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ドラゴンロード・フェスティバル
第567話、木龍セフィロト
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ガーランド王から戦いの許可をもらった。
話をすると、『うんうん、男の子はヤンチャな方がいい!』と、ちょっとずれた反応だった。アルメリア王妃は何となく察してくれたようで、『悔いのないように』と言ってくれた。多分、この言葉はルクソードとエシルドに言ったものだと俺は思っている。
この戦いに意味を求めるなら、きっと意味はない。
俺が勝っても負けても、ローレライとクララベルがルクソードとエシルドの元に嫁ぐわけじゃない。はっきり言って、ルクソードたちの想いを、俺が受け止めるだけの戦いだ。
でも……俺はそれでいい。
この二人に認められなくてもいい。でも、二人がローレライとクララベルを好きだと言う気持ちは、俺が受け止めるべきだと思った。
いつもヘタレで逃げてばかりの俺だけど、今回は違う。
「───よし」
俺がいるのは、ドラゴンロード王国郊外にある、王族の狩場。
広い平原、遠くに見えるのは深い森、さらに遠くには大きな山脈が見え、近くには川が流れている。
ここに、俺とルクソード、エシルドが向かい合っていた。
さらに、王族が勢ぞろい。見届け人としている。
ガーランド王は、真面目でキリっとした威厳溢れる顔で言う。
「アシュトくん、本当に二人同時でいいのだね?」
「はい。大丈夫です」
「よし……ルクソード、エシルド。アシュトくんは人間だ。アシュトくんの魔法がお前たちの───……」
と、ここで俺は挙手。
「今回は、俺が戦います。もちろん、魔法込みですけど」
「む?……わかった。考えがあるなら許可する」
「ありがとうございます」
「では、我ら龍人族が見届ける。正々堂々、よき戦いを」
ガーランド王が離れた。
ルクソードとエシルドが一礼。俺も頭を下げ、杖と『緑龍の知識書』を取り出す。
「この戦いに意味なんてない……でも、胸に溜まったモヤモヤを、発散させてもらうよ」
「おれも……全部、ぶつけるからな」
二人の身体が変化していく。
一体は深緑の、全身がギザギザしたドラゴン。『斬剣龍』ルクソード。
もう一体はどこか丸っこい、群青色のドラゴン。『守盾龍』エシルドだ。
『さぁ、魔法を使いなよ』
『どんな魔法だろうと、おれが弾いてやる!!』
エシルドは、丸く艶々した両手をガチンとぶつける。
俺は本を開き、杖を掲げ、詠唱をする。
「大地に根付く樹木の龍。我が名はアシュト。緑龍ムルシエラゴの名の元に顕現せよ!! 来たれ、『木龍セフィロト』!!」
魔法の詠唱が終わると、俺の周囲に何本もの木が生えてきた。
それらはうねり、形を変え、俺を包み込む。幹から枝が伸び、葉が生え……この場にいる全員が驚愕するのを尻目に、現れた。
『俺だって、たまには本気でやってやる。行くぞ!!』
それは、全長二十メートル以上ある、『木で作られたドラゴン』だ。
身体は樹木。伸びた枝に葉が大量に生え、翼のように広がる。
俺はセフィロトの中心にいる。枝が集まって椅子のようになり、手にはちょうどいいサイズの枝が握られている。この枝を握って、セフィロトを操作する。
どういう理屈なのか知らんけど、視覚はセフィロトと共有していた。
『すごい……人間が、ドラゴンに』
『に、兄ちゃん!! いつもみたいに二人でやろうぜ!!』
『ああ。それと、口調が昔に戻って……まぁいい。アシュト様、本気でやらせてもらいますよ!!』
『おう!! 行くぞ───ッ!!』
俺はセフィロトを操作し、ルクソードに向けて走り出した。
◇◇◇◇◇◇
俺はセフィロスの右腕を太く伸ばす。身体が木なので大きさは自在なのだ。
そして、巨大化させた右拳で、エシルドめがけて突き出した。
『くらえっ!!』
『ぐぬっ……おれを舐めるなよっ!!』
太い拳を完全に防御。そういえばクララベルが言ってたっけ、エシルドは防御に特化したドラゴンだって。
すると、俺の背後に移動したルクソードが口を開ける……ブレス攻撃か!!
