大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
332 / 474
ヤマタノオロチのお酒

第526話、エルミナと蛇王魔酒(前編)

しおりを挟む
 エルミナは、自分で仕込んだ清酒の瓶にラベルを張り、わざわざ特注で依頼して木箱を作ってもらい、そこに清酒を入れた。
 木箱には焼き印が押され、『最高傑作』と書かれている。
 その酒をテーブルの上に置き、うんうんと満足げに笑っていた。

「最高傑作に最高の木箱、うんうん……いい。最高かも」

 見てくれは高級酒にしか見えない。
 もちろん、味には自身がある。ずっと清酒の研究をしてきたのは伊達ではない。
 研究室の棚にそっと木箱を納める。
 棚には、これまで仕込んだ自信作が並んでいた。
 そして、棚の隅に置いてある瓶を見た。

「そういえば以前、リザード族からもらったお酒……これ、白蛇酒よね。妖狐族の里じゃ当たり前だけど、自分で作ったことってないわ」

 以前、リザード族の手助けをしたときに、お礼としてもらったお酒だ。
 清酒造りのきっかけであり、今はもう飲み干してしまったのでない。
 だが、大事なきっかけだ。瓶だけ保存しているのである。

「うーん。妖狐族の里で白蛇を捕まえようとしたけど、無理だったのよね……白蛇酒。私も仕込んでみたいなぁ」

 エルミナは、腕組みをして唸る。
 そして……ちょっとだけ思いついた。

「そうだ!……なにも白蛇酒にこだわらなくてもいいじゃん! ふふふ、いいこと考えた」

 エルミナはニヤリと笑い、研究室を出て行った。

 ◇◇◇◇◇◇

 エルミナが向かったのは、村の外れにある東屋だ。
 川沿いにあるのでとても落ち着く雰囲気であり、アシュトやローレライがよくここで読書をしていた。
 だが、今日はいない。別人がいた。

「あ、いた! おーいシエラ-!」
「あら~? エルミナちゃん、どうしたの?」

 大きな岩に座り、川に足を付けて涼んでいたシエラだった。
 エルミナはバシャバシャと川に入り、シエラの傍へ。

「あのさ、蛇酒って知ってる?」
「ええ、もちろん。辛口で美味しいのよねぇ~♪」
「それでさ、美味しい蛇酒を仕込みたいんだけど……この辺で、すごい蛇いない?」

 アバウトな質問だが、シエラには伝わった。 
 エルミナは、わざわざ妖狐族の里に行かず、この辺りで捕まえることができる蛇でお酒を仕込もうというのだ。
 シエラは、小さく首を傾げた。

「エルミナちゃん。なんで私に聞くのかな? アシュトくんは~?」
「うっ……実はここだけの話。最近アシュトってばお酒の話するといい顔しないのよ。そりゃ毎日飲んでるし、けっこう酔っ払って迷惑かけちゃうけど」
「あらら~……でも、きっとそれだけじゃないはずよ? アシュトくん、エルミナちゃんの身体を心配してるのよ。エルミナちゃん、かなり不摂生だしねぇ」
「うぐぐ……で、でも。九千年以上生きてるけど、風邪の一つもかかったことないし。それに、飲みすぎて二日酔いになるけど、半日もすればよくなるし……」
「理屈じゃないのよ。アシュトくんはエルミナちゃんをすっごく大事に想ってるから、もっと身体を労わってほしいんだと思うわ」
「……うん」

 と、思わぬ説教にエルミナは俯く。
 そんなエルミナの頭を優しく撫でるシエラ。

「でも、美味しいお酒は飲みたいわね」
「!!」
「ふふ。知恵を貸してあげる♪」
 
 シエラは、とても気まぐれな猫のような笑みを浮かべた。

 ◇◇◇◇◇◇

 シエラから知恵をもらったエルミナは、さっそくドワーフの鍛冶場へ向かった。 
 鍛冶場にいたアウグストに声を掛けた。

「おーい! アウグスト、おーい!」
「んん? おお、なんじゃエルミナ」
「作って欲しいモンがあるのよ!」

 いきなり要件を話すエルミナ。だが、アウグストは「フン」と鼻を鳴らしただけ。
 アウグストは、ニヤリと笑った。

「おめーのことだ。どうせ酒絡みだろう?」
「ふふん。さすがねアウグスト。緑龍の村、初期のメンバーは違うわ」
「へ、おめーとはそこそこの付き合いだからな。で、何が望みだ?」

 エルミナは、鍛冶場の図面制作用テーブルにあった羊皮紙を掴む。
 そこに、一軒家がすっぽり入りそうな大きさの瓶を書いた。
 
「えっとね、これくらい大きなスライム瓶を作ってほしいの」
「……いやはや、デケェな。こんな巨大な瓶、初めてだぞ」
「だからいいの。ふふふ……アウグスト、蛇酒ってわかるよね?」
「…………ッ!? まさか!!」
「そうよ。これだけ大きな瓶に入れて漬ける蛇酒……気にならない?」
 
 エルミナが教わったレシピは、『蛇王魔酒』という伝説の酒だった。
 蛇王ヤマタノオロチという魔獣を酒に漬け込んで作るという物で、最後に作られたのは数万年前。現存している物はほんの瓶一本もないという。
 シエラから、ヤマタノオロチの居場所も聞いていた。

「私はこれからバルギルドたちのところに行くわ。アウグスト、お酒と瓶の用意、よろしくね」
「任せとけ!! カッカッカ!! 久しぶりに楽しくなってきたぜ!!」

 エルミナとアウグストは握手……酒好きとして通じ合った。

 ◇◇◇◇◇◇

 バルギルドたちは、魔獣の解体を終え、解体後に出た骨を磨いていた。
 骨は磨き、ディミトリ商会を通じて売っている。
 ベルゼブブの富裕層が美術品として飾ったり、博物館などが欲しがるのだ。
 エルミナは、バルギルド一家とディアムド一家に『蛇王魔酒』の話をする。

「ほう……面白そうだな」
「ヤマタノオロチ……聞いたことがない」
「伝説の蛇だって。シエラが言ってたけど、バルギルドとディアムドの一家総出で勝てるくらいの強さらしいわ。あんたら、最近刺激を感じてないでしょ? 楽しいバトルもできるし、美味しいお酒も飲めるわよ?」
「「…………」」

 バルギルドとディアムドは顔を見合わせる。
 すると、アーモとネマが言った。

「確かに、最近強い魔獣と戦っていないわね」
「それに、村の居心地が良すぎて少し肥えたかも……」
「……どこがよ」

 ネマとアーモのスタイルは抜群だった。どこがどう肥えたのか知りたいエルミナ。
 そして、シンハとノーマが挙手。

「はいはーい! 家族総出でとか楽しそう! おれやりたい!」
「あたしもっ! ふふふ、腕が鳴るわ」

 さらに、キリンジは腕を組み、エイラは首を傾げる。

「蛇の魔獣か……ヤマタノオロチ、聞いたことがない」
「へび、おいしいのー?」

 それから、家族で少し相談。
 十分後。バルギルドはエルミナに言う。

「いいだろう。そのヤマタノオロチとかいう魔獣、オレらが倒す」
「あ、倒す時はあんまり傷付けないでね。ヤマタノオロチ漬けこむから」
「……わかった」

 こうして、エルミナの『蛇王魔酒』造りは始まった。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。