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乙女ゲー異世界転生者【悪役令嬢vsヒロイン】

37 心強い証人と決定打。

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 王室の要請により、私の無実の証明のために、冒険者ギルドの者が、会談に途中参加。

 冒険者ギルドの責任者、ギルドマスター。
 そして、新人指導のために行動していた冒険者。

 ヴァンデスさんと、ルクトさんが、登場してしまった。


 私は大いに喉の渇きを覚えて、再び水を飲んだ。

 その間に、ギルドマスターのヴァンデスさんは国王陛下夫妻に挨拶をした。
 ルクトさんもヴァンデスさんの一歩後ろの横で、黙って頭を下げている。

「要請に応じていただきありがとうございます。他の方々の挨拶は省略させていただき、早速、リガッティー・ファマス侯爵令嬢に関する証言をお願いいたします。ギルドマスター、ヴァンデスさん」
「かしこまりました。冒険者登録をした時点で、リガッティー・ファマス侯爵令嬢も、一人の冒険者となりました。よって、冒険者ギルドとして所属している冒険者を無実の大罪から守りたいがために、要請に応じました。ですが、真実のみを語ります」

 宰相の言葉に甘えて、他の方々への挨拶を省略。
 ヴァンデスさんは、おおらかさを感じる笑みではあったけれど、意志の強さを示す口調と目をしていた。

「先ずは、証人として自己紹介をさせていただきます。この王都の冒険者ギルドの最高責任者の地位であるギルドマスターを務めていると同時にSランク冒険者でもあるヴァンデス・ドライダーと申します。そして、こちらがAランク冒険者ルクト・ヴィアンズです」

 流石に自分達は名乗るべきだと、ヴァンデスさんは自分とルクトさんを紹介する。
 そこで、ケーヴィン様とハールク様が反応した。

「さ、最年少Aランク冒険者だっていう!?」
「ミッシェルナル王都学園の先輩だと噂で聞きましたがっ?」

 二人はしっかりルクトさんのことを学園の噂で耳にしていたのか。

「はい。冒険者としても、学園ではちょっとした有名人だと自負しています。四年生となりました。ルクト・ヴィアンズです。この前の進級祝いパーティーでも、もちろん参加をしていたので、騒動を目撃していましたよ」

 ニコッと、ルクトさんは友好的な笑みと態度で答えた。

「なので、正直驚きました。翌日、新人指導相手として対面したのが、進級祝いパーティーの騒動の渦中にいたリガッティー・ファマス侯爵令嬢でしたので」

 笑い話だと、軽く言い退けたルクトさんのせいで、私に痛みを感じさせる視線が突き刺さる。

「髪はその色ではありませんでしたが、その美しい顔は見間違えるはずがありません。新人冒険者として知り合ったのは、リガッティー・ファマス嬢です。そして、春休み初日からともに冒険者活動をしていました。証言、出来ます」

 テーブルの上の魔法薬を見て、ルクトさんは髪色を変えたことを付け加えて、本当に冒険者登録したのは私本人だと主張した。

 ずっと会談内容を聞いていたのだろうか。それとも、疑われることを見越して、段取りはもう用意していたのかしら。

「申し訳ございません。話の流れの腰を折ってしまいますが、一言伝えさせていただいてもよろしいでしょうか」

 だからこそ、一言申したい。

 そう左手で挙手して、宰相に許可を求める。
「どうぞ」と許可を出してくれたので、座ったまま、下座の方に立っている二人に軽く頭を下げた。


「ギルドマスター、ルクト先輩。この度は、私のためにも証人として来てくださったこと、感謝申し上げます。私の気晴らしによる冒険者活動で巻き込んでしまい、このようになって心苦しいのですが、おかげでアリバイの証拠を冒険者ギルドから提出してもらえて助かりました。……」


 微笑んで感謝を伝えつつも、どうして教えてくれなかったのかと、最後の部分でしおらしく言って責める。

 絶対に四日前には要請が来ていて知っていただろうに! 何故私にその事実を話してくれなかったの!
 ルクトさんが酔い潰れていたにも関わらず、ってヴァンデスさんが背負って連れて行った時でしょう!

 大事な話が、コレ! 証言の要請!!

