聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに

文字の大きさ
上 下
2 / 26

♰02 美しい人。

しおりを挟む


 与えられた部屋の白いドレッサーの鏡で確認したところ、やはり私は若返っていた。
 そのまま高校時代の姿に戻ったような姿をしている。
 艶やかなほど漆黒の長い髪は、胸の下まで伸びている。
 やや焼けた健康的な肌は、若さ故のつやつやがあった。
 チャーミングポイントの大きな瞳の周りを囲う長い睫毛は、ふさふさ。
 瞳の色は、チョコレートブラウン。
 昔の私を写真で見ているかのようだった。
 でも、昔よりも可愛い気がする。
 自分を可愛いと思えるのは、中身は大人になったからだろうか。
 昔は周りより目立つ容姿の自分が苦手だった。もっと言えば、嫌いだったのだ。
 しかし思い返せば、私のモテ期だった。それでも告白してくれる男子の想いは、理解出来ず断っていたっけ。
 大人になって、私は昔の方が可愛かったなんて思うようになった。というか、「二十代から下り坂」という体育の教師の言葉を思い知るようになったのだ。体力は落ちるが、脂肪がよくつく。運動を心がけなければ、あっという間に太ったのだ。恐ろしい、老いとは恐ろしい。
 身震いして、私は身体を見下ろす。
 太腿やふくらはぎはふっくらしているが、くびれているお腹はすっきりしている。二の腕も、ほっそりした印象。
 なかなか理想的な体型だと思う。
 若いっていい。

 必要最低限の衣服が与えられ、朝昼晩と食事が運ばれる。本当に、衣食住が与えられた。
 魔導師グラー様は、私のことを気にかけているみたいで、ほぼ毎日のように部屋を訪ねてきては不便はないかと聞いてくれる。
 私は色々と話を聞きたかったけれど、多忙だろうから、聖女に関する本や魔法の本を読ませてほしいと頼んでみた。
 だから、毎日のように本を持ってきてくれたのだ。この世界の言葉を理解出来ているから、文字も難なく読める。
 今まで現れた聖女の特徴は、美しい女性ばかりだったようだ。本にある挿絵には、長い髪の女性が多い。
 人並外れるほどの巨大な魔力は清らかで、美しい生命も生み出すと記されている。ある聖女は戦争を終わらせ、ある聖女は世界中を豊作にした。だから、今回の聖女にも、何かしらしてもらいたいと思っているらしい。
 魔導師グラー様の話によれば、あのミルキーブラウン髪の美女は、レイナという名で二十歳だそうだ。聖女の力を存分に使えるように、魔法を学んでいる最中らしい。
 果たして、本当に彼女は、この世界に何かをもたらすのだろうか。
 聖女に関する本をざっと読んだが、どこにも若返りのことは書いてなかった。若返った聖女はいなかったのか、あるいは明かしていないだけか。
 聖女召喚の現象に、ついての記載はない。
 どういう原理で異世界が繋がり、そして人間を通すのか。わからないだろうが、ちょっとくらい調べたい。
 何故、私は若返ったのか。
 自分が聖女だと名乗り出た自信満々なレイナはどうなんだろうか。私より年上だったりするのだろうか……尋ねたいところだが、レイナと会うのは難しいだろう。
 仮にも聖女として扱われているのだ。それに魔法を覚えるのに忙しいはず。
 私は私で独学で魔法を学ぶことにした。魔法の仕組みを理解し、聖女召喚の現象について仮説でもいいから立ててみたかったのだ。
 本を読むのは、基本的に部屋だった。なので部屋にこもりっきり。
 けれど、たまには外の空気を吸った方がいいと、部屋を掃除してくれる使用人のピティさんが言うので、庭園まで案内してもらう。
 ピティさんは、真っ赤な赤毛の髪を結っていて、明るく笑う女性だ。私と同い年くらいだけど、若返っている私は敬語を使う。

