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一章・甘々な春休みは、最強冒険者と。

26 歓迎会で話し上手。

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 甘いお菓子のように美味しく食べられてしまう、私の恋愛模様。


 真っ赤になって、返答に困っていたけれど、そこで来店者が来た。
 カランコロン、とドアを開くだけで、上部分に設置されたベルが作動して鳴る。

「よぉー! ルクト!」
「ドルドさん、ケヒャーンさん」

 手を振って陽気に笑いかけたのは、真ん中わけの長めの金髪を垂らした男性だ。
 少々古びたジャケットは、元はブラウンの革素材だっただろうが、剥げてしまい、ベージュのような色がところどころ露になっている。そのジャケットの下には、オフホワイトの半袖シャツ。大きめなポケットが左右にぶら下がっているような、だらしなさを感じさせる大きなズボン。
 店の床を歩きながらも、ゴツゴツなる重たそうなブーツ。彼が、ドルドさん。

 その後ろにいるのは、無言だけど、ケヒャーンという名の男性だろう。
 黒髪を半分以上、右側に移動させて、残りの左側面は角刈りされているヘアースタイル。目付きは半開きと鋭い。小麦色の肌の持ち主で、上半身を惜しみなく晒している。その腹部に大きく張り付いているみたいに、入れ墨があった。
 小麦色の肌と、腹部に大きな入れ墨となれば、戦闘民族デイリンジャ。
 戦闘に特化した身体らしい筋肉質な体型だ。その血を流す者は、皆が幼子から力が有り余り、何もしなくても、筋肉質な身体に育つのだとか。蹴りスタイルを得意とするのか、膝に大きな大きな銀のプロテクターをつけている。その脚を包んでいるズボンは、サイドにヒラヒラとした装飾がぶら下がるデザイン。

「おいおい、ルクト。お前、カノジョ出来たんだって? やっとかよー!」

 べしべしっと、ルクトの肩を叩くドルドさん。
「痛いっす」とルクトさんは微苦笑で、その手を止める。

「紹介しろよー。なんか、ファンじぃさんが、お前に伝言だってよ。その恋人と来いって。なんっつったかなぁ……とにかく、用があるってさ! お前と恋人に!」

 ガシガシと自分の顎をかいたあと、細かい伝言を思い出そうと首を捻ったが、あっさりと諦めては、ポンッとルクトの頭を叩いた。

 ファンじぃさん……?

 恋人とは、どうやら、間違いなく私のようで、メアリーさん達が私を見てくる。

 ルクトさんとセットに用があるとなれば、必然的に私となるだろうから……私のことなのだろう。
 他にルクトさんの恋人と思われる人物がいないと思ってしまうのは、私の自惚れではないらしい。

「ファン店長が、なんで?」
「いや、知らん」
「ちゃんと伝言内容を正しく覚えてくださいよ……」
「だって、お前に恋人がいるってことが、ビックリすぎてよぉ」

 頭の手を退けてから、ルクトさんが改めて聞くも、思い出させることは難しそうな様子だ。

「まったく! ちょっとの伝言も覚えられないんだから! リーダーは!」

 プンプンッと、メアリーさんは怒った。
 やっぱり、メアリーさん達の残るパーティーメンバーか。

「いや、そう言われても。ルクトの初カノが気になりすぎて、それどころじゃ……って、うおー! 超かわい子がいる!!」

 メアリーさんの方に、ぶーっと口を尖らせて言い訳したドルドさんは、やっと私に気付いて目を丸くした。

「なんだなんだ!? あの子か!? あの子がルクトの!!? お前やるなぁ!?」

 べしばしっ。興奮しているドルドさんが、ルクトさんの背中を叩きまくる。

「痛いっす。オレが指導担当することなった新人のリガッティーですよ」
「新人をゲットとか! いやぁ、わかる。こんな美少女ならソッコーでオトすよな、同じ男だからわかるぞ! うんうん。しっかし。あんなに冒険一筋なお前が、なぁ。それでもそのうち、ちゃんとオレが、思ってたんだが」
「ちょっとっ、やめてくださいっ」
「まぁ、五分五分だから、心配だったんだわ。なんか覚えちゃったら、
「やめんかいっ!!!」
「いったぁ!?」

 ギョッと焦ったルクトさんが、慌てて言葉を止めようとした。が、気付かないドルドさん。
 腕を組んで何度も頷いていたドルドさんに、メアリーさんが平手打ちを背中にお見舞いした。

 その平手打ちが、普通じゃなかったから、びっくりしてしまう。
 土属性の魔法で、強化した掌だった。普通に、岩をまとった平手打ちだった。
 なのに、ドルドさんは、痛いと声を上げて、身をよじっただけ。無傷。

 え。防御力を上げる身体能力強化を魔法をかけている? 戦闘が始まりそうにない店の中で、何故ソレをかけているの?
 いや、その前に、強化された平手打ちが、びっくりだ。

 メアリーさんとドルドさんの日常的なやり取りなの???