『あまいっ!! 羽ばたけ!!』
『……チッ』
俺はセフィロトの翼を羽ばたかせる。すると、葉っぱが大量に舞い、視界が遮られた。
セフィロトを跳躍させ、尻尾を巨大化させる───……見えた。ルクソードだ。
ルクソードめがけて、巨大化尻尾を鞭のようにしならせ放った。
『っぐ……!?』
『兄ちゃん!! この野郎っ!!』
尻尾がルクソードを薙ぎ払う。
そして、エシルドがそれを見て、俺に突っ込んで来た。
チャンス到来!
『すぅぅ───……ブワァァァッ!!』
『うわぁぁぁっ!!』
セフィロトの口から葉っぱが吐きだされ、エシルドを吹き飛ばす。
エシルドは、ルクソードの傍まで転がった。
追撃。俺は両腕を解く。木龍の身体は木が絡み合ってできた物だ。解けば長くしなりのある枝になる。
伸びた枝が、ルクソードとエシルドの全身に絡みつき、ゆっくり締め上げ始めた。
『ぐ、あああ……っ!!』
『ちっき、しょう……っ!!』
メキメキと枝が締まっていく。
『まだやるか?』
『ぐ、っく……』
『にい、ちゃん……』
頼む、折れてくれ。
そして、ルクソードの頭がガクッと落ちた。
『ボクらの、負けだ……』
エシルドもがっくり項垂れる。
ずっと見ていたガーランド王が、片手を上げた。
「そこまで!! 勝者、アシュトくん!!」
こうして、俺の男として、旦那としての威信を賭けた戦いは終わった。
◇◇◇◇◇◇
変身を解いたルクソードとエルシドは、どこかスッキリしていた。
「負けたよ。ガーランド王がキミに勝てなかったのもようやくわかった……ははは、まさか人間がドラゴンになるなんてね。魔法ってすごいや」
「ま、まぁな……」
これ、俺しか使えない魔法だけどな。
俺としても、この木龍がこれほどまでに強く使いやすいなんて思わなかった。
「ちぇっ、おれ、勝てると思ったんだけどなー」
「あはは……」
「なぁ、あんたのこと兄貴って呼んでいい?」
「兄貴? お前の兄貴はこっちだろ」
「兄ちゃんは兄ちゃん。あんたは兄貴って感じだからさ」
「まぁ、いいけど……なぁ、いいか? ルクソード」
「いいよ。ふふ、いつの間にか呼び捨てだね」
「あ」
「ボクも、アシュトって呼んでいいかい?」
「もちろん。その……いろいろあったけど、よろしく頼む」
「うん。ボクも、ようやく吹っ切れたよ……」
ルクソードは笑顔を浮かべていたが、最後のセリフを言った瞬間だけ、悲し気に見えた。
エシルドも、同じような顔をしていた。
……もし、もしも。兄さんとミュディの婚約話が成立して、二人が結婚していたら。それを聞いたら、俺は兄さんに戦いを挑んでいただろうか?
この二人みたいに、まっすぐ気持ちをぶつけられただろうか?