「ピティさん。聖女様には、やはり会えませんかね?」
「難しいでしょうね」
「ですよね」

 例え、会えたとしても、ちゃんと会話が出来るか疑わしい。あの勝ち誇った鼻笑い。最悪な第一印象通りなら、会ってもらえない可能性が高いだろう。
 廊下の前方から人が歩いてくることに気付くと、ピティさんは足を止めて頭を軽く下げた。
 最初から廊下の隅を歩いていた彼女の後ろに移動して、道を開けておく。
 横切って去るのは、とても美しい男性だった。小柄すぎる私にはかなりの長身に思える。
 肌は色白なのに、髪は真っ黒。襟足の長い髪は、漆黒だ。一番目に留まったのは、瞳だ。男性にしては長すぎる睫毛の下には、ルビーレッドの瞳。
 そのルビーレッドの瞳が、私を捉える。
 私もその瞳を追った。
 不思議そうに、見つめながらも、過ぎ去る男性。
 私は真っ赤な瞳が、不思議で見つめてしまった。流石、異世界。あんなに妖しくて鮮やかな赤い瞳の持ち主がいるなんて。

「あの方は、怖い方です」

 いなくなると、ピティさんが口を開く。

「グラー様と似た服を着てましたが……魔導師ですか?」

 グラー様は、豪華な装飾が施されたマントを肩にかけて、軍服にも似た黒い衣服を着ていた。その軍服似の黒い衣装を、先程の男性も身に纏っていたのだ。軍人と言われた方が、しっくりきそうな体格だったけど。

「はい、魔導師様ですが、決して関わってはいけません。怖い方ですから」

 ピティさんはそれだけを答えると、歩き出した。
 怖い人。恐れているから、目を合わせないように頭を下げていたのだろう。
 じゃあ、不思議がってもしょうがないか。私はガン見してしまったのだ。どう怖い人なのかはわからないけれど、次、すれ違う時は、目を背けた方が無難そう。
 居候の身だ。トラブルは避けたい。

「……あれ? 聖女様では?」
「え?」

 階段をぐるぐると下りていくと、窓の向こうにその姿を見付けた。
 ピティさんも、同じ窓を覗く。
 一階ぐらい下の先、庭園らしき花や緑が広がる場所に、ミルキーブラウン色の長い髪の女性が歩いていた。くるくるにカールさせていて、桃色かかったドレスを着ている。間違いなく、レイナだろう。
 一人ではない。当然だろう。聖女様を、一人で歩かせるわけにはいかない。
 レイナのそばにいたのは、陽射しで金髪がキラキラとしている男性のようだ。
 話をしながら、散策しているみたい。

「コーカ様。また日を改めましょう。王弟殿下であるヴィアテウス様と聖女レイナ様が散策中のようです」
「王弟殿下? あの方が?」

 あの金髪キラキラの男性が、王弟殿下。

「国王陛下と歳が離れていて、今年二十歳になりました。婚約を望む女性が後を絶たないほど、人気があるお方です。本当に美しい方なのですよ。きっと、聖女様もその魅力に当てられているかもしれません」

 ピティさんが本当に美しい方なんですよ、と言いながら微笑む。
 微笑むと言うか、頬を緩ませずにはいられないって様子。
 そんなに魅力的なのか。ここからでは、顔が見れないのが残念。
 さっきすれ違ったルビーレッドの瞳をした男性も、なかなか美しいけれど、それを超えるほどなのだろうか。
 まぁ、私が関わることのない人だろう。同じ城に暮らしていても、お会いは出来ない。別にいいけれど。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

魔力無しの黒色持ちの私だけど、(色んな意味で)きっちりお返しさせていただきます。

みん
恋愛
魔力無しの上に不吉な黒色を持って生まれたアンバーは、記憶を失った状態で倒れていたところを伯爵に拾われたが、そこでは虐げられる日々を過ごしていた。そんな日々を送るある日、危ないところを助けてくれた人達と出会ってから、アンバーの日常は変わっていく事になる。 アンバーの失った記憶とは…? 記憶を取り戻した後のアンバーは…? ❋他視点の話もあります ❋独自設定あり ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付き次第訂正します。すみません

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

弟に前世を告白され、モブの私は悪役になると決めました

珂里
ファンタジー
第二王子である弟に、ある日突然告白されました。 「自分には前世の記憶がある」と。 弟が言うには、この世界は自分が大好きだったゲームの話にそっくりだとか。 腹違いの王太子の兄。側室の子である第二王子の弟と王女の私。 側室である母が王太子を失脚させようと企み、あの手この手で計画を実行しようとするらしい。ーーって、そんなの駄目に決まってるでしょ!! ……決めました。大好きな兄弟達を守る為、私は悪役になります!

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

処理中です...