午後の紅茶にくちづけを

TomonorI

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第1章 ディンブラ・ティー

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今から10年前、大西貴久は中学2年生だった。
資産家で大手貿易企業の社長である父の出身校であった聖徳東高校の附属中に通い軽音楽部に所属して世界で活躍していたバレリーナの母が講師のバレエ教室にも通いそれなりのコンクールに名を残し、いずれは父のように会社経営をするべく日々勉強をして充実した高校生活を送っていた。
忙しくも充実した生活の中で母親の影響もあり息抜きがてらバレエを始めた頃に出会ったのが当時は小学生の姫宮蒼だった。
小柄で可愛らしく愛らしい笑顔で自分に懐いてきた蒼が一人っ子の貴久には本物の妹のように思えてとても蒼を可愛がっていた。
しかしバレエ教室に通う他の女子生徒からは唯一の男子生徒であり家柄も将来も有望な貴久に気にいられている蒼はよく思われてなかった。
けれども蒼も貴久も周りからそう思われていることにら全く気づかず週に数回しかない練習日を毎回楽しみにしていた。
それから数年、コンクールや発表会のためにナオコのきびしい練習に励んでいた頃に蒼が何よりも可愛がっていた茶色のネザーランドドワーフが死んだのもこの時期だった。
必死に生きていた生命がいとも簡単に終わってしまった事実に幼い蒼は受け入れるまでに長い時間を要した。
そのせいか毎週必ず参加していた練習にも蒼は出ることが出来なくなり、貴久だけでなく周りの生徒やナオコまでも心配していた。
ネザーランドドワーフが死んでから1週間と少しが経とうとしていた頃に心配した貴久が蒼の様子を見に姫宮家を訪問した。
いつも愛らしい笑顔を浮かべていた顔が悲しみにくれて泣き腫らし少しやつれた蒼を見かねて貴久は死んだうさぎと似たようなうさぎのぬいぐるみをプレゼントした。
せめてもの気遣いで蒼の好きな水色のリボンを耳に不器用に結びつけた。
初めは大好きな貴久からの贈り物といえどなかなか受け入れなかった蒼に貴久も少々困り、どうしたものかと悩ましく思った。

「…貴くんも、…いつかはあの子みたいになっちゃうの?」

鼻をグズグズさせてやっと喋ったかと思えば蒼は自室のベッドの上で赤くなった瞳で不安げに貴久を見つめた。
今にも消えそうなその不安げな蒼の目に見つめられた貴久は正直に頷いた。

「でもな蒼、生きてるものはみんなそうなるんだ…蒼だって…」
「嫌っ!!そんなの…い、やっ」

言い終わる前に貴久は蒼を抱きしめていた。
優しく包むように抱きしめたつもりだったがいきなりギュッと締め付けられる蒼はうっと苦しげな声を漏らした。

「…そうだよな。…いきなりそんなこと言われたってわかんないよな…」

励ましの言葉が見つからなかった貴久は蒼を抱きしめながら、変に気を使った言葉でなく本心をそのまま口にする。

「悲しいなら気が済むまで泣いて、思いっきり悲しめばいいよ…そんなすぐに答えなんか見つからないんだから…でもな蒼…お前が泣いてるのに何もしてあげられないことに俺は自分が嫌になる…」
「た、かく…」
「もう、泣くなとは言わない、悲しむのをやめろとも言わない…。蒼がそうしたいなら存分にそうすればいい。…ただ…、蒼の笑顔が見られないのが俺は悲しいんだ…」

