大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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獣王国の家庭教師

第542話、王女のバカンスは終わる

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「にゃぁぁーっ!」
「にゃぅぅーっ!」

 オアシスにて。
 ミュアちゃんとペルシャちゃんが水をかけあって遊んでいる。その二人のそばには、シルメリアさんがいた。
 少し離れてユーウェインがオアシスに浮かび、俺とグリフレッドは日陰で冷たい果実水を飲みながら見守っていた。
 グリフレッドは、果実水をぐびっと飲む。

「楽しそうで何よりですな」
「うん。ペルシャちゃんも息抜きできたようだ。まだ子供だし、勉強漬けの毎日はキツイはずだよ」
「何か考えがおありで?」
「んー……効果があるかどうかわからないけど、勉強休みの日を設けるように、国王に掛け合ってみるつもりだ。幸いなことに、エストレイヤ家は国王に借りがあるみたいだしね」
「なるほど。ですが……」
「ま、あまり期待はできないけどな」

 俺も果実水を飲む。
 他国の王女様の勉強指導に口を出す権利なんて俺にはない。たった三十日だけの臨時家庭教師の戯言だ。でも、できることがあるならやるべきだ。
 すると、ボールを投げて遊んでいたミュアちゃんが叫ぶ。

「ご主人さまーっ! ご主人さまも遊ぼーっ!」

 俺はミュアちゃんに手を振り、荷物をグリフレッドに任せてオアシスへ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 城下町の大衆食堂でたくさん食べ、宿に戻ってきた。
 あとは寝るだけだが……俺はペルシャちゃんに言う。

「ペルシャちゃん。お話が」
「……にゃあ」
「明日、城へ帰ります」
「わかっていますの。でも……やはり、寂しいですの」
「はい……」

 ペルシャちゃんのネコミミが萎れてしまった。
 すると、ミュアちゃんがペルシャちゃんの頭を撫でる。

「ペルシャ。また遊ぼうね」
「にゃあ……」
「わたし。またペルシャと遊びたい! だから、お勉強がんばって!」
「……はいですの! にゃあ」

 ペルシャちゃんのネコミミがぴーんと立った。
 毎日遊ぶのは確かに楽しい。でも、ペルシャちゃんは王族なのだ。王族には王族の務めがある。まだ幼いが、ペルシャちゃんはそれをしっかりとわかっている。
 
「この二日間の思い出。決して忘れません。アシュト先生、本当にありがとうございました」
「いえ。俺たちも楽しかったです。その、無責任な発言ですが……また、機会があったらぜひ」
「……はい!」

 擬態の木を使えばできる。でも、それは違う気がした。
 ペルシャちゃんは、にっこり笑って尻尾を揺らした。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 俺たちは城へ戻り、ペルシャちゃんの侍女さんの案内でペルシャちゃんの部屋へ。
 そこにいたのは、ペルシャちゃん……ではなく、擬態の木。本物のペルシャちゃんがこっそり部屋に戻ってくると、二人のペルシャちゃんが揃った。
 侍女さんは、ペルシャちゃん(擬態)を見ながら言う。
 
「幼いころからお仕えしていますが、全く同じ姫様としか思えませんでした。王子と国王様の会食でも全く気付かれませんでしたし……」
「「にゃあ」」

 俺は、擬態の木に言う。

「擬態を解除する」
「にゃあ」

 すると、ペルシャちゃん(擬態)が植木鉢の上に立つと、しゅるしゅると一本の木に戻る。ドレスを着たままなので、木がドレスを着ているという恰好に。
 さらに、木がどんどん小さくなり、最終的には種になってしまった。この種も、さらさらと砂のように分解され、植木鉢の上には何も残らなかった。

「よし。これでおしまいだ」
「にゃあー……今更だけど、すごい魔法でしたの」
「はい。ではペルシャちゃん……ではなく、ペルシャ王女殿下。これより授業を始めます」
「はい!」

 これから、いつも通りの授業だ。
 だが、二日間の休養でペルシャ王女殿下はリフレッシュ。授業に対する気合も違った。
 授業が始まると、しっかり話を聞き、メモを取ったりもしている。
 しばらくは、勉強も頑張れるだろう。
 俺は、俺にできることをやってみるか。

 ◇◇◇◇◇◇

 授業が終わり、俺はサファリ国王へ謁見を申し入れた。
 申請はすぐに通り、俺は謁見の間へ通される。
 謁見の間には、サファリ国王とシアン王子殿下。その妻キッシュ王太子妃がいた。
 国王は、嬉しそうに言う。

「アシュトよ。お前の噂は聞いているぞ。ペルシャの教育係では一番だとか」
「ありがとうございます」
「はっはっは! で、今日は何用だ?」
「はい。お願いがございまして……」
「ほほう! いいだろう。何でもいいぞ?」

 王はご機嫌だ。
 今なら言える……よし!

