411 / 474
日常編⑳
第605話、水を浴びれば風邪を引く
しおりを挟む
秋が終わり、春がやってきた……やってきたというか、戻ってきたというか。
カラフルに色づいた葉はすっかり緑色になり、肌寒い風や弱い日差しもすっかり元通り。過ごしやすい気温、太陽の暖かさが心地いい。
俺は、ココロとルミナ、マンドレイクとアルラウネを連れて温室にやってきた。
「さ、温かくなってきたし、薬草を植えよう」
「はい!」
「ん」
「まんどれーいく」
「あるらうねーっ」
夏前に育てておいた薬草の苗をズラーっと並べる。
薬草は温度に敏感だ。なので、夏前に温室の薬草を全て収穫しておいた。苗は屋敷の地下で育てて、秋が過ぎて春が戻ってきたら植えようと計画していたのだ。
俺の温室のほかに、ココロの温室も同じようにしている。まずは俺の温室に薬草を植え、その後でココロの温室に薬草を植えるのだ。
ココロは、薬草の苗をジーっと見ていた。
「オーベルシュタインの薬草……何度も見ていますけど、不思議ですね。わたし、エルフ族が使う薬草はかなり覚えている方なんですけど、オーベルシュタインの薬草は知らないのばかりです」
「俺も同じだよ。ここに来てから、いろいろ調べてるけど……まだまだ知らない薬草ばかりだ。例えばこれ」
俺は細く枝分かれした苗を手に取り見せる。
「これはライコウっていう薬草。葉の分かれ方が雷みたいに見えるからそう名付けられたんだ」
「まんどれーいく」「あるらうねー」
「ライコウ、ですか。黄色い葉なんですね」
「解熱剤として使えるんだけど、単品だと効果が高すぎて低体温症を引き起こす。内臓の炎症を押さえるのに少量服用する。あと、湿布薬の成分にもなる」
「おい、話はいいからさっさと植えるぞ」
ルミナが尻尾で地面をパシッと叩いた。
すまんすまん。こういうの語ると止まらなくなるんだよね。
魔法で畝を作り、四人並んで植えていく。
「ルミナ、そこはトウキを植えて。マンドレイクとアルラウネ、そこにライコウを。ココロはサイコの苗をそこに。植えたら立札を」
俺はパラライソウ、ポイズンソウの苗を丁寧に植える。
立札を立てて完成……やっぱり、温室に薬草が植えてあると見栄えがいい。
マンドレイクとアルラウネがウッドを連れてきた。
『ヤクソウ、イッパイ!』
「ああ。ウッド、水をいっぱいあげてくれ」
『マカセロー!』
ウッドは両手から根を伸ばし、右手を水瓶へ、左手を温室の天井へ伸ばした。
そして、右手が水瓶の水を吸い、天井へ張り巡らされた左手の根からシャワーのように水が降り注いだ。
「わわわわっ!?」
「みゃうぅっ!?」
「まんどれーいく!」「あるらうねーっ!」
「しまった、久しぶりだから忘れてたっ!?」
ウッドのシャワーを浴びた俺たちは、ずぶ濡れになってしまった。
久しぶりだから忘れてた。ウッドに水やりをお願いする場合、温室の外にいなくちゃダメなんだった。
ずぶ濡れで外へ出て、俺たちは笑った。
「あっはっは。いやー……濡れたなぁ」
「うう、びちょびちょです……でも、なんか気持ちいいです」
「ぶるるるっ」
「まんどれーいく!」「あるらうねーっ!」
ルミナが身体を震わせ、水しぶきが飛ぶ。
それを浴びたマンドレイクとアルラウネが喜んでいた。
「ココロ、とりあえず着替えてから再開しようか」
「はい……くちんっ」
「みゃう、風邪ひくぞ」
とりあえず、ココロの温室は午後から始めるか。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ココロが風邪を引き、仕事を休むことになった。
