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緑龍の村・夏祭り

第587話、夜は華緋

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 フレキくんたちと別れ、俺とルミナは手を繋いで村を歩いていた。
 けっこう飲み食いしたし、お腹がいっぱいだ。
 ルミナも満足したのか、ネコミミと尻尾がよく動いている。
 すると、村中に置かれた魔石から文官の妖狐女性の声が。

『ただいまより、華緋を打ち上げます。皆様、上空をご覧ください』

 華緋。そうか、ミュディの魔法だ。
 魔石に魔法式を移して打ち上げれば、ミュディじゃなくても華緋が使えるんだ。妖狐族の協力の元、こうして打ち上げ華緋を作ることに成功したんだ。
 空を見上げると、さっそく華緋が打ち上がる。

「おお~」
「みゃう……」

 ヒュ~~~~……ドンッ!! 
 綺麗な虹色の花が上空に咲いた。
 キラキラした魔力の光だ。上空で輝き、綺麗に消えていく。
 さらに、何発も撃ちあがっては消えていく。
 改良したのか、華緋の形が違う。複雑な形状から、綺麗な円形と、見てるだけで面白い。

「みゃう、音がうるさい」

 ルミナはネコミミをパタンと閉じてしまった。でも、視線は空へ向いている。
 俺も、ずっと上を向いていた。
 周りの人たちも、空を見上げたまま、華緋に魅入っている。

「綺麗だな……」
「みゃあ」

 美しい華緋は、祭りの締めに相応しかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 祭りの一日目は無事に終わった。
 いちおう、ルールとして『深夜までの営業はナシ』っていうのがある。
 お客さんは家に帰ったり、緑龍の村の外でキャンプしたり、そのまま帰ったりしたようだ。
 祭りはあと二日ある。今日帰った人もいるし、明日から来る人もいる。
 俺とルミナは家に戻ってきた。

「みゃう……」
「眠いのか? ほら、お風呂入らないと」
「みゃあ……明日でいい。ねむい」
「やれやれ。歯を磨いて、顔を洗ってから寝ろよ」
「ごろごろ……」

 ルミナを寝かしつけ、俺も着替えた。
 リビングへ行くと、ミュディとシェリーがいた。

「お兄ちゃん、おつかれ」
「アシュト、ようやく見つけたぁ」
「ミュディ……はは、やっと会えたな」

 俺はソファに座る。すると、いつの間にかいたシルメリアさんがお茶を淹れてくれた。祭りじゃ見なかったけど、シルメリアさんたちもたっぷり遊べたのかな?
 俺は紅茶を啜り、ソファにもたれかかる。

「あ~……疲れた。そういやミュディ、どこにいたんだ?」
「シェリーちゃんたちと一緒に、カレラちゃんのお店に行ったの」
「そうだったのか。こっちも、フレキくんと会ってさ、あとで薬院に来て勉強会する予定だ」
「こんな日にやんなくても……お兄ちゃん、真面目」

 シェリーは牛乳をゴクゴク飲んでいた。
 そういや、他のみんながいないな。

「ローレライとクララベルはガーランド王のところ、エルミナは『おじいちゃんが夜に到着するから迎えに行く』ってさ。エルミナ、おじいちゃんと過ごすみたい」
「そっか。家族と過ごすならそっちのがいい」

 と、ウンウン頷く。
 家族か……一応、兄さんたちにも祭りの開催を伝えたけど、やっぱ来れないのかな。
 俺は大きく背伸びをする。すると、家のドアがノックされた。
 シェリーが言う。

「こんな時間にお客さん?」
「フレキくんかな」
「お兄ちゃん、出てよ」
「おう」

 シルメリアさんが席を外してるし、俺が出た方がいいな。
 俺は何の迷いもなくドアを開けた。

「お疲れ様、フレキくん。さっそくだけど───」

 と、フレキくんにそう言った。
 だが……そこにいたのは、フレキくんじゃなかった。
 
「やぁ、アシュト」
「久しいな」
「やっほ~! アシュトくん!」
「久しぶりね、アシュト」
「ふぅ……こんな時間になってしまったな。子供たちはもう寝ておる」
「……へへ、驚いてやがるな」

 これは夢だろうか?
 リュドガ兄さん、ルナマリア義姉さん、ラクシュミ、母上、父上、そしてヒュンケル兄がいた。
 唖然としていると、俺の両肩にポンと手が置かれる。
 振り返ると、ミュディとシェリーが笑っていた。

「サプライズ成功!」
「ごめんね、アシュト」
「え、え。まさか……」
「えへへ。実は、あたしたちが呼んだの。ささ、入って入って、疲れたでしょ? シルメリア、お茶お願い!」
「かしこまりました」

 ゾロゾロと、俺を素通りして兄さんたちが室内へ。
 すると、ラクシュミが俺の腕を取った。

「ほらアシュトくん! はやくはやく」
「ら、ラクシュミだよな? 魔法学園は?」
「今は休暇中。ふふ、ここが緑龍の村かぁ。シェリーにいろいろ聞いたけど、お祭り楽しそうだね」
「…………」

 よく見ると、父上が兄さんたちの子供であるエクレールとスサノオを抱っこしていた。
 シャーロットとマルチェラが部屋まで運んで行く……ああ、もう夜だしな。
 俺はラクシュミに連れられ、ソファへ。
 
「お父さん、お酒飲む?」
「いや、今日はやめておこう。いやはや、ワシも歳かな……少し疲れた」
「お姉様はお酒飲む? おいしいアイスワインがあるよ」
「ありがとうミュディ、ではいただこう。リュドガ、お前もどうだ?」
「アイスワインとは聞いたことがないな。ミュディ、オレにも頼む」
「はーい。あ、ヒュンケル兄さんも?」
「おう、頼むぜ」
「お母さんは飲む?」
「ん~……上空は少し冷えたし、あったかいお茶がいいわ」
「わかった。シルメリア、あたしとお母さんには熱い緑茶お願い」
「かしこまりました」

 みんなすでに馴染んでる。俺は未だにピンときてないのに。
 ラクシュミに押されてソファに座った。

「えーと、何から言えばいいのか……ヒュンケル兄」
「オレかよ!? あー……一言で言うなら『休暇』だ」
「休暇?」
「ああ。リュドガとルナマリアは休暇、アイゼン様とアリューシア様は旅行。んで、その護衛にオレが選ばれたってわけだ。ラクシュミ嬢はついてきた」
「なるほど……」

 ようやく理解が追いついてきた。
 兄さんを見ると、優しく微笑む。

「十日ほどの滞在だ。よろしく頼む」
「もちろん。ちょうどお祭りやってるし、楽しんでよ」
「ありがとう。それと、サプライズはシェリーの発案だ。ふふ、我が妹ながら面白いことをする」
「ちょ、リュウ兄もノリノリだったじゃん!」
「あはは。悪い悪い」

 シェリーは兄さんをポコポコ叩き、笑いに包まれた。
 いろいろ驚いたが、兄さんたちが滞在する。明日の祭りは面白くなりそうだ。
 すると、薬院に繋がるドアがノックされた。

「失礼します!! 師匠───……あれ」
「あ、フレキくん」
「え、えっと……」
「ごめんごめん。すぐ行くよ」

 まずいまずい、フレキくんとの約束を忘れてた。
 とりあえず、今日はもう遅いし、みんなには休んでもらおうかな。
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