 王家の影による私の監視者から王妃様に冒険者活動を知られて、それで冒険者ギルドに証明を要請された流れでしょ!!
 ルクトさんだって酔い覚ましのあとに、聞いただろうに!! なんで翌日には何食わぬ顔で、私と冒険者活動したのよ!!


「申し訳ございません。リガッティー嬢には、証拠の提出による要請について、もされていたため、伏せていました」

 一瞬だけ、ぴくと笑顔を強張らせたけれど、ヴァンデスさんはそう正当な理由を答えた。

 グッ! 王妃様が口止めしていたのなら、責めるに責められないッ!
 せめて、あとで腹パンぐらいさせてほしかった! 魔力を込めて波動を放つパンチ!
 脳内だけで、満足しておくわ! 仕方ない!


「それに、リガッティー嬢は何も知らない様子でしたので、せめて気晴らしの冒険者活動を心置きなくしてもらいたかったのです」


 ヴァンデスさんが、優しく笑いかけた。

「婚約破棄を突き付けられた身のため、今が冒険を楽しむ隙だと判断し、冒険者登録をして冒険者活動を始めたリガッティー嬢の、新人指導の担当となった冒険者の先輩として、オレは手伝いを快く承諾しました。彼女の苦労は平民のオレには想像しか出来ません。ですが、自棄による現実逃避ではなく、一時的な避難により、心を解放してストレスを解消するための冒険者活動です。冒険好きのオレとしては、冒険をとことん楽しむべきだと推しました」

 続いて、ルクトさん。

 私がこの日まで冒険者活動を楽しんで、気晴らしという目的を果たせるようにしてくれた。
 私の手助けとして、気晴らしの冒険者活動を、手を引いて、ちゃんと指導した上で楽しませてくれたルクトさん。
 気晴らしの冒険者活動だけじゃない。こうして、私の助けまでしてくれる。

 自棄による行動ではなく、本当に必要な気晴らしとして冒険者活動をしていたという主張もしてくれた。
 ルクトさんも勧めて、肯定したのだと。それも、この場で伝えてくれた。

「……ありがとうございます。お二人とも」

 私はもう一度、感謝を込めて、頭を下げる。
 顔を上げて二人の返事の笑みを確認してから、宰相の進行の再開を頼む目配せをした。

「それでは、冒険者ギルドによる、五日前に発生した王族殺害未遂事件の第一容疑者として名前が挙げられたリガッティー・ファマス侯爵令嬢の無実の証明を始めてもらいましょう」

 にこり、と宰相は笑みを見せては、私からヴァンデスさんに向ける。

「了解しました。さて、五日前のリガッティー嬢の行動についての証明をしましょう」
「お待ちください」

 ハールク様が挙手した。

「先ずは、冒険者登録の信憑性について納得させる説明をしていただきたいです」
「……というと、冒険者登録をしたのは、リガッティー嬢本人ではないという可能性を、ここまで来て、まだお疑いで?」

 やはり、会議中の発言は聞いていたのか。
 足掻く第一王子殿下側に、笑みを崩さないようにしてはいるが、薄くなって、ピリピリした空気を放つヴァンデスさんと。

「オレも本人だと言い切ったのに、まだ疑うんですか」

 ルクトさん。

「まっ! いいですよ! 証明のために来ましたしね! 我が冒険者ギルドの冒険者登録について、説明いたしますよ」

 パッと、ヴァンデスさんは明るい笑顔を作り直す。

「冒険者登録は15歳から登録出来る規則となっております。そして、口頭による個人情報の申告をしてもらって、登録を行う魔導道具の機能で偽りを感知しなければ、無事に本人だと認められて、そちらに置かれたタグに、個人情報を読み込ませたあと、本人の魔力を込めて登録を完遂する流れとなっています。それによって、依頼の受け取りや依頼達成の報告などによる魔導道具に、魔力とともに本人確認をした上で、手続き作業が行えるようにある仕組みなのですよ」
「その、偽りを感知する機能は、完璧ではないはず」
「ええ、そうです。ですが、その確率は限りなくに等しいですよ。偽りを見破るための機能がついた魔導道具は、魔法による隠蔽をするなり、不正とみなします。そして、本人確認は」
「大丈夫ですよ、ギルドマスター。ミッシェルナル王都学園の学生証もまた、本人確認の機能がついていますから、そこまで説明する必要はないですよ。ですよね?」

