聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

文字の大きさ
上 下
23 / 26

♰23 水と火花。

しおりを挟む


「あの、その、えっと……お時間がありましたら、お話を……」
「オレに殺されたいのか? ルム」
「えっ」

 昨日の話の続きがしたかったのだろう。
 ルム様が私と話をしたがったけれど、メテ様が却下した。すごく物騒。
 レイナと同じく退散しなくていけなくなったルム様と並び、トリスター殿下もその場をあとにした。
 キーンを乗せたバスケットを運ぼうとしたけれど、先にメテ様が持って運んでしまう。

「今日は何作るつもりだ?」

 魔法材料庫に向かいながら、メテ様は問う。

「そうですね……野営のための結界を張る道具を作りたいです。それに雨を遮る道具に……」
「……」
「……なんですか?」

 考えていたものを口にしてみれば、メテ様はじっと何か言いたげに見てきた。

「……」

 メテ様は、何も答えることなく、魔法材料庫の扉を開けて先に入っていく。
 意味深に見てくるくせに、どうして答えてくれないのだろうか。
 何を考えているのだろう。

「今日は雨を遮る道具にするか」

 メテ様が、また道具に必要なものは、何かと問う。
 それに答えると、材料をポンポンと出してくれて、作り方を教えてくれた。
 降り注ぐ雨水を吸い取っては、溜めてくれる道具。
 未来的な傘ってところだろう。
 雨の日に身につければいいということで、ペンダントにした。
 水を吸う特別な石は、藍色。
 グラ様にもらったお守りのブレスレットもあって、これで水の関連で心配することはなくなった。

「メテ様! 試してもらってもいいですか? 水を出してください!」

 私はペンダントを身につけて、軽い足取りでバルコニーへ出る。
 メテ様もあとから出てくると、少しだるそうに手すりに凭れた。

「”ーー大いなる水よ、我の手に集い、清らかに包みたまえーー”」

 私に向かって差し出した手から、水が溢れ出す。
 透明な水が私に向かって飛んできた。
 反射で目を瞑ってしまったけれど、私にはかからない。
 水面が、揺れる。メテ様が透けて見えるけれど、私はそれよりも水を目で追いかけた。

「わぁ!」

 くるっと私は回る。
 水が、私を囲ったからだ。
 それでも何か見えない壁に遮られるように、触れてこない。
 触れようと手を伸ばしても、避けるみたいにへこんでいく。
 楽しくて、またもう一度、回った。
 ひんやりした水の空気を感じる。
 こうして遊ぶのは、やっぱり楽しいものだ。
 けれども、急に、宙を舞っていた水が落ちた。
 ばしゃんっ、と足元が水浸しになる。

「め、わっ!?」

 メテ様と呼びかける前に、私の身体が浮き上がったものだから、驚いて声を上げた。
 メテ様が抱き締めるように、持ち上げてきたのだ。
 この行動の意味が分からなくて、瞠目させた。

「あの……メテ様?」

 当然、密着状態に戸惑いつつ、私はこの行動の理由を問う。
 足がつかない。水でドレスの裾を濡らさないためだろうか。
 なら最初から水を落とさなければよかったのに。

「……」

 メテ様は、まだ考えごとをしているように黙り込んだ。
 肩に腕を置いて、私はなるべく上半身を離す。

「メテ様?」

 見つめてくるルビーレッドの瞳が、近すぎる。
 左右を見つめ返していれば、やがてチカチカと目の前が煌めいた。
 それは火花だったらしい。鼻先で、火花が散る。
 ちりちりっ、と火が花が咲く。
 そこかしこに、咲いた花が集まっていき、メテ様が炎に包まれてしまった。
 熱さを感じて、一度、手を放す。
 瞬きをするくらい、刹那のことーーーー。
 花の花びらが散るように、炎が散っていったかと思えば。
 私のも、メテ様のも、黒髪が靡く。
 メテ様の頭には、先程までなかった深紅の角が伸びていた。
 渦巻くように後ろに伸びた深紅の角は、ルビーよりも濃い赤い角のようだ。
 思わず、触れた。どちらにせよ、離した身体を支えるために、彼に触れる。
 結構がっしりと角に触れた、というより、掴んでしまった。
 角らしい硬さを感じる。熱が、奥の方でこもっているみたいだ。

