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第2章 ダージリン・セカンドフラッシュ
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「まぁ、チェリーちゃん今日は雰囲気が違って可愛いわね」
部活が始まる少し前、お菓子を持ってきていた橙子がひかりに貰ったゴムで結んだままの髪の毛について声をかけてきた。
改めてそう言われると嬉しく感じてへへへと笑うが呼び名にはまだ不満があった。
「ありがとうございます。友達がしてくれたんです…でも、その呼び方やめてください!!」
「へー、その子器用なのね。編み込みして手が込んでるわ」
早く来ていた陽菜乃も智瑛莉のいつもと違う髪型をまじまじと見ながら感嘆の声を漏らす。
友人の腕を褒められた智瑛莉は思わず嬉しくなり頬をゆるめる。
「素敵なお友達ね」
「ええ。大切な子です」
「智瑛莉が紅音以外に興味持つなんて意外だわ」
「そうですか?私だってお姉様以外の人だってちゃんと見てますよ」
「まぁ、ほんと?なら私も?」
意外そうに智瑛莉の髪を撫でながらそう言う陽菜乃にふふっと微笑む智瑛莉に橙子がニコリと嬉しそうな笑顔を浮かべて問いかける。
「えぇ、ちゃんと見てますよ。…今日もヘラヘラしてますね」
「ちょっとチェリーちゃん?それって悪口じゃなくて?」
「何言ってのよ智瑛莉よく見てるじゃない」
「もう!!陽菜乃さんまで!!」
悪びれもせずにニコニコと笑ったままで智瑛莉は素直に橙子に伝えると、陽菜乃は確かにねと智瑛莉に賛同するのでさらに橙子は怒ったようにむーっと頬をふくらませて不服そうに腕を組んでふんっと顔を背けた。
「ははは、そんな事しても可愛くないぞー」
「ぅにゅっ!?ひょっとぉ、ひゃめてくらはいよぉ!!」
「あはは。オレンジさんのほっぺお餅みたいですね」
膨らませた橙子のほっぺを面白がった陽菜乃が背後に回って後ろからつまんで無遠慮に引っ張る。
力加減を気にしない陽菜乃に頬を引っ張られると思わぬ痛みにうっすらと涙をうかべる。
やめろと言うように首を横に振るもケタケタと面白がる陽菜乃はやめず、智瑛莉ももちもちとして伸びる頬に笑みが零れた。
「痛い、でひゅ!!もぅ、陽菜乃ひゃん!!」
「あー、ごめんごめん。触り心地良くて」
「もぉ…陽菜乃さん力加減考えてくださいよぉ…私のほっぺちぎれるかと思いましたよ…」
やっと手を離されるとずっと弄られてじんじんと痛む両頬を労わるように手を添えると目の前では智瑛莉が何かを期待しているように目を輝かせて橙子を見つめていた。
「…なぁに?チェリーちゃん。その目は」
「私も触っていいですか…?」
やっぱりそう来たかと智瑛莉の言葉に素直にそう思うも、可愛い後輩の智瑛莉が珍しく頼み事をしてきた事に少し嬉しくなりまだじんわりと痛む頬をどうぞと差し出す。
「あ、でも優しくしてね?あんまり痛いのは、いてててて!!」
「わぁ、ほんとですね。ふにふにです」
橙子本人の許可がおりるとぱあっと嬉しそうに微笑みそーっと橙子の左頬に触れるも陽菜乃のように上手に力加減はせずに引っ張る。
痛がっても柔らかな頬が智瑛莉の指に引っ張られるので橙子も仕返しに智瑛莉の両頬に手を添えてお返しと引っ張る。
そんなことされるとも思ってなかった智瑛莉は目を丸くさせて手を離す。
「もう、チェリーちゃんたら少しは気を使ってよね?これでも私一応先輩なんだからね?」
「分かりましたけど…むぅ」
「んふふ、チェリーちゃんはもうちょっとふっくらした方がいいかもね」
「オレンジさんみたいにですか?」
「こーら、そうやって先輩をからかわないの」
