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オーベルシュタイン、二度目の冬

第433話、銀猫もめもめ

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 緑龍の村。
 冬に入り百五十日ほど経過した。寒さはますます厳しくなり、コートや帽子、手袋にマフラーは欠かせない。
 銀猫たちは、お揃いのメイド服の生地を厚手の物に変え、外履きのブーツも内側が保温効果のある生地に変えた。中には、猫尻尾を包む『尻尾入れ』を付けたりしている者もいる。
 銀猫たちは、見えないところをオシャレする。
 身体能力は高く冷静沈着。家事は万能。料理も上手。どこまでも完璧な銀猫たち。
 そんな銀猫たちは、共同の宿舎で生活している。
 そして今日。仕事が終わり、銀猫たちは共通スペースである大広間に集まっていた。
 
「残りは、シルメリアとミュアですか」

 そう言ったのは、銀猫のオードリー。
 彼女は寝間着姿で、全員が椅子に座っている中、一人だけ立っていた。
 というか、他の銀猫も全員が寝間着姿である。
 オードリーは、シャーロットとマルチェラに聞く。

「二人はまだ来ないのですか?」
「間もなく来られます。ご主人様たちがドラゴンチェスで盛り上がり、シルメリアも参加していたので」
「くっ……そうですか。羨ましい……」

 オードリーだけでなく、他の銀猫たちも羨ましそうだ。
 尻尾やネコミミがぴこぴこ動いているのが何よりの証拠である。
 それから間もなくして───宿舎のドアが開いた。

「遅くなりました」
「にゃあ! みんな揃ってるー」

 シルメリアとミュアが、もこもこしたコートを着てやってきた。
 ミュアはナナミを見つけると抱き着き、シルメリアはコートを脱ぐ。
 シルメリアは、オードリーに聞いた。

「オードリー、本日はどのような集会でしょうか」
「そうですね。では、始めたいと思いますので、シルメリアもお座り下さい」

 シルメリアは座る。
 ミュアはナナミに抱き着いたままだったので、そのまま始めた。
 オードリーは軽く咳払いし、本日の議題を告げる。

「本日集まってもらったのは、ご主人様お付きの銀猫についてです」
「「「「え」」」」

 ご主人様。つまり、アシュトお付きの銀猫。
 シルメリア、シャーロットとマルチェラ、メイリィは硬直した。

「シルメリア、シャーロットとマルチェラ、メイリィ。ミュア……はまぁいいとして、そろそろお付きを変えるということも必要だと我々は考えています」

 気が付くと、シルメリアたち以外の銀猫は、ウンウンと頷いていた。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「ちょ、ちょっとお待ちを」
「なんでしょうか」

 シルメリアが慌てて止める。
 オードリーはしれっとしていた。

「ご、ご主人様のお付きを変えるというのは、どど、どういうことでしょう?」
「言葉の通りです。この村ができて約三年。一度もお付きを変えていません。シルメリア、シャーロットとマルチェラ、メイリィ……ご主人様と会話やふれあいが多いあなたたちは、はっきり言ってズルいです!!」
「「「「「その通り!!」」」」」
「うにゃっ!?」

 さすがのシルメリアも驚いた。
 シャーロットとマルチェラとメイリィは顔を青くし、ミュアはよくわかっていないのか、ナナミに甘えたまま首を傾げている。
 オードリーは咳払いをし、話を続ける。

「こほん。ご主人様にお仕えする銀猫は皆同じ。これからはローテーションを組んでご主人様にお仕えしたいと考えていますが、どうでしょう?」
「「「「「異議なし」」」」」
「にゃ……まま、待って下さい!!」
「なにか?」

 オードリーはにっこり笑う。
 シルメリアにしては珍しく、ネコミミが萎れ汗を流している。
 
「え、えっと……ご、ご主人様にお仕えする銀猫は、その……ご、ご主人様の飲むカーフィー豆のブレンド配合や、お茶を飲む時間帯、その日に食べたいお茶請けの種類などを把握していないと」
「では、マニュアル作成を」
「にゃうっ……しゃ、シャーロットとマルチェラ、メイリィ!! あなたたちは!!」
「「「…………」」」

 不思議と、三人は何かを考え込み黙っていた。
 そして、シャーロットが言う。

「……ご主人様のお付きと言っても、私たちは使用人邸で子供たちのお世話をしてますし」
「そうね。お料理や掃除、後片付けはしますが、ご主人様にお茶やお菓子を提供するのは、シルメリアかミュア……ご主人様のお付きとは呼べない」
「わ、私は、ご主人様のお傍で働ける幸せがあれば!」

 シャーロット、マルチェラ、メイリィはあまり気にしていない。
 すると、ナナミに抱きついていたミュアが言った。

「ご主人さま、シルメリアが傍にいて安心するーって言ってたー」
「え?」
「シルメリア、ご主人さまと一緒のほうがいい! ご主人さま、きっとさみしがるよー」
「ミュア……」

 ミュアはナナミから降り、シルメリアに抱きつく。
 シルメリアはミュアを撫で、ネコミミを揉む。

「にゃう。ご主人さまに聞いてみる。おつき、変えてもいいかーって」
「……そうですね。ご主人様に確認せねば」
「……わかりました」

 シルメリアとオードリーは頷き、今日の会議は終わった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 朝食を終えたアシュトの元に、シルメリアとオードリー、ミュアが来た。

「ご主人様。お話が」
「ん、どうしたの?」

 オードリーが、昨日の話をする。
 シルメリアは黙り込み、ミュアはアシュトにくっついて甘えていた。
 アシュトは、ミュアを撫でながら話を聞く。

「……ということで、ご主人様のお付きを変更したいのです。いかがでしょうか」
「んー……みんなで決めてと言いたいけど……その、シルメリアさんはそのままがいいな」
「!!」
「シルメリアさん、俺の好みをよく知ってるし、いつもいいタイミングで来てくれるんだ。それに、シルメリアさんだと安心するっていうか……あ、みんなが駄目ってことじゃないんだ。気持ち的な問題で」
「ご主人様……」

 シルメリアは泣きそうな表情になり、オードリーは苦笑した。

「あ、そうだ。それならさ、毎日交代で一人ずつ、俺の仕事を手伝ってほしい。フレキくんたちもいないし、カビの培養や苔の分析と実験が思ったより忙しくてさ……あ、もちろん難しいことじゃないよ。簡単な手伝いと、俺の話に付き合ってくれれば」

 こうして、アシュトのお付きはシルメリアがそのまま続けることになった。
 この日から、アシュトの薬院に、毎日一人ずつ交代で銀猫が仕事の助手に加わることになる。
 実験のお手伝いや片付け、一緒にお茶……大好きなアシュトと丸一日一緒にいられる仕事だ。
 冬はまだ百五十日ほどある。少なくとも、三日はアシュトと過ごせる時間が手に入った銀猫たちだった。
 でも、やっぱり……。

「にゃあ。ご主人さまー」
「よしよし。ごろごろ、なでなで」
「にゃぅぅ……ごろごろ」

 一番アシュトに甘え、くっついてるミュアは……やはり羨ましかった。
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