聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

文字の大きさ
上 下
10 / 26

♰10 水を纏う聖女。

しおりを挟む


「こんにちは、コーカ様」
「こんにちは、グラー様」

 次の日。グラー様が部屋に訪ねてきてくれた。
 白い箱を差し出してくれる。中には、ラピスラズリのような青い丸い石のブレスレット。

「水魔法から守るまじないをかけたブレスレットです。これで防げるはずです」
「いいのですか?」

 魔導師グラー様のまじないをかけてくれたブレスレット。
 メテオーラティオ様やヴィアテウス殿下に引き続き、物をもらってしまうなんて。

「どうしましょう……私、お礼が返せなくて」
「いいのですよ、無事でいてくれれば」

 グラー様は、私の頭を撫でてくれた。

「ご心配をおかけしてすみません。これで死なずに済むかもしれませんね」
「避けられるといいですね、必ず」

 ここまでしてもらって悪いと思いつつ、孫のように可愛がってくれるグラー様に笑みを見せる。

「実は、ルム様から聞きました。メテが怒っているとのことで、そばにいられないそうですね」
「え、ああ、そうです……」
「ほっほっほっ、メテも可愛いですな」
「……可愛いですかね?」

 グラー様にとって、メテオーラティオ様も可愛い孫のような存在なのだろうか。
 あの大きな美形を、孫のように思っている。竜人族で恐れられているのに。
 このおじいちゃん、すごいな。しみじみ。

「メテなら、私めが宥めておきますよ。ルム様と会ってください」
「あーそうですか? わかりました。では……ルム様と会ってきます。……メテオーラティオ様に、ルム様が殺される心配はありませんよね?」
「大丈夫ですよ、彼も人を殺したりしません。ほっほっほっ」

 グラー様は、首を左右に振ってまた笑った。
 ブレスレットを左手首につけて、グラー様と途中まで一緒に廊下を歩いていく。
 それから、城の外。庭園の手前で、ルム様と合流した。
 ふわっとしたスミレ色の髪に左目を隠した髪型。猫背なひょろっとした占い師。

「すみません、ルム様」

 最初に謝っておく。メテオーラティオ様が、絡んで厄介になったこと。
 けれども、ルム様はただ私のブレスレットに注目をしていた。

「それ……見た」
「え?」
「予知の中の君も、同じブレスレットをしてた!」
「え? じゃあ……実現したのですね」

 尋ねた時に、教えてほしかったな。
 でも、そうか。ルム様の予知が、実現しつつある。

「これ、水魔法から守ってくれるまじないがかけられているそうですよ」
「じゃあ、水の魔法で溺れ死ぬことは、ないね……」
「ええ」

 ルム様が考え込む目の前で、私は思い付く。

「そうだ、あえて実現させるのはどうですか?」
「え? ……言っている意味がわからないけど」
「ルム様が目にすることが、実現するのでしょう? 水飛沫のような大量の水に、私と、声ですよね?」

 私はルム様からテクテクと離れて、十分に距離を取る。
 遮るものは何もない。水色の空の下。

「水の魔法を使ってみせますね」
「え? コーカさん、魔法が使えるの?」
「なんのために隣で勉強をしていると思っていたのですか?」

 ルム様が目を点にするものだから、私は呆れつつもそう返す。
 はぁ、と息を吐いてから、私は気を取り直して、水の魔法を使う。

「”ーー大いなる水よ、我の手に集い、清らかに包みたまえーー”」

 突き出した右手に、水を集める。水の魔法。
 詠唱魔法を使ったのは、もちろん聖女の魔法を見せないためだ。
 それは大きなシャボン玉を作り出すように、膨れ上がった。
 水の塊を掌の前に保ちつつ、その場でくるりと回る。ついてくる水の塊が、すいーっと跡を残す。