たぶん……俺にはできない。
「…………」
「ん、なに?」
「兄貴、どうした?」
「いや……お前たちはすごいよ。今度、いや今夜、一緒に酒でも飲もう」
「いいね。付き合うよ」
「おれも!」
「ワシも!!!!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
いきなり現れたガーランド王が俺の背中を思いきりブッ叩いた。
おかげで俺は五メートル以上ノーバウンドで吹っ飛び、地面を転がった。
「おお、すまんすまん。いやぁいい戦いだった!! まさかアシュトくんがドラゴンになれるとは!! おおそうだ!! 王族の王都飛行に、アシュトくんも参加してはどうかね? ん? どうした?」
「お、叔父上……アシュトは人間ですよ? あの威力で叩かれたら」
「だ、大丈夫かな……」
「お兄ちゃん!!」「アシュト!!」
薄れゆく意識の中、ローレライとクララベル、ミュディが駆け寄ってくるのが見え……ガーランド王の背後に、冷気を纏った白銀のドラゴンが現れたのを最後に、俺の意識は途切れた。
『ガーランド!! アシュトくんは人間。加減をしろと言ったの忘れたのかしら!!』
『ひぃぃぃぃぃっ!? すまんアルメリアァァァァァァーーーーーーッ!!』
ガーランド王の断末魔が、聞こえたような気がした。
話をすると、『うんうん、男の子はヤンチャな方がいい!』と、ちょっとずれた反応だった。アルメリア王妃は何となく察してくれたようで、『悔いのないように』と言ってくれた。多分、この言葉はルクソードとエシルドに言ったものだと俺は思っている。
この戦いに意味を求めるなら、きっと意味はない。
俺が勝っても負けても、ローレライとクララベルがルクソードとエシルドの元に嫁ぐわけじゃない。はっきり言って、ルクソードたちの想いを、俺が受け止めるだけの戦いだ。
でも……俺はそれでいい。
この二人に認められなくてもいい。でも、二人がローレライとクララベルを好きだと言う気持ちは、俺が受け止めるべきだと思った。
いつもヘタレで逃げてばかりの俺だけど、今回は違う。
「───よし」
俺がいるのは、ドラゴンロード王国郊外にある、王族の狩場。
広い平原、遠くに見えるのは深い森、さらに遠くには大きな山脈が見え、近くには川が流れている。
ここに、俺とルクソード、エシルドが向かい合っていた。
さらに、王族が勢ぞろい。見届け人としている。
ガーランド王は、真面目でキリっとした威厳溢れる顔で言う。
「アシュトくん、本当に二人同時でいいのだね?」
「はい。大丈夫です」
「よし……ルクソード、エシルド。アシュトくんは人間だ。アシュトくんの魔法がお前たちの───……」
と、ここで俺は挙手。
「今回は、俺が戦います。もちろん、魔法込みですけど」
「む?……わかった。考えがあるなら許可する」
「ありがとうございます」
「では、我ら龍人族が見届ける。正々堂々、よき戦いを」
ガーランド王が離れた。
ルクソードとエシルドが一礼。俺も頭を下げ、杖と『緑龍の知識書』を取り出す。
「この戦いに意味なんてない……でも、胸に溜まったモヤモヤを、発散させてもらうよ」
「おれも……全部、ぶつけるからな」
二人の身体が変化していく。
一体は深緑の、全身がギザギザしたドラゴン。『斬剣龍』ルクソード。
もう一体はどこか丸っこい、群青色のドラゴン。『守盾龍』エシルドだ。
『さぁ、魔法を使いなよ』
『どんな魔法だろうと、おれが弾いてやる!!』
エシルドは、丸く艶々した両手をガチンとぶつける。
俺は本を開き、杖を掲げ、詠唱をする。
「大地に根付く樹木の龍。我が名はアシュト。緑龍ムルシエラゴの名の元に顕現せよ!! 来たれ、『木龍セフィロト』!!」
魔法の詠唱が終わると、俺の周囲に何本もの木が生えてきた。
それらはうねり、形を変え、俺を包み込む。幹から枝が伸び、葉が生え……この場にいる全員が驚愕するのを尻目に、現れた。
『俺だって、たまには本気でやってやる。行くぞ!!』
それは、全長二十メートル以上ある、『木で作られたドラゴン』だ。
身体は樹木。伸びた枝に葉が大量に生え、翼のように広がる。
俺はセフィロトの中心にいる。枝が集まって椅子のようになり、手にはちょうどいいサイズの枝が握られている。この枝を握って、セフィロトを操作する。
どういう理屈なのか知らんけど、視覚はセフィロトと共有していた。
『すごい……人間が、ドラゴンに』
『に、兄ちゃん!! いつもみたいに二人でやろうぜ!!』
『ああ。それと、口調が昔に戻って……まぁいい。アシュト様、本気でやらせてもらいますよ!!』
『おう!! 行くぞ───ッ!!』
俺はセフィロトを操作し、ルクソードに向けて走り出した。
◇◇◇◇◇◇
俺はセフィロスの右腕を太く伸ばす。身体が木なので大きさは自在なのだ。
そして、巨大化させた右拳で、エシルドめがけて突き出した。
『くらえっ!!』
『ぐぬっ……おれを舐めるなよっ!!』
太い拳を完全に防御。そういえばクララベルが言ってたっけ、エシルドは防御に特化したドラゴンだって。
すると、俺の背後に移動したルクソードが口を開ける……ブレス攻撃か!!