貴久が口の動くままにそこまで言いきると少しの沈黙が流れた。

「でも、大丈夫だから…俺、お前が笑ってくれるまで…ずっとそばで一緒に悲しんでやるし…泣いてだってやる…だから…」

細い蒼の体に貴久の指がくい込むほどに強く抱きしめるので蒼は苦しくなる。

「だから…もう、いきなり俺の前からいなくなるのはやめてくれ…っ」

力強く自分を抱く彼の切実な願いに蒼はまた一筋の涙が頬に流れた。

「…あ、ありがとう…」

ゆっくりと離れた貴久がまた流れ出した蒼の涙を悔しげに見つめると、そっと指先で拭ってやった。

「蒼…」
「違うの。これはね…悲しくて流れてるんじゃないの」

そう言った蒼の頬にまた一筋の涙が流れた。
しかし蒼はその顔に笑みを浮かべていた。

「あの子が死んじゃった事は本当に悲しい…これからもその辛さは消えないかもしれない…でもね、蒼…、蒼は…貴くんまで悲しむのは嫌だから…」

指の関節で両目を拭う蒼は笑顔で続けた。

「それに、…こんなに貴くんに想われてるなんて、蒼は幸せ者だもん」

貴久が蒼のために持ってきたうさぎのぬいぐるみを拾い上げてぎゅうっと抱きしめた。

「ありがとう、貴くん。蒼もうこの子がいるから平気だよ」

ニコッと笑った蒼の明るい表情に貴久は安堵の表情を浮かべて、安心したようにつられて笑顔になった。
その時、蒼に向ける貴久の感情は兄が可愛がっている妹に向けるような純粋なものではなくなっていた。





貴久によってジュンと命名されたぬいぐるみを貰ってから蒼が2回誕生日を迎えて3回目を迎えようとした頃、貴久は聖徳東高校の2年生になっていた。
男子校の最高峰である聖徳東でも上位の成績であった貴久は着実にこれからの進路もキャリアプランもある程度固めていたときに両親が離婚することが自分の知らないところで決まっていた。
自分の意見も聞かれないままに事後報告をされた離婚の理由は母ナオコの不貞行為だった。
ナオコは一貫して不貞行為を否認していたが財力にものを言わせて調査させた父親にの調査力には言い逃れることは出来なかった。
世界級のプリマの不貞行為、日本でも有数の大手企業社長の離婚、日本のマスメディアがこれ程面白いネタをほっておくはずがなかったが見えないところで汚いお金が動き大事になる前に有耶無耶になり取り上げられずに、この事件は身内だけが知る秘密になった。
しかし貴久を襲った不幸は両親の離婚だけでは留まらなかった。
父の雇った興信所の調査によりナオコは貴久を父親との間に授かった前にも後にも不特定多数の男と関係を持っていたことが報告された。
父親は絶望よりもナオコへの怒りでいっぱいになったかと思えばその飛び火が子どもの貴久にも飛んできたのだ。
それまではなんの疑いもなく大西の後継者として大切に育てた貴久の父親が自分なのかが疑わしくなり、ナオコと貴久の意思も聞かずに検査をすると血縁関係は見事に証明されることは無かった。
今まで十数年家族として暮らしていた人間がなんにも自分と関係の無い他人である事が証明されると、怒り狂った父親は2人を大西家から追い出した。
何も知らされていなかった貴久は父親だと思っていた人から最高級の侮辱の言葉を浴びせられ最低な母親と共に家を追い出されたことが理解出来なかった。
追い出されてから自分にずっと泣きついて謝罪と懇願を繰り返すナオコとしばらくホテルを点々としていた貴久だったが、ナオコは直ぐに別の男を作り1人だけ姿を消した。
大西の名前は剥奪され、母の旧姓さえ与えられず行き場をなくした貴久は自分の人生を狂わせた母親に何よりも深い憎しみを募らせるのと同時に生きていく事への絶望が徐々に勝っていき死ぬ事さえも決意した。
死んでしまおう…そう覚悟して死に場所を探すように街を歩いていると、たまたま見かけたビルのテレビ画面に移るその日の日付が蒼の誕生日であることに気づいた。
今のみっともない自分にあったら蒼はなんというだろうか、まぁもう死んでしまうのだからなんだっていいか、そんなことを考えながら手ぶらではカッコつかないとなけなしの残金を全て払ってゴールドのチェーンネックレスを買った。
その包みを手に蒼の家に向かっていたが、今さなさら自分はなんと名乗って会いに行けばいいのかが分からなくなった。