俺、ルミナは大丈夫だった。マンドレイクとアルラウネも……というか、あの二人は病気にならない。万能の霊薬エリクシールの素材だしな。
うーん……なんとなく責任を感じてしまうな。
「なぁルミナ、ココロだけど……」
「ただの風邪だろ」
そ、素っ気ない。
すり鉢で薬草をすり潰し、水を加えて別の薬草を混ぜ、さらにすり潰す。
一連の流れを見ていたが、ルミナは自然にこなしていた。もうすっかり薬作りが様になっている。
俺は洗った包帯を丁寧に巻きながら言う。
「な、お昼過ぎたらココロのお見舞いに行かないか?」
「めんどくさい」
「頼むよ。クララベルの店でケーキ食べさせてやるからさ」
「!」
お、ネコミミと尻尾が動いた。
そして、仕方なさそうに言う。
「まぁ……様子見くらいならいいぞ。みゃう」
「よし決まり。シルメリアさんに頼んで、差し入れを作ってもらうか」
「みゃぁう。ケーキ、忘れるなよ」
午前中の診察を終え、お昼を食べた。
薬院のドアに『外出中』の札をかけ、シルメリアさんに作ってもらったおにぎりを持ってココロの家へ。
ココロの家は、薬院からほど近い場所にある。
ルミナと一緒にココロの家へ。ドアをノックすると、一人のハイエルフが出てきた。
「あれ、村長?」
「きみは確か……アイラ、だったかな」
「うん。ココロのお見舞いに来たんだ……って、村長も?」
「ああ」
ハイエルフのアイラ。
確か、エルミナたちよりも三千年ほど年下……それでも俺より遥かに年上のハイエルフだ。外見年齢は十六歳くらいで、村に来たばかりのココロをずっと気にしていたハイエルフだ。
アイラは、俺とルミナを見てニヤリとする。
「村長、ココロなら寝てるよ。お昼の支度しようと思ってたけど、一緒に食べない?」
「いいのか? アイラがいるなら、俺たちはいらないかなーって思ったけど」
「いるいる。ほら、村長たちもご飯にしよっ」
「いや、俺たちは食べたし……」
「いいからっ!」
アイラに背を押され、俺とルミナはココロの家の中へ。
リビングに座り、アイラがお昼の支度を始めた。何を作るのかな?
「アイラ、何を作るんだ?」
「銀猫たちから教わった『おかゆ』だよー。これ、風邪ひいた時とか、食べやすくていいんだって」
「へぇ~」
「これに、食べやすくほぐした魚と、刻んだネギ、卵を入れて……完成!」
「みゃう……いい匂い。うまそう」
「ふふ、あなたも少し食べる? あと、あたしお昼食べてないからさ、村長のおにぎりもらうねっ」
アイラ、意外とグイグイ来るな。
おにぎりをアイラに渡し、俺は完成したおかゆを持って二階へ。ルミナはおかゆをもらい、満足そうに笑っていた……お昼食べたのによく食えるな。
アイラが部屋のドアをノックする。
「ココロ、入っていい?」
『どうぞー……けほけほ』
咳き込んでる……大丈夫かな。
アイラがドアを開け、俺が最初に中へ入った。
「あ~……アイラ、背中お願いしていいですか? 届かなく───……え」
「え」
ココロは、上半身裸で身体を拭いていた。
しばし呆然……こ、ココロの裸を見てしまった。
俺は顔を反らす。
すると、アイラが俺の手からおかゆを奪い、そのまま蹴り飛ばすように部屋の外へ。
『はい背中ね、ほれほれ』
『い、今……先生がいたような? 幻覚でしょうか……?』
『そうかもね。ほら背中向けて』
『あの、そこにルミナがいませんか?』
『みゃう』
『幻覚だって。ほら背中向けて。ああ、村長は後で来るって』
『は、はい……うう、頭がボンヤリしますぅ』
五分後、俺はアイラに呼ばれてようやく部屋の中へ。
とりあえず……さっきの姿は忘れよう。
