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竜騎士の新人
第612話、新人竜騎士の苦悩②
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今日も天気がいい。
俺は、ルミナとモフ助、黒い子猫を連れて村を散歩していた。
モフ助は地面を這い、黒い子猫はトテトテと速足で付いてくる。子猫が少し遅れるとルミナは止まり、追いついてはまた歩きだす。
「みゃう、速いぞ」
「悪い悪い。な、抱っこしたほうが早くないか?」
「それじゃダメ。強くなれない」
『もきゅー』
『ミャー』
モフ助も頷いたように見えた。
この黒い子猫、最近村の猫が産んだ一匹で、出産にルミナが立ち会った。
しばらくは母猫と一緒にいたんだけど、ルミナを気に入り、最近はずっと後を付いてくる。この黒猫、ルミナにしか懐いていないし、俺が撫でようとしたら引っかかれそうになった。
ツンとして、どこか懐きにくい黒猫……ルミナみたいだ。
そんなわけで、ルミナのお供がまた増えた、ってわけだ。
のんびり川べりを歩いていると。
「……はぁぁ」
女の子がいた。
なんか見覚えあるな……あ、そうか。竜騎士の新人の子だ。
確か、三人ほど女性の竜騎士が誕生したそうだ。
シェリーのいい部下になるとかで、緑龍の村に配属されたんだっけ。確か名前は……。
「えーと……ディナだっけ?」
「え? あ……あ、アシュト様!?」
竜騎士の少女ディナは敬礼する。
なんだかデジャヴだな。つい最近もこんなことあった気がする。
俺は聞いてみた。
「あのさ、何か悩んでるのか?」
「え」
「いや、ため息吐いてたから」
「…………大したこと、ありません」
「んー……もし話せるんだったら、話してみないか?」
「…………」
ルベンの時も、話してから解決したしな。
何か力になれるかもしれない。
すると、ディナはポツリと言う。
「……実は、うちの子が……環境が変わったせいで、気性が荒くなって。今までは私を普通に乗せていたのに、最近は起きてくれないし、暴れるし、私を振り落とすし……う、うぅぅ。憧れの竜騎士になれたのに、騎乗禁止命令が出て、ううぅぅ」
「そ、そうだったのか……」
うちの子、ってドラゴンだよな。
すると、ルミナが言う。
「みゃう。ストレスだな」
「「え?」」
「環境が変わってストレスたまってる。無理に乗ろうとしないで、一緒に散歩したり、おいしいもの食べさせたり、とにかくストレスを取り除くのがいい。あまりストレス溜めると、お腹の調子悪くなったり、病気になる」
『もきゅ』『ミャー』
モフ助と黒子猫も同意するように鳴いた。
そうだな。せっかくだし、ルミナに診てもらうか。
「な、ディナ。お前のドラゴン、どこにいるんだ?」
「……隔離厩舎です。村外れにある、暴れドラゴンを入れておく厩舎」
「そんなのあるのか。よし、じゃあ行ってみるか」
「え……で、でも、アシュト様にそんな」
「いいって。俺やルミナが力になれるかもしれないし」
「みゃうー、お礼はお菓子でいいぞ」
『もきゅう』『ミャー』
「わ、わかりました……案内します」
というわけで、ディナと一緒に隔離厩舎へ向かった。
◇◇◇◇◇
隔離厩舎にいたのは、傷だらけのドラゴンだった。
壁や鉄柵に身体を打ち付けたのか、身体中に擦り傷がある。
「ヨセフ。会いに来たよ」
『……グルル』
「怪我してる……大丈夫?」
『ゴルルルルッ!!』
「うおっ!?」
ヨセフというドラゴンは、首を上げて俺たちを威嚇する。
黒猫の毛が逆立ち、モフ助も身体を丸めてしまった。だが、ルミナは怖がらずに柵を乗り越え中へ……って、何してんのこの子は!?