 思わず、疑問の視線をルーシーさんに向けると「あ、気付いた? いつもよ」とあっけらかんと答えられた。

「いったいじゃないか、メアリー!」
「うっさいわ! 純情な子の耳を穢さないでくれる!? 今後、ルクトにも変なことを教えない!!」
「なんでだよ! オトコから学ぶことが山ほど」
「喧しい!! アンタから学ぶことはロクなもんじゃないわ!!」

 またもや強化された平手打ちが炸裂。メアリーが軽く飛び上がってまで、ドルドさんの頭から振り落とされた。

 ガツン、と衝撃を受けて倒れかけるも、踏み止まって「いってぇ~!!」と声を上げる。

 ……いってぇ~、のレベルじゃない音なんだけどなぁ……。

 これが、ルクトさんと同格ランクのパーティー……と慄くべきだろうか。

「で? ファンじぃさんと、なんかあったの?」

 日常的すぎて、何も気に留めていない様子で、ダリアさんが横から見下ろして尋ねてきた。

「あの。ファンじぃさんと呼ばれる方を知らないのですが……」

 言ってから、心当たりが頭に浮かんだ。

 私とルクトさんを恋人関係だと思っている人物。左耳の通信の魔導道具を購入した際に、話をした無愛想な店長ではないだろうか。

「コレ買ったとこの店長だよ」

 ルクトさんが、ピンッと左耳の垂れ下がる赤い耳飾りを指で弾ぎ上げた。やっぱり。

「おっ! なんだ、ピアス開けたのか!? しかもお揃いとか! ヒューヒュー!!」
「ホントだ! 今気づいたわ! ヒューヒュー!」

 ドルドさんとメアリーさんは、楽しげに冷やかした。
 物理的に激しいやり取りをするけれど、仲がいいお二人だ。

「初めまして。新人冒険者のリガッティーです」

 そばまで行って、軽く頭を下げて自己紹介。

「おう! オレは、ドルドな! ルクトの兄貴分みたいんもんだ! Aランク冒険者で、Aランクパーティーの『藍のほうき星』のリーダーだ! よろしくな!」

 ニカッと笑っては、ルクトさんの頭をわしゃわしゃと撫で回すドルドさん。確かに陽気な兄貴分ってタイプのようだ。

「んで、こっちがケヒャーンだ。無口でもいい奴だぞ」
「……」

 親指で後ろを差して、ドルドさんが紹介してくれたケヒャーンさんは、唇を動かすことなく、頷いてみせた。

「こんにちは。ケヒャーンさんは、デイリンジャ族の方ですよね? しかも……間違いでなければ、オーヴァンの血統の証の入れ墨では?」
「! ……よく、知っているな」
「あ。間違いではなかったのですね、よかったです。何年も前に書物で見ただけでしたので、自信がなかったのですが。最強の戦闘民族のオーヴァンの血族の方とお会い出来るとは、光栄です」
「……うむ」

 落ち着き払った低い声だったけれど、ケヒャーンさんは、どこか誇らしげな顔で、また一つ頷く。
 実際、誇りなんだろう。
 戦闘民族デイリンジャの中でも、歴史上、最強の名を掲げたオーヴァンの一族だ。

