婚約破棄された悪役令嬢は冒険者になろうかと。~指導担当は最強冒険者で学園のイケメン先輩だった件~

三月べに

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一章・甘々な春休みは、最強冒険者と。

30 魔導道具の応用と相棒。

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 四日目の冒険者活動へ。

「おっと! いけねぇ……危うく忘れるところだったぜ」

 今出来る限りの話はおしまい。
 だけど、まだヴァンデスさんは何かあるようで、腰を上げれば、奥の机の方へと行った。

「ファンからだ」
「あ。昨日、来いって伝言もらったけど……」
「ドルドから、全部聞いてないな? アイツめ。ちょくちょく抜けやがって」
「なんですか?」

 魔導道具販売店のファン店長から、今度はギルドマスターに託されたらしい。やはり、急用だったのかと過ぎったが、私寄りの目の前のテーブルの上に、箱が一つ置かれた。

「通信の魔導道具の意見をくれってさ。苦情から改良希望まで、どんどん書いて送りつけろとのことだ」

 通信の魔導道具。
 ファン店長のオススメで買った新商品の通信の魔導道具【伝導ピアス】のことだろう。
 今、私とルクトさんの左耳にぶら下がっている。

 赤い長めの雫型の耳飾りを揺らして、私とルクトさんは、顔を見合わせた。
 彼も不思議がっているから、こういうことは初めてみたいだ。

「魔導道具職人が、リガッティー嬢の意見が欲しいそうですよ」
「あー……リガッティーが、案みたいなのを言って、ファン店長も伝えとくって言ってたもんなぁ。職人は凝り性だから……改良案、めっちゃ求めてきてるってことですか」

 肩を竦めるヴァンデスさんに、ルクトさんは苦笑いを零す。

「これは、その前払いですか?」
「そういうことだろうな。試供品だが、最新作。それもまた、使い勝手の感想をくれとのことですよ」
「リガッティー、開けてみて」

 改良案としての意見を要求する代わりに、試供品段階の新作魔導道具を送りつけてきたらしい。
 ルクトさんが、箱を人差し指でつついて、急かす。
 なんだろう、と思いつつも、上から蓋を外してみた。

「「「んー?」」」

 大きな箱の割には、布で包むようにポツンと真ん中に、キャッツアイの石が置かれているだけ。
 覗き込んだ三人で、首を傾げてしまった。

 確かに新しいみたいだけど……なんの魔導道具だろうか。

 私の手で、簡単に握って包み隠せるような大きさ。
 キャッツアイの石は、保護の役目を持つであろう透明な丸い筒に入っている。
 魔力を当てれば、作動するだろうけど……どんな作動をするのか。わからないまま、スイッチオンはしない方がいい。
 試供品段階だもの。
 しかも、包んだ箱からして、高額材料による新作のはず。

「えっ! 映像記録の魔導道具だって!!」
「ええ!?」
「なんと!!」

 蓋の後ろに説明書らしき紙を見付けたルクトさんが声を上げた。それに驚いたのは、無理もない。
 ヴァンデスさんも、興味津々に顔を寄せて凝視。

 映像記録の魔導道具。
 つまりは、前世でいうカメラである!

 一般的な映像記録の魔導道具は、占いにありがちな水晶玉サイズの玉の形で、特別なひと時を記録する物が浮かぶ。
 例えば、誕生日会だ。
 誕生日ケーキを囲う中、映像記録の玉を置いて、祝福されている様子を記録。
 全方向で記録したから、再生する際は、その場にいたような光景を、立体的に投影してくれるのだ。

 映像記録の魔導道具と言えば、球体の本体で周囲の光景を数分記録し、そしてその光景を、再現するように立体的に投影して見せてくれる物。というのが、一般的な認識だ。

 まだ、一つの玉に、一つの映像しか記録出来ない。
 どんどんサイズを小さくする改良をして、たくさんの映像玉を、並べて保管する流れになりつつある。
 我が家にも、私とネテイトの10歳の誕生日パーティーの映像を記録した玉が保管されていて、図書室の小さな部屋には、記録部屋と名付けられた【映像記録玉】が棚に並べられている部屋があるくらいだ。あとは、両親の結婚式や、結婚記念日パーティーの様子の記録もある。

