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日常編⑯
第467話、エストレイヤ家の母たち
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ある晴れたビッグバロッグ王国にて。
エストレイヤ家の庭園では、アリューシアがシャベル片手に、花の苗を植えていた。
「ふんふんふ~ん♪」
汚れてもよい服装、麦わら帽子、手袋……貴族らしくない格好に、かつてのアリューシアを知る者が見たら別人と思うところだ。だが、緑龍の村で過ごしたことを知っているエストレイヤ家の人たちは驚かない。
アリューシアは、ガーデニングに凝っていた。
「以前植えたローズ、いい感じに蕾になってるわね」
『もきゅ』
「ふふ、もうすぐ美味しい蜜を吸わせてあげる。待っててね、ブラン」
『きゅうう』
ブランと名付けられたニコニコアザラシの子供は、この庭園を気に入っていた。
広く、様々な花が咲き誇る庭園だ。アリューシアの指示で池も作られ、魚も泳いでいる。
日当たりもよく、お昼寝するのにも最適な場所。餌である水や花の蜜も豊富で、ニコニコアザラシにとってこれほど住みやすい場所はない。
それに、飼い主であるアリューシアは優しい。
抱っこして撫でてもらうのはとても気持ちいいとブランは感じていた。
ブランは日当たりのいい池の傍で、のんびり昼寝を始める。
アリューシアは汗を拭う。
「さて、着替えてお茶にしましょうか」
今の時間、仕事休みのルナマリアがいるはずだ。
◇◇◇◇◇◇
「こうしてお茶を飲むの、久しぶりね」
「はい。お義母様」
エストレイヤ家庭園の一角で、ルナマリアとアリューシアがお茶を楽しんでいた。
今日はルナマリアの仕事が休み。朝から子供たちの勉強に付き合っていたのだが、今は子供たちもお昼寝の時間だ。
以前は、お茶会などによく連れて行かれたが、今は全くお茶会を開催していない。
アリューシアは、ビッグバロッグ王国貴族の頂点であるエストレイヤ家の婦人だ。その名に恥じぬように着飾り、自らを磨いていたが、今は……言い方は悪いが、農村住まいのどこにでもいる婦人にしか見えない。
ジロジロ見ているのがバレたのか、アリューシアは首を傾げた。
「どうしたのかしら? 私の顔に泥でもついている?」
「い、いえ……そんな、お義母様はいつでもお美しいです」
「ふふ、ありがとう」
本心だった。
着飾らないアリューシアは、とても四十代前半には見えない。どう見ても二十代前半にしか見えなかった。
アリューシアは、プリメーラ家という中堅貴族の次女で、その美貌から『プリメーラの光』と呼ばれていた。その輝きは今なお衰えていない。
化粧をするより、派手なドレスを着て宝石で着飾るより、シンプルな装いで薄化粧を施した今のアリューシアのが綺麗に見える。ルナマリアはそう思った。
「そうだ。ルナマリアさん、午後は暇かしら?」
「え、は、はい。特に予定はありませんが……」
「なら、ちょっとお出かけしない? たまには二人で町にでかけましょう」
「……わかりました。お付き合いします」
アリューシアの子供っぽい笑みが、どこか可愛らしく見えた。
◇◇◇◇◇◇
馬車で町に出た二人は、園芸品店や生花店を回った。
花の苗を買い、花壇用の柵やシャベル、肥料や庭に飾る小物を買う。
荷物は従者に任せ、馬車に戻る。
「ふふ。いい苗が買えたわ」
「お義母様、よかったですね」
「ええ。ところで、ルナマリアさんは何か欲しい物あるかしら? 私の買い物ばかりに付き合わせるのも申し訳ないわ」
「えっと、そうですね……」
ルナマリアの趣味は、ぬいぐるみ集め。
これは、ヒュンケルしか知らない隠れた趣味だ。リュドガに打ち明けたいのだが、羞恥心がそれを邪魔する。なので、ルナマリアの隠れ家はまだヒュンケルしか知らない。
「え、えっと……え、エクレールとスサノオに、ぬいぐるみでも買っていきます」
「あら素敵。じゃあ、ぬいぐるみ屋さんに行きましょうか」
「は、はい!」
御者に命じ、馬車はぬいぐるみ専門店へ。
ビッグバロッグ王国で一番大きい、貴族御用達の店だ。
