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2巻
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しおりを挟む第1章 ❖ 探す者達。
1 まったり喫茶店の日常。
まったりした人生を送りたい。
それは、前世からの私の願い。
もしも来世があるのなら、もっとまったり過ごしたい。幸せな時間を多く持てる、豊かな人生を送りたい――ずっとそう願っていた。
思えば、苦しい人生だった。
苦しい時間ばかりで、幸せな時間はちょこんとあるだけ。
そんな息もつけないほどせわしない日々を過ごす中、私はついに息絶えてしまった。
そして気が付くと、とある人物に生まれ変わっていた。それは、死の直前に読んでいたネットの短編小説に登場する、悪役令嬢。小説では、主人公に婚約者を奪われてしまう、意地の悪いキャラクターとして描かれていた。
今世での私の名は、ローニャ・ガヴィーゼラ。このガヴィーゼラ伯爵令嬢の人生は、前世以上にせわしないものだった。
物心ついた頃からさまざまな教育を受け、息つく暇もないくらいの、目が回りそうな生活。
これでは、前世の二の舞になってしまう。
それでも苦しい生活に耐えられたのは、ロナードお祖父様とシュナイダーがいたから。家族で唯一優しく接してくれたお祖父様と、「一緒に愛を育もう」と言ってくれた婚約者のシュナイダー。
もしかすると、小説とは違う未来が待っているかもしれない。
けれどそのかすかな希望は、呆気なく消えてしまった。
小説の舞台となるサンクリザンテ学園に入学すると、シュナイダーは小説の主人公であるミサノ嬢と出会い、少しずつ変わっていった。そして小説の展開通り、私は婚約者を奪われて、学園を追放されてしまったのだ。
だから私は、運命を受け入れることにした。潔くシュナイダーとの恋を諦め、ガヴィーゼラ家からも飛び出して、そして……
王都のはるか東南に位置する最果ての街――ドムスカーザで、小さな喫茶店を始めた。お店の名前は、まったり喫茶店。
この街で、私は念願のまったりライフをようやく手に入れることができた。まるで夢みたい。
読みかけの本のページをそっとなぞり、思わずふふっと笑みを零す。すると、すぐ隣から声をかけられた。
「ローニャお嬢ー? 何、笑ってるの?」
カウンター席の椅子ごと身体をこちらに向け、私の顔を覗き込んでくるのは、純白のチーターさん――もとい獣人族のリュセさんだ。今は、獣と人の特徴をあわせ持つ、半獣の姿を取っている。
純白の髪はサラサラで、瞳はライトブルー。スラッとした足は、モデルさんのように長くて細い。腰回りも引きしまっていて、キラキラした王子様系のイケメンさん。でもこう見えて、彼は傭兵なのだ。
私の膝の上では、リュセさんの白くて長い尻尾がふわふわと揺れている。その動きが可愛らしくて、ますます笑みを深めると、今度は反対側から声をかけられた。
「本の中に面白いシーンでもあったの?」
視線を反対に向けると、半獣姿のジャッカルさんと目が合う。獣人族のセナさんだ。
ピーンと立った耳と髪は緑色で、瞳も深い緑色。小柄で体格も華奢な男性だけど、彼もまた傭兵の一人。
セナさんは、リュセさんと同じように私の膝に尻尾を乗せ、それをふぁさっと揺らす。
「……いえ。ただ、こんなにもまったりできることが嬉しいと感じまして」
セナさんの問いかけに、私は素直に答えた。彼らと一緒に過ごすこの時間は、私にとって一番のまったりかもしれない。
お店は営業中なので、ちょっと後ろめたさはありますが。
私は、テーブル席に座る純黒の獅子さんと青色の狼さんに目を向けた。半獣姿の二人は、もくもくとステーキを食べている。
純黒の獅子は、シゼさん。どっしりと大きくて、貫禄たっぷり。
青色の狼は、チセさん。シゼさん同様大柄で、大きな口からは鋭い犬歯が覗いている。
彼らは、獣人傭兵団の皆さん。まったり喫茶店の常連さんだ。午後は彼ら以外にほとんどお客さんが来ないので、ほぼ貸し切り状態。彼らの「一緒にまったりしよう」という言葉に甘えて、こうして本を開いていたわけだけど……
膝の上のもふもふが気になって、読書に集中できません!