 今回は、一番、サイズを小さくした映像記録玉だろうか?
 もう半分はサイズを縮めただろう。高価な【映像記録玉】は、やはり招待された貴族の誕生日パーティーでもよく見かけるので、今までで一番の小型だとわかった。

「や、やばい……!」
「な、なんですかっ?」

 わなわなと震えるルクトさんは、説明書から何を読み取ったのか。
 実物を持つ手が震えそうなので、一思いに教えてほしい。

「一面だけだけど、一瞬の映像……複数記録出来るって……」
「ひ、ひえぇ……」
「……!!」

 複数の写真を記録出来ちゃうカメラな魔導道具。
 あまりのすごい代物に、ヴァンデスさんが絶句している。

 私も最高技術と高級素材で作られたであろうこの試供品を手にしたまま、悲鳴を漏らす。

 一瞬の映像。つまりは、瞬間的映像と呼ばれるもの。前世では写真って言えば、わかりやすいけれど、瞬間的映像がこの世界の通称。
 または、一画映像とも呼ばれることがある。

 瞬間的映像による映像記録玉は、掌に乗る玉に映した光景を保存するだけ。
 しっかりと玉の中に、映像が焼き付いたようにあるので、覗けば確認出来るという魔導道具が一般的。

 瞬間的映像撮影家という名の趣味を持つ貴族が何人かいて、旅先の光景を記録して、ささやかな展示会すら開いてもいた。

 一つの玉に、一つの光景だけ。それが一般的。むしろ、それこそが、【一画映像記録玉】という物だという認識が根付いていた。

 なのに、私の手の中には、その一般的認識を逸脱した【新・一画映像記録玉】があるのだ。
 複数保存する記録機能を、この球体の中に、どうやったら閉じ込められるのか。
 どう転んでも、高等技術の発揮……!
 カメラな魔導道具、恐ろしや……。

「な、何故に、そんな代物が……意見要求だけの前払いなんかに……」

 私の意見がなんだというのだ……。

「わ、わかんないけど……【伝導ピアス】の案がよかったから、期待されてるんじゃない? もしくは、リガッティー嬢の意見としても期待があるとか…………侯爵令嬢リガッティーの意見要求なら、妥当な報酬だって考えた上かも」

 ファン店長も、私がリガッティー・ファマス侯爵令嬢だと調べがついて、例の職人は【伝導ピアス】の些細な疑問からきた意見だけで、これからも期待の出来る意見や案が出ると見越したのか。

 ……この最高技術の試供品を送り付けられたら、脅しにしか思えないのだけど。

 ヴァンデスさんも、万が一にも、弁償は出来ないとばかりに、距離を置いている。
 うん……私なら、弁償は出来るでしょうけど。

「とりあえず……保護は、かなり強度高めらしい」
「この強度の保護を施しただけでも、すでに高額商品ですよね……」

 この透明な保護だけでも、高額の技術を発揮しているのだ。中身の高額さや価値には、大富豪も慄くのでは……。
 これなら、落下などの損傷による故障の心配はないけれども。

「あ。中にまだ、魔導道具があるってさ。玉の方がやっぱり、映像を記録出来る魔導道具で……中の台が、映像を確認する魔導道具だってさ。うおー……映像確認と一緒に、こっちにも記録保存も可能だって」

 ひく、とルクトさんの頬が痙攣した。

 箱の中の布地を捲れば、青黒い土台がある。前側面に玉を嵌められる穴があって、長方形の上部分は、依頼板と似た仕組みで映像を投影するための画面だろう。

「冒険者登録の際の魔導道具に、少し似ている感じですね。タグに記録を移す仕組みもあり、それでいて、映像記録する玉にも、記録されたまま……。最高で15個の瞬間的映像を記録が出来る、と」

 そんなルクトさんの肩に自分の頭を乗せそうなほどの距離で、同じ説明書を覗いて確認。
 写真一枚、という数え方をしないので、説明書には、瞬間的映像は15個、記録出来ると記されていた。

「ふむ……使い方はこうですか。ルクトさん、玉を見てください」
「えっ? あ、はい」

 こちらを見るキャッツアイを確認して、後ろの方から、魔力を指先でポンと送り込んだ。

 パッと、玉が発光。
 これで、瞬間的映像こと、写真が撮れたはず。

 早速、箱から取り出した土台に、玉を嵌めて、説明書通りに、土台のスイッチをオンにする。

 土台の上部分に、私とルクトさんのツーショットが映し出された。

 撮れてる撮れてる。
 しかも、かなり高性能なカメラじゃないか。
 実物と同じの鮮明な色まで、瞬間的映像で、記録されている。
 正しくは、高画質?