 ハールク様に丁寧に答えてやろうとしたヴァンデスさんの言葉を途中で遮って、ルクトさんがわかりやすい例えを出してやる。使用して登校しているのだから、わからないはずはない。
 ニコニコとしているルクトさんに、おずっとした頷きで答えるハールク様。

「残念ながら、冒険者登録に使用する魔導道具はこちらには運べない代物。なので、報告用の魔導道具で、本人確認をしてもらいましょう」

 そう言って、ヴァンデスさんは【収納】から、ドンッと重石のような台を出した。
 本人確認と依頼内容を確認するために使っていた魔導道具だ。

「こちらは、タグの本人確認をしたあと、引き受けた依頼内容を確認する魔導道具です。口頭で名前を名乗ってもらえば、作動が始まり、そして引き受けた依頼内容を映し出す仕様ですが、その映し出す魔導道具も運べない代物だったので、これだけです。ですが、タグの持ち主の本人確認の作動なら、これだけで十分です。こちらのルクトが先ず、見本を見せましょう」

 ヴァンデスさんが説明している間に、ルクトさんは自分の首からぶら下げたチェーンを外して、タグを取り出した。

「ルクト」

 タグをはめて、名乗ったルクトさん。重石のような魔導道具は、青白く光る。

「これが、通常の反応。そのタグが本人のものだという証拠です。試しに、どうぞ」

 ヴァンデスさんが試しを提案したのは、近かったケーヴィン様だ。
 いきなり振られて、ギョッとした反応をするケーヴィン様の前に、従僕が魔導道具をルクトさんのタグとともに持っていく。
 恐る恐ると、タグをはめ直したケーヴィン様は「ケーヴィン」と自分の名前を名乗った。
 すると、瞬時に赤い光りを灯して、ビーッと警告音が軽く鳴る。

「それが、タグの持ち主ではなかった場合の反応です」

 ヴァンデスさんが言い終わると、ケーヴィンさんの元から魔導道具が移動を始め、タグの方はルクトさんの元に戻る。

 当然、私の前に置かれた魔導道具にタグをはめて「リガッティー」と名乗るだけで、青白く光った。
 私のこのタグに関して、他人の反応は誰が見せるべきか。
 義弟のネテイトでは、身内だから、という言いがかりがつけられそう。
 ここはそばにいる魔術師シンと名乗る監視者に頼もうとしたが。

「余が試そう」

 国王陛下が、自ら言い出した。
 僅かに緊張が走る中、近衛騎士が私のタグごと魔導道具を国王陛下の前に置く。
「リガッティー・ファマス」とあえて私のフリをしてくれて、魔導道具に虚偽だという警告音を鳴らして、赤く光らせた。


