上 下
206 / 492
天の国へ新婚旅行!

第381話、予定を決めよう

しおりを挟む
 お茶を飲み、お昼はミュディとクララベルが作った料理をたいらげる。食材は冷蔵庫に入っていた物をすべて使ったので、後でカシエルさんに頼んで補充してもらおう。
 さて、時間はまだまだたっぷりある。何をするか話し合うと……。

「あのさ、水着を買いに行きましょうよ!」

 と、エルミナが提案。
 確かに、これだけの海を見せつけられて泳がないわけにはいかない。
 これには、水浴びが大好きなクララベルが大いに賛成した。

「さんせーいっ! わたし、あの透明な海で泳ぎたーい!」
「確かに、気持ちよさそうね……ミュディとシェリーは?」
「あたしも興味あるわね」
「わ、わたしも」
「俺も俺も。というか、ここってけっこう暑いのな……クララベルじゃないけど水浴びはしたい」
 
 というわけで、午後は水着を買いに行くことに。
 だが、とんでもないことを言われた。

「あ、お兄ちゃんは一緒に来ちゃダメ」
「……は?」
「あー、確かにね。アシュト、あんたは一緒じゃダメ。楽しみは取っておきなさい」
「え、エルミナ? おい、どういう」
「ふふ、水着は浜辺で見せたいからね。アシュトの分は適当に買ってくるから」
「ろ、ローレライまで!?」
「ごめんね、アシュト」
「お兄ちゃん、楽しみにしててね!」
「ミュディとクララベルまで……」

 シェリーはハンドベルを鳴らす。するとカシエルさんが転移で現れた。

「お呼びでしょうか?」
「カシエルさん、水着を買いに行きたいんだけど、いいお店ある?」
「はい。近くに専門店がございます。女性のみで行かれるのでしたら、部下の女性天使に案内をさせますが」
「じゃ、それでお願いします。みんな、行くわよ」

 シェリーの号令で全員が立ち上がる。

「あ、お兄ちゃん。たぶん長くなるから」
「い、いってらっしゃ~い……」

 シェリーたちは、カシエルさんが呼んだ女性天使数人と町へ向かった……。
 なにこれ? 新婚旅行なのに……天空都市に来て数時間で一人になっちゃったよ。
 ま、まぁ。水着を楽しみにしておけばいいな。うん。

「アシュト様。この後のご予定は?」
「……海でも眺めようかな。一人で」
「でしたら、天空都市の植物園にでもご案内しましょうか? 天空都市にしか自生していない植物や薬草が多くありますよ」
「行きます!!」

 というわけで、俺はカシエルさんと一緒に植物園に行くことになった。
 
「カシエルさん、新婚旅行なのに嫁と別行動って寂しいですよね……」
「あ、あはは……」

 返答に困る質問をして、カシエルさんを困らせてしまったよ……ははは。

 ◇◇◇◇◇◇

 カシエルさんと一緒にやってきたのは、別荘から歩いて十五分ほどの植物園だった。
 
「アシュト様は薬師ですから。別荘から近い位置に植物園があれば喜んでもらえると思いまして、あの土地を購入したのです」
「なんと……心遣いありがとうございます!」
「いえ。私は助言しただけで、会社が購入したものですので、お礼は不要です」

 ほんっといい人だよな、カシエルさん。
 アドナエルには悪いが、俺の中で最も評価の高い天使はカシエルさんだ。
 植物園は半円形の巨大なドームで、植物園と言うより温室に近い。中に入るとけっこう蒸し暑かった。

「おぉ……知らない植物ばかりだ」
「僭越ながら、私が解説をさせていただきます」
「お、お願いします」

 カシエルさんと一緒に植物園を散歩し、地上では見たことのない植物を見つけてはカシエルさんに聞いた。
 『緑龍の知識書ムルシエラゴ・グリモワール』を開けばすぐにわかるだろうけど、せっかくカシエルさんが解説をしてくれるのでそっちに任せる。

