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第1章 ディンブラ・ティー
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何十枚もの書類を机の上に置く音とその書類に必要事項を書くために発生するテーブルとペンが擦られる音が生徒会室中でする。
そんな中、開けられた窓からは女子生徒のはしゃぐ楽しそうな声が聞こえ、流れ込んでくる風は黄身がかった白色のレースカーテンを柔らかく撫でて揺らしている。
髪の毛が暖かい風に揺られる真美子はおもむろにアンティークのワインレッド色のドールチェアの足を持って後ろに引いて立ち上がり会長席の背後にある窓枠に手をついて外を眺めた。
3階の生徒会室の窓からは一日の授業が全て終わって嬉嬉として帰路についている女子生徒の群れや、部活が始まる前に準備を始めている生徒たちがグラウンドに数名いて各々行動していて、校舎から生徒会長の真美子が見下ろしているのに誰一人として気づかなかった。
「真美子、どうかしたの?」
生徒会室内の左側に位置する副会長用の焦げ茶色のオフィスデスクで色々な事柄の書類仕事をしていた陽菜乃は手を止めて外を眺める真美子の背中に問いかける。
会長と副会長しかいない生徒会室に暖かい風が吹き込み、デスクに置いてある紫色の紫陽花が入った硝子のペーパーウェイトに抑えられた書類がパラパラと捲られる音した。
「少し休憩を」
「ふーん。これ計算しといたから確認してサイン頂戴」
聞いときながらも適当に返事をする陽菜乃は今まで色々と書き込んでいた左上をホッチキスで留られた数枚の書類を真美子に差し出す。
真美子はそう言われると特に何か面白いものがある訳では無い窓の外の景色を名残惜しそうに背を向けて書類を受け取る。
受け取った書類は部費の予算についてのもので、それにざっと目を通すと数字をちゃんと確認することなくサインをサラサラっと書いて生徒会の判子を押した。
「ちょっと、中身ちゃんと確認しなさいよ」
「だって、紫之宮さんが間違うことなんてありませんもの」
「もーやめてよそんなこと言うの」
無責任なんだからと口をとがらせる陽菜乃だがどこか嬉しそうにはにかむ。
真美子は陽菜乃がせっせと書類仕事をしている中で応接用の2人がけのソファに腰掛けて肘置きを枕のようにし身体を横にしてゆっくりと目を閉じた。
ソファに横になった生徒会長を見ると陽菜乃はため息を漏らす。
「こら、寝んなー」
陽菜乃に怒られる真美子だったが柔らかいソファに沈んだ体には力が入らず起き上がれないので顔だけを陽菜乃の方に向ける。
「眠ってませんわ、横になってるだけです」
「一緒だろ」
ソファにぐったりと体を放り投げている真美子は自分の体の異変を感じてお腹辺りに手を回して蹲る。
疲れているだと陽菜乃はそれ以上真美子に追求せずに自分に出来る分だけの書類仕事を続け、2人しか居ない生徒会室には先程のように静かなペンの音だけが響く。
時たまに窓から部活をしているらしい女子生徒の元気な掛け声や笑い声が何度か入って来るたびに真美子は耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られた。
「まだまだ冷えるね」
それに気づいたのかはたまた本当にそうだったのか陽菜乃はペンの芯を出したまま開いていた窓をサッと閉じた。
おかげで外からの声は遮断されて完璧な密室ができ上がった。
「ありがとうございます…」
「体辛い?」
窓を閉じた陽菜乃は副会長用のデスクには戻らず真美子の隣に腰掛けて体をいたわった。
変に気を使わせてしまったのかと真美子は申し訳無く思い体を起こそうとするが、そのままでいいよと陽菜乃に止められたのでその言葉に甘えてまた横になる。
「お見苦しい姿を見せてしまって…」
「腰のあたり撫でればいい?」
真美子の体調不良の原因に見に覚えがある陽菜乃はそう声をかけて真美子の細くしまった腰の辺りに手を這わせる。