「これで、この冒険者のタグあかしは、リガッティー・ファマス侯爵令嬢の物と証明されたな」


 近衛騎士がタグを私に返してくれて、そして魔導道具本体は、ヴァンデスさんの前に戻っていく。
 国王の断言には、もう第一王子も食い下がれない。

「その通りです!」

 陽気に笑い退けるヴァンデスさんが、重い空気を晴らすように肯定した。

「では、肝心の五日前の日のリガッティー嬢の行動についての話に戻ってよろしいですかな?」

 顔色が悪いミカエル殿下とジュリエットとハールク様とケーヴィン様を順番に見るヴァンデスさんは、念のための確認をする。

「す、すみませんが」

 ケーヴィン様が、挙手。

「『黒曜山』に行くなんて……新人指導では当たり前ですか? あそこは危険地帯だと王都で有名です。一番近い危険な山だと」

 嫌なところをダイレクトに触れてきたケーヴィン様には、あとで決闘を申し込んで叩き潰させてもらおうかしら。

「そうです。『黒曜山』など、あまりにも出来すぎたアリバイにも思えてしまいます。どうして、その日は『黒曜山』だったのですか?」

 まだアリバイ崩しを狙いたいハールク様が乗っかった。
 いい加減に、第一王子の意地が折れるまで、証拠を大人しく黙って聞けばいいものを……。


「……それは、正直言って……新人指導三日目で『黒曜山』へ連れて行くのは、

「「「「「えっ」」」」」


 少々遠い目になりかけているヴァンデスさんの正直すぎる答えに、ミカエル殿下達は声を零す。
 今のは、ジュリエットとネテイトも出したみたいね。

 あり得ません、とまで言わなければいいものを……もっと言葉を考えてほしかった。

「侯爵令嬢が、何故冒険者になったのか。それの理由を聞いたあとに、その日はどこに行くかと尋ねたところ、新人指導担当の冒険者ルクトが『黒曜山』に行くと言ったのです。その場で自分も、新人を連れて行くなどあり得ないと反対はしましたが……新人指導は担当する側もテストされるため、判断は任せることになっていました。リガッティー嬢自身も、レベルの高い指導はリガッティー嬢の実力を考えた上のもののため、いい指導だと褒めていましたし、反対することなく向かわれたのです」

 ポン、とヴァンデスさんは、ルクトさんの肩に手を置く。

 あの時のやり取りを思い出した私も、少々遠い目になりかける。
 半ば強引感があった。いい指導という言質を取られて、背中を押された形だった。

「リガッティー嬢は大変優秀なため、戦闘能力の高さもあって、実力は十分で、レベルの高い場所でなければ、手応えを感じることもないと判断したわけです。最初の戦闘相手は魔獣でした。いえ、戦闘とも言えませんでしたね。攻撃範囲に入るなり、雷属性の魔法を放って頭をズドンと撃ち抜いて、瞬殺しました」

 ルクトさんは笑顔で、私の冒険者としての実力を話し始める。
 魔獣の頭を撃ち抜いた、と自分のこめかみを楽しげにつついて見せた。

 ルクトさんって、本当に度胸ありますよね…………国王夫妻を始め、王国の大物が勢揃いしている場で、そんな笑顔で語ります……?
 私の正体を気付かないフリしながら、婚約破棄事件の愚痴を聞く時とは、レベルの違う度胸ですね。

「翌日には、トロールの目を一突きして、倒しました」

 ケラリと右目を指差して、ついでの情報を出す。

 直前にBランクパーティーを戦闘不能にしたことは、言わないでくれた。冒険者ギルドとしては、恥だから当然かもしれない。
 問われてもいないので、口にしないことは問題ないか。

「なので、全然余裕なリガッティー嬢には、王都以外には領地しか行ったことがないという話も聞いたので、手応えを感じるであろう『黒曜山』へと連れて行きました。『黒曜山』の『白わたわた』の採取の依頼があるのですが、運が良ければ『黒曜山』に入ることなく手前で採取も出来るというFランクの依頼です。それを口実に連れて行きましたが、『白わたわた』を採取したのは、麓のそばですよ。気晴らしと言えど、戦闘能力を活かす方が楽しいと思い、どこまで戦えるかを様子を見ながら進んだのですが、全ての魔物や魔獣の群れを討伐しました。リガッティー嬢一人で」

 新人冒険者が『黒曜山』へ行く口実はあったこと。そして気晴らしとしては難度が高くても、私には手応えがあってちょうどよかったということ。
 ルクトさんは、自慢げにも話す。

 何故か、顔をやや伏せているジュリエットが睨みつけてくる。……何よ?

「オレには最速ランクアップの最年少Aランク冒険者という肩書きがあります。それなりに実力があると自負していますので、万が一の時はリガッティー嬢を守ることも出来る自信はありました。ですが、最初からそんな心配はしていませんでしたので、オレはリガッティー嬢の代わりに【核】を取り出して集めるというサポートしかしていません」

 そんなに褒めちぎらなくていいのですが……ルクトさん。

「先程、ファマス侯爵令嬢からは、カバーをしてもらったと聞きましたが……本当に『黒曜山』ではファマス侯爵令嬢が群れを討伐して、その、41個の【核】を得たのですか」

 ハールク様が些細な指摘をしては、改めての確認を恐る恐るの口調で問う。
 無表情を努めている顔は固い。


「正しくは……リガッティー嬢の方に、オレがサポートしてもらってしまったようなものですね!」


 なんて、ルクトさんは変なことを言い出した。
 私は目をパチクリとしてしまう。
 そんな私をサラッと視線を滑らせて見てきたけれど、ヴァンデスさんに顔を向けた。

「オレがその日に、引き受けた依頼内容を言っても?」
「いいぞ」

 あ。
 また爆弾発言を投下するのね! この大物揃いの場でも!!


