大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第407話、寒空の下。緑龍の村へ

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 ビッグバロッグ王国に帰省して数日後。俺は母上の寝室にやってきた。
 母上の容体がほぼ安定したとシャヘル先生から聞いたので、いろいろと話すことにしたのだ。
 母上は、窓際の揺り椅子に座り読書をしていた。

「あら、アシュト……」
「母上。お身体の方はいかがでしょう?」
「ええ、とてもいいわ……日差しがとても気持ちいいの」
「そうですか……あの、少しお話があります」

 外の柔らかな日差しが窓越しに母上を照らしている。
 不思議だ。俺を見ようとしなかった母上が、俺を見て柔らかく微笑んでいる。
 エリクシールが何もかも治してしまったのか。毒気をまるで感じなかった。
 俺は母上の傍に向かい、話し始める。

「母上。父上とも相談したのですが……お身体の静養のために、一年ほど俺の村に滞在しませんか?」
「……え?」

 父上が緑龍の村へ静養させることを話すと言ってたのだが、まだ顔を合わせ辛いらしく、俺が直接話をすることにしたのだ。

「間もなく、オーベルシュタインには冬がやってきます。厳しい寒さになるでしょうが、温かいお風呂や食事、晴れた日には雪景色の中を散歩できたりします。それに、図書館もありますので、退屈はしないと思われます」
「…………私が、ですか?」
「はい。それと、父上も同行します。住まいも準備しますし、使用人も手配しました。のんびりしながら栄養を付けてお休みしていただきたいのですが……その、いかがでしょうか」
「アイゼンも……ふふ、そうね。たまには自然の中で過ごすのもいいかもしれないわ」
「じゃあ」
「分かりました。アシュト、あなたの村にお世話になります」

 母上は本を閉じ、にっこり笑う。
 すんなりと受けてもらえた……実は、抵抗するかもと考えてた。でも、父上が「大丈夫」って言ってた。本当に大丈夫だったよ……。
 
「ねぇ、アシュト」
「はい?」
「今さらこんなことを言うのは意味がないかもしれないけど……私は、あなたの「母上、これまでの謝罪なら必要ありません。そんな言葉より、お身体を大事にしてください」

 俺は母上の言葉を遮り、そっと母上の手を握る。

「母上は、エストレイヤ家のために尽くしてきた。形はどうであれ、それは誇るべきことです」
「……息子と娘に過度な期待をして、あなたを無視したことでも?」
「はい。俺は恨んでいません。父上や兄さんを立派に思いますし、母上は何があろうと俺の母上だ」

 まぁ、少しは恨んだけど……それは言うべきことじゃない。
 俺は母上から離れ、窓を開ける。

「にゃああーっ!!」
「ねこー!!」
「にゃー!!」
『アハハ!! オイカケッコ!!』

 下を見ると、ミュアちゃんを追いかけるスサノオとエクレール、そしてウッドがいた。
 ルナマリア義姉さんとミュディがベンチに座ってその光景を眺めている。

「……孫ね」
「え?」
「ルナマリアさんの子供……私、まだ一度しか抱いてないわ」
「…………」
「今は身体が弱ってるから抱けないでしょうけど、いつか抱ける日がくるかしら?」
「来ます。必ず……」

 母上、本当に変わったな……そんな風に俺は感じた。

 ◇◇◇◇◇◇

 それからさらに数日。
 父上は仕事の引継ぎをして完全に軍務をやめるように準備を進め、母上も出発の支度をしていた。
 ヒュンケル兄とリュドガ兄さん、ルナマリア義姉さんは仕事に追われ、逆に俺とミュディとシェリーはのんびり家で過ごしたり、スサノオとエクレールの相手をしていた。

 ミュアちゃんを連れて城下町で買い物をしたり、いつの間にかいなくなっていたルミナはシャヘル先生のところでいろいろ習っていた。
 驚いたことに、シャヘル先生はヒトだけでなく、動物や魔獣の投薬や治療法にも詳しかった。ルミナはシャヘル先生からいろいろ教えてもらい、すごくなついていた。

 さらに数日後……出発の時が来た。
 屋敷の前に大きな馬車が止まっている。これに乗って竜騎士が待つドラゴン宿舎へ向かう。
 そこからドラゴンに乗り換え、緑龍の村まで行く。

「ねこ、ばいばい」
「ばいばいにゃんこ!」
「ネコじゃなくてミュア!」

 ミュアちゃんは、スサノオとエクレールに尻尾を掴まれてさよならの挨拶をしていた。どうも「人みたいなネコ」と認識されているようだ。
 シャヘル先生も、ルミナの頭を撫でている。

「また、いつでもお越しください」
「みゃう……わかった」

 ルミナ、少し寂しそうだ。
 ミュディもルナマリア義姉さんに抱きしめられ、シェリーもリュドガ兄さんに抱きついている。
 俺もヒュンケル兄に抱きついて……。

「んだよ?」
「……いや、別に」

 もちろん、そんなことはしない。
 うんうん。普通に挨拶しよう。

「ヒュンケル兄、帰るときに連絡するから」
「おう。って…………あのな、毎度毎度、オレじゃなくてリュドガに連絡しろよ」
「いやぁ、なんかヒュンケル兄のが連絡しやすいんだよね」

 すると、兄さんが反応した。
 シェリーの頭を撫でるのを止め、ショックを受けたように俺に言う。

「あ、アシュト……その、お前の兄はオレだぞ?」
「わ、わかってるよ。でもその、兄さんに連絡しても出ないこと多いし……それに、ヒュンケル兄は連絡するとすぐに出るし、話し相手としても『兄上』って感じじゃなくて『兄貴』って感じだから……」
「な、なんだって……!?」
「あはは。なんというか、兄さんはかっこいいしあこがれてるけど、連絡するならヒュンケル兄みたいな気さくな感じのが好きかも」
「…………」

 あれ、兄さんががっくりしてる。
 シェリーが頭を抱え、ミュディも頬をポリポリ掻いていた。

「あのよアシュト……お前の評価は嬉しいけど、そういうことは言うな」
「え、なんで?」
「……お兄ちゃん、こういうところリュウ兄そっくりだよね。ミュディ」
「あ、あはは……シェリーちゃん、言っちゃだめだよ」

 なんかみんな呆れていた。
 すると、母上がクスっと笑う。

「ふふ。楽しいわね……ぽかぽかするわ」
「ああ。そうだな」

 父上は母上に寄り添っている。
 冬が近いせいで空が白く、とても肌寒い。
 でも、母上の心は温まったようだ。それがとても嬉しく感じる。
 
 さぁ、緑龍の村に帰ろう。間もなく冬がやってくるぞ。
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