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一章・甘々な春休みは、最強冒険者と。

12 面倒なので自己防衛。

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 しばらくすると【探索】範囲に、複数の気配を感知。その多さに、一瞬怯む。数は、五、いや、六。
 魔物の群れかと警戒心を強めたが、こちらが近づいても、気配は全く動かない。
 生き物の気配のはず、よね?
 問いかける視線を、後ろについたルクトさんに向けた。

「爆弾亀だろうね」

 全く動かない生き物の正体は、赤い石に擬態した亀みたいな魔物だそうだ。
 集団行動をするのだっけ?
 そんな習性があるとは、魔物研究授業で聞いていなかったはずだ。
 魔物を教えてくれる授業のことである。

 魔物研究者である教授は、魔物の姿や習性などを学ばせることが、一番の仕事なのだが、どうにも研究内容に逸れて長々と熱く語ってしまう癖の強い方だ。
 警戒すべき魔物の弱点だけを知りたい生徒達にとって、魔物の奥深い生態解明の研究なんて微塵も興味があるはずもなく、魔物研究授業はかなりの不人気。
 ただし、研究しているだけあって、間違った知識を教えないはずだから、ちょっと不可解だと思った。

「わっ……。これは…………どう生きるのですか?」

 行ってみれば、集団でいた理由がわかったのだが、新たな疑問が湧いて、首を傾げる。
 白い木々が、かなりの広さでなくなった開けた一面に出たかと思えば、ポッカリと空いた大きめの穴があったのだ。

 飛び降りても、痛みなく着地出来る深さの穴には、一見赤い石にしか見えないのだが、生き物だと【探索】が教えてくれる。
 サイズは、様々だ。頭くらいのサイズがあったり、なかったり。そんなさほど大きくない亀型魔物だというのに、こんな穴の中でじっとしている。他には、本物の石が転がっているだけ。
 この高さの穴から這い出ないと、食事が出来ないじゃないか。
 だから、真っ先に、こんな穴の中で、どう生きていくのか。疑問を口から零した。

 特殊な物を主食にする魔物もいるけれど、授業で習った限り、爆弾亀も他の魔物同様に肉食のはずだ。少食だから、何週間も食べずにいられる特徴があるけど……。

「共食い」
「……」

 ルクトさんは、簡潔に教えてくれた。

 あんぐりと口を開けっぱなしにしてしまう。
 頭サイズの石にしか見えないが、亀型魔物は隣の同族を食らって、生き延びるそうだ。
 ……そんな亀、見たくないな。
 全然手足が見えないので、魔物本体の姿は確認出来ないが、したくないのが本音である。
 微動だにしていない今、討伐してしまいたい。
 集団行動じゃなく、たまたまうっかりとこの穴に落ちて、集まってしまったのだろうか、と推測しつつも、討伐の決心を固める。

「えっと……自爆攻撃するとは習いましたが、討伐方法は聞いていないんですけど、どうすればいいのですか?」

 単に、背中の甲羅を爆発させて、敵を攻撃する魔物だと教えてもらっただけだ。
 自爆であっても、爆弾亀は死ぬわけではないはず。

「『白い枯れ木』に変わっているところ、あるってわかる?」

 ルクトさんが近くにある白い木を顎を振って示す。
 彼についていけば、根元がかじられている痕跡を見付けた。

「ここの爆弾亀は、甲羅の爆弾を早く再生するために『白い枯れ木』の再生力を、かじって吸収するらしい。さっき言ったように、浅ければ再生して元通りになるけど、ここまで深いと戻らず、そのままだ」

 だから、痕跡があちこち残っているのか。隣の木の根元も同じく、かじられたであろうへこみがあった。

「つまり、爆弾亀にとったら、あっという間に、甲羅の爆弾を再生させて、次の攻撃に備えられる。でも、一瞬じゃない。一回の自爆で敵を仕留められなければ、あとは丸腰。切ればいい」