「あ、貴くーん」

聞きなれた声と呼び方に自然と足を止めて声の方向に目をやると家の庭で笑顔の蒼が誕生日のパーティでもしていたのかお姫様のような水色のパーティードレスと小さなティアラをしていて幸せそうなオーラが辺りに拡がっていた。
ずっと見ていたいその幸せそうな笑顔が今の貴久を苦しめるのには十分だった。
あんなに幸せそうに笑う蒼に今自分が会いに行ったら不幸にしてしまうのではないかと思うとその場から動けず、それを不思議に思った蒼の方から柵の向こうにいる貴久の方へ駆け寄ってきた。
主役がいなくなってもパーティー会場の庭は騒がし伊野が皮肉にも思えた。

「貴くんやっと来てくれた!!早くこっち来て」

柵を掴んで嬉しそうに貴久を見つめる純粋な蒼の瞳が貴久には耐えられなかった。

「いや…今日は用事があって…悪い…」

その視線から逃れるように目を伏せた貴久に蒼は首を傾げた。

「…貴くん?今日なんだか変だね。バレエ教室も最近しまったままだし…心配してたの」

バレエ教室の名を出されると自然と手を握りしめていた。
しかし貴久は何も知らない蒼に変なことを悟られないように笑顔を向けるが綺麗に笑えてるかは定かではなかった。

「蒼、誕生日おめでとう…これ、大したもんじゃないんだけどさ」

先程全財産を払って先程買った水色のリボンで結んでる白のネックレスケースを蒼に差し出す。
ありがとう、と嬉しそうに受け取る蒼はリボンを解いてケースを開けて中を確認する。

「わぁ…素敵なネックレス…」
「そう?良かった…蒼に似合うと思ったんだけど、やっぱり女の子にあげるアクセサリーなんて自信なくて…」
「ねぇ、貴くん…これつけて」

蒼は貴久がくれたネックレスを貴久の方に差し出す。
蒼不器用だから、と自虐気味に笑った蒼につられて貴久も笑ってしまった。
受け取ったネックレスの小さいロブスターカンを開いて蒼の細い首に添える。
長くも短くもない中途半端な長さのネックレスをつけてやると蒼は満足そうにネックレスに触って微笑んだ。

「…どう?似合うかな…?」
「うん、すごく綺麗だよ…」

そう言われると照れたように蒼がはにかんで貴久を上目で見つめる。

「ねぇ、貴くん…。わがまま言ってもいい…?」
「なに?」
「…蒼ね、ネックレスの次は…指輪が欲しいの…」
「…は?」

そう言われた貴久は自分のプレゼントが気に入られていないのかと不安になったが、蒼の嬉しそうな表情と声色に混乱する。

「指輪…?ネックレスじゃ不満だった…?」
「違うよ、そう言うんじゃなくて…」

蒼は言ってることを理解してなさそうな貴久をいじらしく思い、柵を掴んでる自分の左手に一瞬だけ目をやるも貴久を真っ直ぐに見上げて続けた。

「次はね…左手の薬指につける指輪…貴くんから貰いたいの…」

婉曲的なその言い回しの意味を貴久が理解して返事をしようとした時にはパーティーの主役であった蒼は父親らしき男の声に呼ばれた。

「あ、蒼…でも、俺っ」
「ふふっ、そんなに困らないでよ」
「ち、違うよ…そうじゃなくて」
「あ、貴くんごめん。パパ呼んでるから…行かないと…」

蒼がそう言って申し訳なさそうに目を伏せると貴久はそれ以上に何も言えなくなり柵を握りしめるばかりだった。

「貴くん、ネックレスありがとう。蒼…本当に嬉しい」

笑顔でお礼を言い終えた蒼はまた父親に呼ばれるとそれを最後に貴久の前から父親の方へかけて行った。
行かないで…、と思わず言いそうになった貴久はあんな小さくて無垢な笑顔を浮かべる少女に今の自分の何を背負わせようとしてるんだと自責の念にかられると逃げるようにその場から走りさることしか出来なかった。