「よ、ココロ。調子はどうだ?」
「先生……風邪って辛いですぅ。頭がボンヤリするし、喉は痛いし、幻覚まで見えました」
すまん、幻覚は俺のせいだ。
ルミナはおかゆを食べ終え、俺の傍へ座る。
「…………」
「村長。女の子の部屋ジロジロ見回すのはダメだよ~?」
「あ、いや」
しまった……つい。
ココロの部屋は、観葉植物が多くあった。エルフだからなのか、木々に囲まれていた方が楽なのかな。ベッドも草色だし、カーテンやカーペットも緑色だ。部屋の中なのに、森の中にいるみたいだ。
窓が開いているので、外の空気が入ってくる。
さて、まずは……薬師としての仕事をしないとな。
「ココロ、ちょっと失礼」
「ふぇ?」
「熱……うん、高いな。心拍数も……うん。ココロ、口開けて」
「ふぁぁ」
杖に光を灯し、喉を見る……んー、赤く腫れてる。
完璧な風邪だ。水被って身体が冷えたせいかな。
俺はカバンから風邪薬を取り出す。スライム製の小瓶に丸薬が入っている。
それを二粒取り出し、ココロへ渡した。
「風邪薬だ。朝晩、食後に飲むように。それと、水は多めに飲んで、汗を掻いたらちゃんと着替えること。アイラ、帰る前にベッドシーツを交換してやってくれ」
「はーい。あと、あたし今日は泊まるんで!」
「そっか。じゃあお前は手洗いうがいをちゃんとするように」
「ん、わかった」
「みゃう、もういいだろ」
ルミナが俺の腕をクイクイ引く。
けっこう長居したし、ルミナもケーキが食べたいようだ。
ルミナは、ココロに言った。
「仕事、あたいがいるから。お前は休んでろ」
「……はい。お願いしますね、ルミナ」
「ん」
それだけ言い、ルミナは部屋を出た。
ふふ、ちゃんと心配しているんだな。
「アイラ、後はよろしくな。何かあったら俺のところへ来てくれ」
「わかった。あとはお任せっ!」
「じゃあココロ、お大事に」
「はい……先生、ありがとうございました」
ココロは力なく笑った。あとはアイラに任せておこう。
◇◇◇◇◇◇
それから、三日間ココロは休んだ。
薬院の外では、ウッドがしょんぼり項垂れている。
『ウウ……ボクノセイデ、ココロガ』
「ウッド、もう気にするなって。ココロはもう元気だし、明日からまた来るからさ」
『アシュト……』
俺は、自分で作った植物用栄養剤をカップに入れ、ストローを差してウッドに渡す。
ウッドにとってのジュースみたいなものだ。普通のジュースもゴクゴク飲むけど、やっぱり植物なので栄養剤が大好きなのだけど。
ウッドは栄養剤をチューチュー飲む。
「ウッド、飲み終わったら畑に行ってもらっていいか? メージュたちが、畑に水を撒いてほしいって」
『ワカッタ! ネ、アシュト……ココロ、アシタハクル?』
「ああ、来るぞ」
『ジャア、アシタチャントアヤマルネ』
「うん、そうしておけ」
当然だが、ココロはウッドのせいだなんて思っていない。
ウッドは栄養剤を飲み干すと、畑に向かって走り出した。
すると、ルミナが本を抱えて薬院に戻ってきた……頭に、数人のハイピクシーたちを乗せて。
「みゃう、降りろ」
『ありがと、ルミナ』
『ありがとねー』
『あ、アシュト!』
「フィル? なんでルミナの頭の上に?」
ハイピクシーのフィルは、ルミナの頭から俺の肩に止まる。
『ルミナはわたしたちのお友達だからね。わたしたちが乗るのはお友達だけなの』
「そうなのか? 初めて知ったぞ」
『えへへ。もちろん、アシュトもだよ?』
「そりゃうれしいな。さて、せっかく来たしお茶でも飲んでいくか? お菓子もあるぞ」
『やったぁ! みんな、お菓子だって!』