「え。何この子。いい子だな? もうケヒャーンが口開いたぞ」
「リガッティーは、いい子ですから。心底、いい子です」

 ケヒャーンさんは、あまり初対面の人と口を聞かないのだろうか。
 驚くドルドさんに、何故かルクトさんが念を押すみたいに、肯定する。

「それで、ドルドさん。ファン店長からの伝言ですが、急ぎでしょうか?」
「ん? んー……どうだったかなー?」

 急ぎなら、今から行くべきかと思ったが、ドルドさんが上半身を横に傾けてまで、難しそうに考え込む。

「この様子なら、急ぎじゃないわよ」
「そうですか?」

 きっぱりと断言するメアリーさん。ルクトさんに目を向ければ「いんじゃない?」と急がなくていいと答える。

 この場合の、、は、という意味になるのだけれど……本当にそれでいいのだろうか。

「うん! まぁ、そういうこった! 気が向いたら行けばいいさ!」

 伝言を頼まれた本人が、ケロッと無責任に言い退けた。


「腹減った。もう昼食おうぜ? 新人リガッティーと交流会もかねて」


 そして、マイペースに提案。

「いいわね! リガッティーと交流会!」
「えぇー……なんでそう勝手に……」
「何よ? デートプランでもあったの?」
「……いや、ないっすけど」
「じゃあ、行こう!! あたし達の行きつけの店に、ゴー!」

 私の左腕に自分の腕を絡めるメアリーさん。思いっきり、柔らかなお胸が押し付けられている。
 ルクトさんが弱々しく抗議しようも、じろりと睨まれてしまい、押しの強さに白旗を上げた。

 ルーシーさんも、私のお腹にひしっと腕を巻き付けてくっつく。
 ルーシーさんってば、物大人しい口調と雰囲気なのに、甘え上手な行動ばっかりする……あざとい。

 ダリアさんにも、背中を押されて急かされてしまい、私も無駄な抵抗はしないでおく。

 シャーリエさんにはまた後日、店に来て話す約束をした。その前に、例の店を偵察してみるとのことだ。



 連れて行かれたのは、食堂のお店。

 でも雰囲気は、料亭風の内装だ。
 とはいえ、畳の席があるわけがなく、普通に大きめな丸テーブルと椅子が、並んでいる。すでにお客はいて、賑わっていた。

 そんな空いているテーブルにつくことなく、すんなりと顔馴染みらしき店員に奥へと案内される。
 個室、らしい。
 食堂に、個室……!

 ソファーが四つ並び、真ん中に四角いテーブルがドンッと置かれた個室。個室と言っても、仕切りが置かれただけの簡易的なものだ。
 それでも、なんだか、初めてだから、ちょっとワクワクしてしまった。

「よし! 先ずは、酒だな!!」
「だめです。リガッティーは、まだ未成年です」
「何!? 年下カノジョか~! このこの!」
「そんなノリをしても、お酒はだめです」
「ぶー!」

 ドルドさんは、定位置なのか、左側のソファーにどっかりと迷いなく腰を落とす。
 ルクトさんが一番手前のソファーに座るように、背中に添えた手で促してくれたので、肩を並べて座った。
 向かいの奥のソファーには、メアリーさんとダリアさん。右側のソファーに、ケヒャーンさんとルーシーさんが座る。

「私に遠慮なく、お酒を飲んでくださって大丈夫ですよ?」
「いい子ー!!」
「だめですって! リガッティー。こういう場で酒を飲まれると、想像より騒がしくなるぞ?」
「そういうものだと理解しているつもりですが……」

 居酒屋でわいわいなら、想像がつくのだけど。
 貴族令嬢だから、想像以上に賑わうとわからないと思われたのかと、小首を傾げる。

「いいじゃない。冒険者リガッティーなんだから! 体験させてあげましょうよ!」
「そうそう! こういうところ初めてみたいに、キョロキョロしてるじゃない! 体験よ体験!」

 ダリアさんに言い当てられて、少々恥ずかしくなった。キョロキョロしすぎたかしら。

「今の10倍は、騒がしくなると思って」
「……それって、この前の爆弾亀の爆発くらいですか?」

 真剣に言ってくるから、小首を傾げたまま、真剣に例えを出す。

「いや、それは……まぁ、迷惑度はそれくらい」
「迷惑度」

 流石にあの大爆発と例えるのは……、と言いかけたが、ルクトさんはその例えに乗ってしまった。
 騒がしい迷惑度が、あの打ち上げ花火のような大爆発……?
 悪酔いにより絡みが、想像を超えるほど、激しいのかしら……?