「これは……綿、ですか?」
「いいえ、それは『ダンデポッポ』という花の一種です。黄色い立派な花を咲かせますが、花が枯れると白い綿毛になり、風に乗って種子を飛ばすのですよ」
「へぇ……種子を飛ばす、ですか」
「はい。ちなみに、ダンデポッポはお茶の原料にもなります。ヘイブンでは一部に愛好家もいたり、ダンデポッポ茶の専門店もございます。植物園の外にカフェがありますので、奥様を誘われてはいかがでしょう?」
「なるほど。それはいいかも……でも、その前に味見してみたいですね。カシエルさん」
「構いませんが……私もでしょうか?」
「はい! ぜひ一緒に」
「かしこまりました。お供させていただきます」

 植物園には、面白い植物がいっぱいあった。
 薬草系は少なかったけど、珍しい植物や木々がたくさんある。

「あ、あれは?」
「あれはラフレシール。天空一巨大な『花』です」

 柵に覆われた一角に、グロテスクで巨大な赤い花があった。ブツブツのいっぱいある花弁がとても気持ち悪い……でも、植物だし覚えておこう。
 そして、妙な袋?がぶら下がっていると思ったら……。

「あ、あれは?」
「あれは食虫植物。葉から昆虫が好む香りを発し、葉に止まった無視を捕食……あ、見ててください」

 甘い香りに誘われた羽虫が食虫植物の葉に止まり、そのまま蓋をするように葉が閉じて袋の中に納まった。
 まるで魔獣の狩りだ。植物とは思えない……すごい。
 その後も、珍しい植物を見つけては質問を繰り返し、気付くとけっこうな時間が経過していた。
 満足した俺はカシエルさんを誘い、外にあるカフェでダンデポッポのお茶を飲む。

「にっが!? これ苦いですよ!?」
「あはは。魔界都市のカーフィーと同じです。慣れれば美味しいですよ?」

 カシエルさん、美味しそうにダンデポッポのお茶を飲んでいた。
 お土産にダンデポッポの茶葉を購入し、別荘に帰宅。すると、別荘には明かりが灯り、何やらいい香りと肉の焼ける匂いがした。
 匂いは家の中……じゃない、外だ。
 カシエルさんと別れて浜辺に向かうと、なんとバーベキューの支度をしているミュディたちがいた。

「あ、アシュト。おかえり」
「おっそい!! もう、どこ行ってたのよ!!」
「まぁまぁエルミナ。おかえりなさいアシュト」
「お兄ちゃんおかえりー」
「お兄ちゃん、どこ行ってたの? いないから不貞腐れて昼寝でもしてるのかと思ったわ」
「みんな……」

 ミュディ、エルミナ、ローレライ、クララベル、シェリー。
 みんなに出迎えられ、俺はみんなの元へ向かう。
 テーブルの上には、大量の肉やお酒が並んでいた。

「さ、アシュトも来たし、お肉もいい感じだし……乾杯しよっか」

 ミュディがみんなにセントウ酒を注ぎ、俺が音頭を取る。

「みんな、今日から二週間の新婚旅行だ。たっぷり楽しもう!! かんぱい!!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 今日から二週間。たっぷり愛を育むぞ!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket
ファンタジー
小国メンデエル王国の第2王女リンスターは、病弱な第1王女の代わりに大国ルーマデュカ王国の王太子に嫁いできた。 政略結婚でしかも歴史だけはあるものの吹けば飛ぶような小国の王女などには見向きもせず、愛人と堂々と王宮で暮らしている王太子と王太子妃のようにふるまう愛人。 まあ、別にあなたには用はないんですよわたくし。 私は私で楽しく過ごすんで、あなたもお好きにどうぞ♡ 【作者注:この物語には、主人公にベタベタベタベタ触りまくる男どもが登場します。お気になる方は閲覧をお控えくださるようお願いいたします】 恋愛要素の強いファンタジーです。 初投稿です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。