「お、おいルミナ!? 危ないぞ!!」
「うるさい。大きな声だすな」
「む」
「お前、この子のストレスの原因わかってない。みゃう、あーんして」
『……』
ヨセフは大きな口をガパッとあける。うわぁ、ルミナを丸呑みできそうな口だ。
ルミナは、ヨセフの口を確認する。
そして、何かに気付いたようだ。
「やっぱり。この子、ごはんぜんぜん食べてない。牙も綺麗……でも、痩せちゃってる。ストレスの原因、きっとここのご飯だと思う」
「ご、ご飯……? え、餌がマズいの?」
「まずくない。口に合わないだけ。この子、今まで何を食べていた?」
「えっと……騎竜用の練り餌だけど。ここでは、新鮮な肉や野菜があるから、それを混ぜて食べさせてた」
「それが原因。この子、ずっと練り餌ばかりだったから、生肉や野菜をあまり受け付けない」
「え……で、でも。ドランロード王国では、たまに生肉や野菜を食べさせてたわ」
「たまに、だろ。毎日とたまには違う」
つまり、食事が合わないからイライラしてるのか。
だったら簡単。その練り餌をドラゴンロード王国から持ってくればいい。
「よし。ドラゴンロード王国から、騎竜用の練り餌を持ってくるようにお願いするか」
「アシュト様……いいんですか? その、私のためだけに」
「いいよ。でも、新鮮な生肉や野菜のが身体にいいなら、そっちも食べて欲しいな」
そういうと、ルミナが言う。
「ちょっとずつ食べさせるといい。毎日はダメだぞ」
「は、はい」
「とりあえず、今は栄養あるのを食べさせないと。いくらドラゴンでも、このままじゃ弱っちゃうぞ」
『もきゅ』『ミャー』
モフ助と黒猫が俺にすり寄って来る。
まるで「なんとかしろ」と言っているようだ。
俺は『緑龍の知識書』を開いてみる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
植物魔法・果物
〇ドラゴンフルーツ
かつてのドラゴンたちが愛した果物。
人間は食べられないけど、ドラゴンたちの大好物!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お、いい魔法あるな。よし……さっそく」
隔離厩舎から出て、杖を構え詠唱……魔法を発動させると、緑龍の杖から種が落ちた。
そして、隔離厩舎の傍に、一本の複雑に枝分かれした木が生えた。
木には真っ赤な果実が大量に生っている。形は星型で、俺の両手で抱えられる大きさの果実だ。すごいな、メロンみたいにずっしりして重い。
ディナはヨセフに鎖を付けて連れ出す。俺はディナにドラゴンフルーツを渡した。
「ヨセフ、これ食べられる?」
『?……スンスン……ッ!?』
匂いを嗅いだヨセフは目を見開き、ドラゴンフルーツに喰らい付いた。
口の中でグシャグシャと咀嚼し、ごくりと飲み込む……すると、おいしかったのか翼をバサバサさせ、もっとよこせと言わんばかりにディナに甘えだした。
俺は追加のドラゴンフルーツをいくつか収穫。ディナに渡す。
「あははっ、慌てなくてもいっぱいあるから!」
『ギャウゥ!! ギャウゥ!!』
「おいしい? おいしい? よかったぁ……アシュト様、ありがとうございます」
「いやいや。元気になってよかったよ。な」
「みゃう」
『もきゅう』『ミャー』
ルミナ、モフ助、黒猫も嬉しいようだ。
俺たちはしばし、嬉しそうにドラゴンフルーツを食べるヨセフを眺めていた。
◇◇◇◇◇
その後、ヨセフはドラゴンロード王国から取り寄せた練り餌を食べ、元気になったらしい。食生活を変えるべく、二日に一度は新鮮な肉や野菜の食事にしているようだ。
ドラゴンフルーツの木はそのままにした。
ランスローとゴーヴァンに「ドラゴンたちのおやつに」と言って自由に食べてもらう。果物の成長が早く、一度すべて収穫しても、四日ほどでまた実るようだ。
ルミナも、ヨセフの診察をして「もう大丈夫、みゃう」って言ってたし大丈夫だろう。
俺は、ルミナと散歩しながら聞いてみた。
「それにしても、一目見てすぐにストレスってわかったな」
「みゃあ。痩せてたし、身体中傷だらけだったし、ストレスによる自傷行為だって見てわかった。牙を見れば食事してるかどうかわかるし、お腹さわれば胃の様子もわかる」