「リガッティー嬢とは別に、オレはBランクの依頼を引き受けました。討伐依頼でして……標的は、ストーンワームです」


 どよっと、流石に知らなかった事実に、大会議室に驚きの反応が広がった。

 今までしれっとした顔で立っていた方々も、驚かすとは……!
 あなたって人はッ!

「ストーンワーム? 『黒曜山』などに、ワームが出ることすら初耳ですぞ」

 王室騎士団長が思わずと言ってた風に、口を挟んだ。

 この中で、ストーンワームがどれほどレアか。わかっていないのは、ジュリエットだけだ。
 何がすごいの? と言いたげに、視線をウロウロさせている。

 他は、どういうことだ、とルクトさんとヴァンデスさんに注目しているというのに……。

「はい。冒険者ギルドには調査機関が存在し、魔物出没地域に偵察をするチームがいまして。『黒曜山』にストーンワームを目撃したため、すぐさまBランクの討伐依頼として出しました。それを、このルクトが引き受けたわけです。まだ憶測の範疇ではありますが、ストーンワームは『ダンジョン』から『黒曜山』へ移動したと見ていて、その調査もしているところです」

 その調査は、他でもないルクトさんと私がすることが決定しましたがね。

 当然それを言うわけなく、ヴァンデスさんはストーンワームが『黒曜山』に出てきたため調査しているという事実だけを述べる。

「ちなみに、ストーンワームは『黒曜山』の黒曜石を食らったことで、背中に食らった石の特質を持った石を生やして防御を固めるため、発見したストーンワームの背中は黒かったです。その石の一部は回収して、報告とともに提出しました。討伐をしたのは、確かにオレです。ですが、リガッティー嬢もサポートをしてくれました。ストーンワームの石の硬さに負けて、剣を折ってしまいましたが、リガッティー嬢が自分の剣を投げ渡してくれたため、無事仕留められたわけです」

 ルクトさんは、どこまでを上げていくつもりなのだろうか。
 私の冒険者活動を、国王夫妻に公認させるつもりじゃないわよね……。

 まだ大人しくしてほしい。

 ルクトさんは、自分が周辺国が取り合う冒険者になるという自覚を強く持って!

「もうリガッティー嬢の手柄にしてあげたいくらいでした!」とまで言うけれど、要らないよ!

「ここまでは証言になりますよね? 指導担当のオレが『黒曜山』へ連れて行き、魔物や魔獣の群れを合計41体相手にして討伐させ、ストーンワームという魔物の討伐もカバーしてくれて、依頼を完遂させて、夕方前には冒険者ギルド会館まで戻って報告をしました。その間に、第一王子殿下が王族殺害未遂の事件に遭われて、その犯人がリガッティー嬢と同じ特徴を持っていたそうですが……リガッティー嬢は王都にもおらず、オレと『黒曜山』で冒険者活動をしていました」

 ルクトさんは、フッと雰囲気を変えた。

 腕を組んで、口角を上げて笑みに僅かに勝ち誇った感を滲ませる。ルビー色の瞳は、好戦的にギラッとした気がした。

 挑発的なルクトさんの雰囲気。


「この場は正式に裁くための裁判ではなく、あくまで事実確認をする話し合いの場だそうですが……オレは噓偽りなく証言すると誓います。王族殺害未遂の事件が起きた日。リガッティー・ファマス嬢は、朝から夕方前まで、オレと一緒にいて『黒曜山』という王都から離れた場所に行っていたことを証言して、証人となります」


 私と行動をともにしていたルクトさんは、無罪だと断言出来る証言をする。
 私には王都にいたミカエル殿下達を襲撃する時間などなかった。


 強い声が、私の味方だと思うと、本当に心強さを感じる。


 好戦的なルビー色の瞳は、何故かジュリエットに向けられているようだ。

 どうやら、この大罪を私に被せようとしたのは、彼女だと理解しているみたい。
 私の話を聞いていれば、すぐにそう思うのも無理もないだろう。
 だけれど、確信していて、この勝負でジュリエットを打ち負かせる証言を言い放った。

 私のためだと思うと、ジーンッと胸に熱いものを感じる。


 ……だけれど。

 最年少Aランク冒険者の好戦的な視線にも気付かないほど、ジュリエットは、何故私を睨みつけているのだろうか。
 儚げ美少女容姿が功を奏したのか、まだキッと悔しげに睨み付ける美少女だけれども。それはどうだっていい。

 なんで私を一点に睨んでいるの?

