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魔法学園の講師

第512話、村のさらなる発展

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『なるほどな。家庭教師か……』

 シアンくんにスカウトされた日の夜。
 俺はリンリン・ベルを使って兄さんに相談した。一応、エストレイヤ家の名前を名乗っている以上、獣王国サファリ王族のシアンくんからの頼みは国家間の問題になる。
 兄さんは、軽く言った。

『お前はどうしたい?』
「俺?……まぁ、やってもいい。というか、獣王国にちょっと興味あるかも」
『なら、交渉は任せろ。一応、任期はそう長く取れないとこちらから伝えておく。最長でも一月くらいでいいか?』
「うん。こっちも忙しいしね……」
『わかった』

 兄さん、頼りになる……ありがたいわ。
 エストレイヤ家の管理する領地の一つを俺が運営しているって設定で、あまり長く獣大国には滞在できない。それでもよければ一月だけ家庭教師をする、みたいな交渉をするそうだ。
 一月。まぁ無難だろう。あまりフラフラできないしな。

『獣大国か。ビッグバロッグ王国からはかなりの距離がある。オレも一度くらいしか行ったことがない』
「俺、名前くらいしか知らないよ」
『あそこは、砂漠に作られた王国だ。獣人や蟲人が大半で、人間は殆ど住んでいない。理由は、気候が厳しく人が住むのに適していないからだ。日中は四十度を超え、夜は氷点下まで下がる。数日間滞在したが辛かった……』
「へぇ……」

 砂漠の国か。
 すっごく興味でてきた。どんな植物が生えてるのかな。

『交渉にはしばらく時間がかかる。また連絡するよ』
「うん、ありがとう兄さん」

 兄さんとのやり取りを終え、俺は安心して眠りについた。

 ◇◇◇◇◇◇

 今日は学園の仕事が休み。
 なので、役場で村長としての仕事に精を出していた。
 広くなった村長室のデスクには山盛りの書類。これらをチェックし判を押す。
 村長室には、ディアーナもいる。
 俺のチェックした書類を確認し、まとめるのが仕事だ。

「村長。こちらの移住希望書の確認を」
「ああ。っと……かなりあるな。これ、全部?」

 五百枚を超える書類束だ。
 名前、種族、年齢、家族構成などが書かれている。
 基本的に、移住は受け入れている。エルダードワーフたちの仕事の手伝いは人手がいくらあっても足りない。それと、製糸場。こちらも人手が足りない。
 さらに、クララベルのお菓子屋さん。タヌスケ商店も二号店がオープンするし、図書館も二号棟が完成する。さらにさらに住人の増加により浴場も増やすという……いや、発展しすぎだろ。
 ブドウ園もいつの間にかとんでもない広さになってるし、果樹園やら麦畑も……もう書類確認するたびに驚くよ……この村、もう町でいいんじゃねーの?

「ディアーナ……ここ、もう町でいいんじゃね?」
「そうですね。十人も三千人を超えましたし……ですが、『緑龍の村』はあまりにも定着しすぎました。町に変えるのは賛成ですが、すぐに町から市、さらに国に代わりそうですね」
「あはははは……」
「ふぅ……アシュト村長。少し休憩しましょうか」
「お、いいね」

 ディアーナがこういうことを言うのは珍しい。
 胸を張って背筋を伸ばすディアーナ……いや、胸デカいなーとは思う。仕方ないよね、大きいし揺れるし見えちゃうし……うん。デカい。
 
「アシュト村長。休憩がてら、少し村の視察に出かけましょう」
「視察?」
「はい。図書館二号棟。第二浴場。タヌスケ商店二号店の店舗確認を」
「それ休憩じゃなくて仕事じゃ……いえ行きます」

 ディアーナにジロリと睨まれたので頭を下げる俺でした。

 ◇◇◇◇◇◇

 ディアーナと村を散歩しつつ、新たな建物を見て回った。
 図書館二号棟。こちらは煉瓦倉庫のような外観で、一号塔とは違い普通の図書館だった。
 だが、規模がすごい……蔵書五十万冊が収納できる本ってどんだけ? ローレライが『ジーグベッグさんの本だけじゃなく、ビッグバロッグ王国やドラゴンロード王国からも本を仕入れてみたい』とか言ったので、この大きさになったとか。
 タヌスケ商店二号店。こちらは一号店と同じ造りで、商品も同じものを扱うようだ。
 そして、第二浴場。こちらはフロズキーさんが総指揮をとっての建築だ。どうも第一浴場ではできなかったいろんな浴槽を入れるとか。なぜかこちらに『第二村長湯』があり驚愕する俺。まぁいいか。
 すると、第二浴場には多くの妖狐族がいた。

「おお、村長!」
「カエデじゃないか。どうしたんだ、こんなところで」
「うむ! わらわたち妖狐族がこの浴場の建設に協力しているのじゃ。ふっふっふ。あのエルダードワーフ、かなりやり手じゃの」

 カエデは、四本の尻尾をブンブン振って喜んでいた。
 こんな可愛くて小さいけど、ここにいる妖狐族たちからはリーダー各のようだ。やはりお姫様は違う。

「カエデ。ミュアちゃんたちとも遊んでくれよ」
「当然なのじゃ。あ、お土産に柏餅いっぱい持ってきたのじゃ。あとでミュアたちにやるのじゃ!」

 カエデはウキウキしていた。
 妖狐族の協力か……妖狐族は魔法と温泉のプロだしな。任せて大丈夫だろう。
 カエデと別れ、俺とディアーナは村の視察をつづける。

「いやー、知らない道が増えてるな」
「ええ。それぞれの区画工事が続いています。この村はまだまだ大きくなるでしょう」
「……ほんの数年前まで、俺とエルミナとウッドだけだったのに」
「それだけ、アシュト村長の『縁』が強いのでしょう。兄さんもここまでではありませんでした。私の予想ですが、あと二百年もしないうちに、ベルゼブブに匹敵する都市になるでしょうね」
「そ、そこまでは……」

 どんだけデカいんだ……俺、スローライフしに来たんだけどな。
 歩いていると、クララベルのお菓子屋こと『ブランシュネージュ』が見えた。
 早くも増築し、従業員も増やしたので大盛況だ。

「ディアーナ。少しお茶していこうか」
「……そうですね」

 クララベルのケーキと、苦いカーフィー。やっぱりこれは最高だな!
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