いきなりな感触に思わず真美子はビクッと身体を震わせる。
「い、いえ…結構です」
「そう、薬でも飲む?」
「私、鎮痛剤はあまり効かないんですの」
「そっか」
腰に置いていた手を離して陽菜乃はできることは無いものかと天を仰ぐ。
下腹部の不調をじんわりと感じる真美子は不快に感じてなんの解決にもならないが下半身をもじらせる。
「何日目?」
「…2日ほど…」
「うわ、最悪じゃん」
「えぇ、その通りですわ…」
「じゃあもう帰る?」
そう言われると真美子は少し考え首を横に振り、お腹の辺りを押さえていた手で陽菜乃の制服の袖を掴んで痛みのせいで少し潤んだ目でぼんやりと陽菜乃を見つめる。
「もう少し、このまま…一緒にいたいんです…」
「…なによそれ」
普段の真美子では考えられない熱っぽい潤んだ目で見つめられた陽菜乃は何事かと思いながらもおかしく笑ってじゃあ付き合ってあげる、と手を握り返す。
冗談半分だった行為に真美子は自分からしたのに恥ずかしくなり顔が赤くなり背ける。
「そんなことしだすほどに生理痛重いの?」
「い、いえ…別にそんなんじゃないんですのよ…」
「じゃあ…、変なもの食べた?」
「そんなこと言って…紫之宮さんったら私の事をゲテモノ好きか何かと勘違いしてらっしゃるの?」
「うそうそ、じょーだん」
握り返した手を離さない陽菜乃はクスクスと笑って手を撫でる。
「それで、さっきの私の発言ときめきましたか?」
「えー、まだそれ言ってんの?」
「もう、正直に答えてくれてもいいじゃないですか」
少し前と同じ事を聞いてきた真美子に笑いながら答えた陽菜乃は握っていた真美子の手を自分の胸元に押し当てる。
手のひらに柔らかいものが当たりびっくりした真美子は思わず起き上がり陽菜乃を凝視する。
「し、紫之宮さん…!?」
「ほら、分かる?」
「な、なな何がですの!?」
「私…今ドキドキしてるでしょ?」
「ドキドキ…って…」
そう言って陽菜乃の胸元に押し当てられてる自分の手に目線を向ける。
自分のものよりも大きく膨らんでいる陽菜乃の左胸が平常時のものよりも早く脈打っているのが微かにだが確実に手に伝わる。
同じ女子とは言えど他人のものに触れているという事実に恥ずかしくなり真美子が頬を染めるのを見ると、冗談っぽく笑っていた陽菜乃も恥ずかしくなったようで徐々に頬を染めて手を離す。
「紫之宮さんったら…大胆なことしますのね」
「ちがっ、真美子がときめくとかなんとか言うからっ!!」
真美子は恥ずかしさから顔を逸らして変に脈打つ自分の胸に手を当ててどうにか落ち着こうと深呼吸をする。
「私…、この前紫之宮さんにときめいてるって言われた時…ときめいてると言うのがどういう事なのかよくわからなかったんです…」
「あなたそれでよくときめくとか聞いてこれたわね」
真美子と同じように顔を見せないように逸らしている陽菜乃は喋りだした真美子に耳を傾ける。
「それで、調べたんですの…ときめくってなんだろうって」
「あなた変なとこ真面目ね」
いかにも真面目に語り出す真美子がおもしろくていつものように陽菜乃は笑って突っ込む。
「一般的に、期待や喜びでドキドキしたり、ワクワクしたりと心躍ることで…その、大体は異性に向けられるもののようで…」
「へぇ、そうなんだ」
陽菜乃が真美子の横顔を見ながら相槌を打っていると、ゆっくりと真美子がこちらを向くので首を傾げる。
「では、…私があの時ときめいたとするのなら…紫之宮さんがしてきた事に私は喜びを感じて期待をしているってことなんでしょうか…?」
「は?」
「確かに私は紫之宮さんの事好きです…抱きしめられて嫌な気はしなかったですし…。では、その…それ以上を期待していたから、動悸がしたんでしょうか?」
真美子は陽菜乃の目を見て真剣な眼差しで問いかける。
陽菜乃もそんなまっすぐな視線に困ったようで返答に口ごもる。
「んー、どうなんだろう…私もあんまりわかんないかな」