 簡単だと、ルクトさんはそう説明した末に、言い退ける。
 一回は爆発させれば、こちらが仕留めて終わり、か。
 爆弾亀が這い出てこないことを良いことに、悠長に歩いて穴の方へ戻る。

「では、結界魔法で一回の自爆を凌いで、それから片をつければいいのですね?」
「んー、まぁ、そんな感じ。どの属性の結界を張るの?」

 隣に立つルクトさんが、曖昧な返事をしていると思いつつも、私は考えた。
 結界魔法にもいろいろある。それなりに、得意属性を操る力を上げないと使えない魔法だ。
 一番は、光属性の結界魔法が、強力だと言われている。

 私の場合は、麻痺を付与出来る雷属性の結界、鋭利な刃をまとわせるような風属性の結界、中も外も遮断するような闇属性の結界の三種。内側を守りつつ、外側は攻撃的な結界を二種類、使える。
 闇属性の場合は、負傷などして時間稼ぎに使用するのに最適だ。その間に、魔法薬で治療するなり、【ワープ玉】で撤退するなり、態勢を立て直すなり出来る。

「結界魔法でなくて、魔法防壁でも十分でしょうか?」

 結界となると、魔法使用者を中心にドーム型の守りを作り上げるけど、前方だけに注意したいのなら、魔法防壁で事足りるかもしれない。
 基本は、無属性による【防壁】の魔法になるのだけれど、別の属性だと結界魔法と似たおまけ効果がつく。
 一面だけ、魔力で壁を作る魔法。アレンジで各属性を付与できる。そんな感じ。

「そうだな……一回見せて」

 一度身を前に傾けて穴を覗き込んでルクトさんは、私の【防壁】を確認したいと言った。
 強度を見たいのだろうか。
 自爆を耐えるだけなので、無属性の【防壁】魔法を目の前に作っておく。とはいえ、目には見えないけれどね。
 それでも、精密な【探索】魔法により、ルクトさんにはそこに壁があることは、感じているはずだ。

「問題ないね。じゃあ……あそこの真ん中。なんでもいいから、攻撃してみて」
「……」

 よくわからないが、【防壁】は十分らしい。

 だがしかし。何故か、にぱっと笑っているから、怪しい。
 こちらから仕掛けて、わざと自爆させる必要があるけれど、なんだか笑みが怪しく感じる。

 笑顔のルクトさんから、ワクワクしている感が滲み出ているのだけれど……。

 悪いようにはしないと信じておいて、私は指定された爆弾亀であろう石に狙いを定めた。

 赤みを帯びた石に擬態した相手は、見るからに火属性。ここは、水属性を極めて、氷を作り出せるようになった魔法を使えばいいか。
 氷柱を放って、甲羅であろう石に突き刺した。しかし、思った以上に硬くて、あまり深く刺さらない。
 それに、ちょっとした悔しさと不服さを感じる間もなかった。


   ドドドドカーンッ!!!


 目の前で大爆発が起きたものだから、目をひん剥きそうなほど驚きの表情で、硬直してしまう。
 普通ならば、爆源地から走って離れるべきだろうが、【防壁】が爆風すら防いでくれたし、何より突然すぎて“避難行動をするべきだ”と、頭には浮かばなかった。

 ……たまやー?

 赤黒い爆発を、呆然と見てしまう。
 多分、攻撃した爆弾亀の自爆で、周囲も刺激を受けて、自爆したという、自爆連鎖による大爆発。
 花火のような連打の爆音でも、全然綺麗じゃない爆発である。

「すごいっしょ?」
「……すごいはすごいですが」
「あはは。これでおしまい」

 いたずらが成功した少年のように、笑って見せるルクトさんは、せめて爆弾亀の爆発威力を伝えてくれてもよかったのではないか。
 抗議したい気持ちがあれど、大爆発の驚きが強すぎで、やはり呆然と立ち尽くしてしまう。

