上 下
188 / 492
万能の霊薬エリクシール

第359話、エリクシールの準備は進む

しおりを挟む
 早朝。俺はミュディを起こさないようにベッドから起き、脱ぎ散らかした服をまとめておく。こうすると後でシルメリアさんが回収し、洗濯してくれる。
 ミュディの服も一緒にしておく。ミュディ、俺の部屋に来るときは着替えを持ってくるから安心だ。
 昨夜はソーマ水の壺湯に入ってお肌がスベスベになって興奮してたからな。ミュディの肌を見たローレライとクララベルも入ったし。ちなみにエルミナはメージュたちと飲み会してた。
 幸せそうに寝るミュディを眺め、俺は温室へ。
 マンドレイクとアルラウネと一緒に温室手入れをして、ウッドとシロが朝から遊んでいる姿を眺める。
 そして、朝食を食べてエリクシールの準備に取り掛かる。

『あーしゅとーっ!!』
「お、フィル。どうした?」
『んー? 最近、なんか楽しそうだからね。なにかあったの?』
「ああ。薬師の夢であるエリクシールが作れそうなんだ」
『ふーん。あたし、難しいことよくわかんない』

 フィルは俺の肩で足をパタパタさせる。
 ハイピクシーたち、最近は村のネズミたちとよく遊んでいる。大きさもピッタリだし話もできるようになってからは宴会とかも開いているようだ。
 
「ふふ、完成したら見に来てくれよ」
『うん。じゃああたし、アシュトのために美味しいシロップを持ってきてあげるね』
「うん。いつもありがとう、フィル」
『えへへ。奥さんだし当然よ!!』

 そう言って、フィルは飛んで行った。
 うーん……フィル、いつの間にか俺の奥さんになってたのか。

 ◇◇◇◇◇◇

 薬院に行くと、サラマンダー族のバオブゥさんがいた。
 何やら木箱を持っている。

「叔父貴、おはようございます!!」
「バオブゥさん。おはようございます。どうしたんです?」
「へい。ラードバンのおやっさんに頼まれたモンを運んできやした。中身は小瓶っちゅうことですが」
「あ、できたんだ。ありがとうございます!!」
「いえ、僭越ながらこのバオブゥ、部屋まで運ばせていただきやす」
「あ、はい。じゃあ」

 バオブゥさんに木箱を運んでもらい、せっかくなので開けてもらう。
 すげぇ……釘で打たれた蓋を素手で開けちゃったよ。

「どれどれ……おお、すごい」
「これはまた……さすがラードバンのおやっさんですな」

 バオブゥさんも驚いてる。
 俺が依頼した『エリクシール用の装飾小瓶』は、とんでもなく立派だった。スライム製の小瓶に彫り物をして豪華さを出し、蓋はコルクだがスライムとくみあわて三日月のような取っ手が付いていた。装飾の柄は、薬草だったり樹だったり、スライムを固める前に何か混ぜたのか、透明ではなく海のように深い青の小瓶だった。
 
「これだけで売れそうだ……すっごい贅沢」
「こういうのはわからんですが、オレみてぇな野郎でも美しいって思っちまいやす」

 俺は清酒とセントウ酒と果実酒のセットをバオブゥさんに渡し、ラードバンさんに届けてもらう。
 ここまで運んでくれたバオブゥさんにも清酒を一本渡した。
 さて、一人になった俺は小瓶を眺める。

「これにエリクシールが……ふふ、ふふふ」

 あぁ、やばい……楽しくなってきた。
 小瓶だけでなく専用の木箱もある。箱は加工が難しい硬度のフィバの樹で、しかも鍵付き。ラードバンさんマジですげぇ……とんでもない器用さだ。
 さて、準備はだいたいできた。あとはシャヘル先生が来るだけだ。
 でも、そう簡単にオーベルシュタインには来れないだろう。シャヘル先生はビッグバロッグでも要人の部類に入るし、そう簡単に外出はできないかも。