陽菜乃は困ったように頬を人差し指でかいて答えて、申し訳なさそうに眉を下げる。
真美子もその表情を見ると申し訳なく思いおもわず、ごめんなさいと謝った。
「じゃあ真美子はさ、この前私がした以上のことされたいって思うの?」
「…え?」
「私が、こうやって抱きしめてさ…」
陽菜乃はこの前冗談でやった時と同じように真美子の背中に手を回して抱きしめ陽菜乃の熱い体を真美子の冷えている体に密着させ、耳に軽く息を吹きかける。
「んっ…」
いきなり耳に当たった陽菜乃の吐息に反射的に体が反応してしまった真美子はどうしていいのか分からず、ただ大人しく鼓動が早くなるのを感じる。
陽菜乃は抱きしめたまま大人しくしている真美子に問いかける。
「どう?」
「どうって…?」
「もっと…しよっか」
陽菜乃の手が真美子の腰の当たりを撫でる。
変に腰の痛みを感じる真美子にはその手つきがどうももどかしく陽菜乃の肩の辺りに顔を填めると何かをねだっているかのように体を寄せているように見えた。
「…真美子」
「あっ、の…んっ…」
何も言わずに体を擦り寄せてきた真美子の態度をいいように解釈した陽菜乃は同じように耳に息をふきかけ、反対側の耳を指先で優しく撫でた。
真美子は擽ったさと不思議な感覚にぎゅっと目を閉じて、自分のスカートを強く握りしめるので綺麗に並んでいたプリーツが乱れる。
「し、紫之宮さ…っん」
「真美子ったら、耳が弱いのね」
「あっ、だめ…っです…!!」
耳を撫でる度に体を動かして反応する真美子が面白くクスリと笑ってわざとらしく音を立てて耳にキスをする。
ぞわっと全身の鳥肌が立つような感覚に真美子は陽菜乃の行為が恐ろしく感じた。
「…嫌?やめる?」
目をつぶりスカートをシワができるほど握りしめている真美子に気づいた陽菜乃は顔を離して申し訳なさそうに謝って問いかける。
早くなる心拍数と汗をかきそうなほど熱くなった体に真美子は戸惑い、真っ直ぐに見つめてくる陽菜乃の顔を直視出来ず手でその視線を遮るようにして顔を隠す。
「嫌…では無いんです、不思議と。…ただ、なんだか…怖くて…」
「…怖い?」
「このまま、紫之宮さんに身を委ねていると…その、なんだか…後戻り出来ないような気がして…」
「というと?」
「私達、…お友達ですのに…、それに、女の子同士ですのに…」
真剣な顔をしていた陽菜乃は顔を隠したままの真美子の発言を聞くと複雑な表情を浮かべた後に真美子の頭を撫でて微笑む。
頭を撫でられた真美子は恐る恐る陽菜乃の顔を見る。
「大丈夫、私は何があっても真美子の友達でいるよ」
「紫之宮さん…」
「でも、真美子に無理はさせたくない」
陽菜乃は困ったように自分を見る真美子にそう言って微笑むとソファから立ち上がり、今日はもう帰ろうかと手を差し伸べた。
気持ちの整理がつかない真美子は差し伸べられた手を握るが立ち上がらずにぎゅっと握り返して陽菜乃を見上げる。
手は握るのに立ち上がらない真美子に陽菜乃は首を傾げる。
「あの…少々わがままを言ってもいいですか?」
「え?何急に」
なかなか立ち上がらない真美子の問いかけに陽菜乃は少し身構えた。
真美子は潤んだ瞳で陽菜乃を見上げて不安からか震えた声で続けた。
「…その、紫之宮さんが…ずっと私のお友達でいてくださると言うのなら…さっきの続きをして欲しいです…」
「…えっ…」
思いもよらぬ真美子のわがままに陽菜乃はぽかんとしてしまう。
そんな反応をされた真美子は改めて自分の言ったことの大胆さに恥ずかしくなって頬を染めて、やっぱり今のは無しでと両手を振って否定する。
しかし陽菜乃は再びソファに腰かけて真美子の両肩を掴み真っ直ぐに見つめる。
「…本気?」
「いや、その…」
「本気じゃないなら、やめとこうよ」
「私は…本気ではありますが…、紫之宮さんの気持ちもありますものね…」
拒絶されたように思えた真美子は目を逸らして本心を伝えると、何かを覚悟したように短く息を吸う陽菜乃にもう一度抱きしめられて一瞬息が詰まった。