獣人族には、友好の証にじゃれる習性がある。ただ、異性とじゃれるとなると、人間の私としてはやっぱり恥ずかしい。だからスキンシップは控えめにしてほしいとお願いして、普段から尻尾や肉球を堪能させてもらっているのだけど――
もふもふの誘惑に負けた私は、大人しく本をぱたんと閉じて、そっと尻尾に手を伸ばした。
白くてしなやかな、リュセさんの尻尾。ふわふわでボリュームたっぷりの、セナさんの尻尾。どちらもそれぞれの魅力があって、触り心地も抜群。
しばらく二人の尻尾を堪能していると、テーブル席から声が上がった。
「……お前ら! いい加減にしろよ! オレにもじゃれさせろ!」
テーブルをダンダンッと叩いて怒り出したのは、チセさん。ステーキは、すっかり食べ終えたみたい。
そういえば、チセさんとはまだ触れ合っていなかった。ちなみにシゼさんには、以前、滑らかな毛並みとぷにぷにの肉球を触らせてもらったことがある。
「じゃあ、チセさんの尻尾をブラシで整えてもいいですか?」
他の三人に比べて、チセさんはとてもワイルド。尻尾もごわごわしていそうだから、かねてより整えたいと思っていた。是非ともブラッシングさせてほしい。
ワクワクしながら尋ねると、チセさんは言葉を詰まらせた。
「え……嫌だし」
それから身を縮めて、尻尾を抱えるように隠してしまうチセさん。ブラッシングは、許容範囲外なのですか。残念です。
「させてやれよ、チセ」
リュセさんがからかうような笑みを向けて言うと、チセさんは毛を逆立てて答える。
「嫌だ!」
「はぁ……昔から言っているよね、チセ。ちゃんと毎日梳かしておけって」
そう口にしたのは、セナさん。
「し、してるし!」
「嘘だろ」
セナさんは肩をすくめて、断言する。なんだか親に歯磨きしていないことを見抜かれてしまった子どもみたい。彼らのやりとりがおかしくて、私は口に手を当てて笑いを堪える。
「なーなー、お嬢。お嬢の好きなタイプってどんな奴ー?」
不意に、リュセさんが顔を覗き込んできた。明るい青色の目を大きく開いて、にんまりと見つめてくる。
「リュセ……」
セナさんが咎めるような声を上げる。目を向けてみれば、不機嫌そうな表情をしていた。
一方のリュセさんは、意に介した様子もなく笑っている。
「セナは違うよなー。セナはお嬢とあまり身長も変わんないし。やっぱり、かっこいい男がいいだろ?」
確かに私は少しヒールの高い靴を履いているから、セナさんと目線が近い。だけど――
「背の高い男性は、それだけで魅力的に見えると聞いたことがあります。モテる要素の一つなのでしょう。ですが、私は人柄が素敵なら充分だと思います。セナさんはかっこいいですよ」
先日、風邪を引いた時に、セナさんは私を抱きかかえて部屋まで運び、看病までしてくれた。あの時、とてもかっこよかったもの。
落ち着いていて、優しくて、包容力のある人。
微笑んでそうフォローしたら、二人が固まってしまった。交互にその様子を見つめていると、セナさんがカップに手を伸ばし、ゴクリとラテを飲み込んだ。
「……そう」
セナさんは小さく呟いてから立ち上がり、テーブル席に移動する。その時、シゼさんがステーキを食べ終えていることに気が付いた。
「あ、シゼさん。食後のコーヒーですね」
私はステーキのお皿を下げてから、キッチンに向かう。そしてシンクにお皿を置き、ブラックコーヒーを淹れて店内に戻った。シゼさんは、無言でそれを受け取る。
「オ、オレは? オレはどうなの?」
リュセさんが立ち上がって詰め寄ってくる。なんの話かわからず、私はきょとんとしてしまった。
リュセさんも、飲みものが欲しいのかしら?