 あれ……ルクトさんの頬が、ほんのり赤い?


 横を見てみれば、上半身を捻ってまで、そっぽを向くルクトさんがいた。顔を押さえて俯いている様子だけど、耳が真っ赤に染まっている。

 改めて、ツーショットを確認すると、あまりにも顔を寄せ過ぎていることに気付く。

 や、やらかした……。

「……本当に、大丈夫か?」

 ヴァンデスさんが、心底心配している。むしろ、大丈夫そうには見えないと、疑いの目すらしている気がした。

 ……私も、不安です。

 言えないだけの両想い状態。
 一目瞭然の両片想い。

 決定打を出さない…………自信がない。

「ん~。記録確認の土台は……消去操作も出来るのですね…………しかし、現像機能があればいいですね」
「現像機能?」

 意識を逸らして、目の前の魔導道具についての意見を、早速口にしてみた。
 これも画面タッチによる操作により、消去で記録の整理が可能。

 ハイテク魔導道具……。
 前世とは、発想が異なるから、同じ道具があるとは限らないのよね……。
 その場の映像を中心の玉で記録する発想から出来上がったのは、ファンタジー住民らしい発想なのかも。それを魔導道具で、可能にしちゃうからなぁ……ファンタジー異世界、素晴らしい。

 これから、異世界転生者あるあるの知識披露で、様々な開発に貢献しようかしら。

「魔導道具に記録した情報を、紙に印刷することも出来るじゃないですか。ここまで鮮やかな瞬間的映像を、紙などに印刷していくのは、課題となりますが、印刷する魔導道具用を開発。印刷した瞬間的映像は、紙として手元に保存が出来ます。これからは、絵に描いたものだけではなく、実際の映像による記録が、本などに載るわけです」
「待って? 新薬に続いて、画期的な開発しすぎじゃない? リガッティーは、新時代を作る気なの?」
「し、新時代って……。新薬は、私が考えたわけではないですし……」

 前世では、写真なんて当たり前だったけど、この異世界はまだ本には、絵を手描きだけで載せている。
 図鑑も、観察による手描きの挿絵。
 よって、確かに実際の瞬間的映像記録により、印刷された物が、本に載れば画期的。

 新薬に続いての画期的な開発に、顔を戻したルクトさんがズバッと言ってきた。


 し、新時代を作る……これまた、パワーワードである。


 異世界転生あるあるの前世の知識を披露しての新発明の貢献をするだけなのに……その表現をされては、規格外な転生者みたいじゃないか。
 私はただの乙女ゲーの悪役令嬢転生者ですが。

「新薬? どんな新薬だ?」
「ギルドマスターのヴァンデスさんにならぜひともお話ししたいですが、……またそのうちに」
「お、おう…………」

 ヴァンデスさんに話したいのは山々だが、学園長に丸投げした新治癒薬をベラベラと教えてはいけない物。
 規格外最強冒険者ルクトさんの実績の情報漏洩と同じくらいに、危険。
 こっちの方が、人々に衝撃を与えるだろうから、危険度は上回ってしまっている。

「……新しい、時代か……」
「悟らないでくださいませ?」

 フッと、ハードボイルドな感じの笑みを零すヴァンデスさんは、一体どこを見ているのだろうか。
 開幕する新時代が見えている? 見据えられている?

「この一面による瞬間的映像玉の記録から、現場や実物撮影があれば、調査などにも役立ちますから、冒険者ギルドも様変わりはしますね」
「ん? 役に立つって?」
「依頼内容に、討伐対象の過去の姿や、採取する薬草の見本も絵の代わりに、載せられるじゃないですか」
「ハッ!!」

 現像の前に、依頼掲示板で並ぶ依頼内容の中に、わかりやすい瞬間的映像こと写真を載せられること。
 そこまで考えが及ばなかったヴァンデスさんは、衝撃を受けたように震え上がっては、口をあんぐりと開けた。

「し、新時代……!」
「やめてください……」

 なんか事あるごとに出すワードになりつつある。やめて。

「こちらの土台が投影の魔導道具なので、情報記録操作機能のある魔導道具を新たに作ってもらえれば……あとは、普段と同じように依頼内容を作成すればいいって話ですよね」
「その発想がすごいんだが?」

 前世で言えば、映像を読み込んでからの作成した依頼内容にペタッと貼り付ける作業を、パソコン内でこなす感じ。
 前世の記憶を取り戻したから、この発想が簡単に出来るのだろうけれど…………頑張れば、これくらいの応用の発想ぐらい出るのでは?