「それから2、3日記憶なくて…気づいたら知らないBARで知らない女の相手してた」

殺風景なワンルームのベッドの上で体育座りをしていた貴久が7年前の真相を話終える頃には隣に座る蒼は複雑な表情で貴久を見つめていた。
そんな表情の蒼に苦笑いを返した貴久は曲げていた膝を解放してふうっと深い息をついた。

「それから…今まで…生きていくためにも必死に働いたよ…。自分がなんだったのか忘れたくて…このまま死ねればいいのに…なんて思ってたら、…やっと、少しづつ忘れかけてたのに…今日という日にお前が目の前に現れた…」

貴久は目元まで伸びた前髪をかきあげて頭をまた抱えた。

「だから…俺はもうお前が大好きな"貴くん"じゃないんだ…。最低な女から生まれたただの最低な死に損ないなんだ…」

そんなことない、なんて言葉を壮絶な人生を送ってきた貴久に軽々しくかけていいのか蒼にはわからなかった。

「…もう満足だろ?ほら、約束通り送ってくからもう帰んな…。それに、もう俺に関わるのはやめた方がいい」

貴久は膝を叩いて立ち上がって帰ろうと言わんばかりに蒼の目の前に手を差し出した。

「いいの?」
「…え?」
「ここで…このまま蒼を帰していいの?」

貴久の差し出してきた手をキュッと握りしめ、目を伏せた蒼はわざとらしく挑発的なことを言ってみる。
貴久はその蒼の手を離そうとする前にその手を握られて止められる。

「…もうやめてくれ…。俺は…蒼みたいに幸せになっていい権利なんてないんだ…」

悲しげな表情でそう吐き捨てて貴久は目を逸らした。
そんな彼の表情を目の当たりにした蒼は立ち上がらずに貴久を見上げた。

「…そんなことない。貴くんは…貴くんは幸せになったっていいんだよ…!!」

思わず力が入ってギュッとその手を握り返す蒼に貴久は目を辛そうに閉じてその手を振り払おうとするが蒼の手はそんな簡単に離れなかった。

「そんなこと簡単に言うなよ…お、れは…ただの…死に損ないなんだ…っ」

貴久は苦しそうに頭を抱えるとせっかく立ち上がったのにまたベッドに腰掛けた。
蒼は引き離されることを覚悟して貴久の体を後ろから優しく抱きしめた。

「離してくれ…蒼」
「…嫌だよ…貴くんがこんなに苦しんでるのに、ほっとけないもん…」
「…お前が近くにいるの…俺は苦しいんだ…っ!!」

貴久は少し声を荒らげて蒼の手を振り払う。
大声と手を振り払われたことに驚いた蒼は一途に想っている貴久に否定的な言葉を嘆かれられてショックが隠しきれなかった。

「だから…頼むよ蒼…もう、俺の目の前から…」
「…」

あまりの衝撃に蒼は何も言葉に出来ずただ自分の目の前で今にも泣きそうに苦しむ貴久の顔を見つめることしかできかった。

「…あ…蒼…が、貴くんを苦しめてる…の?」
「…こんな事になったのも…あの女がやったことだから…蒼も妬ましく思うのは筋違いだって重々承知してる…でも、どうしても…あの時のほとんどの記憶は蒼だから…蒼がいると…忘れられないんだよ…っ」

ネイビーブルーの薄いシーツを力強く握りしめる貴久の隣で何か覚悟を決めた蒼は、ゆっくりとあの時から1度も外さなかったチェーンネックレスを外してガシャンッとテーブルに投げ捨てるように置く。
そして貴久の細い太ももに向かい合うようにまたがった。
理解し難い蒼の大たんな行動に貴久は驚きのあまり身を委ねていた。