首を傾げていると、しびれを切らしたようにリュセさんが叫んだ。
「ああ、もう! ローニャお嬢はぶっちゃけ、誰が一番かっこいいと思う!?」
この中で、一番かっこいいと思う異性は誰か……ということ?
獣人傭兵団の皆さんの視線が、私に集まる。
私は、「ん~」と考えてみた。
獣人傭兵団の中で、一番かっこいいと思う男性。男性として、一番魅力のある人。
女性からは、リュセさんが一番人気だと聞いた。獣人は人間の姿に変身することもできる。リュセさんはモデルのようにスラッとしていて、王子様のようにきらびやかで、女性受けが良さそうだ。もっとも、獣人だとバレた途端に逃げられるみたいだけれど。
生まれつき強大な力を持つ獣人族。彼らはその力ゆえに、人々から恐れられている。
「……店長、前にリュセがタイプだって言ってなかったか?」
少し不貞腐れた口調でチセさんが言うと、リュセさんは苛付いた様子で尻尾を振った。
「それは知ってる。オレが聞きたいのは、お嬢が付き合いたいのは誰かってこと!」
ああ、そういう問いかけだったのですね。うーん、交際相手を考えるとなると難しい。
以前、確かに「リュセさんはかっこいい」と言ったことはありますが、あくまでも客観的な意見です。
「……私は失恋したばかりですので、今はまだ次の交際について考えられません。だから、もしもの話でもわかりません」
まだ新しい恋をする心の準備はできていない。恋愛小説を読むのでさえ、避けているもの。
私は、むっすり膨れっ面のリュセさんに向かって言葉を付け加える。
「ですが、皆さんかっこいいと思いますよ」
「んな、お世辞なんかいらねーし」
ご機嫌ななめ。
それにしても、膨れっ面の白猫さん――もといリュセさんは、とても可愛い。不機嫌でも可愛い。あれ、でも可愛いと思っていたら、余計機嫌を悪くしてしまうでしょうか。
ああ、白いもふもふをなでなでしたい。
なでなですれば、機嫌を直してくれる? 機嫌が直れば、ゴロゴロと喉を鳴らしてくれる?
……いえ、完全に猫と認識していては失礼ですね。
その時、ペシッと手にやわらかいものがぶつかった。顔を横に向けると、すぐそばでライオンの尻尾が揺れている。
尻尾の持ち主であるシゼさんは、無言でコーヒーを啜った。
……今のも、じゃれつきの一種? 寡黙な純黒の獅子さんまでもが、ちょっかいを出してきた……!?
思わずシゼさんをじっと見つめるも、彼はポーカーフェイスを崩さない。
かっこいいもふもふは、ダントツであなたです!
私が心の中で悶えていると、店の中央――カウンター席の前の床に、ぼんやりと光る円が現れた。その円の中から、可愛らしい声を上げつつ、小さな妖精達が飛び出してくる。
「わーわーわー」
蓮華の妖精、ロト達だ。
二頭身で、頭の形はまるで蓮華の蕾のよう。ぷっくりとした胴体からは、摘まんで伸ばしたような手足が生えている。肌の色はライトグリーンで、つぶらな瞳の色はペリドット。
店内になだれ込むように登場したロト達は、そのままこてんこてんと転がる。そして私達を、きょとんとした様子で見上げてきた。
しばらくポケーッとしたあと、ハッと驚きの表情を浮かべるロト達。彼らは慌てた様子で、再びこてんこてんと転がり、光の中に帰っていってしまった。
獣人傭兵団の皆さんに、驚いてしまったみたい。
ロト達は人見知りだ。特にチセさんのことは、「マスカットみたいで美味そう!」と言われて以来、食べられてしまうのではないかと恐れている。
けれどセナさんには慣れてきたようで、彼が良い人だと理解してくれたし、風邪を引いた私の看病を一緒にしてくれた。
ロト達が飛び込んだあとも、光る円は消えずに残ったまま。様子をうかがっていると、円の中から一人のロトがぴょんと出てきた。ロトは素早く床を駆け、セナさんのブーツの陰にシュバッと隠れる。そして横からちょこんと頭を出し、恐るおそるチセさんを見上げた。……やっぱり、チセさんを絶賛警戒中みたい。