「応用の発想だけですが……。例えば、現像だって、通常の本の印刷の魔導道具を応用すればいいじゃないですか。色のある挿絵は、別の魔導道具でページに現像しているそうですし、それの改良の積み重ねですね。全然、魔導道具の中身は知りませんけど。だからこその、発想だけは気軽に言えるのですが」
「だいたい仕組みを把握している魔導道具の応用案を出せるから、そんなリガッティーに意見を求めたんじゃないのかな……。ここまでもう想定以上だろうから……この試供品だけで足りるのかな……報酬」
「ルクトさん……買いかぶりです」

 この新作の試供品よりも、私の発想が価値を上回るわけがない……。
 ルクトさんは、またもや買いかぶる……。

 そんなルクトさんの横顔が、なんだか不貞腐れているように見えて、私は首を傾げた。

「ルクトさん?」
「……
「花?」

 高嶺の花? なんの話だろうか。首を捻ろうとしたが、買いかぶっている私のことだと気が付く。

 いや、そんなことは…………高い身分や教養からして、あるのだけれども。あと、この容姿。
 だからって、高嶺の花すぎる、と言われるのは、ちょっと悲しい。
 遠い存在だって思われているようで、見られているようで……距離の差が悲しい。


「絶対、オレが掴む」
「!」


 意地でも、高嶺の花は、他人を差し置いて、自分が手に入れる。
 ルクトさんのルビー色の瞳が、決意を固めていた。

 ドドドッ、と心臓の音が、胸の中で跳ね回っている。
 心音、飛び出しそう。


 


 パワーワードが、心音とともに耳元で回っている気がした。

「……えぇっと。それでは、今日の夜にでも、使用感の感想や意見などを書き綴った手紙を書きますが……送り先は?」
「ここの受け付けに渡してくれ。そうすりゃ、向こうさんにも届く。向こうさんからも返ってくるかどうはわからんが、その時は呼びかけて渡すさ。完全に素性を知っていての連絡方法だな」
「あはは……配慮をしてくれて嬉しいですね」

 お忍びで冒険者やっているご令嬢の私のためにも、冒険者ギルドを仲介にして、魔導道具職人へ手紙を送る形。
 魔導道具職人から、何故手紙が来るのか。家族から追及されないための配慮かもしれない。

 私への前払い報酬品なので、私は説明書とともに、【収納】に入れた。

「んー! じゃあ、行くか!」

 ルクトさんが先に立ち上がって、右腕をグッと伸ばして、背伸びする。
 それから、右腕に添えた左手を、私に差し出した。

「はい。今日はどこに?」
「『黒曜山』をちょっと登る~」
「わあぁー……麓より、出没が激しくなるのですか?」
「わりと、わんさか沸く」

 やっぱりそうかー、と潔く諦めて、ルクトさんの手を借りて、立ち上がる。

 早速、使用しようかな。
 【新・一画映像記録玉】で、討伐した魔物の屍の山を……。
 最新カメラで撮るのが、獲物の死体か……。
 せめて、先に、『黒曜山』でいい感じの景色でも、一つだけ記録しようか。

 四日目の冒険者活動で、引き受ける依頼は、また『黒曜山』で『白わたわた』の採取。
 他の『白わたわた』畑を見付けているので、それでいいっか、という軽い決定をした。
 新人Fランク冒険者である私に引き受けられる依頼は、『黒曜山』にはないのだ。例外にあるのは『白わたわた』のみ。


 一日休みを挟んだ冒険者活動四日目。
 前と同じく『ハナヤヤ』の街まで、【ワープ】をして、大馬を借りて移動。
 今日は、大馬を二頭借りようと主張したら、ルクトさんが「なんで?」と怪訝な顔で首を傾げてしまった。