 証言中のルクトさんを見なさいよ。敵意を持って対峙しているつもりのルクトさんが可哀想だから、ちょっとは目を合わせてあげなさいよ。そして、敗北を認めて悔しい顔をしなさいよ。


「それでは、ギルドマスターとしても、証人となりましょう。お望みならば、その日の冒険者活動の記録の提示も出来ますんで。裁判用の記録を、今所持してますよ。自分もその日の朝に、リガッティー・ファマス嬢と会い、そして見送ったことを証言します」


 ヴァンデスさんが、そう続いた。


「僭越ながら、自分も、監視者として、証言します。ファマス侯爵令嬢は、朝から王都を出て、『黒曜山』へ行き、そして夕方前に王都に戻ってきたと、証言します。正式な裁判の場でも、証人となると申し上げます」


 魔術師シンと名乗る監視者も、静かな声で告げる。

 味方が、ちゃんと証人となってくれることに、ジーンと感動したい。


 ……でも、ジュリエットがやっぱり睨んでくることが、気になってしまう。

 私にアリバイ証言してくれる人がいるのは、私のせいではない。事実なのだから、いるものはいるのだ。

 勝手に襲撃を私のことにして、大罪をぶっかけようとしたのはあなたでしょうに。
 別に私が自ら、反撃のために証人を用意したわけでもない。逆恨みで一心に睨むなんて、お門違いだわ。


「では、自分も証人になりましょう」

 凛とした声が響いたから、驚いて後ろを振り返る。

 魔術師シンの後ろに見えるのは、右手を上げた王室魔術師長補佐官。ディアス・オオスカー侯爵子息。
 顎下まで伸びた暗めの赤茶の髪とローブを揺らしながら、移動を始めた。


「王室魔術師長の補佐官を務めるディアス・オオスカーと申します。自分は、襲撃者はリガッティー・ファマス侯爵令嬢ではないと証明いたします」


 国王夫妻の後ろを通って、ディアス様はミカエル殿下の後ろを過ぎて、そしてジュリエットのそばで足を止める。

 底冷えしたような眼差しに見下ろされて、ジュリエットは肩を震わせるように強張らせた。

「その傷は、リガッティー・ファマス侯爵令嬢と特徴が一致した襲撃犯の闇魔法の刃で負った怪我だと伺っております」
「は、はい……」

 冷淡な質問に、ジュリエットは震えた声で返事をする。
 すぅ、と目を細めたディアス様。

「では、ガーゼを外してください。傷を見せてください」
「えっ……」
「お早く。待たせていい方など、この場にはおりません」

 ディアス様は冷淡な声のまま急かす。

 慌てて、ジュリエットは右頬のガーゼを外した。
 頬に一筋の切られた傷がある。黒く変色しているから、闇属性による毒のような症状がある証だ。

「痛かったのでしょう? その黒い変色は、闇属性により毒のように痛みを傷口に残す効果がある証です」
「は、はいっ。痛みがあったので……痛み止めの飲み薬をいただきました」

 少しだけジュリエットが緊張を解いて、僅かに笑みを浮かべた。

 
 ディアス様が痛みの有無を問うたのは。


。症状の確認のために尋ねただけです」
「え……」


 そう。事実確認のための質問だった。
 本人がきっぱりと言うものだから、ジュリエットは言葉を失う。


 ルクトさんが、サッと顔を伏せた動きをした。
 笑っちゃだめ! と強く念を送っておく。

 王室魔術師長補佐官に、全くもって気を配ってもらえないばかりか、心配しているなんて誤解すら許さないとばかりにわざわざ言い放ち、冷たく突き放されていることは、この場を凍らせる事実だ。


 笑っちゃ、だ、めっ!!


