った彫金細工だ。金属のプレートに絵を彫るだけとシオンは言う。
簡単そうに言うが、全く同じ絵を彫るなんて、普通はできない。
ルミナは、お手本を参考にせず、猫の絵を彫り始めた。
「お前、これと同じにしないと意味がないぞ」
「みゃう。でも、ネコがいい」
「む」
すると、部屋の隅で寝ていたニコニコアザラシのモフ助と、ルミナに懐いている黒猫の子供が起きた。
モフ助はルミナの足下へ、黒猫は机に飛び乗り、ルミナの手元で丸くなる。
『ニャア』
「待ってろ。今、お前の顔を彫ってやるからな」
『ニャ』
「…………」
シオンは思った。
同じものを、同じように彫れば『お菓子の元』と交換してくれる。でも、ルミナは自分の好きな物を、好きなように彫っている……これでは、お菓子の元にならない。
『もきゅう』
「お前も彫ってほしいのか? わかった、一緒に彫ってやる」
『きゅぅぅぅ』
『ニャア』
「わかったって。危ないから手に乗るな」
「…………あたしも、やろうかな」
シオンは、予備の彫金板を取り出し、ルミナの隣で彫り始めた。
◇◇◇◇◇◇
ミュディが部屋に戻ると、シオンとルミナがベッドで並んで寝ていた。
『もきゅう』
「あら、モフ助。ふふ、お腹減った?」
『きゅぅぅ』
モフ助が、ミュディの足にまとわりつく。どうやらお腹が減ったようだ。
餌をあげようと抱っこすると、黒猫も一緒に来た。
そのまま部屋を出ようとして気付く。
「あれ、これは……」
机の上には、やりかけの彫金細工。
金属板に刻まれた絵は、可愛いネコとニコニコアザラシ。
お世辞にも上手いとはいえない。でも、不思議な温かみがあった。
「ふふ、ルミナちゃんと……こっちは、シオンちゃんかな? コピー品しか作らなかったのに、ルミナちゃんに触発されて、自分の作品を作ったのかも」
シオンも、ネコとニコニコアザラシの彫り物をしていた。
こちらは、ルミナより下手だ。コピーこそ完全にこなすシオンだが、オリジナルは苦手なようだ。
「……ふふ」
ミュディは、安心していた。
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