「待つしかない、か……頼むよ、ヒュンケル兄」

 とりあえず、村の見回りでもするか。

 ◇◇◇◇◇◇

 図書館で読書でもしようと向かうと、エルミナがいた。

「あ、アシュトじゃん」
「エルミナ? 図書館で何を?」
「本を読むに決まってんじゃん。あのね、私だって読書くらいするわよ。せっかくの休みだし、のんびりお酒でも飲みながらね」
「いや、酒は飲むなよ……まぁいいや。一緒にいくか?」
「いいわよ」

 と、エルミナを連れて図書館へ。
 今日も図書館は賑わっている。銀猫、ハイエルフ、悪魔族に天使族……みんな本が好きなのね。
 俺もさっそく読書へ。

「あら、アシュトにエルミナ。一緒に来るのは珍しいわね」
「あ、ローレライじゃない。あんたも一緒に本読む?」
「仕事中。お昼なら一緒に食べてもいいわ」
「じゃあお昼は一緒ね。アシュトもそれでいい?」
「もちろん」

 ケープを着たローレライは、本を抱えて去っていく。
 悪魔司書四姉妹も忙しそうに働いているが、図書館なので静かに動いている。
 ちなみに、本はもうすぐ八十万冊を越える。図書館には百万冊しか入らないから数年後が心配だ……まぁ、その時はまた造ればいい。
 俺は一冊の本をカバンから取り出し、テーブルに置く。

「それ、なに?」
「ああ、俺が書いてる本だよ。読書もいいけど執筆もしてるからな。まぁ、今まで採取して詳細を集めた薬草を書き写しているだけなんだけど」
「へぇ~……」
「長い人生だ。執筆くらいしてみたくってな」
「なんかおじいちゃんみたいね」
「やかましい」

 現在、本の半分くらいは書いた。
 エリクシール精製前に気分を落ち着かせるために書くのもいい。
 それに、執筆は楽しい。集中すると時間が経過するのも忘れる。

「じゃあ私は読書しよーっと」

 エルミナが読書するのを尻目に、俺は執筆をつづけるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜、ヒュンケル兄から連絡が入った。

『よお、シャヘル先生のオーベルシュタイン行きが決まったぜ』
「ほんと!?」
『ああ。護衛に選別に手間取ってな……ま、オレなんだが』
「え」
『シャヘル先生はビッグバロッグ王国の要人だ。護衛もそれなりの実力者が必要ってことで、オレが付くことになった。リュドガとルナマリアも行きたいって粘ったけど流石にな……あと、アイゼン様も一緒に行くことになった』
「え」
『これにはオレも驚いたぜ……まぁそういうこった。出発は三日後、到着予定は十日後だ。悪いが準備しといてくれ』
「わかった。へへ、ヒュンケル兄にまた会える……」
『嬉しいこと言うじゃねぇか。まぁよろしくな』

 連絡終了。リンリンベルを置く。
 
「十日後……うっし!!」

 明日、シルメリアさんに歓迎会の話をしておくか!!
しおりを挟む
感想 1,144

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

手乗りドラゴンと行く異世界ゆるり旅  落ちこぼれ公爵令息ともふもふ竜の絆の物語

さとう
ファンタジー
旧題:手乗りドラゴンと行く追放公爵令息の冒険譚 〇書籍化決定しました!! 竜使い一族であるドラグネイズ公爵家に生まれたレクス。彼は生まれながらにして前世の記憶を持ち、両親や兄、妹にも隠して生きてきた。 十六歳になったある日、妹と共に『竜誕の儀』という一族の秘伝儀式を受け、天から『ドラゴン』を授かるのだが……レクスが授かったドラゴンは、真っ白でフワフワした手乗りサイズの小さなドラゴン。 特に何かできるわけでもない。ただ小さくて可愛いだけのドラゴン。一族の恥と言われ、レクスはついに実家から追放されてしまう。 レクスは少しだけ悲しんだが……偶然出会った『婚約破棄され実家を追放された少女』と気が合い、共に世界を旅することに。 手乗りドラゴンに前世で飼っていた犬と同じ『ムサシ』と名付け、二人と一匹で広い世界を冒険する!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。