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第1章 ディンブラ・ティー
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春先の暖かい日差しが降り注ぐお昼前、春の訪れとは反対に冬の名残を残しているような冷たい風が真美子の素肌を優しく撫でる。
真美子は陽菜乃や紅音を始めとする同じクラスの女子生徒たちと体育着に着替え校庭に向かっていた。
春先のよく晴れたお昼前とはいえ冷たい風のふく度に真美子は半袖から伸びている自分の腕をさすり寒さを紛らわした。
ゆっくりと歩いて校庭に向かう生徒たちよりも先に校庭に着いていた男性体育教師の走ってこいという声がすると小走りで女子生徒たちは教師の前で列になって並ぶ。
不服そうな顔をうかべるが1番小さい紅音が先頭の列の後方に背の高い真美子が大人しく並んだ時ちょうど始業のチャイムが校庭だけでなく校内を仕切る柵の向こうにまで響き渡った。
前方で教師が野太い声で挨拶と準備体操の掛け声を発すると生徒たちは各々ぶつからないように間隔をとるとそのまま教師の指南通りに準備体操をし始める。
真美子も膝に手をついて屈伸運動や膝を伸ばしたりと準備運動を始めた。
普段から運動などあまりしない真美子からすれば体育の授業が私生活で唯一の運動の機会であるので嫌いな時間ではなかった。
流すように準備体操が終わればまた体育教師の掛け声でギュッと集まり綺麗な列に並び全員その場に体育座りをすると今日の授業内容を体育教師が話し出す。
無駄に大きい声で話す内容を聞く限り今日は3チームに分かれてソフトボールをするようで、教師がそのまま生徒を3つに分断する。
真美子は大人しく教師の指示に従って分かれると同じチームには陽菜乃と紅音がいてホッとする。
「陽菜乃様がいらっしゃるなんてとても心強いですわ」
「ありがとう。頑張るね」
幼い頃から空手や水泳などのスポーツをしていて運動神経抜群で尚且つスポーツマンシップに則った真っ直ぐな性格の陽菜乃は女子生徒の憧れもしくはそれ以上の存在であった。
そんな陽菜乃は女子生徒にそう言われるとニカッとさわやかに笑う。
運動神経は悪くないのにやる気のない紅音も真面目に体育に取り組む陽菜乃と同じチームになれて違う意味で喜んでいる。
分かれてチームメイトを確認し終えると教師が用意していた学校のソフトボール用グローブを各々手に取り軽いキャッチボールを始めた。
「陽菜乃様、ぜひ私とキャッチボールして頂けませんか?」
「何言ってるのよあなた。陽菜乃様は私とするの」
「いいえ、私ですよね?」
グローブを手にした女子生徒に次々と声をかけられる陽菜乃は嬉しそうに微笑むも困ったように眉を下げると近くにいた真美子の腰に手を回して抱き寄せる。
真美子はいきなりのことで驚きを隠せず目を丸くして微笑む陽菜乃を凝視した。
「せっかくのお誘いだけどごめんね。私、この子の運動音痴に付き合わないといけなくて…」
だからごめんね、と申し訳なさそうに陽菜乃が自分に羨望の眼差しを向ける女子生徒達に言うと女子生徒達もそれ以上は何も言わずに諦めたようで他の子達とペアを作りキャッチボールを始める。
真美子は陽菜乃から離れると不服そうに腕を組んでグローブを手に取る陽菜乃を見つめる。
「紫之宮さんったら、随分な言い様ね」
「いいでしょ、ほとんど事実だし」
グローブをとった陽菜乃はボールを片手に広い校庭の隅の方に走っていった。
真美子もグローブを手に取るとすでにペアを組んでいた紅音と他の女子生徒にたくさんの声をかけられている陽菜乃の3人でキャッチボールを始める。
紅音と陽菜乃は難なくボールをやり取りする。
順番で陽菜乃から投げられるボールを真美子は精一杯取ろうとするがグローブにかすり変な方向に飛んでいく。
仕方なく離れていくボールを真美子が取りに行き少し距離の出来た紅音までボールを思いっきり振りかぶって投げるがボールはすぐに地面にぶつかりそのまま転がっていくが紅音のいる所までは届かなかった。