「蒼が貴くんを苦しめてるなら…私、蒼やめる」
「…え?」
「貴くんを苦しめてるのは7年前までの姫宮蒼。でも…」

太ももをもじり、首に手を回して純新無垢な少女には出来ないほどの妖艶な目で貴久を見つめて艶っぽく続ける。

「私だって…あの頃みたいに純粋で無邪気な女の子じゃないの…」

蒼は瞳を閉じて回した手を引き寄せて強引に唇を重ねてやった。
直ぐに唇は離したが驚きのあまり貴久は目を開いたまま動けない様子だった。

「あ、おい…?」
「どう?これで記憶にいた昔の可愛い蒼がいなくなった?」

触れた唇をペロッと舐めて挑発気味にそう言捨てる。

「…こんなにはしたなくて、下品な女…あの頃の蒼なんかじゃないでしょ?」
「お前…」
「蒼、もうあの頃みたいに可愛く笑って貴くんをお兄ちゃんみたいに敬うだけの女の子じゃないの…。好きな子のためならここで今すぐにでも体を差し出せるようなただのふしだらな女なの…だから」

だから、から言葉を続けようと思った頃思いもよらず蒼の目から大粒の涙が零れていた。
拭うこともせずにその涙はただただ重力に従ってぽたぽたと落ちていく。

「…だから…、綺麗な蒼のいる過去よりも…今の汚れてる蒼と、これから…2人で作っていこうよ…」

そう言って貴久の胸元にもたれ掛かりシャツを握りしめる。
その頃には明かりの一つもなかった部屋はもう日はくれてほとんど真っ暗だった。

「蒼がいるから辛いなら…蒼、もうその頃を思い出させるようにしないから…だから…関わらないでなんて言わないで…」

貴久の胸元に泣きながら縋り付く。

「…一緒にいたいの…。もう、好きな人と急に離れたくないの…」

涙声でやっとの事で文章を口にする蒼に貴久は困り果てた様子だったが、真っ直ぐな蒼の気持ちに答えるように口を開く。

「俺はもう…大西の名前は無いんだ…。それだけじゃなく、身よりもなければ母親はクズで父親も定かじゃない…。それに今は働いてるっていっても夜の仕事で収入も休みも不安定だし…」
「でも、貴くんは貴くんだもん…。蒼は…っ、貴久が好きなの…」

蒼は悲しそうに目元を手で覆うとこれで最後と言わんばかりにシャツから手を離して落ち着いた声で言う。

「それでも…もう貴くんの人生に蒼がいらないって言うなら…蒼はもう一生関わらないって約束する」

今貴久の目を見つめたら泣き出して同情させてしまうと思った蒼は貴久の上からどいて少し間を開けて貴久の隣に腰かけた。
ここで貴久から何も行動がなかったら荷物を持ってすぐに出ていこう。
そして陽菜乃にでも電話してこの間話した好きな人に最悪な振られ方をしたと愚痴でも聞いてもらおうなんて思って顔から手を離し立ち上がろうとした時、細くも力強い手でふらついてしまうほど強く抱き寄せられた。
それがどういう意味か理解出来た蒼はまた違う意味で目が潤んでいく。

「…俺、逃げてたんだ…。あの過去を引きずってるのをアイツと…蒼のせいにして…受け入れるのが怖かったんだ…」

初めてきちんと抱き返してくれた貴久の手は落ち着くほどに暖かく、蒼の存在を強く確認していた。
蒼はその手に自分の手を重ねて小さく首を否定するよう横に振る。

「でも、…俺もう逃げない…。蒼にそこまで言わせたんたんだから…俺、もう逃げるなんてかっこ悪いことしない…」
「うん…」
「だから、蒼…」
「…うん」
「俺と…これからも一緒にいてくれないか…」

隣で身を寄せる貴久の声が震えていたのがわかった。
蒼はその言葉を実際に伝えられてみると返答するための超えがつっかえて出にくかったが何とか絞り出す。

「…ええ、喜んで…」

真っ暗な部屋でそう微笑んで答えた蒼の頬には何度目かわからない涙が一筋流れ落ちた。
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