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第七章 龍が飛ぶ国。

 閑話09。

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 人間の王が治めるオフリールム王国の純白の城。
 ミサノ・アロガは、呼び出された。
 この王国の国王陛下にだ。
 国王ジェフリー・ゼオランドは、甥のシュナイダーと似た顔立ちだったが、その眼差しは厳しいものだった。
 ローニャから聞かされ、拷問の件で罰が下ると覚悟を決めて来たが、ミサノは反論するつもりだ。
 強気な眼差しのまま、ミサノはジェフリーの言葉を待つ。

「ミサノ・アロガ。複数の令嬢を拷問した罪で、罰を下す。一月、自室で幽閉を命ずる」
「国王陛下」
「反論は認めない」

 ミサノの口を開いた途端、ぴしゃりとジェフリーは釘をさした。

「もっと早く罰を下したかったが、時間が取れなかった……。これでも、軽い罰だよ。君の言い分はわかっている。しかし、それを掘り返す気はない。君にとっても分が悪いだろう? 本当はそれを明らかにして、もっと重たい罰を与えたいところだけれどね」

 令嬢達を拷問した理由は、ローニャ・ガヴィーゼラに、濡れ衣を着せるためだった。
 ミサノの言い分だと、ローニャに罪がある、だろう。そう思い込んでいる。
 濡れ衣のせいで、ローニャが学園を退学処分され、家族からは勘当された。
 ミサノの罰は、一月の幽閉では足りない。
 しかし、濡れ衣を着せた。そのことに触れてはいけない。

「君の本当の大きな罪を問うと、この王国が滅びかねない。わかっているよね? この王国中の植物が枯れてしまう」

 オフリールム王国の存亡に、関わってしまうのだ。
 精霊オリフェドートが、宣言した。滅ぼす、と。
 植物を司る精霊オリフェドートは、国一つ砂漠にすることも可能。偉大な精霊なのだ。

「っ!」

 ミサノは、唇を噛み締めた。
 植物が枯れてしまうという言葉で、ローニャが魔法契約を結んでいる精霊オリフェドートだと理解した。
 国王を脅しているではないか。
 何故、ローニャは罰を受けない!?
 学園を退学処分されても、足りない。最果てでのうのうと暮らしているのは、許せないと思った。
 ローニャへの憎しみが、膨れ上がる。

「連れていけ」

 幽閉の見張りを命じられた兵が、ミサノを挟んで連れ出そうとした。
 ミサノは、触れられることを拒み、一人で歩く。
 絶対このままじゃすませない!
 そう誓って、強い歩みで進んだ。



 その城のバルコニーで、レクシーとヘンゼルはミサノが出て行ったことを知る。

「やっとあの女に罰が下ったわね。ローニャにしたことに比べたら軽いものだけど」

 ファーのついた扇子を振り、レクシーは肩を竦めた。

「ローニャに知らせるのかい? 明日、ローニャの店が定休日だよね」
「ローニャから聞いたでしょう? シュナイダーとミサノの運命のシナリオ。二人が赤い糸で結ばれた者同士だって思っているから、妨げたなんて気にかけてしまうかも」
「そうだね……ローニャは優しいから」

 ヘンゼルが、眉毛を下げる。
 きっと悲しげな表情を浮かべるローニャを、思っているのだ。
 それをややきついつり目で横を見ながら、レクシーは言葉を続けた。

「そうね。でも知らせないといけないわ。……ああ、でも、明日は予定があるって手紙が来たわ。また来週にでも会いに行く。一緒に行かないの?」
「あー……うん。僕は遠慮するよ」

 ヘンゼルは首をさすりながら、誤魔化すように笑う。

「はぁ、ヘンゼル」

 一つ、レクシーはため息をつく。

「あなたが、ローニャに惚れていたのは、薄々わかっていたけど……遠慮することはないんじゃないの?」
「……そうかな」
「ええ、そうよ。例え、新しい場所でたくさんの求婚をされていても、あなたの気持ちは変わらないでしょう」

 ヘンゼルは、ローニャに惚れていた。
 しかし、シュナイダーという婚約者がいたから、その気持ちは押し隠していたのだ。
 シュナイダーとの関係が終わったあとも、ヘンゼルは想いを打ち明けることをやめた。

「僕は幸せにする自信がないよ、レクシー。貴族という立場にいては、ローニャを幸せに出来ないと思うし、だからって立場を捨てることは……僕には出来ないよ。そんな僕に、求婚する資格はない」

 少し悲しげな笑みをして、ヘンゼルは答える。

「ローニャは今の生活で、幸せそうなのに」

 バルコニーの遠い景色を見た。

「今の幸せな生活の中で、求婚する人達が幸せにしてほしいな。……なんて、他力本願すぎる?」

 首を傾けて、苦笑を溢す。

「ええ、男なら自分で幸せにしなさいよ」

 フン、とレクシーは鼻を鳴らす。
「レクシーならそう言葉を返すと思ったよ」と、ヘンゼルはまた苦笑い。
 フー、とレクシーが息を吐いた。

「……求婚する人達、ね。幸せなあの子の笑顔に、どれくらいの人達が魅了されたのかしら。選べる相手はよりどりみどり。いいことなのかしら?」
「どうだろうねぇ……」
「まぁ、選択肢が多いのはいいかもしれないわね。あの子の最初の選択肢は、シュナイダーだけだったもの」

 ローニャは、親に結婚相手を決められたのだ。
 もっと言えば、ローニャの知るシナリオで決まっていた。選択肢は、ないと等しい。

「……より良い伴侶を選ぶ資格があるわよね」
「うん、そうだね。きっと……」

 レクシーとヘンゼルは、呟くように言い合う。
 そして、遠い最果てにいる友人を思い、見つめていた。


 ♰♰♰♰♰♰♰♰♰
あとがき。
5巻発売中です!
コミカライズ版2巻も、よろしくお願いします!

新作「聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。」もよろしくです!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/94131096/938426519
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