「あなた生粋の運動音痴ね」
「なんでかしら…頭の中では完璧に出来ているはずなのよ」
真っ赤なグローブで口元を隠してケタケタと笑う紅音に真美子は苦笑いを浮かべて下投げで拾い上げたボールを紅音に渡す。
紅音はボールを受け取り数メートル離れた所の陽菜乃に投げ、スムーズにキャッチボールが成り立つ。
その様子を見ている真美子は真剣に自分のどこがダメなのか考察しイメージトレーニングをする。
陽菜乃がまた真美子にボールを投げるのでイメージトレーニング通りに受け取ることを試みるが、どうしてか体は思うように動いてくれずまた遠く離れたところに落ちる。
これには生徒たちを見て回っていた体育教師もため息を漏らし嘆いた。
「白樺…さすがに先生もここまでだと評価できないぞ…」
「うぅ…申し訳ございません…」
真美子はボールギュッと握りしてると悔しそうに唇を窄める。
そして教師の目の前で紅音に向かって思いっきり振りかぶって投げるが先程と同じように地面にぶつかり何回かバウンドした後に紅音の足元に転がっていった。
「さっきよりかは良くなったわ」
「下じゃなくて、上に向かって投げてみなよ」
慰めるように紅音と陽菜乃が褒めたりアドバイスを言う。
真美子は恥ずかしく思いながらも一生懸命体育の授業に取り組むのが精一杯だった。
2人も気を使って難なくキャッチボールができるように取りやすく投げてくれたりわざわざ自分の方から取りに行ったりと動いてくれて、その様子を見た教師もそれなら…と言いつつも苦笑いを浮かべていた。
ある程度キャッチボールが終わるとまた体育教師の指示がありチームごとに集まると、生徒達は試合の準備に取り掛かる。
10人ほどのチームで集まり打席順とあらかたのポジションを決める。
ほぼ戦力外の真美子はリーダーシップを発揮する陽菜乃の後ろでひっそりと目立たないようにチームの動向を見ていた。
「じゃあみんな、怪我なく程々に頑張ろうねー」
陽菜乃がそう言い終わるとチームで円陣を組んでおー、と声を出す。
予想通り真美子の打席順は最後デ与えられたポジションも外野の離れたところでありホッとする。
後攻の真美子達はすぐに校庭に広がりポジションに着く。
案の定、陽菜乃がピッチャーをするのでボールを打てる生徒がなかなかいないのでボールはほとんど飛んでこない。
バットに当たったと思えばピッチャーフライやファールなど内野で終わってしまうものばかりで真美子や外野を守る生徒達は何もすることがなくただグローブを手につったているだけで時間が過ぎていく。
隣を守っていた紅音も退屈そうにおおきな欠伸をかましていた。
体育教師が交代を意味するホイッスルを鳴らすと同時に生徒達の攻守が変わる。
何もしなかった真美子と紅音は校庭の端に佇み、女子生徒から黄色い声援を送られ活躍する陽菜乃を眺めたいた。
「あの子いれば勝つから楽でいいわね」
「全くですわ。ほんとに助けられてますわ」
真美子は4番として打席に立つ陽菜乃を見つめて聞こえるか分からないほどの小さな声で応援する。
一方で紅音はそんなことには興味無いらしくツヤツヤな自分の髪の毛先を気にしていた。
「紅音さんはどうして運動できるの?」
「普通よ。貴方が普通以下なだけ」
紅音は毛先を指で弄りながら隣の真美子を見上げいつものポーカーフェイスで答える。
真美子がそこまで言われてはぁ、とため息を漏らすと同時にカキーンと金属音が鳴って女子生徒がキャーと騒ぎ出す。
校庭に目を向けるとどうやら陽菜乃がホームランを打ったようで塁から塁を走っていた。
「キャー、陽菜乃様ぁ!!素敵すぎます!!」
「陽菜乃様のお陰で今回も勝利ですわぁ!!」
「そんな事ないよ、皆が繋いでくれたお陰だから、みんなで取った得点だよ」
ホームに帰ってきた陽菜乃に女子生徒達が胸元に手を当てて恋する乙女のようにたかる。
