キス魔なヴァンパイア先輩の専用!

三月べに

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01 転生者と吸血鬼。

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 私は転生者である。
 それはついこの間、思い出した。
 鏡を見て、ふと思ったのだ。
 前下がりのボブは、黒い髪。黒い瞳は丸く大きい。ちょっとキリッとした印象の親譲りの整った顔立ち。
 他の人生をしていたはずだと。別の顔があったと。
 夜見た夢を、急に思い出した時みたい。
 ハッと思い出したのだ。
 正直、幸せな人生とは言い難い。
 何故なら父親に生まれる前に捨てられてしまったからだ。
 欠陥品のように生きてしまった。すごく生きづらい人生だった。
 生まれ変わりたいと強く願っていた。
 幸い、生まれ変わったら両親が健在。そして愛情たっぷり育てられた。
 幸せな転生だと言えるだろう。

 ただし、大きな大きな問題が一つあった。

 前世の世界は地球というところだった。
 現世の世界も地球というところ。
 違うところと言えば一つ。

 吸血鬼が実在していることだ。しかも共存している。

 幼馴染の男の子が、吸血鬼であるくらい身近な存在だ。
 学校ではヴァンパイアクラスが設けられている。
 吸血鬼だけれど、太陽にはそれほど弱くない。十字架に弱いどころか、身につけているところを目撃したことある。ニンニクも怖がらない。噛んでも人間は吸血鬼にはならない。でも吸血鬼の血は治癒力が高い。不老不死ではない。
 高校に入ってから、女子達は騒いでいる。高校では吸血行為が許されているそうで、イケメンな吸血鬼に吸われたいときゃあきゃあ騒いでいるのだ。
 吸血鬼は、皆が美人美形揃い。幼馴染も例外ではなかった。それに吸血行為は、快楽的らしい。女の子達が話していた。美形な異性と親密になれるからと、吸われたい女子は多い。
 女子である私はというと、抵抗があった。
 前世からホラー系の映画が好きで、ハロウィンでは吸血鬼の仮装だってしたことあるし、ヴァンパイアラブストーリーも好きだったけれど、血を差し出すことに抵抗を覚えた。
 だって血は生命の源じゃないか。
 それを奪われるなんて、冗談じゃない。
 幸せになりたい私にとって、命はとてつもなく大事だ。
 だから寿命を奪われるわけではなくとも、私は拒んだ。吸血はちょっとでいいらしいが、それでも嫌なものは嫌だ。
 幼い頃、転んで怪我をした際に、止まらない血を幼馴染の吸血鬼に舐められた時も、平手打ちをして怒ったことがある。以来、険悪ムード。
 しかし同じ高校に入学。そして私の血を狙っている。

「キララ!! 今日こそは吸わせろ!!」
「断るっ!!!」

 ちょっと恥ずかしいけれど、私の名前はキララ。
 音宮(おとみや)キララ。
 キラキラネーム。この世界では、割と普通だ。
 幼馴染の名前なんて、岡本(おかもと)ライトである。
 昼休みになるとヴァンパイアクラスから、ライトはやってくるのだ。
 吸血目的。
 私は逃走するために開いていた窓から飛び降りる。
 深紅色のハイウエストスカートが捲れるが、下には黒のスキニーを履いているので下着は見られない。
 私とライトのリアル鬼ごっこは、学校中が知っている。もうイベント化してしまったのだ。
 校舎のあらゆる窓から視線を感じながら、私は着地した中庭を走った。
 遅れて追いかけてきたライトが窓から飛び降りてくるが、決して振り返らない。走った。今日もランチ抜きで、昼休みは逃げ回らなくてはいけない。
 かれこれ一ヶ月はやっている鬼ごっこだ。
 そろそろ逃げ惑う場所が、なくなってきた。
 捕まるのは、時間の問題だ。
 でも逃げるが勝ち。大体、吸血行為は合意の上ではなくてはいけない。無理矢理なんて、罰が下る。教師に注意されても、ライトは追うことをやめない。味を覚えたからなのだろうか。獲物と認識されていると思うと、ゾッとする。

「追い詰めたぞ! いい加減オレの専用ランチになれ!!」
「断るって言ってるでしょうが!! 他の子にしなさいよ!」
「ハッ! 一回吸われればそんなこと言えなくなるぜ!」
「アンタに吸われる気はさらさらない!」

 ライトはこういう性格だが、他の女子生徒に言い寄られていることを知っている。度々見かけているし、ライトに吸血されたい子達に「いい加減にして」なんて言われている。
 いやこっちのセリフだ。
 いい加減嫌がる私を追い回さずに、望んでいる他の獲物にかぶり付けばいい。
 ライトファンの女の子達の不満が溜まりつつあるが、私の不満も爆発寸前である。
 選択ミスをして、校舎の行き止まりに来てしまった私とライト。