『あまいっ!! 羽ばたけ!!』
『……チッ』
俺はセフィロトの翼を羽ばたかせる。すると、葉っぱが大量に舞い、視界が遮られた。
セフィロトを跳躍させ、尻尾を巨大化させる───……見えた。ルクソードだ。
ルクソードめがけて、巨大化尻尾を鞭のようにしならせ放った。
『っぐ……!?』
『兄ちゃん!! この野郎っ!!』
尻尾がルクソードを薙ぎ払う。
そして、エシルドがそれを見て、俺に突っ込んで来た。
チャンス到来!
『すぅぅ───……ブワァァァッ!!』
『うわぁぁぁっ!!』
セフィロトの口から葉っぱが吐きだされ、エシルドを吹き飛ばす。
エシルドは、ルクソードの傍まで転がった。
追撃。俺は両腕を解く。木龍の身体は木が絡み合ってできた物だ。解けば長くしなりのある枝になる。
伸びた枝が、ルクソードとエシルドの全身に絡みつき、ゆっくり締め上げ始めた。
『ぐ、あああ……っ!!』
『ちっき、しょう……っ!!』
メキメキと枝が締まっていく。
『まだやるか?』
『ぐ、っく……』
『にい、ちゃん……』
頼む、折れてくれ。
そして、ルクソードの頭がガクッと落ちた。
『ボクらの、負けだ……』
エシルドもがっくり項垂れる。
ずっと見ていたガーランド王が、片手を上げた。
「そこまで!! 勝者、アシュトくん!!」
こうして、俺の男として、旦那としての威信を賭けた戦いは終わった。
◇◇◇◇◇◇
変身を解いたルクソードとエルシドは、どこかスッキリしていた。
「負けたよ。ガーランド王がキミに勝てなかったのもようやくわかった……ははは、まさか人間がドラゴンになるなんてね。魔法ってすごいや」
「ま、まぁな……」
これ、俺しか使えない魔法だけどな。
俺としても、この木龍がこれほどまでに強く使いやすいなんて思わなかった。
「ちぇっ、おれ、勝てると思ったんだけどなー」
「あはは……」
「なぁ、あんたのこと兄貴って呼んでいい?」
「兄貴? お前の兄貴はこっちだろ」
「兄ちゃんは兄ちゃん。あんたは兄貴って感じだからさ」
「まぁ、いいけど……なぁ、いいか? ルクソード」
「いいよ。ふふ、いつの間にか呼び捨てだね」
「あ」
「ボクも、アシュトって呼んでいいかい?」
「もちろん。その……いろいろあったけど、よろしく頼む」
「うん。ボクも、ようやく吹っ切れたよ……」
ルクソードは笑顔を浮かべていたが、最後のセリフを言った瞬間だけ、悲し気に見えた。
エシルドも、同じような顔をしていた。
……もし、もしも。兄さんとミュディの婚約話が成立して、二人が結婚していたら。それを聞いたら、俺は兄さんに戦いを挑んでいただろうか?
この二人みたいに、まっすぐ気持ちをぶつけられただろうか?
たぶん……俺にはできない。
「…………」
「ん、なに?」
「兄貴、どうした?」
「いや……お前たちはすごいよ。今度、いや今夜、一緒に酒でも飲もう」
「いいね。付き合うよ」
「おれも!」
「ワシも!!!!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
いきなり現れたガーランド王が俺の背中を思いきりブッ叩いた。
おかげで俺は五メートル以上ノーバウンドで吹っ飛び、地面を転がった。
「おお、すまんすまん。いやぁいい戦いだった!! まさかアシュトくんがドラゴンになれるとは!! おおそうだ!! 王族の王都飛行に、アシュトくんも参加してはどうかね? ん? どうした?」
「お、叔父上……アシュトは人間ですよ? あの威力で叩かれたら」
「だ、大丈夫かな……」
「お兄ちゃん!!」「アシュト!!」
薄れゆく意識の中、ローレライとクララベル、ミュディが駆け寄ってくるのが見え……ガーランド王の背後に、冷気を纏った白銀のドラゴンが現れたのを最後に、俺の意識は途切れた。
『ガーランド!! アシュトくんは人間。加減をしろと言ったの忘れたのかしら!!』
『ひぃぃぃぃぃっ!? すまんアルメリアァァァァァァーーーーーーッ!!』
ガーランド王の断末魔が、聞こえたような気がした。
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