「爆弾亀の爆発? なんの話だ?」とニコニコしながら声をかけたけれど、私達の答えを聞くことなく、ドルドさんは人数分のお酒を注文してしまった。
 ルクトさんが素早く、私が未成年だと教え、一つのお酒の注文を取り下げる。
 店員さんも、ドルドさんを叱る。
 厳しいわけではないが、未成年の飲酒は法律では認められない。
 立派な犯罪。だめ。

 私は、果汁ジュースをいただいて、他はジョッキやグラスで麦酒。

 何故か、私の冒険者歓迎会にすり替わっていて「新人リガッティーにかんぱーい!」と祝杯を上げられた。
 食堂の定番料理が並び、小皿で分けて、食べ合うスタイル。

「あら! 意外と美味しそうに食べるじゃない! 口に合うの?」
「リガッティーは美味しい物は美味しいって、言えるいい子なんです」

 メアリーさんが心底意外そうに言えば、ルクトさんはまた、いい子、と言った。

「ん? なんだなんだ? リガッティーは、お嬢様か何かか? まぁ、見りゃわかるか!」

 ジョッキをもう一杯飲み干したドルドさんは、予め、テーブルに運ばせた新しいジョッキを持ち上げる。
「リガッティーも飲めばいいのに~」と文句を言うが「だめです」とルクトさんがきっぱりと断ってくれた。

「ん? お嬢様でルクトより下ってことはぁ……おんなじ学園に通ってんじゃねーのか!?」
「はい。後輩です」
「マジか! じゃあ、あれは見たか!? !!」

 ドルドさんも、王都学園のパーティーで王子様が婚約破棄をした噂を、合流前に仕入れたもよう。

 一瞬、シンッと痛い沈黙になったが、ドルドさんが気付くことはなかった。

「はい。パーティーに参加してました」
「マジかぁ! ルクトは!? ルクトも見たか!?」
「ええ、はい。見ましたよ」

 ルクトさんは、すすーっとジョッキの麦酒を飲みながら、そう答える。

 メアリーさん達も、目立った反応を出さないので、どうやら明かさない方がいいらしい。

 ドルドさんに意地悪をするというわけではなく、単にドルドさんなら口を滑らしそうだと予感がするので、今は知らないままにした方がいいという判断なのかもしれない。
 防音されている個室ではないので、驚いて声を上げれば、店内に轟きそうだ。
 私も、伏せておこう。

「三角関係だって!? 婚約者の侯爵令嬢が、子爵令嬢に暴力振ったとか! 女の嫉妬は怖いなっ、ってぶほ!?」
「浮気する男が悪いのよ!」
「そうよ!」
「浮気相手だって、知ってて手を出した泥棒猫なの!」

 ゲラゲラと笑っていたドルドさんに、メアリーさんの拳が脇腹に入り、向かい側のルーシーさんの長杖が腹部に食い込まされた。

 両方、魔法である。
 メアリーさんの拳は、また土属性の魔法で強化されていたし、ルーシーさんの長杖は、武器召喚による特殊な杖による風属性の衝撃波を込めた打撃。

 て、店内で……魔法で、物騒にツッコミ……?

 ポカンと、あんぐり開けてしまいそうな口を、なんとか右手で押さえておく。
 しかし、ドルドさんの方は「ぐっ。な、なんだよぉ」とお腹をさすっては、ジョッキの続きを飲む。またもや、身体能力強化により、軽い痛みを受け流した反応しかしない。

「あ、あの……何故、魔法を使ってまで、その、ドルドさんにツッコミ? を、するのですか?」
「ああ、ごめん、驚いたわよね。あたしとドルドは幼馴染でね。昔から、こうやって、身体能力強化の魔法の発動を確かめたり、鍛えてきたのよ。その延長線上で、パーティーメンバーも、やりがち」

 挙手して問うと、けらりとメアリーさんが答えた。

 つまり……昔から、ドルドさんの身体能力強化の魔法の効果を確かめては、強化を上げるために、日常的なやり取りの中で魔法による物理的のツッコミをおこなってきたと……?