子猫の顔を撫で回すように智瑛莉の頬や顔を微笑みながら撫でると最後におでこを軽く小突く。
痛みからきた涙がやっと引いた橙子はいつものように笑って智瑛莉から手を離すと3人しかいなかった部室のドアが開けられ、他の部員たちが入ってきた。
3人は音の方に顔をやり挨拶の言葉を投げる。
「ごきげんよう。皆さんお揃いで」
「ごきげんよう、あっ、橙子ちゃん先に来てたんだね」
真美子と蒼が笑顔で3人に挨拶をすると2人の後から歩きづらそうにしている翠璃とその翠璃の体に身を隠すように体をくっつけ、制服ではなく赤い学校のジャージを着ている紅音が入ってきて午後の紅茶部のメンバーが全員揃った。
「ごきげんようお姉様…何してらっしゃるんですか?」
「智瑛莉ちゃん、いいところに。紅音さんがずっとくっついてくるのよ…剥がしてくれない?」
歩きづらそうしている翠璃が背後にいる紅音を智瑛莉に見せつけるようにしてそう言うので、言われた通りに智瑛莉が紅音を引き剥がそうとするもその前に陽菜乃から引き剥がされる。
やっと自由になった翠璃ははぁっと一息ついてカバンを置くと蒼と共にいつものソファに腰掛けた。
「ちょっと背が低くなった紅音ちゃん。大人しく座っててねー」
「本当にガサツな女ね、私まだ体調良くないのに」
陽菜乃に剥がされるとそのままいつもの席まで引きずられて座らされる。
紅音は不服そうにするも胸元に"紫之宮"と刺繍された少し大きめのジャージの袖を邪魔そうにまくる。
「紅音さん、まだ体調優れませんか?…無理させてますでしょうか?」
「違うのよ真美子。私の体は平常に戻りたいのにどっかのガサツな奴が私の体調を悪くさせるのよ」
持ってきた紅茶の茶葉の入った缶を手にしたまま心配そうに紅音に目をやる真美子に紅音は首を横に振って、準備を手伝う陽菜乃の背中を睨むように見つめながらそういうも陽菜乃は軽く流した。
「お姉様のジャージ姿…初めて見ましたが、これはこれで好きですぅ」
隣に座らされた紅音のジャージ姿に目を輝かせる智瑛莉は胸元にすぎるようにむぎゅっと抱きついて嬉しそうに微笑むが紅音は眉を下げてぐったりと体を智瑛莉に預ける。
「あぁっつい…。暑苦しいから離れなさい」
「でもどうしてジャージなんてきてるんですか?」
肘掛と背もたれに体を預けた翠璃が自分に隠れていた紅音の姿を改めて見ると問いかける。
白のセーラーワンピースの制服だらけの中に1人だけ真っ赤のジャージは目立っていた。
紅音は何度上げても腕が細すぎて下がってくるジャージの袖を上げながらも暑そうに髪の毛を払う。
「色々あるのよ。私には」
「暑そうですね…。ハンカチお使いになりますか?」
「まぁ、陽菜乃さんのジャージですのね。通りで大きいんですよね」
次々とジャージについて言及されるのが面倒になった紅音はもう終わりとお開きのジェスチャーをして口を閉ざした。
真美子と陽菜乃は紅茶の準備を始めた。
「お姉様…体調わるいんですの?」
「ええ。だから無駄に構わないでくれるかしら?」
「無駄って…大切な人を心配するのは当たり前のことです」
智瑛莉は真っ直ぐに紅音を見つめてそう伝える。
紅音は見つめられるとその発言にも驚き目を見張るも直ぐに目を逸らしてあしらうように鼻で笑った。
「どの口が言うのよ」
「私、真面目に言ってますの」
紅音に目を逸らされても真剣に続ける智瑛莉はブレずに紅音を見つめるも面倒臭いと言うように大きなため息をつかれる。
目の前に座っていた二年が生照れ隠しなんてものではなくて本当に鬱陶しそうにしている紅音と折れない智瑛莉を見ていると今にも言い合いになりそうで不安げな顔をする。
それに気づいたらしい紅音は目をつぶってふいっとそっぽを向きそれ以上は何も言わなかった。
