午後の紅茶にくちづけを

TomonorI

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第2章 ダージリン・セカンドフラッシュ

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「それで、昨日はどうなりましたか?」

部員が全員揃ってアフタヌーンティーが始まった頃、真美子の持ってきた綺麗な水色の紅茶を何度か口にした智瑛莉が同じように紅茶を飲んでいた真美子に問いかける。 

「っ、え!? 」
「あ、それ私も聞きたい!!」
「陽菜乃さんは噂の彼を見たんですよね?どうでした?」

触れられたくなかった内容に踏み込まれた真美子は思わず口の中の紅茶を吹き出しそうになるが手で抑えて何とか耐える。  
智瑛莉に触発された2年生が加わってさらにキラキラとした純粋な好奇心の目で問い詰めてきた。
そんなに見つめられては困ったと言うように陽菜乃の方へ助けてと視線を送るが陽菜乃は2年生達に含み笑いで答えていた。

「いや、あの別に…お礼に伺っただけですから」
「ねぇ陽菜乃さん。彼どんな方でしたか?」
「んふふふふ、彼凄かったわよー。まず最初に二人して抱き合ってたのよ?」

陽菜乃がそう言うと部員達全員がええー!?っと驚きの声を出して目を大きく開いて真美子の方を一斉に振り向く。
真美子は視線が一気に自分に向けられると慌てて両手を胸の前でバタバタと振って慌てて強く否定する。

「ち、ちち違います!!違います!!あれは、私がふらついてしまって、それを支えて下さっただけですから!!もう、紫之宮さん!!変なこと言わないで下さいよ!!」
「それから彼が真美子の肩抱いていきなり、俺の彼女って宣言された」

面白がる陽菜乃が続けてそう言うと呆気にとられた部員達は衝撃が大きすぎてもはや声も出ずに真美子を見つめるだけだった。 
真美子は違いますからとその視線を払うように首を振るが段々と泣き出しそうになっていく。

「えぇ!?真美子さん、彼氏が…!?」
「うそ…、男性恐怖症って仰ってたじゃないですか!!」
「ち、違いますっ!!違いますっ…!!」

翠璃と蒼が真美子に驚きながらそう言及すると真美子は潤んだ瞳で楽しそうにしている陽菜乃を酷いですと見つめる。
聞きたいことはいっぱいあったがこれ以上何か言うと泣き出しそうな真美子に部員達は何も言えなくなったが紅音だけがそんなこと気にもせずに面白そうに口を開く。

「まぁ、男性恐怖症の会長様が随分な成長ね。もしかして、本当は何ともないんじゃなくて?」
「紅音さんまで…」

からかうために冗談で言ったつもりの紅音でもその表情からは嫌味とも受け取れ、なんだか真美子は責められているように感じて潤んでいた右目から耐えられなくなったのかほろっと熱い雫が一筋頬を伝った。
さすがにそれを見てしまった紅音と陽菜乃は驚き動揺する。
瞬きをする度にまつ毛を濡らして目尻から1つ2つと涙が流れ、真美子の手の甲に雫が落ちたところで真美子は自分自身が泣いていることに気づき顔を伏せて両手で隠す。

「ご、ごめんなさい真美子、からかいすぎた」
「真美子、ごめん」

3年生が泣いてる真美子に謝罪したりとあたふたしているのを見た後輩達は困惑して何も出来ずにただ真美子の話を聞くよりも、早く泣き止むことを願っていた。

「ち、がいます…、私ただ…」
「そ、そうよね、ただお礼に行っただけだものね」
「…なのに…酷いですよ…どうしてそんな風に言うんですか…」

真美子は段々と赤くなってきた目で陽菜乃の方を見て小声でそう言うと、笑っていた陽菜乃も何も言えなくなりゆっくりと首を絞められて殺されるような苦しさをじわじわと感じて申し訳なさそうに目を伏せてもう一度ごめんねと頭を下げる。

「…ま、まぁ、何があったか私たちにはわかりませんが、何はともあれ真美子さんが目的を果たせて良かったじゃないですか」

重苦しい雰囲気の中で無理に場を明るくしようとしたのは橙子でパチッと手を叩いてね?と笑顔を辺りに向けると途中だった紅茶を啜った。
そうよねと翠璃がそれに続き、蒼と智瑛莉もロールケーキを1口大に切り分けて口に運び、この数分間は何も無かったかのように振る舞うので紅音も何も気にしないようにしていたがチラチラと真美子の様子を窺う。

「…私、だって…好きで男性恐怖症になってる訳じゃないんですっ…」
「うん、そうだよね…ごめん」

まだ少しグズグズと鼻をすする真美子の頭を陽菜乃は優しく撫でて泣き止ませようとするがその手はやんわりと払われる。

「…もぅ…」

少し落ち着いてきた真美子は半端に残っていた紅茶を一口飲んで目じりを指の間接で軽く拭うとみっともない姿を見せましたねと眉を下げて笑いかけた。
はははと他の部員達は苦笑いを浮かべて気まずそうに紅茶を啜った。

「ですけど…隠しておくのも嫌なので…正直にお話しますね」

もう何も気にしないような振りをしていた部員たちに変に誤解されたままでは嫌だと思った真美子はなにか覚悟を決めたように部員達にそう言うと誰から返事がある訳でもなく続ける。