フィルが言うと、ハイピクシーたちがルミナの頭の上でワイワイ騒ぐ。ルミナはネコミミをパタパタさせてハイピクシーたちに抗議するが、ハイピクシーたちはそれすら楽しんでいた。
そして、俺の元へ。
「おい、お菓子食べるぞ」
「あ、ああ。っぷ……ふふ、可愛いな」
「……」
ルミナは頭にハイピクシーたちを乗せたまま、薬院の中へ入った。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ココロが薬院に来た。出迎えたウッドは大喜びしてる。
『ココロ! ゴメンネ、ボクノセイデ……』
「ぜんぜん気にしてないですよ! それに、濡れてすぐに着替えなかった私が悪いんです。ウッドくん、これからも私の温室に、シャワーをお願いしますね」
『ココロ……ウン! ボクニマカセロー!』
「ふふ、よろしくお願いしますね」
ウッドは胸をドンと叩き、力強く頷いた。
「先生、ご迷惑をおかけしました」
「気にするなって。俺もココロには助けられてるし、お互い様だ」
「はい。あの、その……これ、お礼です」
「え?」
「その、私が育てたハーブを使ったお茶と、ハーブを練り込んだクッキーです。先生とルミナに……その、どうぞ」
「そんな、気を遣ってもらって悪いな」
「みゃう。お菓子」
「待て待て。今日のおやつの時間に食べよう」
「みゃうー」
ココロは、無事に復活した。
それにしても、風邪か……季節の変わり目は体調を崩しやすいし、風邪薬や栄養剤の備蓄を増やしておかないとな。予想だけど、風邪を引く人はまだいそうだ。
「さーて。今日も一日頑張るか」
「はい!」
「みゃあ」
俺たちは薬院の中へ。
よーし、今日も一日頑張ろう!
カラフルに色づいた葉はすっかり緑色になり、肌寒い風や弱い日差しもすっかり元通り。過ごしやすい気温、太陽の暖かさが心地いい。
俺は、ココロとルミナ、マンドレイクとアルラウネを連れて温室にやってきた。
「さ、温かくなってきたし、薬草を植えよう」
「はい!」
「ん」
「まんどれーいく」
「あるらうねーっ」
夏前に育てておいた薬草の苗をズラーっと並べる。
薬草は温度に敏感だ。なので、夏前に温室の薬草を全て収穫しておいた。苗は屋敷の地下で育てて、秋が過ぎて春が戻ってきたら植えようと計画していたのだ。
俺の温室のほかに、ココロの温室も同じようにしている。まずは俺の温室に薬草を植え、その後でココロの温室に薬草を植えるのだ。
ココロは、薬草の苗をジーっと見ていた。
「オーベルシュタインの薬草……何度も見ていますけど、不思議ですね。わたし、エルフ族が使う薬草はかなり覚えている方なんですけど、オーベルシュタインの薬草は知らないのばかりです」
「俺も同じだよ。ここに来てから、いろいろ調べてるけど……まだまだ知らない薬草ばかりだ。例えばこれ」
俺は細く枝分かれした苗を手に取り見せる。
「これはライコウっていう薬草。葉の分かれ方が雷みたいに見えるからそう名付けられたんだ」
「まんどれーいく」「あるらうねー」
「ライコウ、ですか。黄色い葉なんですね」
「解熱剤として使えるんだけど、単品だと効果が高すぎて低体温症を引き起こす。内臓の炎症を押さえるのに少量服用する。あと、湿布薬の成分にもなる」
「おい、話はいいからさっさと植えるぞ」
ルミナが尻尾で地面をパシッと叩いた。
すまんすまん。こういうの語ると止まらなくなるんだよね。
魔法で畝を作り、四人並んで植えていく。
「ルミナ、そこはトウキを植えて。マンドレイクとアルラウネ、そこにライコウを。ココロはサイコの苗をそこに。植えたら立札を」