「…辛かったら言って、すぐ辞めるから」
「し、紫之宮さん…!?」
自分で言っときながらも陽菜乃の真剣な声色に少々怖気付く真美子だったが、小さく頷いて陽菜乃の背中に手を回した。
そんな中、開けられた窓からは女子生徒のはしゃぐ楽しそうな声が聞こえ、流れ込んでくる風は黄身がかった白色のレースカーテンを柔らかく撫でて揺らしている。
髪の毛が暖かい風に揺られる真美子はおもむろにアンティークのワインレッド色のドールチェアの足を持って後ろに引いて立ち上がり会長席の背後にある窓枠に手をついて外を眺めた。
3階の生徒会室の窓からは一日の授業が全て終わって嬉嬉として帰路についている女子生徒の群れや、部活が始まる前に準備を始めている生徒たちがグラウンドに数名いて各々行動していて、校舎から生徒会長の真美子が見下ろしているのに誰一人として気づかなかった。
「真美子、どうかしたの?」
生徒会室内の左側に位置する副会長用の焦げ茶色のオフィスデスクで色々な事柄の書類仕事をしていた陽菜乃は手を止めて外を眺める真美子の背中に問いかける。
会長と副会長しかいない生徒会室に暖かい風が吹き込み、デスクに置いてある紫色の紫陽花が入った硝子のペーパーウェイトに抑えられた書類がパラパラと捲られる音した。
「少し休憩を」
「ふーん。これ計算しといたから確認してサイン頂戴」
聞いときながらも適当に返事をする陽菜乃は今まで色々と書き込んでいた左上をホッチキスで留られた数枚の書類を真美子に差し出す。
真美子はそう言われると特に何か面白いものがある訳では無い窓の外の景色を名残惜しそうに背を向けて書類を受け取る。
受け取った書類は部費の予算についてのもので、それにざっと目を通すと数字をちゃんと確認することなくサインをサラサラっと書いて生徒会の判子を押した。
「ちょっと、中身ちゃんと確認しなさいよ」
「だって、紫之宮さんが間違うことなんてありませんもの」
「もーやめてよそんなこと言うの」
無責任なんだからと口をとがらせる陽菜乃だがどこか嬉しそうにはにかむ。
真美子は陽菜乃がせっせと書類仕事をしている中で応接用の2人がけのソファに腰掛けて肘置きを枕のようにし身体を横にしてゆっくりと目を閉じた。
ソファに横になった生徒会長を見ると陽菜乃はため息を漏らす。
「こら、寝んなー」
陽菜乃に怒られる真美子だったが柔らかいソファに沈んだ体には力が入らず起き上がれないので顔だけを陽菜乃の方に向ける。
「眠ってませんわ、横になってるだけです」
「一緒だろ」
ソファにぐったりと体を放り投げている真美子は自分の体の異変を感じてお腹辺りに手を回して蹲る。
疲れているだと陽菜乃はそれ以上真美子に追求せずに自分に出来る分だけの書類仕事を続け、2人しか居ない生徒会室には先程のように静かなペンの音だけが響く。
時たまに窓から部活をしているらしい女子生徒の元気な掛け声や笑い声が何度か入って来るたびに真美子は耳を塞ぎたくなるような衝動に駆られた。
「まだまだ冷えるね」
それに気づいたのかはたまた本当にそうだったのか陽菜乃はペンの芯を出したまま開いていた窓をサッと閉じた。
おかげで外からの声は遮断されて完璧な密室ができ上がった。
「ありがとうございます…」
「体辛い?」
窓を閉じた陽菜乃は副会長用のデスクには戻らず真美子の隣に腰掛けて体をいたわった。
変に気を使わせてしまったのかと真美子は申し訳無く思い体を起こそうとするが、そのままでいいよと陽菜乃に止められたのでその言葉に甘えてまた横になる。
「お見苦しい姿を見せてしまって…」
「腰のあたり撫でればいい?」
真美子の体調不良の原因に見に覚えがある陽菜乃はそう声をかけて真美子の細くしまった腰の辺りに手を這わせる。
いきなりな感触に思わず真美子はビクッと身体を震わせる。
「い、いえ…結構です」
「そう、薬でも飲む?」
「私、鎮痛剤はあまり効かないんですの」
「そっか」
腰に置いていた手を離して陽菜乃はできることは無いものかと天を仰ぐ。