「補佐官! 早く証明をしてくださいっ」
「はい。殿下。傷を残してくださりありがとうございます。これで証明が出来ますので」
「ああ。頼みます」

 ジュリエットを庇って、ミカエル殿下が急かす。

 淡々としたディアス様は、自分の右手の手袋を外し始めた。

 ミカエル殿下とハールク様は、ディアス様のするという証明を知っている様子だ。

「この場に知らない方もいるでしょうから、説明します。自分には、魔力を追跡する能力が備わっています。この能力を使って、魔力の形跡を調べる役目を、度々任されているのです」
「――フッ」

 私は堪え切れずに、噴き出してしまい、その口を扇子の先で押さえた。

「なんだ」

 不快感を露にしてミカエル殿下は、睨みつけてくる。


「いえ、私も感謝しないといけませんと思いまして。ミカエル殿下が怪我を残すように指示をしてくださったおかげで、私の無罪が証明されるのですもの。ここまで来れば、もう決定打となりますね。ありがとうございます」


 私の感謝など、逆撫でされるだけだろう。

 私が犯人という証拠だと思い込んで残したのに、もう私ではないと明白なほど証人が揃っている。
 苛立ちが最高に募っているだろう歪んだしかめっ面のミカエル殿下。


「ディアス様の特別な能力を知った上で、ミカエル殿下はその証拠を残してくださったのですね。でも、? ?」


 扇子をパッと開いて、愉快すぎて笑い声を上げてしまいそうなのを堪えるけれど、吊り上がる笑みは堪え切れないので、それで隠しておく。

 ルクトさんも一瞥しては、プルプルと肩を震わせているけれど、頑張って声を堪えている。えらい。


 バッと、顔を向けたミカエル殿下も、やっと気付いた。


 ジュリエットは――――凍えているかのように蒼白だ。


 他でもない本命のミカエル殿下に、最初から私に大罪を被せるという計画を台無しにするために証拠を残されていたのだ。
 ミカエル殿下に指示されて、自分自身の身体に、証拠を残されてしまった。


 カタカタと震えても見える。
 お可哀想に。儚げ美少女容姿にぴったりすぎる怯えっぷり。


「残念ながら、この魔力の形跡だけで、犯人の特定は出来ません。ですが、そばにいれば、それも可能。万が一にも、億が一にも、リガッティー・ファマス侯爵令嬢の闇魔法で傷付けられたものならば、目の前の彼女の元に魔力が戻ります」

 ディアス様は本当にジュリエットに一切気を遣うことなく、右手を翳した。

 ぶわり、と黒のもやが、頬の傷口から現れる。代わりに、傷口の変色が消えた。

 それが魔力の形跡というわけか。興味津々に身を乗り出して凝視した。

「これが傷口に残った闇魔法の残骸です。元の持ち主がこの場にいれば、向かいますが……」

 ディアス様が少し手を上げて、右の掌の中で浮遊する黒いモヤを掲げる。


 だが、しかし。
 ――――沈黙。

 モヤはその掌から動かない。


「この闇魔法を放ったと言われているリガッティー・ファマス侯爵令嬢の元には、行きませんね。この場には犯人はいません。残念ながら、魔力の残滓はそう長く持ちませんので、もう消えます」

 言うなり、ディアス様の手の中にあったモヤは、空気に溶けるように消えた。

「ですが、リガッティー・ファマス侯爵令嬢の犯行ではないという証明には十分です」

 ディアス様は手袋をはめ直しながら、そうなんでもないように告げたあと。


「まだ闇魔法を放った襲撃犯が、リガッティー・ファマス侯爵令嬢と言えますか?」


 冷ややかな声が、ディアス様から突き刺さったジュリエットは、白い顔を俯かせたまま、カタカタと震える。


「……み、みまちがい……だった……みたい、です……」


 みっともないほど絞り出されたか細い声は、水を打ったように静まり返った大会議室に、落とされた。

 もうジュリエットは、私に罪を着せたがっていたのに、思いがけず台無しにされて、それも決定打を他でもない自分自身が証拠に持っていたことに、ショックを受けているようにしか見えない。


 
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