俺はパラライソウ、ポイズンソウの苗を丁寧に植える。
立札を立てて完成……やっぱり、温室に薬草が植えてあると見栄えがいい。
マンドレイクとアルラウネがウッドを連れてきた。
『ヤクソウ、イッパイ!』
「ああ。ウッド、水をいっぱいあげてくれ」
『マカセロー!』
ウッドは両手から根を伸ばし、右手を水瓶へ、左手を温室の天井へ伸ばした。
そして、右手が水瓶の水を吸い、天井へ張り巡らされた左手の根からシャワーのように水が降り注いだ。
「わわわわっ!?」
「みゃうぅっ!?」
「まんどれーいく!」「あるらうねーっ!」
「しまった、久しぶりだから忘れてたっ!?」
ウッドのシャワーを浴びた俺たちは、ずぶ濡れになってしまった。
久しぶりだから忘れてた。ウッドに水やりをお願いする場合、温室の外にいなくちゃダメなんだった。
ずぶ濡れで外へ出て、俺たちは笑った。
「あっはっは。いやー……濡れたなぁ」
「うう、びちょびちょです……でも、なんか気持ちいいです」
「ぶるるるっ」
「まんどれーいく!」「あるらうねーっ!」
ルミナが身体を震わせ、水しぶきが飛ぶ。
それを浴びたマンドレイクとアルラウネが喜んでいた。
「ココロ、とりあえず着替えてから再開しようか」
「はい……くちんっ」
「みゃう、風邪ひくぞ」
とりあえず、ココロの温室は午後から始めるか。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ココロが風邪を引き、仕事を休むことになった。
俺、ルミナは大丈夫だった。マンドレイクとアルラウネも……というか、あの二人は病気にならない。万能の霊薬エリクシールの素材だしな。
うーん……なんとなく責任を感じてしまうな。
「なぁルミナ、ココロだけど……」
「ただの風邪だろ」
そ、素っ気ない。
すり鉢で薬草をすり潰し、水を加えて別の薬草を混ぜ、さらにすり潰す。
一連の流れを見ていたが、ルミナは自然にこなしていた。もうすっかり薬作りが様になっている。
俺は洗った包帯を丁寧に巻きながら言う。
「な、お昼過ぎたらココロのお見舞いに行かないか?」
「めんどくさい」
「頼むよ。クララベルの店でケーキ食べさせてやるからさ」
「!」
お、ネコミミと尻尾が動いた。
そして、仕方なさそうに言う。
「まぁ……様子見くらいならいいぞ。みゃう」
「よし決まり。シルメリアさんに頼んで、差し入れを作ってもらうか」
「みゃぁう。ケーキ、忘れるなよ」
午前中の診察を終え、お昼を食べた。
薬院のドアに『外出中』の札をかけ、シルメリアさんに作ってもらったおにぎりを持ってココロの家へ。
ココロの家は、薬院からほど近い場所にある。
ルミナと一緒にココロの家へ。ドアをノックすると、一人のハイエルフが出てきた。
「あれ、村長?」
「きみは確か……アイラ、だったかな」
「うん。ココロのお見舞いに来たんだ……って、村長も?」
「ああ」
ハイエルフのアイラ。
確か、エルミナたちよりも三千年ほど年下……それでも俺より遥かに年上のハイエルフだ。外見年齢は十六歳くらいで、村に来たばかりのココロをずっと気にしていたハイエルフだ。
アイラは、俺とルミナを見てニヤリとする。
「村長、ココロなら寝てるよ。お昼の支度しようと思ってたけど、一緒に食べない?」
「いいのか? アイラがいるなら、俺たちはいらないかなーって思ったけど」
「いるいる。ほら、村長たちもご飯にしよっ」
「いや、俺たちは食べたし……」
「いいからっ!」
アイラに背を押され、俺とルミナはココロの家の中へ。
リビングに座り、アイラがお昼の支度を始めた。何を作るのかな?