職人が一つずつ手作りした、様々な形のぬいぐるみが所狭しと陳列されている。
ルナマリアにとって、ここは楽園だった。
「おお……す、素晴らしい!!」
「そうね。可愛いぬいぐるみばかり。私も何か買っていこうかしら?」
「お、お義母様。せっかくですし、いろいろ見て回りましょう!!」
やや興奮気味のルナマリアに引っ張られるように、アリューシアは付いて行く。
ルナマリアは、可愛らしい羊のぬいぐるみや鳥のぬいぐるみに夢中で、アリューシアも店内を物色……そして、気が付いた。
「あら、この子……」
陳列物の中に一つ、見覚えのあるぬいぐるみが。
それは、ニコニコアザラシにそっくりなぬいぐるみだ。色は桃色だが、造形はそっくりだ。
アリューシアは、迷わずそれを手に取り、買うことに決めた。
「私はこれにするわ。ルナマリアさんは?」
「で、では、これとこれとこれと……ああ、これも、これもか、これもだ」
「……買いすぎじゃないかしら?」
大量のぬいぐるみを抱えた姿は、子供にしか見えなかった。
◇◇◇◇◇◇
「母上、ありがとう!」
「母上、かわいいのありがとう!」
エクレールとスサノオは、ルナマリアのお土産であるぬいぐるみを抱きしめて笑っていた。
すると、ルナマリアは首を振る。
「感謝は私でなく、お義母様にするんだ。このぬいぐるみを買ったのはお義母様……お前たちのおばあ様だぞ」
「おばあさま……おばあさま、ありがとう!」
「ありがとう!」
「ええ、気に入ってくれてよかったわ」
エクレールとスサノオは、アリューシアに頭を下げる。
なんとも可愛らしい姿に、ついつい微笑んでしまう。
その後、帰宅したリュドガとアイゼンを加え、全員で食事した。そして、部屋に戻ったアリューシアを出迎えたのは、ニコニコアザラシのブランだ。
ブランも食事を終え、部屋でのんびりしている。
「そうだ、あなたにもお土産」
『もきゅ?』
「これ。お友達よ」
『もきゅ!』
ニコニコアザラシにそっくりなピンクのぬいぐるみだ。
それを見たブランは、嬉しそうにアリューシアにすり寄る。
「ふふ、気に入ったかしら?」
『きゅうう~』
すり寄るブランを、アリューシアはそっと撫でた。
ビッグバロッグ王国、エストレイヤ家の日常は、いつも通り過ぎていく。
エストレイヤ家の庭園では、アリューシアがシャベル片手に、花の苗を植えていた。
「ふんふんふ~ん♪」
汚れてもよい服装、麦わら帽子、手袋……貴族らしくない格好に、かつてのアリューシアを知る者が見たら別人と思うところだ。だが、緑龍の村で過ごしたことを知っているエストレイヤ家の人たちは驚かない。
アリューシアは、ガーデニングに凝っていた。
「以前植えたローズ、いい感じに蕾になってるわね」
『もきゅ』
「ふふ、もうすぐ美味しい蜜を吸わせてあげる。待っててね、ブラン」
『きゅうう』
ブランと名付けられたニコニコアザラシの子供は、この庭園を気に入っていた。
広く、様々な花が咲き誇る庭園だ。アリューシアの指示で池も作られ、魚も泳いでいる。
日当たりもよく、お昼寝するのにも最適な場所。餌である水や花の蜜も豊富で、ニコニコアザラシにとってこれほど住みやすい場所はない。
それに、飼い主であるアリューシアは優しい。
抱っこして撫でてもらうのはとても気持ちいいとブランは感じていた。
ブランは日当たりのいい池の傍で、のんびり昼寝を始める。
アリューシアは汗を拭う。
「さて、着替えてお茶にしましょうか」
今の時間、仕事休みのルナマリアがいるはずだ。
◇◇◇◇◇◇
「こうしてお茶を飲むの、久しぶりね」
「はい。お義母様」
エストレイヤ家庭園の一角で、ルナマリアとアリューシアがお茶を楽しんでいた。
今日はルナマリアの仕事が休み。朝から子供たちの勉強に付き合っていたのだが、今は子供たちもお昼寝の時間だ。
以前は、お茶会などによく連れて行かれたが、今は全くお茶会を開催していない。
アリューシアは、ビッグバロッグ王国貴族の頂点であるエストレイヤ家の婦人だ。その名に恥じぬように着飾り、自らを磨いていたが、今は……言い方は悪いが、農村住まいのどこにでもいる婦人にしか見えない。