「…まぁまぁ、お紅茶入れましたので一旦おやめになって?」
「紅音もワッフル食べれそう?」
その空気を和ませるように笑顔の真美子が銀トレーに人数分のティーカップを載せて運んできた。
陽菜乃も人数分のデザートプレートに橙子の持ってきたワッフルを乗せて持ってくると部員たちの前に配る。
不安がっていた二年生も目の前にワッフルが丁寧に盛られたプレートが配られると少し安心したように表情が柔らかくなった。
「…食べる」
「まぁ、それは良かったですわ」
ワッフルの隣にそれぞれの色のティーセットを配り終えると笑顔のままの真美子が部員たちの顔を見渡していただきましょうかと声をかけた。
智瑛莉はまだ少しだけ不満そうだったが微笑んで頷いた。
「今日はですね、キャンディを少しアレンジしてみましたの」
優しく微笑む真美子が自分が注いだキャンディの入ったカップに目をやって部員の視線を誘導した。
カップの中にはオレンジがかった紅色のキャンディと皮付きの薄いリンゴのスライスがふわっと浮かんでいた。
淹れたてのそのキャンディからは湯気とともにリンゴの甘い香りがした。
「この時期になりますと…体調も不安定になる方もいらっしゃるかと思いまして…」
「まぁ、リンゴなんて…いい香り」
「程よくリンゴの甘みもあって…なんだかほっとしますね」
橙子と蒼がリンゴの入ったキャンディを口にして笑いあって真美子に感想を伝えた。
翠璃も紅茶を飲んでリンゴスライスを小さく齧って美味しいと小さく微笑む。
「ワッフルも美味しい、ちょうどお腹すいてたのよねー」
円形のワッフルを手で掴んでそのままかぶりついていた陽菜乃はそういうくらい余程お腹がすいていたようですぐに半分まで食べていた。
そんな陽菜乃の隣では紅音は紅茶が冷めるのを待っているようでじっとゆらゆらとたつ湯気が無くなるのを見つめていた。
「ふわふわなワッフルか…」
「何よ翠璃、不満なら食べなくて結構よ?」
「はあ?誰もそんなこと言ってないでしょ?」
1口サイズにワッフルをちぎって食べていた翠璃に橙子が噛み付く。
その間で蒼は両手でワッフルをもって幼い子供のように微笑みながら美味しそうに食べている。
「翠璃いらないなら私貰ってあげるわよ?」
「陽菜乃さんまで…私だってお腹すいてますぅー」
1個のほとんどを食べ終えていた陽菜乃がからかうように笑うと首を横に振って翠璃はワッフルをあげないと陽菜乃から遠ざける。
紅音は紅茶が冷める前にワッフルに手をつけたがあまり進まず半分を食べないままプレートの上に残してやっとティーカップを手に取った。
「そんなにお腹減ってるなら私の分食べてもいいわよ」
キャンディに浮かんだリンゴに向かって息を吹きかけた紅音が隣でワッフルを平らげた陽菜乃に声をかける。
「あら、ちゃんと食べないとおっきくなれないわよ?」
「大きなお世話」
せっかくの好意をからかわれて返されると素っ気なくそう答えて紅茶と共にリンゴを
齧る。
「はぁ…美味しい」
「おかわりもありますから、遠慮せずにどうぞ」
「真美子さん、私おかわりもらっても?」
少しづつキャンディを楽しんでいた蒼に微笑んだ真美子に橙子がからになったカップをもって問いかける。
ええ、とそれを受け取った真美子は新しいリンゴスライスを2切れ入れてまだ湯気のたつキャンディを注いだ。
「紅音さんはおかわりいかがですか?」
「…もらう」
真美子には素直な紅音はカップを差し出した。
「真美子には素直なのね」
「だって、真美子だもの」
「はいはいそうですか」
陽菜乃はそう言いながら紅音の食べかけのワッフルを取り上げると半分に割って残りを智瑛莉に差し出した。
大人しく紅茶を飲んでいた智瑛莉は驚きながらもありがとうございますと微笑んで受け取る。