愛慕や羨望の眼差しを向ける女子生徒達に囲まれた陽菜乃は爽やかな笑顔を浮かべありがとう、ありがとうと声をかけていた。
真美子もその様子を見て羨望の眼差しを陽菜乃に向ける。
「同じ人間でもどうしてこんなに違うのかしら」
「ほんとに不思議ね」
次の打順が紅音の番らしく紅音が他の生徒から細い青色の金属バットを受け取り打席にやる気なく立つが2球目にはバットを当てて難なく塁に出た。
さらに次の打順の子も塁に出てまた更に次の子も塁に出てツーアウトのままで試合は進んでいく。
「紫之宮さん、どうしましょう。このまま行くと私の打順が来てしまいますわ」
「ほんとねー、でもやるしかないじゃん?」
「真美子様、順番でございますわ」
畏怖の表情で陽菜乃を見つめギュッと陽菜乃の体育着を掴む真美子の恐れていた打順が回ってきた。
陽菜乃は大丈夫だよ、と安心させるように優しく声をかけて真美子の頭を撫でる。
真美子は少し泣きそうな顔で行ってくると頷きバットを手に取り打席に立った。
その様子は陽菜乃などの生徒だけでなく体育教師も緊張感の中息を飲んで見つめた。
ギュッと力強くバットを握り構えて真美子はピッチャーを真っ直ぐに見据えた。
1球目は様子見で流したストライク、2球目はピッチャーの球がぶれてボール、3球目はボール球に振ってしまいツーストライクのカウントを取られる。
真美子はいったん落ち着いて校庭をみまわした。
紅音のヒットから始まり今の塁には生徒が立っていて満塁状態のツーアウトツーストライク。
緊張感からバットを握る手に汗を感じ、さらにはまだ涼しい春先なのに額と背中の下着のあたりにうっすらと汗をかく。
背後からは頑張れの声を掛けられただの授業なのに変にプレッシャーを掛けられる。
3塁にいる紅音までいつでも走り出せるように腰を低くしているし、1番アドバイスを貰いたい陽菜乃に限っては黙って真美子を見つめている。
真美子が深呼吸をしてバットを構えるとピッチャーの子も真剣な眼差しでキャッチャーミットを見つめて投げる構えをする。
注視していたピッチャーの子が投球する。
下投げにしてはスピードのあるボールを真美子は正確に捉えこれみよがし力いっぱいにバットを振った。
真美子は陽菜乃や紅音を始めとする同じクラスの女子生徒たちと体育着に着替え校庭に向かっていた。
春先のよく晴れたお昼前とはいえ冷たい風のふく度に真美子は半袖から伸びている自分の腕をさすり寒さを紛らわした。
ゆっくりと歩いて校庭に向かう生徒たちよりも先に校庭に着いていた男性体育教師の走ってこいという声がすると小走りで女子生徒たちは教師の前で列になって並ぶ。
不服そうな顔をうかべるが1番小さい紅音が先頭の列の後方に背の高い真美子が大人しく並んだ時ちょうど始業のチャイムが校庭だけでなく校内を仕切る柵の向こうにまで響き渡った。
前方で教師が野太い声で挨拶と準備体操の掛け声を発すると生徒たちは各々ぶつからないように間隔をとるとそのまま教師の指南通りに準備体操をし始める。
真美子も膝に手をついて屈伸運動や膝を伸ばしたりと準備運動を始めた。
普段から運動などあまりしない真美子からすれば体育の授業が私生活で唯一の運動の機会であるので嫌いな時間ではなかった。
流すように準備体操が終わればまた体育教師の掛け声でギュッと集まり綺麗な列に並び全員その場に体育座りをすると今日の授業内容を体育教師が話し出す。
無駄に大きい声で話す内容を聞く限り今日は3チームに分かれてソフトボールをするようで、教師がそのまま生徒を3つに分断する。
真美子は大人しく教師の指示に従って分かれると同じチームには陽菜乃と紅音がいてホッとする。
「陽菜乃様がいらっしゃるなんてとても心強いですわ」
「ありがとう。頑張るね」
幼い頃から空手や水泳などのスポーツをしていて運動神経抜群で尚且つスポーツマンシップに則った真っ直ぐな性格の陽菜乃は女子生徒の憧れもしくはそれ以上の存在であった。
そんな陽菜乃は女子生徒にそう言われるとニカッとさわやかに笑う。
