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獣王国の家庭教師

第539話、獣王国サファリ城下町

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 授業が終わり、俺は自分の部屋に戻った。
 今日の授業はここまで。次の授業は三日後で、明日と明後日は休みだ。
 部屋では、ミュアちゃんとシルメリアさんが掃除をしていた。

「あ、ご主人さまー」
「ただいま。ミュアちゃん」
「にゃあ……あれ?」

 ミュアちゃんは気付いた。
 俺の後ろに、ローブをすっぽり被った小さな子がいたのだ。
 俺は、その子をそっと前に。そして、ローブを外す。

「あ、ペルシャ!」
「にゃあ」
「……ご主人様、これは一体」

 シルメリアさんが首を傾げる。
 そりゃそうだ。ペルシャ王女殿下は授業を受けてるはずだもんね。
 だが、今授業を受けてるのは、擬態したペルシャ王女殿下だ。
 擬態の木フェイクツリー……とんでもない魔法だ。

「事情は後で説明するよ。さっそくだけど二人とも、お出かけするから準備して」
「にゃう? おでかけ?」
「うん。お昼は城下町で食べよう」
「にゃった! シルメリア、準備しなきゃ!」
「かしこまりました。ご主人様」

 ペルシャ王女殿下の準備をシルメリアさんに任せ、俺は外にいるユーウェインとグリフレッドの元へ。
 
「出かけるから、二人ともラフな格好に着替えてくれ」
「へい、旦那。それより、ちゃんと事情説明してくださいよ……? 王族誘拐なんて洒落になんないっす」
「ユーウェイン。口調を……」
「まぁまぁ。これから二日間は休みだし、二人とも切り替えて行こう」
「……わかった」
「へへ、旦那は話がわかるぜ」

 二人は私服に着替え、剣だけ腰に下げた。
 ミュアちゃんたちの準備も終わり、俺たちは城の外へ。
 ペルシャ王女殿下は、こっそりついてきた。どうも城の抜け道とか隠れ場所とか知ってるようで、そこを使って城の外で合流する。

「にゃあ。冒険みたいで楽しいです!」
「あはは。それと、今日は城下町の宿に泊まろうと思います。ペルシャ王女殿下」
「ちょっとまって」

 ペルシャ王女殿下は、俺に手を向けて言う。

「その王女殿下というの、やめてほしいですの。素性がバレちゃいますの」
「あ、そっか。じゃあ」
「ペルシャでいいですの」
「わかった。じゃあ、ペルシャちゃんで」
「にゃあ」

 ペルシャちゃんは、満足したように微笑んだ。
 そして、ミュアちゃんが手を繋ぐ。

「にゃう。ペルシャ、いっぱい遊ぼうね!」
「はい!」

 こうして、俺、ミュアちゃんとペルシャちゃん、シルメリアさん、ユーウェイン、グリフレッドは、城下町へ向かって歩きだした。

 ◇◇◇◇◇◇

 城下町。
 初めて来た時は、露店が数多く並ぶ、横幅の広い道を歩いた。
 人が多く歩きにくいところは、ペルシャちゃんに負担になるだろう。
 というわけで、今回やってきたのは、商店区画。
 露店ではなく、店舗がメインの区画だ。道幅が広いのは変わらず、露店は殆どが飲食関係の屋台となっている。
 人の通りは多いが、ほとんど観光客がメインだ。
 ここ、お土産屋とかが多いな。

「にゃぁ~~~……初めて来ましたの」

 ペルシャちゃんは、目をキラキラさせていた。
 俺は、事前にペルシャちゃんの侍女さんからもらった、獣王国サファリの観光案内図を見た。
 
「えっと、砂漠料理のお店があるみたい。あ、その前に今日の宿を決めないと」

 宿泊は、獣王国サファリの宿屋にする。
 ドラゴンロード王国の別荘もあるけど、せっかくペルシャちゃんもいるし、城下町の宿を使ってみたい。
 観光案内図を見ていると、ペルシャちゃんがくいくい袖を引く。

「わたくしも見たいですの」
「ん、どうぞ」
「ふむ……本日のお宿は、この《サンドガーデン》にしましょう。名前の響きが素敵ですの」
「は、はい」

 ペルシャちゃんは、びしっと案内図に指さす・
 サンドガーデン。ここからそう遠くない。
 歩くこと十分。煉瓦造りの立派な宿に到着した。

「わぁ……!」
「にゃあ。すごいー」
「ご主人様。部屋の確認をしてきます」

 シルメリアさんに受付へ行ってもらう。
 俺、ミュアちゃんとシルメリアさんとペルシャちゃん、ユーウェインとグリフレッドの三部屋を確保。
 宿を確保した後は、昼食を食べるため再び城下町へ。

「ペルシャちゃん、何が食べたい? おすすめはこの辺りにある《砂漠料理》のお店だけど」
「砂漠料理……! 気になりますの」
「じゃあ行ってみますか」
「はい! ミュア、楽しみですね!」
「にゃあ!」

 すっかり仲良しの二人。手を繋いで微笑ましいな。
 砂漠料理の店までのんびり歩き、到着。
 お昼前なので店内は空いていた。
 俺、ミュアちゃん、ペルシャちゃん、シルメリアさんの四人で座り、その後ろにユーウェインとグリフレッドが座る。
 メニュー表などはない。ここで提供されるのは一品だけだ。

「砂漠料理、どんなお料理ですの?」
「えっと、パン生地にいろいろ載せて、チーズを振りかけて焼くみたいです。《サンドピッツァ》っていう名前みたいですね」
「にゃあ?」

 ペルシャちゃんはピンときていないようだ。
 待つこと五分。俺たちのテーブルに、大きな丸皿がドンと置かれた。
 丸皿には、丸いパンのような物が載っている。薄いパン生地に、肉や野菜、砂サソリなどを載せ、その上にチーズを乗せて焼いたものだ。
 どうやって食べるのか? すると、店主がナイフで四等分してくれた。
 どうやら、素手で摑んでパクっと食べるらしい。

「す、素手で?……わたくし、初めてですの」
「じゃあ、俺からいきます。あむっ……ん、うまい!」

 肉の塩気、野菜の甘み、コリコリした砂サソリがチーズと絡み合い、絶妙な味だ。
 パンは少し硬いが、それがまた合う。
 ミュアちゃんも真似し、シルメリアさんも食べる。

「にゃう、おいしいー!」
「……村でも作れそうですね」
「ペルシャ、ペルシャも食べて!」
「にゃ、にゃあ……では」

 ペルシャちゃんも、意を決したのかパクっと食べた。
 何度か咀嚼し……すぐに目を見開く。その後はもう、ひたすら食べていた。

「お、おいしい! こんな味があったなんて!」

 ペルシャちゃんのネコミミと尻尾がせわしなく動く。
 グリフレッドとユーウェインは、二人で一枚ずつ食べていた。どうやら気に入ったらしい。
 
「なあ相棒、酒が欲しくなるな」
「……言うな」

 その気持ち、わかる。
 これ、美味いけど喉乾くな……まぁ、少しだけなら。

「すみません。エールと果実水を」

 俺は、グリフレッドとユーウェインに頷いた。
 二人はニヤッと笑い、エールで乾杯する。ま、酒に強いみたいだし、一杯くらいならいいだろう。
 ミュアちゃんたちも、果実水をゴクゴク飲んでいた。

「はぁ……おいしい。お城では味わえない、素晴らしい料理ですの。にゃあ」
「はは。ペルシャちゃん、今日はいっぱい食べて、いっぱい遊ぼうね」
「にゃあ!」

 王女殿下の休日は、始まったばかりだ。
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