おかわりを貰った紅音も紅茶を飲みながらその様子にどこかほっとしている様子だった。
部活が始まる少し前、お菓子を持ってきていた橙子がひかりに貰ったゴムで結んだままの髪の毛について声をかけてきた。
改めてそう言われると嬉しく感じてへへへと笑うが呼び名にはまだ不満があった。
「ありがとうございます。友達がしてくれたんです…でも、その呼び方やめてください!!」
「へー、その子器用なのね。編み込みして手が込んでるわ」
早く来ていた陽菜乃も智瑛莉のいつもと違う髪型をまじまじと見ながら感嘆の声を漏らす。
友人の腕を褒められた智瑛莉は思わず嬉しくなり頬をゆるめる。
「素敵なお友達ね」
「ええ。大切な子です」
「智瑛莉が紅音以外に興味持つなんて意外だわ」
「そうですか?私だってお姉様以外の人だってちゃんと見てますよ」
「まぁ、ほんと?なら私も?」
意外そうに智瑛莉の髪を撫でながらそう言う陽菜乃にふふっと微笑む智瑛莉に橙子がニコリと嬉しそうな笑顔を浮かべて問いかける。
「えぇ、ちゃんと見てますよ。…今日もヘラヘラしてますね」
「ちょっとチェリーちゃん?それって悪口じゃなくて?」
「何言ってのよ智瑛莉よく見てるじゃない」
「もう!!陽菜乃さんまで!!」
悪びれもせずにニコニコと笑ったままで智瑛莉は素直に橙子に伝えると、陽菜乃は確かにねと智瑛莉に賛同するのでさらに橙子は怒ったようにむーっと頬をふくらませて不服そうに腕を組んでふんっと顔を背けた。
「ははは、そんな事しても可愛くないぞー」
「ぅにゅっ!?ひょっとぉ、ひゃめてくらはいよぉ!!」
「あはは。オレンジさんのほっぺお餅みたいですね」
膨らませた橙子のほっぺを面白がった陽菜乃が背後に回って後ろからつまんで無遠慮に引っ張る。
力加減を気にしない陽菜乃に頬を引っ張られると思わぬ痛みにうっすらと涙をうかべる。
やめろと言うように首を横に振るもケタケタと面白がる陽菜乃はやめず、智瑛莉ももちもちとして伸びる頬に笑みが零れた。
「痛い、でひゅ!!もぅ、陽菜乃ひゃん!!」
「あー、ごめんごめん。触り心地良くて」
「もぉ…陽菜乃さん力加減考えてくださいよぉ…私のほっぺちぎれるかと思いましたよ…」
やっと手を離されるとずっと弄られてじんじんと痛む両頬を労わるように手を添えると目の前では智瑛莉が何かを期待しているように目を輝かせて橙子を見つめていた。
「…なぁに?チェリーちゃん。その目は」
「私も触っていいですか…?」
やっぱりそう来たかと智瑛莉の言葉に素直にそう思うも、可愛い後輩の智瑛莉が珍しく頼み事をしてきた事に少し嬉しくなりまだじんわりと痛む頬をどうぞと差し出す。
「あ、でも優しくしてね?あんまり痛いのは、いてててて!!」
「わぁ、ほんとですね。ふにふにです」
橙子本人の許可がおりるとぱあっと嬉しそうに微笑みそーっと橙子の左頬に触れるも陽菜乃のように上手に力加減はせずに引っ張る。
痛がっても柔らかな頬が智瑛莉の指に引っ張られるので橙子も仕返しに智瑛莉の両頬に手を添えてお返しと引っ張る。
そんなことされるとも思ってなかった智瑛莉は目を丸くさせて手を離す。
「もう、チェリーちゃんたら少しは気を使ってよね?これでも私一応先輩なんだからね?」
「分かりましたけど…むぅ」
「んふふ、チェリーちゃんはもうちょっとふっくらした方がいいかもね」
「オレンジさんみたいにですか?」
「こーら、そうやって先輩をからかわないの」
子猫の顔を撫で回すように智瑛莉の頬や顔を微笑みながら撫でると最後におでこを軽く小突く。
痛みからきた涙がやっと引いた橙子はいつものように笑って智瑛莉から手を離すと3人しかいなかった部室のドアが開けられ、他の部員たちが入ってきた。