運動神経は悪くないのにやる気のない紅音も真面目に体育に取り組む陽菜乃と同じチームになれて違う意味で喜んでいる。
分かれてチームメイトを確認し終えると教師が用意していた学校のソフトボール用グローブを各々手に取り軽いキャッチボールを始めた。
「陽菜乃様、ぜひ私とキャッチボールして頂けませんか?」
「何言ってるのよあなた。陽菜乃様は私とするの」
「いいえ、私ですよね?」
グローブを手にした女子生徒に次々と声をかけられる陽菜乃は嬉しそうに微笑むも困ったように眉を下げると近くにいた真美子の腰に手を回して抱き寄せる。
真美子はいきなりのことで驚きを隠せず目を丸くして微笑む陽菜乃を凝視した。
「せっかくのお誘いだけどごめんね。私、この子の運動音痴に付き合わないといけなくて…」
だからごめんね、と申し訳なさそうに陽菜乃が自分に羨望の眼差しを向ける女子生徒達に言うと女子生徒達もそれ以上は何も言わずに諦めたようで他の子達とペアを作りキャッチボールを始める。
真美子は陽菜乃から離れると不服そうに腕を組んでグローブを手に取る陽菜乃を見つめる。
「紫之宮さんったら、随分な言い様ね」
「いいでしょ、ほとんど事実だし」
グローブをとった陽菜乃はボールを片手に広い校庭の隅の方に走っていった。
真美子もグローブを手に取るとすでにペアを組んでいた紅音と他の女子生徒にたくさんの声をかけられている陽菜乃の3人でキャッチボールを始める。
紅音と陽菜乃は難なくボールをやり取りする。
順番で陽菜乃から投げられるボールを真美子は精一杯取ろうとするがグローブにかすり変な方向に飛んでいく。
仕方なく離れていくボールを真美子が取りに行き少し距離の出来た紅音までボールを思いっきり振りかぶって投げるがボールはすぐに地面にぶつかりそのまま転がっていくが紅音のいる所までは届かなかった。
「あなた生粋の運動音痴ね」
「なんでかしら…頭の中では完璧に出来ているはずなのよ」
真っ赤なグローブで口元を隠してケタケタと笑う紅音に真美子は苦笑いを浮かべて下投げで拾い上げたボールを紅音に渡す。
紅音はボールを受け取り数メートル離れた所の陽菜乃に投げ、スムーズにキャッチボールが成り立つ。
その様子を見ている真美子は真剣に自分のどこがダメなのか考察しイメージトレーニングをする。
陽菜乃がまた真美子にボールを投げるのでイメージトレーニング通りに受け取ることを試みるが、どうしてか体は思うように動いてくれずまた遠く離れたところに落ちる。
これには生徒たちを見て回っていた体育教師もため息を漏らし嘆いた。
「白樺…さすがに先生もここまでだと評価できないぞ…」
「うぅ…申し訳ございません…」
真美子はボールギュッと握りしてると悔しそうに唇を窄める。
そして教師の目の前で紅音に向かって思いっきり振りかぶって投げるが先程と同じように地面にぶつかり何回かバウンドした後に紅音の足元に転がっていった。
「さっきよりかは良くなったわ」
「下じゃなくて、上に向かって投げてみなよ」
慰めるように紅音と陽菜乃が褒めたりアドバイスを言う。
真美子は恥ずかしく思いながらも一生懸命体育の授業に取り組むのが精一杯だった。
2人も気を使って難なくキャッチボールができるように取りやすく投げてくれたりわざわざ自分の方から取りに行ったりと動いてくれて、その様子を見た教師もそれなら…と言いつつも苦笑いを浮かべていた。
ある程度キャッチボールが終わるとまた体育教師の指示がありチームごとに集まると、生徒達は試合の準備に取り掛かる。
10人ほどのチームで集まり打席順とあらかたのポジションを決める。
ほぼ戦力外の真美子はリーダーシップを発揮する陽菜乃の後ろでひっそりと目立たないようにチームの動向を見ていた。
「じゃあみんな、怪我なく程々に頑張ろうねー」
陽菜乃がそう言い終わるとチームで円陣を組んでおー、と声を出す。
予想通り真美子の打席順は最後デ与えられたポジションも外野の離れたところでありホッとする。
後攻の真美子達はすぐに校庭に広がりポジションに着く。