「さすがだな、ルミナ」
「みゃ……ごろごろ」
頭を撫でると喉がゴロゴロ鳴る。
ネコミミも、片方だけピコピコ動いていた。機嫌がいい証だろう。
ふと、空を見上げると。
「あ、見ろよ……ディナと、ヨセフだ」
「みゃあ」
『もきゅ』『ニャー』
空を見上げると、シェリーとアヴァロンを先頭に、ディナとヨセフ、他に二人の女性竜騎士が飛んでいた。どうやら完全に復帰したようだ。
俺は大きく背伸びし、ルミナに言う。
「さてルミナ。腹も減ったし、屋敷でシルメリアさんにおやつでも作ってもらうか」
「ん、クリ食べたいぞ」
「はいよ。クリのケーキでも作ってもらうか」
『もきゅう』『ニャー』
俺はルミナと手をつなぎ、屋敷までのんびり歩きだした。
俺は、ルミナとモフ助、黒い子猫を連れて村を散歩していた。
モフ助は地面を這い、黒い子猫はトテトテと速足で付いてくる。子猫が少し遅れるとルミナは止まり、追いついてはまた歩きだす。
「みゃう、速いぞ」
「悪い悪い。な、抱っこしたほうが早くないか?」
「それじゃダメ。強くなれない」
『もきゅー』
『ミャー』
モフ助も頷いたように見えた。
この黒い子猫、最近村の猫が産んだ一匹で、出産にルミナが立ち会った。
しばらくは母猫と一緒にいたんだけど、ルミナを気に入り、最近はずっと後を付いてくる。この黒猫、ルミナにしか懐いていないし、俺が撫でようとしたら引っかかれそうになった。
ツンとして、どこか懐きにくい黒猫……ルミナみたいだ。
そんなわけで、ルミナのお供がまた増えた、ってわけだ。
のんびり川べりを歩いていると。
「……はぁぁ」
女の子がいた。
なんか見覚えあるな……あ、そうか。竜騎士の新人の子だ。
確か、三人ほど女性の竜騎士が誕生したそうだ。
シェリーのいい部下になるとかで、緑龍の村に配属されたんだっけ。確か名前は……。
「えーと……ディナだっけ?」
「え? あ……あ、アシュト様!?」
竜騎士の少女ディナは敬礼する。
なんだかデジャヴだな。つい最近もこんなことあった気がする。
俺は聞いてみた。
「あのさ、何か悩んでるのか?」
「え」
「いや、ため息吐いてたから」
「…………大したこと、ありません」
「んー……もし話せるんだったら、話してみないか?」
「…………」
ルベンの時も、話してから解決したしな。
何か力になれるかもしれない。
すると、ディナはポツリと言う。
「……実は、うちの子が……環境が変わったせいで、気性が荒くなって。今までは私を普通に乗せていたのに、最近は起きてくれないし、暴れるし、私を振り落とすし……う、うぅぅ。憧れの竜騎士になれたのに、騎乗禁止命令が出て、ううぅぅ」
「そ、そうだったのか……」
うちの子、ってドラゴンだよな。
すると、ルミナが言う。
「みゃう。ストレスだな」
「「え?」」
「環境が変わってストレスたまってる。無理に乗ろうとしないで、一緒に散歩したり、おいしいもの食べさせたり、とにかくストレスを取り除くのがいい。あまりストレス溜めると、お腹の調子悪くなったり、病気になる」
『もきゅ』『ミャー』
モフ助と黒子猫も同意するように鳴いた。
そうだな。せっかくだし、ルミナに診てもらうか。
「な、ディナ。お前のドラゴン、どこにいるんだ?」
「……隔離厩舎です。村外れにある、暴れドラゴンを入れておく厩舎」
「そんなのあるのか。よし、じゃあ行ってみるか」
「え……で、でも、アシュト様にそんな」
「いいって。俺やルミナが力になれるかもしれないし」
「みゃうー、お礼はお菓子でいいぞ」
『もきゅう』『ミャー』
「わ、わかりました……案内します」
というわけで、ディナと一緒に隔離厩舎へ向かった。
◇◇◇◇◇
隔離厩舎にいたのは、傷だらけのドラゴンだった。
壁や鉄柵に身体を打ち付けたのか、身体中に擦り傷がある。
「ヨセフ。会いに来たよ」
『……グルル』
「怪我してる……大丈夫?」
『ゴルルルルッ!!』
「うおっ!?」
ヨセフというドラゴンは、首を上げて俺たちを威嚇する。
黒猫の毛が逆立ち、モフ助も身体を丸めてしまった。だが、ルミナは怖がらずに柵を乗り越え中へ……って、何してんのこの子は!?