3人は音の方に顔をやり挨拶の言葉を投げる。
「ごきげんよう。皆さんお揃いで」
「ごきげんよう、あっ、橙子ちゃん先に来てたんだね」
真美子と蒼が笑顔で3人に挨拶をすると2人の後から歩きづらそうにしている翠璃とその翠璃の体に身を隠すように体をくっつけ、制服ではなく赤い学校のジャージを着ている紅音が入ってきて午後の紅茶部のメンバーが全員揃った。
「ごきげんようお姉様…何してらっしゃるんですか?」
「智瑛莉ちゃん、いいところに。紅音さんがずっとくっついてくるのよ…剥がしてくれない?」
歩きづらそうしている翠璃が背後にいる紅音を智瑛莉に見せつけるようにしてそう言うので、言われた通りに智瑛莉が紅音を引き剥がそうとするもその前に陽菜乃から引き剥がされる。
やっと自由になった翠璃ははぁっと一息ついてカバンを置くと蒼と共にいつものソファに腰掛けた。
「ちょっと背が低くなった紅音ちゃん。大人しく座っててねー」
「本当にガサツな女ね、私まだ体調良くないのに」
陽菜乃に剥がされるとそのままいつもの席まで引きずられて座らされる。
紅音は不服そうにするも胸元に"紫之宮"と刺繍された少し大きめのジャージの袖を邪魔そうにまくる。
「紅音さん、まだ体調優れませんか?…無理させてますでしょうか?」
「違うのよ真美子。私の体は平常に戻りたいのにどっかのガサツな奴が私の体調を悪くさせるのよ」
持ってきた紅茶の茶葉の入った缶を手にしたまま心配そうに紅音に目をやる真美子に紅音は首を横に振って、準備を手伝う陽菜乃の背中を睨むように見つめながらそういうも陽菜乃は軽く流した。
「お姉様のジャージ姿…初めて見ましたが、これはこれで好きですぅ」
隣に座らされた紅音のジャージ姿に目を輝かせる智瑛莉は胸元にすぎるようにむぎゅっと抱きついて嬉しそうに微笑むが紅音は眉を下げてぐったりと体を智瑛莉に預ける。
「あぁっつい…。暑苦しいから離れなさい」
「でもどうしてジャージなんてきてるんですか?」
肘掛と背もたれに体を預けた翠璃が自分に隠れていた紅音の姿を改めて見ると問いかける。
白のセーラーワンピースの制服だらけの中に1人だけ真っ赤のジャージは目立っていた。
紅音は何度上げても腕が細すぎて下がってくるジャージの袖を上げながらも暑そうに髪の毛を払う。
「色々あるのよ。私には」
「暑そうですね…。ハンカチお使いになりますか?」
「まぁ、陽菜乃さんのジャージですのね。通りで大きいんですよね」
次々とジャージについて言及されるのが面倒になった紅音はもう終わりとお開きのジェスチャーをして口を閉ざした。
真美子と陽菜乃は紅茶の準備を始めた。
「お姉様…体調わるいんですの?」
「ええ。だから無駄に構わないでくれるかしら?」
「無駄って…大切な人を心配するのは当たり前のことです」
智瑛莉は真っ直ぐに紅音を見つめてそう伝える。
紅音は見つめられるとその発言にも驚き目を見張るも直ぐに目を逸らしてあしらうように鼻で笑った。
「どの口が言うのよ」
「私、真面目に言ってますの」
紅音に目を逸らされても真剣に続ける智瑛莉はブレずに紅音を見つめるも面倒臭いと言うように大きなため息をつかれる。
目の前に座っていた二年が生照れ隠しなんてものではなくて本当に鬱陶しそうにしている紅音と折れない智瑛莉を見ていると今にも言い合いになりそうで不安げな顔をする。
それに気づいたらしい紅音は目をつぶってふいっとそっぽを向きそれ以上は何も言わなかった。
「…まぁまぁ、お紅茶入れましたので一旦おやめになって?」
「紅音もワッフル食べれそう?」
その空気を和ませるように笑顔の真美子が銀トレーに人数分のティーカップを載せて運んできた。