「おい、ロト。オレにはバレバレでいいのか?」
ニマニマしながら言うのは、リュセさん。確かに、彼の位置からはロトの姿が丸見えだ。
びくぅんっと震え上がったロトは、リュセさんのことも警戒しつつ私の足元に走ってきて、ぴょこぴょこ飛び跳ねる。私はスカートを押さえて膝をつき、両手でロトをすくい上げた。
すると、すぐそばにセナさんがやってきて、ロトに優しく話しかける。
「ローニャが心配で来たの? ロト達の薬のおかげで、すっかり回復したよ?」
確かに、ロト達が調合してくれた薬のおかげで、すっかり良くなった。でも今日の用事はそれではないみたい。ロトは小さな手を、必死に振り回している。
何かを伝えたいみたい。短いお手てを一生懸命伸ばして、頭の周りを取り囲むように回して……
そこで、私はぴんときた。
「ああ……オリフェドートが来るのですね?」
「あいっ!」
ロトは頬を桜色に染めて、顔を綻ばせる。どうやら正解だったみたい。
オリフェドートの頭には、王冠に似た枝飾りが付いている。ロトはその特徴を伝えたかったのだろう。
私はロトの頬を優しく撫でて、光の円の中に帰してあげた。
すると、こちらの様子をうかがっていたセナさんが声をかけてくる。
「オリフェドートって……ロトが住んでいる森の主――精霊の名前だよね?」
「ええ、そうです」
以前、シゼさんから精霊の森の名について尋ねられたことがある。一緒に聞いていたセナさんは、その時のことをちゃんと覚えていたみたい。
精霊オリフェドートの森。
「ロトの作った薬から得体の知れない匂いがしてたけど、もしかして精霊のもの?」
セナさんの問いかけに、私は首を傾げる。
「えっと……私の嗅覚ではわかりませんが、薬の原材料になった薬草を摘んでくれたのは、間違いなくオリフェドートです」
精霊オリフェドートからは、いつも木の匂いがする。その匂いを指しているのだろうか。それとも、薬草そのものの匂い?
私が考え込んでいると、リュセさんが楽しそうな様子で声を上げた。
「へぇ、精霊が今から来るんだ? どんな奴か見てみてぇな」
なんだか会う気満々みたい。
でも、ロト達から獣人傭兵団の皆さんがいることを聞くだろうから、しばらく時間を置いて来るかもしれない。
「店長! それよりケーキくれ!」
チセさんの注文に、思わず笑みを浮かべる。
「はい、ただいま」
そこでオリフェドートの話は切り上げて、私は本日のおすすめケーキを切り分けるべく、キッチンへ向かったのだった。
2 閑話 元婚約者の誤算。
――時間はしばし遡る。エリート達が集うサンクリザンテ学園から、ローニャがいなくなったあとのこと。
学生寮のシュナイダーの自室で、一人の男子生徒が声を荒らげていた。
「どういうことだ!?」
ライリー男爵の子息である、ヘンゼル・ライリー。いつもは親しみやすい笑みを浮かべていることの多い彼だが、今はシュナイダーに鋭い視線を向けている。
ヘンゼルはシュナイダーの良き理解者であり、ローニャの数少ない友人の一人であった。
ローニャが学園を飛び出した時、彼は父親の仕事の手伝いで学園を休んでいた。そのため、ローニャがシュナイダーから婚約を破棄されたこと、さらには学園からも去ったことを知ったのは、つい先ほどだ。
「ローニャ嬢がミサノ嬢をいじめただって!? そんなことをするわけないだろ!?」
ヘンゼルが叫ぶたびに、後ろで一つに束ねた長い金髪がサラサラと揺れる。
そんな彼に対し、シュナイダーは険しい表情で答えた。
「ミサノ嬢だけじゃなく、他の令嬢も彼女の指示だと告白した」
「そんなはずない!」
「しかし、証言者がいるんだぞ」
「ローニャ嬢は!? ローニャ嬢は認めたのかい!?」