「ペルシャ王女殿下のことですが……どうか、休日を設けていただけないでしょうか?」
「……ふむ? 休日とは?」
「はい。ペルシャ王女殿下ですが、連日の勉強による疲労で、体力と気力が限界に近づいております。私の授業時間の間に、多少の回復をさせていますが……まだ幼い王女殿下の身に、今の勉強スケジュールは重いかと」
「ふむ……シアン、どう思う?」
「私は、そうは思いません。私が幼い頃のスケジュールよりだいぶ楽な方です」
「だ、そうだ。アシュト」

 うむむ……やっぱり厳しいかな。
 もう少しだけ押してみよう。

「でしたら四日。いや……七日に一日でいいので、休日を設けていただきたい。ペルシャ王女殿下が勉強に慣れ、体力が付き始める数年だけでいいので」
「ふぅむ……」

 王は考え込む。
 すると、シアン王子が言う。

「アシュト先生。あなたは、なぜそこまですのです?」
「ペルシャ王女殿下が追い込まれ、辛そうにしていたからです」
「えっ……」
「私には何となくわかります。期待され、期待に応えるための努力を続けるのはとてもつらく厳しい。私の場合、期待されず、それでも振り向いてほしくて勉強を続けましたから……認めてもらうための努力は、身体と心を蝕んでいきます」

 俺には、ミュディがいたから頑張れた。
 ペルシャちゃんには、支えてくれる人がいない。追い込まれ、このままでは潰れてしまう。そうなる前に、せめて心と体をゆっくり休められればいい。
 国王は、大きく頷いた。

「わかった。一度、ペルシャのスケジュールを見直そう。一日の休日を入れればよいのだな?」
「はい。それと、気分転換に外出の許可などもあれば。王女として、国民の生活や暮らしを直に見るのはいい経験になるかと。さらに、同世代の女性がいれば、なおさら楽しいかと思われます」

 俺は、キッシュ王太子妃を見た。
 きっと仲良くなれる。そんな気がしていた。

「全く面白いな。アイゼンの息子は」
「ありがとうございます」
「はっはっは! さて、今夜も一杯付き合ってもらおうか」
「はい」

 こうして、ペルシャ王女殿下の勉強スケジュールに、休日が追加された。
 俺の言った通り、七日に一日の休日。この日は町で買い物をしたり、キッシュ王太子妃と一緒にオアシスで遊ぶ姿が見られるようになったとか。
 キッシュ王太子妃も、歳の近い義妹のペルシャ王女殿下と仲良くなれて嬉しいとか。
 シアン王子も、一緒にオアシスで遊ぶ姿がよく見られたという。


 ◇◇◇◇◇◇

 家庭教師最終日。
 最後の授業を終えた俺は、ペルシャ王女殿下に一礼した。

「これで、私の授業は全て終わりです。三十日間、ありがとうございました」
「こちらこそ、素晴らしい授業でした。アシュト先生、本当にありがとうございます」

 ペルシャ王女殿下は立ち上がり、部屋の窓を開ける。
 侍女さんに目配せすると、部屋のドアが空き、ミュアちゃんたちが入ってきた。

「アシュト先生。ミュア、シルメリアさん、グリフレッドさん、ユーウェインさん。あなたたちが来てくれてよかった。本当に……ありがとうございました」
「え、あの……」

 ペルシャ王女殿下は、俺たち一人一人に頭を下げた。
 王族が、家庭教師とその従者に頭を下げる。普通だったらあり得ない。
 すると、ミュアちゃんが言う。

「ペルシャ。また遊びにきていい?」
「にゃあ。もちろんですの!」
「えへへ……ペルシャ、これあげる」
「にゃう……?」

 ミュアちゃんは、木彫りのネコペンダントを手渡す。
 どうやら、シルメリアさんと一緒に作ってたようだ。

「友達のあかし。大事にしてね」
「……にゃうぅ」

 俺は、ペルシャちゃんに近づき、頭を撫でた。

「ペルシャちゃん。元気でね……また遊びに来るから」
「……はい」

 こうして、俺の三十日間の家庭教師が終わった。
 最後、国王に挨拶し謝礼を受け取った。
 樽いっぱいの金貨なんていらなかったけど、王の気持ちをないがしろにするわけにはいかないので頂戴しておく。
 さらにさらに。なんと別荘までもらった。王族が管理するプライベートオアシスの一つで、規模は一番小さく、あまり利用されていないのでくれてやる、とのことだ。
 別荘に行き、こっそり転移魔法の刻印を書いておいた。これならいつでも来れる。ラビリンさんやトーロウくんとも会えるだろう。

 獣王国サファリ。また来よう!
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