案の定、陽菜乃がピッチャーをするのでボールを打てる生徒がなかなかいないのでボールはほとんど飛んでこない。
バットに当たったと思えばピッチャーフライやファールなど内野で終わってしまうものばかりで真美子や外野を守る生徒達は何もすることがなくただグローブを手につったているだけで時間が過ぎていく。
隣を守っていた紅音も退屈そうにおおきな欠伸をかましていた。
体育教師が交代を意味するホイッスルを鳴らすと同時に生徒達の攻守が変わる。
何もしなかった真美子と紅音は校庭の端に佇み、女子生徒から黄色い声援を送られ活躍する陽菜乃を眺めたいた。
「あの子いれば勝つから楽でいいわね」
「全くですわ。ほんとに助けられてますわ」
真美子は4番として打席に立つ陽菜乃を見つめて聞こえるか分からないほどの小さな声で応援する。
一方で紅音はそんなことには興味無いらしくツヤツヤな自分の髪の毛先を気にしていた。
「紅音さんはどうして運動できるの?」
「普通よ。貴方が普通以下なだけ」
紅音は毛先を指で弄りながら隣の真美子を見上げいつものポーカーフェイスで答える。
真美子がそこまで言われてはぁ、とため息を漏らすと同時にカキーンと金属音が鳴って女子生徒がキャーと騒ぎ出す。
校庭に目を向けるとどうやら陽菜乃がホームランを打ったようで塁から塁を走っていた。
「キャー、陽菜乃様ぁ!!素敵すぎます!!」
「陽菜乃様のお陰で今回も勝利ですわぁ!!」
「そんな事ないよ、皆が繋いでくれたお陰だから、みんなで取った得点だよ」
ホームに帰ってきた陽菜乃に女子生徒達が胸元に手を当てて恋する乙女のようにたかる。
愛慕や羨望の眼差しを向ける女子生徒達に囲まれた陽菜乃は爽やかな笑顔を浮かべありがとう、ありがとうと声をかけていた。
真美子もその様子を見て羨望の眼差しを陽菜乃に向ける。
「同じ人間でもどうしてこんなに違うのかしら」
「ほんとに不思議ね」
次の打順が紅音の番らしく紅音が他の生徒から細い青色の金属バットを受け取り打席にやる気なく立つが2球目にはバットを当てて難なく塁に出た。
さらに次の打順の子も塁に出てまた更に次の子も塁に出てツーアウトのままで試合は進んでいく。
「紫之宮さん、どうしましょう。このまま行くと私の打順が来てしまいますわ」
「ほんとねー、でもやるしかないじゃん?」
「真美子様、順番でございますわ」
畏怖の表情で陽菜乃を見つめギュッと陽菜乃の体育着を掴む真美子の恐れていた打順が回ってきた。
陽菜乃は大丈夫だよ、と安心させるように優しく声をかけて真美子の頭を撫でる。
真美子は少し泣きそうな顔で行ってくると頷きバットを手に取り打席に立った。
その様子は陽菜乃などの生徒だけでなく体育教師も緊張感の中息を飲んで見つめた。
ギュッと力強くバットを握り構えて真美子はピッチャーを真っ直ぐに見据えた。
1球目は様子見で流したストライク、2球目はピッチャーの球がぶれてボール、3球目はボール球に振ってしまいツーストライクのカウントを取られる。
真美子はいったん落ち着いて校庭をみまわした。
紅音のヒットから始まり今の塁には生徒が立っていて満塁状態のツーアウトツーストライク。
緊張感からバットを握る手に汗を感じ、さらにはまだ涼しい春先なのに額と背中の下着のあたりにうっすらと汗をかく。
背後からは頑張れの声を掛けられただの授業なのに変にプレッシャーを掛けられる。
3塁にいる紅音までいつでも走り出せるように腰を低くしているし、1番アドバイスを貰いたい陽菜乃に限っては黙って真美子を見つめている。
真美子が深呼吸をしてバットを構えるとピッチャーの子も真剣な眼差しでキャッチャーミットを見つめて投げる構えをする。
注視していたピッチャーの子が投球する。
下投げにしてはスピードのあるボールを真美子は正確に捉えこれみよがし力いっぱいにバットを振った。
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