陽菜乃も人数分のデザートプレートに橙子の持ってきたワッフルを乗せて持ってくると部員たちの前に配る。
不安がっていた二年生も目の前にワッフルが丁寧に盛られたプレートが配られると少し安心したように表情が柔らかくなった。
「…食べる」
「まぁ、それは良かったですわ」
ワッフルの隣にそれぞれの色のティーセットを配り終えると笑顔のままの真美子が部員たちの顔を見渡していただきましょうかと声をかけた。
智瑛莉はまだ少しだけ不満そうだったが微笑んで頷いた。
「今日はですね、キャンディを少しアレンジしてみましたの」
優しく微笑む真美子が自分が注いだキャンディの入ったカップに目をやって部員の視線を誘導した。
カップの中にはオレンジがかった紅色のキャンディと皮付きの薄いリンゴのスライスがふわっと浮かんでいた。
淹れたてのそのキャンディからは湯気とともにリンゴの甘い香りがした。
「この時期になりますと…体調も不安定になる方もいらっしゃるかと思いまして…」
「まぁ、リンゴなんて…いい香り」
「程よくリンゴの甘みもあって…なんだかほっとしますね」
橙子と蒼がリンゴの入ったキャンディを口にして笑いあって真美子に感想を伝えた。
翠璃も紅茶を飲んでリンゴスライスを小さく齧って美味しいと小さく微笑む。
「ワッフルも美味しい、ちょうどお腹すいてたのよねー」
円形のワッフルを手で掴んでそのままかぶりついていた陽菜乃はそういうくらい余程お腹がすいていたようですぐに半分まで食べていた。
そんな陽菜乃の隣では紅音は紅茶が冷めるのを待っているようでじっとゆらゆらとたつ湯気が無くなるのを見つめていた。
「ふわふわなワッフルか…」
「何よ翠璃、不満なら食べなくて結構よ?」
「はあ?誰もそんなこと言ってないでしょ?」
1口サイズにワッフルをちぎって食べていた翠璃に橙子が噛み付く。
その間で蒼は両手でワッフルをもって幼い子供のように微笑みながら美味しそうに食べている。
「翠璃いらないなら私貰ってあげるわよ?」
「陽菜乃さんまで…私だってお腹すいてますぅー」
1個のほとんどを食べ終えていた陽菜乃がからかうように笑うと首を横に振って翠璃はワッフルをあげないと陽菜乃から遠ざける。
紅音は紅茶が冷める前にワッフルに手をつけたがあまり進まず半分を食べないままプレートの上に残してやっとティーカップを手に取った。
「そんなにお腹減ってるなら私の分食べてもいいわよ」
キャンディに浮かんだリンゴに向かって息を吹きかけた紅音が隣でワッフルを平らげた陽菜乃に声をかける。
「あら、ちゃんと食べないとおっきくなれないわよ?」
「大きなお世話」
せっかくの好意をからかわれて返されると素っ気なくそう答えて紅茶と共にリンゴを
齧る。
「はぁ…美味しい」
「おかわりもありますから、遠慮せずにどうぞ」
「真美子さん、私おかわりもらっても?」
少しづつキャンディを楽しんでいた蒼に微笑んだ真美子に橙子がからになったカップをもって問いかける。
ええ、とそれを受け取った真美子は新しいリンゴスライスを2切れ入れてまだ湯気のたつキャンディを注いだ。
「紅音さんはおかわりいかがですか?」
「…もらう」
真美子には素直な紅音はカップを差し出した。
「真美子には素直なのね」
「だって、真美子だもの」
「はいはいそうですか」
陽菜乃はそう言いながら紅音の食べかけのワッフルを取り上げると半分に割って残りを智瑛莉に差し出した。
大人しく紅茶を飲んでいた智瑛莉は驚きながらもありがとうございますと微笑んで受け取る。
おかわりを貰った紅音も紅茶を飲みながらその様子にどこかほっとしている様子だった。
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