「常に、身体能力強化の魔法をかけているってことですか? ドルドさん、すごいですね」
「まぁな! 就寝中の奇襲であろうとも、いつ何時でも、戦闘が出来るってことよ!」
「こうカッコつけてるけど、きっかけは、痛いのが嫌」
「やめろぉお! カッコつけさせろ!!」

 痛いのが嫌だからがきっかけだとしても、寝ている間も魔法をかけっぱなしかぁ。すごいなぁ。

 Aランク冒険者は、何かしら、特質なものを持っているものかしら?
 ルクトさんも、無属性の魔法の極めっぷりがすごいものねぇ。

「そうだ。結局、って、具体的になんの罪に問われてるの?」

 グラスを両手で持っていたルーシーさんは、ずいっと身を乗り出した。頬がもう赤らんでいるけれど、お酒を飲むと顔が赤くなりやすいタイプのもよう。
 庇護欲がそそる女性だろうけど……さっきの武器召喚によるツッコミを見れば、全然弱くないわよねぇ。

「そうそう。どんなことしたのよ?」
「危害ってことは、泥棒猫はどんな怪我をしたの?」

 メアリーさんも、ダリアさんも、グラスを片手に、問い詰めてくる。

「怪我ですか……? さぁ? 子爵令嬢は、強めの光魔法の使い手なので、どこを怪我したのかはわかりませんねぇ」

 本当に、怪我は知らない。
 各攻略対象者ルートによって、違うのよねぇ……。

 オレ様王子が本命なら、闇魔法で目の前を壁を作られて、しかも刃が無数突き出てきて、驚いて避けようとして、後ろの階段から転がり落ちてしまうという危害を受けたはず。
 身体中が痛いって文章だったはずだから、全身打ち身かしら。すぐに自分で光魔法で治すけど、危害を加えられたから怖くて動けない間に、タイミングよくオレ様王子がやってきて、怯えた反応を見せての甘いシーン突入~だったな。

 私は何もしていないので、自作自演である。怪我すらしたか、怪しい。

「強めの光魔法の使い手かぁ。そりゃ貴重だな」

「は? 何それ。証拠は? 証拠はあんの?」
「自分で治したからありません~ってシラを切るのでは?」
「はぁ? 自作自演?」

「えっ。なんでお前ら、そんな怒ってんの?」

 低い声になって、メアリーさんも、ルーシーさんも、ダリアさんも、察してくれた。
 それを見て、目をパチクリしながら、身を引くドルドさん。

「どうでしょうねぇ? 用意したらしい証拠を出す前に、祝いのパーティー中だったため、別の場所で改めてもらったので、まだわかりません」

 次期宰相志望のクーデレ子息は、どんな捏造証拠をヒロインに用意させられたのやら。
 それもネテイトは、覆す証拠を用意出来ているのだろうか。

「なんだ? 終わってないのか?」

「他には? 他には何したって言うのよ?」
「泥棒猫には、どんな目に遭わせてやったの?」
「そもそも、何故浮気が始まったの?」

「なんでめっちゃ食いついてんの? 女はわからん……」

 ぐいぐい、問い詰めるメアリーさん達に、話題を振ったはずのドルドさんは、気圧されて身を縮めた。

「オレも知らないなぁ。どうやって、浮気が始まったんだ?」

 この話題を続けていいのか。疑問になっていれば、隣でルクトさんまで促してきた。
 ケヒャーンさんは、黙々と食べているので、続けて問題なさそうだ。

「去年、子爵令嬢と第一王子殿下が、授業でくじ引きによりペアになったことが始まりです。一学期も、二学期も、偶然が重なって……。普通は、子爵令嬢は殿下とあまりお近付きになれないのですが、王都学園では身分に隔たりはないので、それが親しくなるきっかけになったわけです」
「え~! 何それ! その授業の教師に、慰謝料請求を!」
「いやいや、メアリー。男女でペアを組む授業により、いいきっかけは生まれるのよ。それが学生恋愛あるある。でも! この場合は、だめね! 第一王子殿下に婚約者がいるって、同じ貴族なら知ってたわよね? 知っててなんでしょ? 泥棒猫!」

 グイッとお酒を煽っては、おかわりを注文するメアリー。
 ルーシーさんは、なんだか学生恋愛に並々ならぬ思いがあるみたい。熱意がすごいけど、泥棒猫は許さないと吐き捨てた。

 もちろん、知ってたわよね~。
 あの転生ヒロインだもの。
 捏造証拠まで用意させられたみたいだから、ずいぶん前から、前世の記憶はあったはずだ。
 そうでなくても、貴族なら知っていて当然。

「はい。知っていたはずですね。昼休み時間や、放課後まで一緒にいるようになったので、ちゃんと注意をしました。誤解を招いてしまう、不適切な距離感だと」
「「「おおー! で!? で!?」」」