「こんな感じですか?」

 やっぱり、陽射しの下だと煌めいていて、素敵だ。
 雫が零れ落ちて、一つ一つが光を反射する。
 二つに結んだ髪とドレスを舞い上がらせて、くるりくるりと回っていく。

「見てますか? ルム様」

 ルム様の返事がない。
 私は自分を囲うように回る水の塊の向こうにいるルム様を見た。
 話に聞いた通りの光景だと思う。
 水飛沫のような大量の水を纏う私。

「ルム様!」

 私は声を上げて、返答を待つ。

「あの?」

 隙間から、ルム様を確認する。

「ルム様?」

 ルム様は、自分の胸元を握り締めていた。
 様子がおかしい。
 私は水を操る集中力を切らした。
 バシャン、と一斉に周りに水が落ちる。

「大丈夫ですか? ルム様」

 濡れた芝生を弾むように飛び越え、ルム様の元まで戻った。

「頬が真っ赤ですよ?」

 ルム様の頬が真っ赤に染まっている。熱があるのか。いきなり、熱が出るわけない。

「……き、みっ」

 喉を詰まらせたように、声を絞り出す。

「……きれいだ……」

 それは恍惚なため息だった。
 頬を紅潮させて、熱い眼差しで見つめるルム様。
 それまさに漫画やドラマで見たことのある恋した表情。

「……今、わかった……。これの予知だったんだ。僕が君に恋する予知……」

 私は笑みを引きつらせて、首を傾げた。

「予知を見た時と同じ、感情が昂ってるんだ……」
「な……なるほど?」

 疑問形になりつつも、私は納得する。
 感情の昂りが、同じ。
 死の予知ではなかった。
 死の予知も、恋の予知も、同じ感情の昂りだっただけのこと。

「あ、あはっ」

 ルム様が、今度はお腹を抱えて笑い出した。

「あはは! ありがとう、コーカさん」

 そして、お礼を口にする。
 どうして、ここでお礼なんだろうか。

「僕のこの左目が、誰かの死を見るだけのものじゃないと教えてくれた……ありがとう」

 笑っているのに、今にも泣きそうに歪ませている。
 頼りない感じの占い師は、蹲って泣いてしまった。

「本当に、ありがとう」

 私は何もしていないのに、どうしてそんなに泣くのだろう。
 困り果て、私はただ下にあるスミレ色の頭に手を乗せた。ポンポンと跳ねさせて、あやす。
 しばらくの間、そうしてあげた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力無しの黒色持ちの私だけど、(色んな意味で)きっちりお返しさせていただきます。

みん
恋愛
魔力無しの上に不吉な黒色を持って生まれたアンバーは、記憶を失った状態で倒れていたところを伯爵に拾われたが、そこでは虐げられる日々を過ごしていた。そんな日々を送るある日、危ないところを助けてくれた人達と出会ってから、アンバーの日常は変わっていく事になる。 アンバーの失った記憶とは…? 記憶を取り戻した後のアンバーは…? ❋他視点の話もあります ❋独自設定あり ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付き次第訂正します。すみません

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

はじまりは初恋の終わりから~

秋吉美寿
ファンタジー
主人公イリューリアは、十二歳の誕生日に大好きだった初恋の人に「わたしに近づくな!おまえなんか、大嫌いだ!」と心無い事を言われ、すっかり自分に自信を無くしてしまう。 心に深い傷を負ったイリューリアはそれ以来、王子の顔もまともに見れなくなってしまった。 生まれながらに王家と公爵家のあいだ、内々に交わされていた婚約もその後のイリューリアの王子に怯える様子に心を痛めた王や公爵は、正式な婚約発表がなされる前に婚約をなかった事とした。 三年後、イリューリアは、見違えるほどに美しく成長し、本人の目立ちたくないという意思とは裏腹に、たちまち社交界の花として名を馳せてしまう。 そして、自分を振ったはずの王子や王弟の将軍がイリューリアを取りあい、イリューリアは戸惑いを隠せない。 「王子殿下は私の事が嫌いな筈なのに…」 「王弟殿下も、私のような冴えない娘にどうして?」 三年もの間、あらゆる努力で自分を磨いてきたにも関わらず自信を持てないイリューリアは自分の想いにすら自信をもてなくて…。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

私の婚約者と駆け落ちした妹の代わりに死神卿へ嫁ぎます

あねもね
恋愛
本日、パストゥール辺境伯に嫁ぐはずの双子の妹が、結婚式を放り出して私の婚約者と駆け落ちした。だから私が代わりに冷酷無慈悲な死神卿と噂されるアレクシス・パストゥール様に嫁ぎましょう。――妹が連れ戻されるその時まで! ※一日複数話、投稿することがあります。 ※2022年2月13日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

処理中です...