「移動しながらの会話ならば、【伝導ピアス】の使い所です! ……あと、のためです」

 二人乗りは、移動中も会話をするためだったはず。
 それならば、耳飾りの通信具を使えば、問題なく会話が出来る。

 前は、抱き締めたくなる、と必死に堪えていたのだ。
 色々と限界地点まで来ている感が否めないので、我慢する宣言をしたのだし、密着二人乗りは回避すべき。

 物凄く不服そうに唇を尖らしながらも、コクン、と頷いて承諾したルクトさん。

 不貞腐れ気味ながらも、聞き分けのいい子どものような仕草。やめて。可愛いから、やめて。

「あと。戦闘中も通信を繋げませんか? 最長時間の作動確認しつつ、姿が見えない程度の距離で動いてみるのはどうですか? 早すぎます?」
「ああー、いいね。試そうか。でも、やるなら最初からにしよう。開ける距離を、少しずつ広げる感じで、オレに調節を任せてほしい」
「そうですね、わかりました」

 前に乗せてくれた茶色の大馬ハスキーがいたので、即指名。
 覚えていてくれたのか、ぶるるっと鼻を鳴らしては顔を上げるハスキーは、喜んでいるように見えた。

 大馬ハスキーに一人で跨って、軽く走ってもらいながら、今日の質問タイム開始。

 好きなものは何かの質問。
 無難に、好きな花は何かと、ルクトさんから問われた。
 それこそ無難に、薔薇と答えたいところだけど、貴族の庭園を数多く見てきた私の目は肥えていたのである。花に対して、目が肥えていた。……変な言葉ね。

 そう思いつつも、好きな花や惹かれた特徴、さらには秘話や、面白エピソードなども加えて、語ってしまった。

 ……花について熱弁しただけで、移動中の質問タイムが終わってしまったのだ……。

「花だけについて語りすぎて、ごめんなさい……」
「え? 面白かったし、勉強になったから、謝んなくていいよ。まぁ、プレゼントするには、多すぎて悩みそうだなとは思った」

 私だけ熱弁したのに、気を悪くするどころか、楽しかったみたいに笑い退けるルクトさん。

 やはり、イケメン。
 本当に、好……ンンッ! コホンコホン。

 三日耐えろ、三日よ、三日。

 ルクトさんから贈られるであろう最初の花が気になる……!


 また森の近くまで送ってくれた大馬を解き放って帰らせる。
 耳飾りの通信具の確認。武器の確認。

「そういえば……ルクトさん。武器は?」

 愛剣は所持してないみたいだけど、他にストックとか、持っているのだろうか。

「ん? 今日は、これをリガッティーにお披露目しておく」

 そう悪戯っ子みたいな笑みを浮かべたかと思えば、前に伸ばした手に、黒い花びらのようなものを撒き散らしながら、スライドさせるように手を動かして、剣を召喚した。

 ぶ、武器召喚……!
 しかも、どう見ても、闇属性の魔法の剣!

 黒い刃の剣。側面は鋭利な光りを放つけれど、他は純黒。
 美しいかっこよさに痺れる。

「リガッティー。ちょっと、さっきの【記録玉】を貸して」
「え? あ、はい。どうぞ」

 感動してまじまじと観察していた私に、ルクトさんが唐突に言ってきたので、【収納】から取り出した玉を手渡す。
 交換みたいに、純黒の剣を渡されてしまった。
 んん……?

「はい。構えて」
「は、はいっ」
「うん、記録したぁ」

 パッと玉が発光。
 純黒の剣を構えた姿を、瞬間的映像で記録に収められた。

「似合うと思った。元の髪色だったら、余計に黒の美少女剣士って呼ばれそう」
「恥ずかしいですね……」

 似合うからという理由。
 そういえば、私は黒な格好だった。確かに、ぴったり。

「いいですねぇ、武器召喚。私の【闇のナイフ】とは、根本的に違いますからね……。昨日見たルーシーさんの長杖は、風属性でしたね?」
「そうそう。リガッティーなら、余裕でしょ? 作っとけば?」
「欲しいですねぇ……ルクトさんのコレを参考にしてさせてもらっていいですか?」
「いいよ。お揃いだ」
「ンンッ」

 剣を返して、玉を【収納】する。

 なんかお揃いの闇属性の武器を作る方向になってしまった。

 武器召喚魔法は、高度な魔法となる。
 無属性の【収納】に工夫を加え、基盤となる武器に希望の属性を付与して作り上げた魔法武器を、付与した属性魔法を維持しながら、収納と出現をして、使用する魔法だ。
 工夫、維持、使用。器用にこなさないと、付与魔法に耐えれずに崩壊するとか。