 が直接注意をしたのだと、修羅場に三人は大興奮。
 ドルドさんまでもが身を乗り出して、嬉々として修羅場を聞きたがる。

「残念ながら、それだけです。子爵令嬢は、外見が儚げな美少女なので、当然の注意されただけでシュンとした様子が大変傷付いたように見えたようで……その姿を目撃した第一王子殿下とその側近達が、逆に注意したのですよねぇ。、子爵令嬢に嫌がらせをするなって」
「はぁ?」「「「はぁ~?」」」

 三人のお姉様達からの低い声は想定内だけど、左隣からも低い声が出てきたからびっくりした。
 ルクトさんは、グイッとグラスを煽ると、もう一杯を注文する。

 え? ルクトさん……? 今の反応は、一体……?

「待て待て! 側近達とは? 何? 側近達も、浮気に加担してんの!?」
「あ。実はですね……その側近達とも、子爵令嬢はなっているのですよ」

 身を乗り出して、私はそっと含みを入れて教えた。

 そうすれば、顔色を悪くしたメアリーさん達は、驚愕で身を引く。

「「「ひぃい~!」」」と、嫌そうな悲鳴を出して、震え上がった。

「嘘だろ、おい。儚げな美少女は、悪女なのか?」
「その側近の二人にも、婚約者がいまして。はその婚約者二人にも頼まれて、注意したのですが……悪者にされたというわけなのですよ」
「いやいやおかしいだろ、それ」
「最低! 骨抜きにされちゃってんの? うわ~、そういう男ら、無理! 生理的に無理! 逆ハーレム状態!? あり得ないわ~」
「ええ、もう、まさに逆ハーレム状態ですね。本命は、殿下で」

 げんなりと嫌悪を滲ませながらも、ドルドさんはまた一杯ジョッキを空にしては、モグモグと食べていく。

 無理無理だと、拒絶反応の鳥肌をさする三人のお姉様達に、私はふんわりと微笑んだ。


「実は、その側近の一人が……」


 ためる私に、三人は揃って、身体を強張らせた。

「え、何……その笑み」
「怖い……な、何?」
「その一人が、な、何?」

 怖いと思いながらも、恐る恐ると、メアリーさん達は、聞き取ろうと顔を寄せてくる。


「私の義弟です」


 にこっと、身の毛もよだつ事実を告げた。


「「「ひぇええっ!!」」」と想像通りの反応してくれたメアリーさん達。


 でも、予想外に、左隣のルクトさんが「ゴフッ!!」と麦酒を噴き出す大袈裟な反応をした。

「ゴホゴホッ!」
「大丈夫ですか?」
「い、いやっ、待っ、え!? 弟が!? 聞いてない!!」

 噎せながらも、ルクトさんは必死に言葉を搾り出す。
 そんなルクトさんの背中をさすってあげながら、私は首を傾げてしまった。

「言いましたよ? 義弟のこと。殿下の側近ですが、ちゃんと間違いを正すために、真実の証拠を集めたそうですよ」
「え? あっ……なんだよ~、そういうことかぁ~。びっくりしたじゃん~」
「ふふふ。すみません。義弟は、骨抜きにされてません」

「ちょっとぉ~」
「リガッティーってばぁ~」
「もぉお~」

 ルクトさんを始め、脱力して背凭れに倒れ込むメアリーさん達。

 悪女の逆ハーレムに、婚約者だけでもなく、弟までもが一員になっていたら、一種のホラーだよねぇ。


 大丈夫。我が義弟は、私の味方なのである。
 そして、義弟も、私と同じく、第一王子を支えてきたのに、裏切られたのだ。

「もしかして、パーティーの時も、王子のそばに立ってた?」とルクトさんが、ぐったりしながらも問うので「ふわふわなベージュ色の髪の一番小柄な子です」と教えれば「あぁー、いたねー」と覚えていたらしい。


「話し上手だな!!」とドルドさんは、豪快に笑い声を上げた。機嫌のいい彼は、どんどんジョッキを空にしていく。


 私はもう自分の婚約破棄問題の話題を切り上げて、『藍のほうき星』パーティーの皆さんの話を聞き出すことにした。


 交流会から私の歓迎会にすり替わった昼食は、盛り上がっていく。


 あっという間に、三時間も経ってしまい、その頃には、お酒を飲みすぎたドルドさんとルーシーさん、そしてルクトさんまで、ダウンしてしまった。


 
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