 連鎖した爆発により、穴にいた爆弾亀は自滅。
 黒い煙が充満する穴に、つむじ風を生み出して視界を良好にしたルクトさんと一緒に、改めて穴を覗き込む。
 爆発を受けたことで黒ずんでいるし、かなり浅いけれど、抉れた箇所が、爆弾亀の数だけあった。
 ちなみに、爆弾亀の残骸らしきものはあれど、原型は一切留めていない様子。
 小さな小さな【核】だけは、転がっている。

「拾ってきますね」
「ん。オレはここで警戒しておく」

 魔物の肉片が飛び散った穴に降り立つ経験もするべきだと甘んじて受け入れておく。
 一言伝えれば、ルクトさんは上に残ったまま、見張りをしてくれるそうだ。

 一人、穴の底に着地して、転がった【核】を地道に拾い集める。あの爆発でも残るとは……【核】の硬さは恐ろしい。特別な加工方法じゃないと、形を変えられてないから、当然なのかもしれない。

 なんて考えていれば、【探索】で近付く生き物を感知。

 顔を上げて見たが、ルクトさんは大丈夫と伝えるように、手を上げた。それとも、待機という指示だろうか。
 数は、五つ。さっきの大爆発を聞きつけてきたのだろう。こちらに真っすぐ接近してきた。
 魔物なら、穴にいるのは、些か不利に思うのだけど……。

 でも、ルクトさんの指示に従ったまま、拾った【核】を【収納】に放って、手を空けておいた。

「あー!! ルクトだぁー!!」

 明るい女性の声が響いたから、また冒険者と遭遇したのだと知る。

 よく会うものなのだろうか……?
 そんな疑問が過りつつ、やけに甘えが含んだ声だと、ちょっとモヤッとした。
 でも、まるで同じように感じたみたいに、ルクトさんの横顔がほんの少ししかめたのを目にする。

 ひょいっ、とルクトさんが振り返ることなく、後ろに軽く飛んで、私のそばに降り立った。
 一瞬前まで、ルクトさんが立っていた場所に、女性が一人現れて、両腕を振る。抱き付こうとしたけれど、空回りした動き。

「何よ!! 冷たい!!」

 抱き付きをかわされた女性は、金切り声に近い声を上げては、追いかけて穴に降りた。

 小柄なことがコンプレックスな義弟と同じくらい、身長の低い女性。でも小顔も手伝って、ロリ感が強い。
 それでも、見た目と違って、20歳ほどの成人女性だと確信した。
 身軽さを活かす動きをするであろう彼女は、腰に大ぶりのナイフを左右に二つ、携えている。
 むちっとした太ももを惜しみなく晒した短パンと膝丈まであるロングブーツを合わせているし、ふっくらした胸元は、谷間が見えるように穴が開いたデザインの長袖シャツ。腕にはプロテクターをつけてはいるが、しっかり女性の魅力を出している。
 つり上げて私を睨みつける目は大きいから、一見童顔と小柄さで少女には思えるけれど、ただのロリ系女性だと断言出来るだろう。

 ……一言付け加えるなら、胸は不自然なほど大きいので、パットは厚めにして寄せて上げているわ。
 身軽さ重視の戦闘スタイルなら、邪魔にならないのかしら。

 ハッ! この人も、ルクトさんが好む短パンスタイル!

 睨みつけられても痛くも痒くもないと思っていたけれど、ルクトさんの好みの服装だと気付いて、横目で盗み見た。
 ルクトさんは、露骨ではないものの、歓迎していない不機嫌顔だ。

 ホッとしたような、脱力したような……。

「フンッ! 美少女だって騒がれてたけど……大したことないじゃない!」

 敵意剥き出しで、私を鼻で笑う小柄な女性冒険者。

 彼女も、ルクトさんの指導を受けている新人の噂を聞いていたのか。
 腕を組んでそっぽを向く仕草。胸を持ち上げる形になるのだけれど……大きさの不自然さが、気になってしまう。