 もう必殺技級の魔法の武器である。
 今までただの令嬢の私には不要だったけれど、今後作ってみよう。

「ストーンワームでも、武器召喚するつもりでしたか? なんか余計なことしちゃいましたね」
「いやいや。ああいう連携プレー、いいよな。それに嬉しかった。あと、付与がすごすぎ」
「ああ、昨日は、褒めちぎってくれましたね」

 ルクトさんが心底嬉しそうに笑みを零すから、私もほっこりした気持ちになる。
 お酒を飲みながら、ルクトさんはあの時の付与魔法を褒めちぎってくれた。
 一番は、連携プレーが照れくさくも、嬉しくて堪らないようで、私だって嬉しくて堪らなくなる。

 ルクトさんの闇属性の魔法の剣は、基盤になった元の剣がハーヴィスと呼ばれていたので【闇ハーヴィス】と名付けたそうだ。購入先の武器職人は、先に名前を決めてしまう癖のある人らしい。職人は皆、凝り性……合言葉。

 付与した闇属性の魔法は、切った相手の視覚を真っ暗にする効果を与えるそうだ。
 ちなみに、一撃で仕留めてしまうので、今回は付与効果は発揮されなかった。
 でも、闇の刃の斬撃が飛ぶので、それはなかなか見応えがあったので、参考にしておく。
 なんでも、魔力の込め具合で、加減が出来るらしい。

「避けますので、思いっきり放ってください」

 距離をだいぶ開けながらも、魔獣討伐中に、通信具で伝えた。
 まさに、薙ぎ払った感じで、闇の刃が一撃で、挟み込んで魔獣の群れを両断。

 わあ、一網打尽だあ。楽勝だね。
 どんな感情で、この光景を見ればいいかわからなかったけど「いいね! 連携プレー!」とはしゃいでいるルクトさんの声が、頭に響くように聞こえたので、私もジーンと感動しておいた。


 広範囲の攻撃を放っても、避けろと合図をして、戦闘を続けられる。
 そのやり取りが、新鮮で楽しいみたいだ。
 ソロだったものね。
 でも、私も二人一組による戦闘をこれほど行ったことがないので、私だって新鮮さを覚えた。楽しい気持ちもわかる。


 あちらこちらに黒曜石の岩が転がる山を少し登る。
 登り坂で、少々体力は奪われるし、その上で、戦闘だ。
 身体能力強化の魔法で、なんとかカバーしていく。


「あ、ヤバい、リガッティー!」
「はい?」

 常に番(つがい)で行動する一角の兎型魔物のディーラビット。その二組の一度に討伐しようとしていた。一体の兎の首を刎ねたところで、近付いているとわかっていたオークルナスが乱入。親子なのか、大きなこん棒を振り回す巨人二体と、一回り小さめな巨人の魔物。
 乱闘だけれど、力の差は歴然。
 ルクトさんの助言で、素早いディーラビットから討伐して、オークルナスの親を仕留める。オークルナスの子は、ルクトさんに譲られて、頭をかち割るように切り捨てた。

 そんな直後で、ふう……と息を吐いていれば、ルクトさんが血相を変えたように声を上げる。
 【探索】では近付いてくる魔物はいないのに……どうしたのかと、目で周囲を気にしつつ、言葉の続きを待った。


「お昼ご飯忘れた!!」
「……あっ」


 言われてから、空腹を自覚。それも相当の強烈な空腹。
 もう昼食の時間を、二時間以上は過ぎただろうか。
 それに気付かずに、ぶっ続けで、討伐するとは……。

 ルクトさんがメアリーさん達に”冒険一途バカ”と言っていたけれど……私も負けないかもしれない。

「ははっ!」「あははっ!」

 確かに、ヴァンデスさんの言う通り、お似合いなのだろう。
 お腹をさすって、笑い合ってしまった。

「よし。この景色を見ながら、遅い昼食をとろうぜ。
?」

 思わず、目をパチクリして、聞き返してしまう。

「ん? んー、うん。相棒。嫌?」

 今まで、ペアと言っていた。二人一組のペア。二人で組む。

 

 否、冒険者活動をするなら、相棒同士、でいいだろう。
 ルクトさんの相棒。

「いいえ。相棒って、いいですね! あいぼー!」

 私は嬉しくて、はにかんだ。


 
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