「お。ついに食われるか?」

 二階の窓から覗き込む男子生徒が笑った。
 牙が見えたので、吸血鬼だ。
 冗談じゃない。
 ジリジリ迫り来るライトに向かって駆け出す。

「!? っ! キララ、てめっ!」

 ライトの肩に足をかけて、勢いを殺すことなくジャンプした。
 開けられた窓に手をかけて、腕の力で這い上がる。なんとか二階に逃げれた。
 窓はスパンと閉める。
 伊達に一ヶ月、吸血鬼から逃げ延びていない。吸血鬼は人間より身体能力の高い。私は引けを取らないけれどね。

「ん!?」

 そのまま逃走を続けようとしたが、腕を掴まれた。
 笑っていた吸血鬼の男子生徒だ。

「追いかけるくらい血が美味しいの君? 味見させてよ」

 ゾワッと鳥肌が立った。
 世にも美しい顔を持っているからって、誰もが血を寄越すと思うなよ!
 くそ! クラッとはするけれどね! 前世から面食いなもんで!

「すみませんが、お断りします!」

 手を振り払って、私は逃走に戻る。
 すぐに窓に張り付いたライトを、視界の隅に捉えた。軽くホラーだ。
 廊下を早歩きで去ろうとしたが、窓を開けて校舎に入ったライトが来る。
 教師がいないことを確認して、私は走った。
 階段を上がって三階へ。隣の校舎に行こうと渡り廊下を駆けたが、前方に音楽の教師。癖のある黒髪をハーフに束ねた彼は、吸血鬼である。
 寡黙な先生だが、吸血鬼である以上信用出来ない。
 私は右を見た。
 昇降口の天井がある。そこに飛び移るしかないと考えた。
 二階分の高さがあるが、二階の縁(へり)に掴まれば怪我をしないはず。
 私は躊躇なく飛び降りた。
 しかし計算外なことに、そこに人がいたのだ。
 横たわって昼寝でもしていたのだろう。
 一度縁に掴まったが、運が悪いことに彼の上に落ちる形になる。
 うまい具合に避けて着地することも出来るけれど、彼が起き上がってしまた。
 衝突してしまう。そう思った瞬間、がっと受け止められた。

「おっと!」

 私を抱えるように受け止めたのは、吸血鬼だ。
 吸血鬼の男子生徒。それも学校ではちょっと有名な人だった。
 キスだけ食事を済ませるから通称・キス魔と呼ばれている二年生の生徒。
 名前は確か……リレロ。リレロ先輩。
 華やかなオレンジ色の髪をしている彼の顔立ちは、韓流スターばりに整っていて綺麗。ブラウンの明るい瞳を間近で見つめてしまった。そう見惚れている場合ではない。

「キララ!」

 ライトの声にビクッとなる。

「キララ? ああ、君が例の鬼から逃げ惑っているって噂の黒兎ちゃんか」

 噂。噂か。
 黒兎はそういうあだ名がついたのか。それとも先輩が言っているだけだろうか。
 逃亡したくとも、先輩がしっかり両足と肩を抱いているので、ジタバタもがいてもだめだった。ビクともしない。
 吸血鬼は力が強い。流石に力では叶わない。
 ストン、と目の前にライトが降ってきた。

「やっと捕まえたぜ、キララ!」

 ステーキを見るような目で見ていたものだから、思わず先輩にしがみ付く。
 そして頭が過った。
 誰かに噛まれて吸われるくらいなら、このキス魔の先輩の方がマシじゃない?

「ライトくんだっけ? 捕まえたのは、俺だよ。君じゃない。だから」

 先輩は言葉を続けようとしたけれど、その前に私は先輩に抱き付いた。

「私はリレロ先輩の専用に決定!!」
「!?」
「はっ!?」

 リレロ先輩も、ライトも驚愕した顔をする。
 私はプルプルと震えていた。それはリレロ先輩にも伝わっただろう。
 あやすように、片手で頭を撫でられた。

「ーーーーということだ。ライトくん。キララちゃんは今日から俺専用のランチになったから、諦めて」
「なっ……!」

 リレロ先輩はそう言った。ひょいっと二階の渡り廊下に私を抱えたまま飛び込むと、歩き始める。絶句したライトは置き去りだ。
 リレロ先輩に連れて来られたのは、多分二年生が使う空き教室。
 そこで私は降ろされた。

「……話を合わせてくださりありがとうございます、リレロ先輩」

 ライトがついてきていないことを確認して、口を開く。
 吸血鬼は聴覚も優れているから、気をつけなくちゃ。
 しかしリレロ先輩は、魅惑的な微笑みを浮かべたまま近付いた。

「話を合わせた? 違うよ」
「っ」

 両腕に挟まれて、壁ドン状態になる。

「キララちゃんを本当に俺専用のランチにしたんだよ?」

 韓流スターばりにイケメンの微笑だが、目は獲物を捉えた鋭い光が宿っていたものだから、私は強張った。


 
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