下腹部の不調をじんわりと感じる真美子は不快に感じてなんの解決にもならないが下半身をもじらせる。
「何日目?」
「…2日ほど…」
「うわ、最悪じゃん」
「えぇ、その通りですわ…」
「じゃあもう帰る?」
そう言われると真美子は少し考え首を横に振り、お腹の辺りを押さえていた手で陽菜乃の制服の袖を掴んで痛みのせいで少し潤んだ目でぼんやりと陽菜乃を見つめる。
「もう少し、このまま…一緒にいたいんです…」
「…なによそれ」
普段の真美子では考えられない熱っぽい潤んだ目で見つめられた陽菜乃は何事かと思いながらもおかしく笑ってじゃあ付き合ってあげる、と手を握り返す。
冗談半分だった行為に真美子は自分からしたのに恥ずかしくなり顔が赤くなり背ける。
「そんなことしだすほどに生理痛重いの?」
「い、いえ…別にそんなんじゃないんですのよ…」
「じゃあ…、変なもの食べた?」
「そんなこと言って…紫之宮さんったら私の事をゲテモノ好きか何かと勘違いしてらっしゃるの?」
「うそうそ、じょーだん」
握り返した手を離さない陽菜乃はクスクスと笑って手を撫でる。
「それで、さっきの私の発言ときめきましたか?」
「えー、まだそれ言ってんの?」
「もう、正直に答えてくれてもいいじゃないですか」
少し前と同じ事を聞いてきた真美子に笑いながら答えた陽菜乃は握っていた真美子の手を自分の胸元に押し当てる。
手のひらに柔らかいものが当たりびっくりした真美子は思わず起き上がり陽菜乃を凝視する。
「し、紫之宮さん…!?」
「ほら、分かる?」
「な、なな何がですの!?」
「私…今ドキドキしてるでしょ?」
「ドキドキ…って…」
そう言って陽菜乃の胸元に押し当てられてる自分の手に目線を向ける。
自分のものよりも大きく膨らんでいる陽菜乃の左胸が平常時のものよりも早く脈打っているのが微かにだが確実に手に伝わる。
同じ女子とは言えど他人のものに触れているという事実に恥ずかしくなり真美子が頬を染めるのを見ると、冗談っぽく笑っていた陽菜乃も恥ずかしくなったようで徐々に頬を染めて手を離す。
「紫之宮さんったら…大胆なことしますのね」
「ちがっ、真美子がときめくとかなんとか言うからっ!!」
真美子は恥ずかしさから顔を逸らして変に脈打つ自分の胸に手を当ててどうにか落ち着こうと深呼吸をする。
「私…、この前紫之宮さんにときめいてるって言われた時…ときめいてると言うのがどういう事なのかよくわからなかったんです…」
「あなたそれでよくときめくとか聞いてこれたわね」
真美子と同じように顔を見せないように逸らしている陽菜乃は喋りだした真美子に耳を傾ける。
「それで、調べたんですの…ときめくってなんだろうって」
「あなた変なとこ真面目ね」
いかにも真面目に語り出す真美子がおもしろくていつものように陽菜乃は笑って突っ込む。
「一般的に、期待や喜びでドキドキしたり、ワクワクしたりと心躍ることで…その、大体は異性に向けられるもののようで…」
「へぇ、そうなんだ」
陽菜乃が真美子の横顔を見ながら相槌を打っていると、ゆっくりと真美子がこちらを向くので首を傾げる。
「では、…私があの時ときめいたとするのなら…紫之宮さんがしてきた事に私は喜びを感じて期待をしているってことなんでしょうか…?」
「は?」
「確かに私は紫之宮さんの事好きです…抱きしめられて嫌な気はしなかったですし…。では、その…それ以上を期待していたから、動悸がしたんでしょうか?」
真美子は陽菜乃の目を見て真剣な眼差しで問いかける。
陽菜乃もそんなまっすぐな視線に困ったようで返答に口ごもる。
「んー、どうなんだろう…私もあんまりわかんないかな」
陽菜乃は困ったように頬を人差し指でかいて答えて、申し訳なさそうに眉を下げる。
真美子もその表情を見ると申し訳なく思いおもわず、ごめんなさいと謝った。
「じゃあ真美子はさ、この前私がした以上のことされたいって思うの?」
「…え?」
「私が、こうやって抱きしめてさ…」