「アイラ、何を作るんだ?」
「銀猫たちから教わった『おかゆ』だよー。これ、風邪ひいた時とか、食べやすくていいんだって」
「へぇ~」
「これに、食べやすくほぐした魚と、刻んだネギ、卵を入れて……完成!」
「みゃう……いい匂い。うまそう」
「ふふ、あなたも少し食べる? あと、あたしお昼食べてないからさ、村長のおにぎりもらうねっ」
アイラ、意外とグイグイ来るな。
おにぎりをアイラに渡し、俺は完成したおかゆを持って二階へ。ルミナはおかゆをもらい、満足そうに笑っていた……お昼食べたのによく食えるな。
アイラが部屋のドアをノックする。
「ココロ、入っていい?」
『どうぞー……けほけほ』
咳き込んでる……大丈夫かな。
アイラがドアを開け、俺が最初に中へ入った。
「あ~……アイラ、背中お願いしていいですか? 届かなく───……え」
「え」
ココロは、上半身裸で身体を拭いていた。
しばし呆然……こ、ココロの裸を見てしまった。
俺は顔を反らす。
すると、アイラが俺の手からおかゆを奪い、そのまま蹴り飛ばすように部屋の外へ。
『はい背中ね、ほれほれ』
『い、今……先生がいたような? 幻覚でしょうか……?』
『そうかもね。ほら背中向けて』
『あの、そこにルミナがいませんか?』
『みゃう』
『幻覚だって。ほら背中向けて。ああ、村長は後で来るって』
『は、はい……うう、頭がボンヤリしますぅ』
五分後、俺はアイラに呼ばれてようやく部屋の中へ。
とりあえず……さっきの姿は忘れよう。
「よ、ココロ。調子はどうだ?」
「先生……風邪って辛いですぅ。頭がボンヤリするし、喉は痛いし、幻覚まで見えました」
すまん、幻覚は俺のせいだ。
ルミナはおかゆを食べ終え、俺の傍へ座る。
「…………」
「村長。女の子の部屋ジロジロ見回すのはダメだよ~?」
「あ、いや」
しまった……つい。
ココロの部屋は、観葉植物が多くあった。エルフだからなのか、木々に囲まれていた方が楽なのかな。ベッドも草色だし、カーテンやカーペットも緑色だ。部屋の中なのに、森の中にいるみたいだ。
窓が開いているので、外の空気が入ってくる。
さて、まずは……薬師としての仕事をしないとな。
「ココロ、ちょっと失礼」
「ふぇ?」
「熱……うん、高いな。心拍数も……うん。ココロ、口開けて」
「ふぁぁ」
杖に光を灯し、喉を見る……んー、赤く腫れてる。
完璧な風邪だ。水被って身体が冷えたせいかな。
俺はカバンから風邪薬を取り出す。スライム製の小瓶に丸薬が入っている。
それを二粒取り出し、ココロへ渡した。
「風邪薬だ。朝晩、食後に飲むように。それと、水は多めに飲んで、汗を掻いたらちゃんと着替えること。アイラ、帰る前にベッドシーツを交換してやってくれ」
「はーい。あと、あたし今日は泊まるんで!」
「そっか。じゃあお前は手洗いうがいをちゃんとするように」
「ん、わかった」
「みゃう、もういいだろ」
ルミナが俺の腕をクイクイ引く。
けっこう長居したし、ルミナもケーキが食べたいようだ。
ルミナは、ココロに言った。
「仕事、あたいがいるから。お前は休んでろ」
「……はい。お願いしますね、ルミナ」
「ん」
それだけ言い、ルミナは部屋を出た。
ふふ、ちゃんと心配しているんだな。
「アイラ、後はよろしくな。何かあったら俺のところへ来てくれ」
「わかった。あとはお任せっ!」
「じゃあココロ、お大事に」
「はい……先生、ありがとうございました」
ココロは力なく笑った。あとはアイラに任せておこう。