「お、おいルミナ!? 危ないぞ!!」
「うるさい。大きな声だすな」
「む」
「お前、この子のストレスの原因わかってない。みゃう、あーんして」
『……』
ヨセフは大きな口をガパッとあける。うわぁ、ルミナを丸呑みできそうな口だ。
ルミナは、ヨセフの口を確認する。
そして、何かに気付いたようだ。
「やっぱり。この子、ごはんぜんぜん食べてない。牙も綺麗……でも、痩せちゃってる。ストレスの原因、きっとここのご飯だと思う」
「ご、ご飯……? え、餌がマズいの?」
「まずくない。口に合わないだけ。この子、今まで何を食べていた?」
「えっと……騎竜用の練り餌だけど。ここでは、新鮮な肉や野菜があるから、それを混ぜて食べさせてた」
「それが原因。この子、ずっと練り餌ばかりだったから、生肉や野菜をあまり受け付けない」
「え……で、でも。ドランロード王国では、たまに生肉や野菜を食べさせてたわ」
「たまに、だろ。毎日とたまには違う」
つまり、食事が合わないからイライラしてるのか。
だったら簡単。その練り餌をドラゴンロード王国から持ってくればいい。
「よし。ドラゴンロード王国から、騎竜用の練り餌を持ってくるようにお願いするか」
「アシュト様……いいんですか? その、私のためだけに」
「いいよ。でも、新鮮な生肉や野菜のが身体にいいなら、そっちも食べて欲しいな」
そういうと、ルミナが言う。
「ちょっとずつ食べさせるといい。毎日はダメだぞ」
「は、はい」
「とりあえず、今は栄養あるのを食べさせないと。いくらドラゴンでも、このままじゃ弱っちゃうぞ」
『もきゅ』『ミャー』
モフ助と黒猫が俺にすり寄って来る。
まるで「なんとかしろ」と言っているようだ。
俺は『緑龍の知識書』を開いてみる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
植物魔法・果物
〇ドラゴンフルーツ
かつてのドラゴンたちが愛した果物。
人間は食べられないけど、ドラゴンたちの大好物!
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「お、いい魔法あるな。よし……さっそく」
隔離厩舎から出て、杖を構え詠唱……魔法を発動させると、緑龍の杖から種が落ちた。
そして、隔離厩舎の傍に、一本の複雑に枝分かれした木が生えた。
木には真っ赤な果実が大量に生っている。形は星型で、俺の両手で抱えられる大きさの果実だ。すごいな、メロンみたいにずっしりして重い。
ディナはヨセフに鎖を付けて連れ出す。俺はディナにドラゴンフルーツを渡した。
「ヨセフ、これ食べられる?」
『?……スンスン……ッ!?』
匂いを嗅いだヨセフは目を見開き、ドラゴンフルーツに喰らい付いた。
口の中でグシャグシャと咀嚼し、ごくりと飲み込む……すると、おいしかったのか翼をバサバサさせ、もっとよこせと言わんばかりにディナに甘えだした。
俺は追加のドラゴンフルーツをいくつか収穫。ディナに渡す。
「あははっ、慌てなくてもいっぱいあるから!」
『ギャウゥ!! ギャウゥ!!』
「おいしい? おいしい? よかったぁ……アシュト様、ありがとうございます」
「いやいや。元気になってよかったよ。な」
「みゃう」
『もきゅう』『ミャー』
ルミナ、モフ助、黒猫も嬉しいようだ。
俺たちはしばし、嬉しそうにドラゴンフルーツを食べるヨセフを眺めていた。
◇◇◇◇◇
その後、ヨセフはドラゴンロード王国から取り寄せた練り餌を食べ、元気になったらしい。食生活を変えるべく、二日に一度は新鮮な肉や野菜の食事にしているようだ。
ドラゴンフルーツの木はそのままにした。
ランスローとゴーヴァンに「ドラゴンたちのおやつに」と言って自由に食べてもらう。果物の成長が早く、一度すべて収穫しても、四日ほどでまた実るようだ。
ルミナも、ヨセフの診察をして「もう大丈夫、みゃう」って言ってたし大丈夫だろう。
俺は、ルミナと散歩しながら聞いてみた。
「それにしても、一目見てすぐにストレスってわかったな」
「みゃあ。痩せてたし、身体中傷だらけだったし、ストレスによる自傷行為だって見てわかった。牙を見れば食事してるかどうかわかるし、お腹さわれば胃の様子もわかる」
「さすがだな、ルミナ」
「みゃ……ごろごろ」
頭を撫でると喉がゴロゴロ鳴る。
ネコミミも、片方だけピコピコ動いていた。機嫌がいい証だろう。
ふと、空を見上げると。
「あ、見ろよ……ディナと、ヨセフだ」
「みゃあ」
『もきゅ』『ニャー』
空を見上げると、シェリーとアヴァロンを先頭に、ディナとヨセフ、他に二人の女性竜騎士が飛んでいた。どうやら完全に復帰したようだ。
俺は大きく背伸びし、ルミナに言う。
「さてルミナ。腹も減ったし、屋敷でシルメリアさんにおやつでも作ってもらうか」
「ん、クリ食べたいぞ」
「はいよ。クリのケーキでも作ってもらうか」
『もきゅう』『ニャー』
俺はルミナと手をつなぎ、屋敷までのんびり歩きだした。
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