「デッケー音がしたと思ったら、ルクトかよ!」

 次に、穴に降りてきたのは、大柄な男性だ。
 こんがり焼けた肌と、筋骨隆々な体型。半袖シャツははち切れそうなほど筋肉の形を晒す。腕には、武器名はわからないけれど、殴る攻撃に特化したであろうトゲを付けたゴツゴツとしたグローブを装着していた。
 パーティー仲間であろう二人が並ぶと、その差が激しいな、としみじみ思う。

「てか、新人を『火岩の森』の奥に連れてきたとか! こんなカワイ子ちゃんを死なせる気かよ!?」

 ゲラゲラと片手でお腹を押さえて笑う大男は、金色の短い髪と顎髭を生やしている。そして、私に向ける目が、品定めするような眼差しだ。昨日のスキンヘッドさん達と同類だな……と、ルクトさんの態度の理由として理解した。

 二日連続でウザ絡みを受けるのかぁ……美人って大変だぁ。

「あ! さては、かっこつけたくて、わざとか!?」
「危険な目に遭わせて守れば、イチコロでオトせるもんな!」

 大男が、変なことを言い出した。何故か上には、穴に沿うように歩くもう一人の男性が会話に加わる。妙な動きだと、警戒して意識しておく。

 なんか、ルクトさんが、自分の強さを見せつけるために、わざと危険地に新人を連れてきた説を言い出した。
 吊り橋効果で、惚れさせる作戦か。下種だ。
 そんな方法で女性の心を手に入れると言う考えが浮かぶ辺り、下種な冒険者。
 的外れもいいところである。

「ちょっと! ルクトに、そんな必要ないでしょ!」
「まったくよ」

 ロリ女冒険者が、キッと目付きを鋭くしたまま、否定した。
 同意したのは、スタンと降りてきた長身女性。スリットの入ったスレンダードレスのような格好で、腰にはポーチが並ぶベルトを装着していた。他に武器らしきものは見えないので、魔法の使い手だろう。

 うんうん、激しく同意。優しくてイケメンなルクトさんは、普通に楽しく話しているだけで、恋に落とされるのだ。
 …………う、うん。
 身に覚えがあるわ……。

「……アンタらは、なんでここにいるんだよ?」
「新メンバーの肩慣らしさ。トロール討伐依頼中」

 不機嫌な色を乗せた声で、ルクトさんが問う。別にどうでもいいけれど、世間話程度に話しかけた感が拭えない。
 大男が親指で後ろを差したのは、ちょうど降り立った別の男性だ。大剣を背負っている。

「あっそ。トロール探し、頑張って」
「おいおい待てよ。昨日、ザンテと賭けてたんだが、初日はどこに連れ回したんだ? ん?」

 ルクトさんが、さっさと去ろうとしたけれど、引き留められた。
 ザンテとは、スキンヘッドさんの名前だったはず。彼らが、賭けに乗ったパーティーか。

「『カトラー』で会った」
「クソ! 賭けに負けた!」
「ザンテにも言ったけど、邪魔しないでもらえるか?」
「はははっ! クソガキだな、ホント!」

 ルクトさんが冷たくとも、注意してあげたのに、嘲笑いで聞き流す大男さん。

「カワイ子ちゃん! ここは初心者にはキツイから、一緒に行動しようぜ? なぁ?」

 ルクトさんと対峙していたが、私にニカッとした笑顔とともに声をかけてくる。
 ほぼ同時に、後ろに回ってきたもう一人の男性が下りてきた。

 挟まれたような立ち位置になったものだから、サァアッと身体の中が冷えていくような感じる。
 身の危険を覚えて恐怖の感情を抱いたからではない。
 挟み撃ちをして、何かをしようとする魂胆に、静かな怒りを抱いただけだ。
 見知らぬ大柄の男性に挟まれれば、どんな女性も相手は敵だとみなすべき。