「ーー触れるのか」

 やっと声を発したメテ様の口はとても大きくて、ギザギザな牙が並んでいたのが、その距離から見えた。
 ルビーレッドの瞳は変わっていなかったけれど、色白だった肌は赤い鱗に覆われている。
 蜥蜴のような顔だ。いや、正しくは、竜のような顔か。
 きっと真っ赤なドラゴンにも変身するのだろう。
 ーーーーなんて、綺麗なんだ。
 私は、感嘆のため息をついてしまった。
 やっぱり、美しいと思えてしまったのだ。
 どうして、こんな姿を恐れるのだろう。
 どこを見ても、恐れるところなんて、見つからない。
 また思わず、私は彼に触れた。
 鱗はつるっとしていて、一つ一つが宝石のよう。
 黒い長い睫毛の下にあるルビーレッドの瞳は、相も変わらず魅力的だ。

「撤回する」

 メテ様は、また炎に包まれた。
 また、ちりちりっと火花が散る。
 鱗が一つずつ、剥がれるかのように、火の花びらとなって散っていく。
 その様はまた熱さを帯びていたけれど、心地よくて、それでいて。
 やっぱり美しいと思えてならなかった。

「オレは、コーカに恋している」

 人の姿に戻ったメテ様は、眩しいくらいの笑みで私をーーーー……。
 愛おしそうに、見つめた。
 とろけそうなほど、熱い眼差し。
 すっと私の腰を支えた右手が、背中を滑っていったかと思えば。
 引き寄せられた。
 距離は縮められて、気付けば、唇を重ねられていた。
 温かく感じる湿った唇が。

 ちゅ、く。

 と音を立てて、離れていく。

「その瞳で、変わらず見ていてくれ」

 すりっと額を重ねて、こすりつけて、メテ様はまた愛おしそうに微笑む。
 変身の時の火が、この胸に燃え移ってしまった気がしてならない。
 胸の奥はとても熱くて、とろけそうなほど、甘い感じがした。
 そんな私に再び唇を重ねようとするものだから、慌てて大きく開いた口を手で塞いだ。

「や、やめてくださいっ!」
「んんっ」

 メテ様は顔を振って、手を振り払おうとした。

「もう離してください! おろしてください!」
「んん」

 やだ。と言ったらしい。
 じたばた暴れたけれど、びくともしなかった。力が強すぎる。

「かぷっ」
「あ?」

 飛びつくようにして、頭にかじりついたのは、なんと子猫の姿のキーンだった。
 私を助けてくれるみたいだ。
 キーンの首根っこを掴むと、メテ様は私を下ろしてくれる。
 そして、私の腕の中にキーンを下ろした。
 ホッとしていたのも、束の間だ。

 ちゅっ。

 また私の唇を、メテ様は奪った。

「癖になるな、これ」

 メテ様はニヒルな笑みを浮かべると、もう一度噛み付くように唇を重ねようとする。
 私は精一杯、抵抗をした。

「やめてくださいって!!」
「そんな顔しておきながら、オレに気持ちが少しもないなんて、言うなよな?」
「……っうう!」

 そんな顔ってどんな顔だ。
 ドキドキと胸が高鳴っているせいか。
 そのせいで、顔が真っ赤になってしまっているのだろう。
 そもそも、私はーーーーこれがファーストキスだ!!!

「もうっ! もうっ!! メテ様なんてっ!」

 いや、多分、彼もまたファーストキスなのだろう。
 それなのに、上手いってどういうことだ。
 とろけそうなキスって……ーーーーうわぁああ! もうっ!!

「っう!」 

 私の反応を愉快そうに見つめてくるルビーレッドの瞳は、相も変わらず。
 私は、一刻も早く逃げようと思った。
 理由はもちろん、メテ様が怖いからではない。
 恥ずかし死にそうだからだ。

「次してきたら、もう目を見ませんからね!!」

 言い捨てるように、私はキーンを抱えて逃げ出した。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25
恋愛
柊先輩は私の自慢の彼氏だ。 柊先輩の好きなところは、誰にでも優しく出来るところ。 そして… 柊先輩の嫌いなところは、誰にでも優しくするところ。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

処理中です...