聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

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 ルム様は、事故で予知を見たわけではなかった。
 グラー様が、頼んだという。
 自分がいつ死んでしまうのか。
 元々、グラー様は……ーーーー。



 グラー様の屋敷に来た。
 メテ様の魔法で、一瞬で城の外の屋敷へ。
 あまりにも大きいのに、物静かな印象を抱く。
 その静けさは、寂しさまで感じた。
 メテ様は私の手をずっと握って、歩いていく。もう片方には、キーンを乗せたカゴを持ってくれている。
 真っ直ぐに、グラー様の部屋まで来た。
 ノックをして、私達の訪問を知らせる。
 扉の前で立ち止まったメテ様は、ただ顎でさして中に入るよう促す。
 私は迷ったけれどそばにいると約束したから、キーンのカゴを抱えて私だけ中に入らせてもらった。

「来てくださってありがとうございます、コーカ様」

 疲れ切った声で、グラー様はそう私に声をかける。
 温かな笑みを浮かべていたけれど、ベッドの上に横たわったままだ。
 ごくりと息を飲めば、喉の痛みを感じた。

「お邪魔します。キーンもいいですかね?」
「どうぞ」

 グラー様に許可をもらって、私はそばまで歩み寄り、ベッドの隅にカゴを置かせてもらう。
 ぽん、とベッドを軽く叩くから、私はそこに腰を下ろす。

「……」

 スン、と鼻を啜る。ちょっと耐えられそうになくて、涙が込み上がってしまった。

「大丈夫ですよ」

 グラー様は、優しく声をかける。

「大丈夫? 酷い嘘ですね」

 苦しく笑うと、涙はポロポロと落ちてしまった。

「コーカ様……限りある命を持つ者の定めです。私めは十分生きてきました。欲を言えば、もう少しだけ生きたかったですが……」

 しわのある手を伸ばしてきたから、そっと手を重ねる。
 指先が冷たい。

「なんで、ルム様に死を見てもらったんですか?」

 もう一度鼻を啜って、私は泣きながら問う。

「自分の限界を感じていましたし……何より、コーカ様が旅立つ準備が出来るまで持つか……確認をしたかったのです」

 私は余計泣いてしまった。

「なんで私のためにっ」

 私のために自分の死を正確に知ろうとしたなんて。
 どうしてそこまでしてくれるのだ。

「私がっ……本物の聖女だからですか?」

 グラー様は気付いている。きっと。
 それを口にしても、グラー様は微笑んだままだ。

「いいえ。聖女様だからではありません。あなたが好きだからですよ、コーカ様」

 変わらず、優しい声。

「魅力的なお方です。あなたに出逢えてよかったです、私も……メテも。そしてキーンも」
「キーンも?」
「ええ。キーンは……子猫ではないのでしょう? 変身できるということは、白蛇でしょうか?」

 私は振り返ってキーンを見てから、頷くことにした。

「妖精が……癒してほしいと預けてきたんです」
「そうでしたか……コーカ様なら癒せますからね」
「それは……よくわかりません」

 癒せる力を持っているかなんて、わからない。
 癒せているのかも、わからない。

「コーカ様は、癒しをもたらしてくれます。あなたに会う度、癒しを感じておりました。そして、情熱も与えてくれるのでしょう。メラがそうですね」
「情熱? 私が、ですか?」

 グラー様は、手を握ったまま微笑んだ。

「ええ。情熱を与えてもらったメラは、嬉しそうでしたよ。あなたに出逢えて本当に幸せだと思っているに違いありません」

 そうなのかな、と私は少し疑う。

「あなたは美しいお方です。惹かれて当然です。私もいくらか若ければ、メラと取り合っていたかもしれませんな」

 笑ってしまうと、グラー様は「冗談ではありませんよ、本気です」と笑った。

「あなたに出逢えた幸せをお返しするためにも、幸せにしたいと思えるのでしょうね」

 グラー様の目が、少し悲し気な目をした。

「コーカ様が元の世界に帰れる方法を見付けて差し上げたかった……」

 心残りになってしまうだろうか。

「大丈夫ですよ、グラー様。私はもう……この世界で第二の人生を歩むと決めましたから。自由に生きていきます」

 そう笑顔で告げる。
 眩しそうに微笑んだグラー様は、また私の手を包むように握り締めた。

「空から見守っております、コーカ様」

 その言葉に、また涙が零れてしまう。

「コーカ様に、この屋敷を授けます。いつか、帰る家を必要とした時にでも帰ってきてください」
「え? このお屋敷を、ですか?」
「ええ。私めには授ける子どもはおりませんから」
「……。グラー様。実は、私は……見た目通りの年齢ではありません。十六歳の少女ではないんです」

 私を孫のように思っているから、いたたまれなくなり、打ち明けることにした。

「なんとなく、そうだと思っていました。初めてお会いした日の質問で……。しかし、私からすれば子どものような年齢でしょう?」

 グラー様はなんてことないみたいに笑う。
 確かにそうだから、つられて笑ってしまった。

「若返った聖女……特別ですな。それとも今まで明かしていなかっただけで、今までの聖女様は皆、若返っていたのでしょうかね」

 ふーっと疲れたように息を深く吐くグラー様。

「少なくとも、聖女を名乗っているレイナは違うようですけれど……。彼女の魔法は聖女らしいって聞きましたがそうなんですか?」
「いえ……レイナ様は煌びやかさというか、派手な演出が加わる変わった魔法を使うだけです。個性の表れでしょう。稀にあることです」

 個性で聖女だという認識が強まったのか。
 レイナ自身、自慢していたものね。

「私の魔法は……」
「強力だと思います。もっと教えて差し上げたかったのですが……その役目はメテに託しましょう」

 私は首を横に振る。
 そういうことを聞きたいわけではない。

「……私の力では、グラー様を救えないのですか?」
「その気持ちだけで十分です。言ったでしょう、限りある命を持つ者の定めです。私の寿命が尽きる時間ですから」

 私は押し黙って、また涙を落とす。
 聖女でも、救えない。
 寿命を延ばす魔法はないのだ。

「いつ旅立つのですか?」
「ルム様にバレてしまったので……そう長くは城に滞在しないつもりです」
「帰る家はここですよ。コーカ様。いつでも、帰ってきてください」
「帰る場所まで作ってくださり、ありがとうございます。グラー様。最初からよくしてくださり、ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」

 ポロポロと涙を溢して、お礼を伝える。

「まだ足りないと思うのは、我儘でしょうかね……。抱き締めさせていただいてよろしいでしょうか?」

 私は身を乗り出して、グラー様の胸にそっと寄り添った。
 耳から伝わる鼓動はなんとなく、弱々しく思えてしまう。
 胸が苦しくなってしまった。
 本当に……。
 逝ってしまうのでしょう。
 グラー様の両腕が、私を包み込んだ。
 消えてしましそうな温もり。
 放しがたいとすがりついた。

「グラー様……私に出来ることはありませんか?」
「こうしてくれるだけで構いません……そばに来てくださりありがとうございます。本当に、ありがとうございます」

 ああ、どうか。
 どうか、どうか、私に本当にあればいい。
 癒しの力で、安らかに……。



 それから、メラ様に連れて行ってもらい、三日間、グラー様の屋敷に通い詰めた。
 三日目。ルム様の目の前で、グラー様は静かに息を引き取った。



 
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