「どこが可愛いの?」
「いや、美人じゃねーか」

 ロリ女が、噛み付くように言えば、大男は舐め回すような視線を私に這わす。
 ロリ女もジロジロと全身を見てくるが、気に入らないと小鼻を膨らませる。

「ねぇ! ルクトだって、アタシの方が可愛いって思うでしょ!?」

 猫撫で声で、ロリ女が問い詰めた。
 ここは気を利かせるなら、無難に“同じくらい可愛い”とか言えばいいのだけれど。


「リガッティーが一番可愛いじゃん」


 ルクトさんは、さも当然な口ぶりで、私が一番可愛いとこの場で言い退けた。
 他人の前でも、可愛いだなんて、不意打ちで褒められてしまった私は、危うく背後の気配から気が逸れそうになってしまう。

 顔を伏せたまま「ルクトさん~っ」とか細い声で、非難がましく呼ぶ。

「え? 何? 事実を言ったまでだけど?」

 なんて。非難される理由がわからないみたいに、答えられた。

「んだよ! もうそんな仲かよ! 手がはえーこったぁ!」

 不満全開な声を上げる大男は、勘違いをする。それは、彼だけではない。

「はぁ!? アタシよりちょっと顔がいいだけで、新人冒険者が、ルクトと釣り合うとは思わないでよ!!」

 勝手にブチギレ気味になって、ロリ女が人差し指を突き付けて喚いた。

「アンタなんて、一人じゃここから出られもしないわよ! 最年少でAランク冒険者になったルクトの足手まといだから!!」

 よく喚く人だな……と、冷静に眺めてしまう。

「怪我したくなければ、邪魔しないでくれよ。オレは新人指導中なんだ」

 心底面倒くさそうに、ため息交じりにルクトさんは、注意をまた一つしてあげた。

「ハンッ! 実力行使でもするかよ? Aランク冒険者サマよぉ」

 またもや親切な注意を、嘲笑いで飛ばす大男。

 ルクトさんも大変だ。イケメンな上に、ランク上で、やっかみをぶつけられる。
 ルクトさんが格上でも、ちょっかいかけられたから倒した、となると問題行為になるはずだ。
 だから、ルクトさんの手は出ないからと、言いたい放題。クズだ。


「オレじゃなくて、リガッティーが黙らせる」


 ルクトさんのその発言のあと、水を打ったように静まり返ったその場に「は?」と間の抜けた声を誰かが零す。

 ちょっ……!
 挑発~~~っ!!!

 予告なしに、そんな挑発しないでほしい。

「何言ってんだよ!! オレ達はBランクパーティーだぞ!?」
「もうっ! ルクトったら、面白い!」

 ゲラゲラ、ケラケラ。
 お腹を抱えて、冗談だと思い込み、盛大に笑う。

「ということで、やっちゃってもいいから。大丈夫っしょ?」

 ルクトさんは、思い込みを解いてやることはせず、私を覗き込んで確認してきた。
 ピタリと、笑い声が止む。

「ええ、まぁ……はい。自己防衛します」

 昨日レベッコさんにも、相手の骨の一本や二本を折るような自己防衛の許可をもらっているしね。

 今朝のように騎士団を闇魔法で眠らせる手はだめか。この場で眠らせたら、魔物の餌食になってしまって、過剰防衛では済まない。
 彼らにも負ける気はしないので、普通に戦っても、鎮圧可能だからいいか。