ジロジロ見ているのがバレたのか、アリューシアは首を傾げた。
「どうしたのかしら? 私の顔に泥でもついている?」
「い、いえ……そんな、お義母様はいつでもお美しいです」
「ふふ、ありがとう」
本心だった。
着飾らないアリューシアは、とても四十代前半には見えない。どう見ても二十代前半にしか見えなかった。
アリューシアは、プリメーラ家という中堅貴族の次女で、その美貌から『プリメーラの光』と呼ばれていた。その輝きは今なお衰えていない。
化粧をするより、派手なドレスを着て宝石で着飾るより、シンプルな装いで薄化粧を施した今のアリューシアのが綺麗に見える。ルナマリアはそう思った。
「そうだ。ルナマリアさん、午後は暇かしら?」
「え、は、はい。特に予定はありませんが……」
「なら、ちょっとお出かけしない? たまには二人で町にでかけましょう」
「……わかりました。お付き合いします」
アリューシアの子供っぽい笑みが、どこか可愛らしく見えた。
◇◇◇◇◇◇
馬車で町に出た二人は、園芸品店や生花店を回った。
花の苗を買い、花壇用の柵やシャベル、肥料や庭に飾る小物を買う。
荷物は従者に任せ、馬車に戻る。
「ふふ。いい苗が買えたわ」
「お義母様、よかったですね」
「ええ。ところで、ルナマリアさんは何か欲しい物あるかしら? 私の買い物ばかりに付き合わせるのも申し訳ないわ」
「えっと、そうですね……」
ルナマリアの趣味は、ぬいぐるみ集め。
これは、ヒュンケルしか知らない隠れた趣味だ。リュドガに打ち明けたいのだが、羞恥心がそれを邪魔する。なので、ルナマリアの隠れ家はまだヒュンケルしか知らない。
「え、えっと……え、エクレールとスサノオに、ぬいぐるみでも買っていきます」
「あら素敵。じゃあ、ぬいぐるみ屋さんに行きましょうか」
「は、はい!」
御者に命じ、馬車はぬいぐるみ専門店へ。
ビッグバロッグ王国で一番大きい、貴族御用達の店だ。
職人が一つずつ手作りした、様々な形のぬいぐるみが所狭しと陳列されている。
ルナマリアにとって、ここは楽園だった。
「おお……す、素晴らしい!!」
「そうね。可愛いぬいぐるみばかり。私も何か買っていこうかしら?」
「お、お義母様。せっかくですし、いろいろ見て回りましょう!!」
やや興奮気味のルナマリアに引っ張られるように、アリューシアは付いて行く。
ルナマリアは、可愛らしい羊のぬいぐるみや鳥のぬいぐるみに夢中で、アリューシアも店内を物色……そして、気が付いた。
「あら、この子……」
陳列物の中に一つ、見覚えのあるぬいぐるみが。
それは、ニコニコアザラシにそっくりなぬいぐるみだ。色は桃色だが、造形はそっくりだ。
アリューシアは、迷わずそれを手に取り、買うことに決めた。
「私はこれにするわ。ルナマリアさんは?」
「で、では、これとこれとこれと……ああ、これも、これもか、これもだ」
「……買いすぎじゃないかしら?」
大量のぬいぐるみを抱えた姿は、子供にしか見えなかった。
◇◇◇◇◇◇
「母上、ありがとう!」
「母上、かわいいのありがとう!」
エクレールとスサノオは、ルナマリアのお土産であるぬいぐるみを抱きしめて笑っていた。
すると、ルナマリアは首を振る。
「感謝は私でなく、お義母様にするんだ。このぬいぐるみを買ったのはお義母様……お前たちのおばあ様だぞ」
「おばあさま……おばあさま、ありがとう!」
「ありがとう!」
「ええ、気に入ってくれてよかったわ」
エクレールとスサノオは、アリューシアに頭を下げる。
なんとも可愛らしい姿に、ついつい微笑んでしまう。
その後、帰宅したリュドガとアイゼンを加え、全員で食事した。そして、部屋に戻ったアリューシアを出迎えたのは、ニコニコアザラシのブランだ。
ブランも食事を終え、部屋でのんびりしている。
「そうだ、あなたにもお土産」
『もきゅ?』
「これ。お友達よ」
『もきゅ!』
ニコニコアザラシにそっくりなピンクのぬいぐるみだ。
それを見たブランは、嬉しそうにアリューシアにすり寄る。
「ふふ、気に入ったかしら?」
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