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クララベルの甘いお菓子屋さん

第460話、クララベルのお菓子

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「お兄ちゃん、散歩行こ」
「お兄ちゃん、ケーキ食べよ!」
「お、おお……」

 ある日。
 今日は仕事がお休みで、のんびり自室で読書をしていると、シェリーとクララベルが部屋に来た。
 殆ど同時だったので驚いた。二人は顔を見合わせ、むむむと唸る。

「あたしが先だったし。クララベル、後にしなさいよ」
「わたしが先だった! シェリーこそ後にしてよ。ケーキできたてなんだから!」

 クララベルの手には、桃色のケーキがあった。
 セントウと『桃楼神樹プリズム・チェリーブロッサム』の花弁を使ったケーキで、試作品のいくつかを食べたことがある。
 俺はシェリーに言う。

「シェリー、クララベルのケーキはできたてだし、先に食べてから散歩しよう」
「むー……」
「やったぁ! お兄ちゃん大好き!」
「ははは。俺も好きだよ」
「ふん。じゃあお茶の支度しないとね!」

 プリプリするシェリーは、俺の部屋に備え付けてある茶器を引っ張り出す。
 当たり前のように参加するシェリーと、喧嘩しつつもシェリーを拒否しないクララベル。やはり仲がいい……この二人、相性いいな。
 お茶の支度を終え、窓を開けて外の空気を取り込み、三人のお茶会が始まる。
 さっそく、ケーキを一口。

「む……う、美味い!」
「ほんと、おいしい!」
「えへへ~……よかったぁ」

 クララベルは胸をなでおろす。
 
「花弁のエキスをクリーム生地に混ぜたら桃色になってね、クリームの甘味が増して匂いもすごく良くなったの。ケーキの果物はセントウを使って、クリームの甘さとセントウの瑞々しさが混ざって美味しいでしょ?」
「ああ。さすがクララベル……これ、店で出せるんじゃないか?」
「えへへ……」

 店。そう……クララベルの夢は、自分の店を持つこと。
 この冬。ほとんど毎日お菓子作りをしていた。
 お茶のお菓子はクララベルの作ったお菓子だったし、レパートリーも五十を超えたと思う。
 俺は、クララベルに言う。

「クララベル。そろそろ、自分の店を出せるんじゃないか?」
「わ、わたしのお店?」
「ああ。前に言ってただろ? 自分のお菓子屋を持ちたいって」
「確かに……このケーキもだけど、あんたの作るお菓子って美味しいのよね。ミュディなんて冬に食べ過ぎたとかで、ダイエット始めたし」
「え、初耳だぞ」
「こんなことお兄ちゃんに言えるわけないじゃん…………あ、しまった。内緒だった」

 シェリーは口を閉じ、冷や汗を流す。
 もちろん。俺は何も聞かなかった……じゃなくて。

「そういえば、飲食店やバーの計画はあるし、建物の建設も始まってるけど、お菓子屋とかはないな……村には子供や若い女の人も多いし、需要がある」

 クララベルを見ると、なぜかモジモジしていた。
 
「で、でも……姉さまやランスローがなんて言うか」
「んー……じゃあ、聞いてみるか?」
「え?」
「クララベルがお菓子屋さんやりたいって、ローレライに言うんだよ。ローレライ、クララベルの夢を応援してくれてるんだろ?」
「うん……でもわたし、ママの宿題や王族の勉強ちゅうだし、まだ早いんじゃないかなーって」
「そうか……じゃあ聞くぞ、お菓子屋さん、やりたいか?」
「…………やりたい」
「よし。それが聞ければ十分。ローレライに相談しよう」
「う、うん……」

 ケーキを完食し、腹ごなしの散歩がてら三人で図書館へ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

「なるほどね……」
「うぅ、姉さま……」

 図書館。
 仕事中のローレライを呼び、別室でお菓子屋の話をした。込み入った話になるのでシェリーは読書している。
 ローレライの後ろには、新婚のランスローと未婚のゴーヴァンがいる。いつもの騎士服ではなく、司書としてローレライの手伝い中のようだ。だが、真っすぐブレのない立ち方は騎士そのもの。
 ローレライは少し黙り込み、ランスローに質問した。

「ランスロー」
「はっ」
「あなたは、今の話をどう思う?」
「…………」

 ランスローは目を閉じ、そっと開く。
 その眼はしっかりとクララベルを見ていた。

「私は反対です」
「理由は?」
「それは、クララベル様はドラゴンロード王国の姫君であるからです。龍人として、王族として、ドラゴンロード王国の姫君としての務めを果たしていただかねば。それが『覇王龍ケーニッヒ・ドラゴン』ガーランド様、『銀黎龍アマルガム・ドラゴン』アルメリア様の願いでもあると、騎士としての私は考えています」
「ランスロー……」

 クララベルは俯いてしまった。
 ここまで反対されるとは思っていなかったのか。
 心のどこかで、ランスローならばと期待していたのかもしれない。
 でも、俺は聞いた。だから、クララベルの肩にそっと手を置く。

「クララベル、最後まで聞くんだ」
「え……?」

 ランスローを見ると、微笑を浮かべていた。

「姫様。今の発言は『騎士として』の発言です。私個人としては賛成です」
「え、ほんと!?」
「はい。姫様の作るお菓子は絶品ですから」
「ランスロー……!!」
「ふふ。勉強から逃げて、習い事をさぼって、私のドラゴンの背に乗って王国を抜け出して、陛下にいたずらをして困らせて、王妃にこっぴどく叱られて私の部屋に隠れて泣いていた姫様が、これほどまでにお菓子作りにのめり込み、ここまで成長するとは……」
「もう! へんなこと言わないの!……姉さま、姉さまは?」
「私も、賛成よ。私だって司書をやっているんですもの。あなただってやりたいことをやるべきだわ。ね、ゴーヴァン」
「はい。私もそう思いますよ」

 ローレライもゴーヴァンも笑った。
 そして、クララベルは俺に抱きついた。

「やったー! お兄ちゃん、わたし自信でてきた! お菓子屋さんやりたい!」
「よしよし。じゃあ、プランを練らないとな。建物、並べるお菓子、価格設定……ああ、従業員も雇わないといけないし、内装も考えないとな」
「うん! お兄ちゃん、姉さま、手伝ってね!」
「はいはい。まったく……ランスロー、ゴーヴァン、あなたたちも手を貸しなさい」
「「はっ!!」」
「アシュト。あなたもね」
「もちろん。よーしクララベル、ミュディにかわいい制服作ってもらおうな」
「うん!!」

 こうして、クララベルのお菓子屋さん計画が始まったのであった。
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