「私…昨日の彼と男性恐怖症を克服するまでの間だけ恋人のフリをするって約束したんです!!」
「…」

意を決した真美子がそう告白すると昨日の出来事を知らない部員達は何も反応出来ずただただぽかんと真美子を見つめていた。
声を大にして驚かれると思っていた真美子は現実の静かな反応に少し戸惑った。

「…あら?驚きませんの?」
「いえ…、その…衝撃が強すぎて…」
「こ、恋人…?その方は、…了承してくださったんですか?」

何度か瞬きをして衝撃のもとを何とか理解しようとしていた翠璃と智瑛莉は恐る恐る真美子にさらに問いかける。

「えぇ。実は、彼自身も今は恋人がいる方が都合が良いそうなんです。それに、私も創立記念パーティーまでにはせめて手に触れることができるまでにはならなくてはなりませんから…」
「確かに、利害関係は一致してますね」  
「…ただそれだけです。ですから…変な誤解しないでくださいね」

詰まっていたものを全て吐き出せて満足した真美子は新しく紅茶を自分のカップに注いでほんのりと温かい紅茶を安心したように安らかな表情で1口飲んだ。

「…なんだか嘘のような話ですね…」
「でしょ?私も真美子がいきなりそんなこと言い出すからびっくりよ」

陽菜乃が苦笑いを浮かべて翠璃に答えると食べ終えたロールケーキののっていたプレートとフォークを片し始める。
その隣で真美子を泣かせてしまったのがよっぽど応えたのか紅音は先程から大人しく黙っていて智瑛莉はそれを気にかけていた。

「でも、何かあったらいつでも言ってくださいね。蒼、真美子さんの力になりたいです!!」
「私も真美子さんを応援したいです」

まだうっすらと赤い目元をして、ほっと一安心していた真美子に蒼と橙子が笑顔でほほ笑みかける。

「ありがとうございます…。私、嬉しいです」

後輩2人からの頼もしい言葉に真美子はふわっと微笑み返して手にしていたカップの紅茶を飲み干して陽菜乃と同じようにティーセットを片し始める。

「でもね、真美子さん。変なことされたら言ってくださいね、私殴り込みにでもいきますから」
「ふふっ…翠璃さんたら、物騒ですね」

未だに心配そうな目を向ける翠璃が片している最中の真美子の腕に手を添えると真美子は可笑しそうに笑ってありがとうと頭を軽く下げた。

「あーぁ、私も彼氏ほしーな」

ばふっとソファーの背もたれに勢いよくもたれた橙子が腕を伸ばしながら羨ましそうな声でそう言うと隣の蒼はあははと微笑み翠璃はいつものように冷笑する。

「まぁ、面白い冗談。誰がアンタみたいなブス選ぶのよ」
「はぁ?そんなのアンタに言われたかないわよ!!この性格ブス!!」
「はぁー!?この私が性格ブスですってぇ!?ほんっとにアンタは見る目もないのねブス!!」
「私はブスなんかじゃないですぅー!!」
「うるさいブス!!この…ブス!!」

いつも通りの口喧嘩の最後に翠璃が何かを言いかけたがキツい口調と目付きで威勢よくブスと吐き捨てるとふんっと顔を逸らす。
ぐぐぐ、と小さく声を漏らす言われっぱなしの橙子だったが、二人の間にいる蒼が何かを訴えるような笑顔で見つめてきたのでそれ以上は何も言わずに同じように顔を逸らした。

「でも彼氏かぁ…ふふっ、いいね」
「えっ…蒼、もしかして蒼も彼氏欲しいの?」
「駄目よ蒼!!そんなの私嫌だわ!!」

彼氏かぁと上の空気を眺めて蒼が意味ありげに小さく微笑むとそれを見ていた橙子と翠璃はどういう意味なのか問いただすように肩を揺さぶる。

「もぅ、2人とも大袈裟だなぁ。心配しないでよ」
「心配するに決まってるでしょ?こんなに可愛い蒼が穢らわしい男なんかに汚されるなんて嫌よ」
「み、翠璃ちゃんたら…、彼はそんなことしないよぉー」
「え?」
「あっ」

彼という単語を思わず言ってしまった蒼はパっと口に手を当てて隣で自分を問いただしてくる翠璃からすーっと目をそらす。
聞き間違いかとも思えたが蒼の様子を見るからして聞き間違いではないと確信した橙子は驚きのあまり何度か瞬きをして蒼を見つめていた。

「ちょ、あ、蒼!?彼って誰よ!?」
「何で教えてくれないのよ!!」
「う、うぅ…」
 
失言から詰問される蒼は苦笑いを浮かべるので陽菜乃が止めに入った。

「ほらほら、蒼をいじめない」
「いじめてませんわ、真相を暴こうとしてるんです」
「蒼にだって話すタイミングとかあるでしょ?そんなおっかない顔してたら言うことを言えない、っての」

自然と眉間にシワが寄っている翠璃をおかしく笑いながら陽菜乃はその眉間をすらっと長い人差し指で軽く小突いてやんわりと止める。
守られた蒼はほっとしたように息を吐くと翠璃にまた今度ねと小さく微笑んで頭を下げた。
蒼がそこまで言うのならと翠璃も納得いってなかったがわかったと受け入れて、それ以上は聞いてこなかった。
翠璃が大人しくなれば聞きたいことがまだまだあった橙子もそれ以上何も言えなくなり黙って目を伏せた。

「今日はなんだか不思議な日ですね…」

一連の様子を見ていた智瑛莉が隣で大人しくなってた紅音を抱き寄せながら薄暗くなっていく空を眺めてぽつりと呟いた。



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