◇◇◇◇◇◇
それから、三日間ココロは休んだ。
薬院の外では、ウッドがしょんぼり項垂れている。
『ウウ……ボクノセイデ、ココロガ』
「ウッド、もう気にするなって。ココロはもう元気だし、明日からまた来るからさ」
『アシュト……』
俺は、自分で作った植物用栄養剤をカップに入れ、ストローを差してウッドに渡す。
ウッドにとってのジュースみたいなものだ。普通のジュースもゴクゴク飲むけど、やっぱり植物なので栄養剤が大好きなのだけど。
ウッドは栄養剤をチューチュー飲む。
「ウッド、飲み終わったら畑に行ってもらっていいか? メージュたちが、畑に水を撒いてほしいって」
『ワカッタ! ネ、アシュト……ココロ、アシタハクル?』
「ああ、来るぞ」
『ジャア、アシタチャントアヤマルネ』
「うん、そうしておけ」
当然だが、ココロはウッドのせいだなんて思っていない。
ウッドは栄養剤を飲み干すと、畑に向かって走り出した。
すると、ルミナが本を抱えて薬院に戻ってきた……頭に、数人のハイピクシーたちを乗せて。
「みゃう、降りろ」
『ありがと、ルミナ』
『ありがとねー』
『あ、アシュト!』
「フィル? なんでルミナの頭の上に?」
ハイピクシーのフィルは、ルミナの頭から俺の肩に止まる。
『ルミナはわたしたちのお友達だからね。わたしたちが乗るのはお友達だけなの』
「そうなのか? 初めて知ったぞ」
『えへへ。もちろん、アシュトもだよ?』
「そりゃうれしいな。さて、せっかく来たしお茶でも飲んでいくか? お菓子もあるぞ」
『やったぁ! みんな、お菓子だって!』
フィルが言うと、ハイピクシーたちがルミナの頭の上でワイワイ騒ぐ。ルミナはネコミミをパタパタさせてハイピクシーたちに抗議するが、ハイピクシーたちはそれすら楽しんでいた。
そして、俺の元へ。
「おい、お菓子食べるぞ」
「あ、ああ。っぷ……ふふ、可愛いな」
「……」
ルミナは頭にハイピクシーたちを乗せたまま、薬院の中へ入った。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ココロが薬院に来た。出迎えたウッドは大喜びしてる。
『ココロ! ゴメンネ、ボクノセイデ……』
「ぜんぜん気にしてないですよ! それに、濡れてすぐに着替えなかった私が悪いんです。ウッドくん、これからも私の温室に、シャワーをお願いしますね」
『ココロ……ウン! ボクニマカセロー!』
「ふふ、よろしくお願いしますね」
ウッドは胸をドンと叩き、力強く頷いた。
「先生、ご迷惑をおかけしました」
「気にするなって。俺もココロには助けられてるし、お互い様だ」
「はい。あの、その……これ、お礼です」
「え?」
「その、私が育てたハーブを使ったお茶と、ハーブを練り込んだクッキーです。先生とルミナに……その、どうぞ」
「そんな、気を遣ってもらって悪いな」
「みゃう。お菓子」
「待て待て。今日のおやつの時間に食べよう」
「みゃうー」
ココロは、無事に復活した。
それにしても、風邪か……季節の変わり目は体調を崩しやすいし、風邪薬や栄養剤の備蓄を増やしておかないとな。予想だけど、風邪を引く人はまだいそうだ。
「さーて。今日も一日頑張るか」
「はい!」
「みゃあ」
俺たちは薬院の中へ。
よーし、今日も一日頑張ろう!
104
あなたにおすすめの小説
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。