「……いや、身に覚えがないと言っていた」
「なら違うに決まってる! ローニャ嬢が嘘をつくわけないだろ!」
「いいや、彼女は嘘つきだったんだっ!!」
つられてシュナイダーも声を荒らげると、ヘンゼルが目を見開いて驚く。
「な、なんで……なんでローニャ嬢を信じないんだ!? 君達は愛し合っていたじゃないか! ローニャ嬢のことを誰よりも知っていて、理解していて、支えていたじゃないか!」
「そのローニャが、オレの信頼を裏切ったんだ! 陰でみっともないことをして、オレに嘘をついた!!」
もう信じられるわけがない、とシュナイダーは怒鳴った。しかしそれに怯むことなく、ヘンゼルはシュナイダーに掴みかかる。
「もしも! 万が一にも! ローニャ嬢が嫉妬でミサノ嬢に嫌がらせをしたのだとしても! 君が守るべきは、ローニャ嬢だろ!! 生徒達の前で婚約破棄までするなんて、あまりにもひどいじゃないかっ!! 君の愛は、その程度だったのか!? オレだったら……オレだったら、彼女の味方をする!! 愛しているならば、こんな時でも支えるべきだ!!」
目に涙を浮かべて、ヘンゼルはうつむいた。しかし、シュナイダーの腕を掴んでいる手の力は緩まない。
「二人が愛し合っていたから、オレはっ……オレは、ローニャ嬢を……」
か細い声で呟くヘンゼル。その呟きを聞き取れなかったシュナイダーは、親友の顔を覗き込もうとした。
その瞬間、ヘンゼルが勢いよく顔を上げ、危うく頭をぶつけるところだった。
「もうシュナイダーなんて知らない!!」
「えっ、ヘ、ヘンゼルっ!」
ヘンゼルは捨て台詞を残し、部屋から走り去っていった。シュナイダーは一人、ぽつりと呟く。
「……ローニャ本人より、怒ってどうするんだ……」
ローニャは怒りを見せず、涙さえ浮かべずに学園を去った。
「……」
あの時、学園の広間で婚約破棄を言い渡したあと――ローニャは、微笑んで去っていった。それが引っかかり、シュナイダーは表情を曇らせる。
そのまま考え込んでいると、部屋の扉の陰からヘンゼルが顔を出した。シュナイダーは、驚きに目を丸くする。
ヘンゼルはトボトボと近づいてきて、シュナイダーの上着の裾をムギュッと握りしめた。
「……頼む、一緒に探してくれ……」
グスンと鼻を鳴らしながら、ヘンゼルは弱々しく懇願する。
「ローニャ嬢の無事を確認しないと、夜も眠れない……。頼むから、ローニャ嬢を探してくれ」
「わ、わかった。探すから……」
今にも泣き出しそうな友人のために、シュナイダーは頷く。
ローニャの生家であるガヴィーゼラ伯爵家は、王都の東南地区フィオーサンを管理している。その地には、確か――とシュナイダーは記憶を辿る。
「以前、社会勉強の一環として、ローニャはフィオーサンの婦人服店の経営を任されていた。その店の店員達なら、ローニャに恩もあるようだし、家に泊めているかもしれない」
「わかった!!」
「ただ、一番可能性が高いのはローニャの祖父……って、おい!」
シュナイダーの言葉を聞くなり、ヘンゼルは再び飛び出していった。
ローニャは、両親と兄から冷遇されていた。だから彼らを頼ることはまずないだろう。匿っている可能性が一番高いのは、祖父のロナードだ。しかし、それを伝える前にヘンゼルは去ってしまった。
ローニャを探すとヘンゼルに言った以上、何もしないわけにはいかない。シュナイダーはロナードのもとへ行くことにしたのだが――
「……教えてくれるだろうか」
孫の婚約を破棄したシュナイダーに、ロナードが居場所を明かすとは思えない。
さほど期待はせず彼のもとへ出向いたところ、結果は予想通り。シュナイダーの要望は丁重に断られ、早々に帰宅を促されたのだった。
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