陽菜乃はこの前冗談でやった時と同じように真美子の背中に手を回して抱きしめ陽菜乃の熱い体を真美子の冷えている体に密着させ、耳に軽く息を吹きかける。
「んっ…」
いきなり耳に当たった陽菜乃の吐息に反射的に体が反応してしまった真美子はどうしていいのか分からず、ただ大人しく鼓動が早くなるのを感じる。
陽菜乃は抱きしめたまま大人しくしている真美子に問いかける。
「どう?」
「どうって…?」
「もっと…しよっか」
陽菜乃の手が真美子の腰の当たりを撫でる。
変に腰の痛みを感じる真美子にはその手つきがどうももどかしく陽菜乃の肩の辺りに顔を填めると何かをねだっているかのように体を寄せているように見えた。
「…真美子」
「あっ、の…んっ…」
何も言わずに体を擦り寄せてきた真美子の態度をいいように解釈した陽菜乃は同じように耳に息をふきかけ、反対側の耳を指先で優しく撫でた。
真美子は擽ったさと不思議な感覚にぎゅっと目を閉じて、自分のスカートを強く握りしめるので綺麗に並んでいたプリーツが乱れる。
「し、紫之宮さ…っん」
「真美子ったら、耳が弱いのね」
「あっ、だめ…っです…!!」
耳を撫でる度に体を動かして反応する真美子が面白くクスリと笑ってわざとらしく音を立てて耳にキスをする。
ぞわっと全身の鳥肌が立つような感覚に真美子は陽菜乃の行為が恐ろしく感じた。
「…嫌?やめる?」
目をつぶりスカートをシワができるほど握りしめている真美子に気づいた陽菜乃は顔を離して申し訳なさそうに謝って問いかける。
早くなる心拍数と汗をかきそうなほど熱くなった体に真美子は戸惑い、真っ直ぐに見つめてくる陽菜乃の顔を直視出来ず手でその視線を遮るようにして顔を隠す。
「嫌…では無いんです、不思議と。…ただ、なんだか…怖くて…」
「…怖い?」
「このまま、紫之宮さんに身を委ねていると…その、なんだか…後戻り出来ないような気がして…」
「というと?」
「私達、…お友達ですのに…、それに、女の子同士ですのに…」
真剣な顔をしていた陽菜乃は顔を隠したままの真美子の発言を聞くと複雑な表情を浮かべた後に真美子の頭を撫でて微笑む。
頭を撫でられた真美子は恐る恐る陽菜乃の顔を見る。
「大丈夫、私は何があっても真美子の友達でいるよ」
「紫之宮さん…」
「でも、真美子に無理はさせたくない」
陽菜乃は困ったように自分を見る真美子にそう言って微笑むとソファから立ち上がり、今日はもう帰ろうかと手を差し伸べた。
気持ちの整理がつかない真美子は差し伸べられた手を握るが立ち上がらずにぎゅっと握り返して陽菜乃を見上げる。
手は握るのに立ち上がらない真美子に陽菜乃は首を傾げる。
「あの…少々わがままを言ってもいいですか?」
「え?何急に」
なかなか立ち上がらない真美子の問いかけに陽菜乃は少し身構えた。
真美子は潤んだ瞳で陽菜乃を見上げて不安からか震えた声で続けた。
「…その、紫之宮さんが…ずっと私のお友達でいてくださると言うのなら…さっきの続きをして欲しいです…」
「…えっ…」
思いもよらぬ真美子のわがままに陽菜乃はぽかんとしてしまう。
そんな反応をされた真美子は改めて自分の言ったことの大胆さに恥ずかしくなって頬を染めて、やっぱり今のは無しでと両手を振って否定する。
しかし陽菜乃は再びソファに腰かけて真美子の両肩を掴み真っ直ぐに見つめる。
「…本気?」
「いや、その…」
「本気じゃないなら、やめとこうよ」
「私は…本気ではありますが…、紫之宮さんの気持ちもありますものね…」
拒絶されたように思えた真美子は目を逸らして本心を伝えると、何かを覚悟したように短く息を吸う陽菜乃にもう一度抱きしめられて一瞬息が詰まった。
「…辛かったら言って、すぐ辞めるから」
「し、紫之宮さん…!?」
自分で言っときながらも陽菜乃の真剣な声色に少々怖気付く真美子だったが、小さく頷いて陽菜乃の背中に手を回した。
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