 ルクトさんに、一瞬の間で考えてから、十分対応が出来ると、頷いて見せる。

「はぁああっ!?」
「生意気言ってんじゃないわよ!! 新人のくせに!!」

 本当に自分達を軽んじている挑発だとやっとわかって、激怒するから、私も面倒さを感じて肩を下げた。
 彼らの感情を、受ける筋合いはないのだ。

「新人だからと見下されてちょっかいかけられるなら、実力の差を思い知らせた方がいいですね? 面倒で不愉快なんで、もう黙らせていいですか?」

 ため息を一つ零して切り替えた私は、満面の笑みで言い放つ。

 鳩に豆鉄砲の顔をした一同が、固まってしまった。

 ルクトさんは、一人で「ブハッ!!」と噴き出し笑いをする。

「ざけんな!!!」

 怒りが顔を真っ赤にした目の前の大男が、殴ろうと右腕を上げた。
 そんな武装した大きな拳を、新人の少女に向けようとは……。

 軽蔑を込めて、ガラ空きの懐に、右手を突く。雷魔法の衝撃波を放ったので、触れる前に、巨体は吹き飛ぶ。
 バリバリとまとわりつく雷で麻痺するから、後ろにいたスレンダー女冒険者と大剣の冒険者も、衝突して共倒れしたことにより、巻き添えでブルブルと震えることになった。

 それを目の当たりにしたロリ女は、信じられないと驚愕で腰の大振りナイフを引き抜くことを忘れて、硬直する。

 何をしようとしたかはわからないけれど、背後の男が私に触れる前に、闇魔法で作り出したナイフで、伸びた手首を切った。

 次は、滑るようにして風で移動。
 クルッと、ロリ女の背後を取った私は、慌ててナイフを引き抜こうとした右手を掴んで捻り上げた。そのまま左肩に、左の膝を置いて、押し倒す。右も左も、動けないように封じる。

「うぐっ!!」
「ひぎゃああ!! 手が!! 手がぁあ!! オレの手がぁ!!」

 悔しそうにジタバタするロリ女だけど、私の闇魔法のナイフに切られた男が、右手を押さえながらのたうち回る姿を見た。

「アンタ! 何したのよ!?」
「これで切ったんです」
「!?」

 ギッと横目で睨み上げるロリ女に、まだ手に握っている闇魔法のナイフを見せてやる。

「『闇のナイフ』という闇魔法です。無機物には、影響が及びませんが」

 目の前で、地面に差し込んで見せるけれど、闇のナイフは沈むだけで穴を開けない。引っこ抜けば、元のナイフの形。
 それを、ペチペチとロリ女の頬に当てた。
 弄ばれていると思って、ロリ女の顔が怒りで歪んでは真っ赤に染まる。

「生き物を切ると、その部分が、“無”になるんですよ」
「はっ……?」
「彼のように、手首を切り落とされた感覚のあと、何もないと感じるんですよ。神経が切られたみたいに、動かせませんし、何も感じません」

 そう説明している間も、男は恐怖で悲鳴を上げていた。

「一時的なので、すぐに感覚は戻ります。さて……そんなナイフで首を切ったら、どうなると思いますか?」

 ニコッと笑ってから問うと、ロリ女は「ヒュッ」と喉を鳴らす。
 たちまち、顔から赤みは引いて、青白くなっていく。

「試したことないんですよね。でも、首を切り落としたことになりますから……それまで、息、出来るでしょうか?」

 静かに、とても静かに、優しく語りかけるけど、私の下でロリ女はガタガタと震えた。歯までカチカチとぶつけて鳴らす。

 本当に試したことない。でも、切り落とした部位が、一時的に“無”になるのだ。見た目は変わらなくても、切り落としてなくなった身体の一部となる。だから首を切れば、呼吸は止まるだろうし、脳すらも働かない。一時的な脳死も同然。

 刃先を首に添えるけれど、切り込むつもりはない。
 でも冷たい微笑で見下ろしてあげて、恐怖を堪能してもらった。
 ここまで脅せば、もうキャンキャン喚かないでくれるだろう。

「あはははっ! 流石に二人か三人はオレが相手しようと思ったのに、過小評価してたな。ごめん、リガッティー」

 ルクトさんが手を叩きながら、笑い声を上げた。

 後ろの二人は別に相手するつもりはなかったけれど、結果的に巻き込まれて、ビリビリと感電したまま。私も、全員を鎮圧するとは思わなかった。

 そこで、ルクトさんの拍手が止まると同時に、バッと二人で顔を上げる。
 二つの方向から、何かが真っすぐとこちらに向かってきているのだ。
 また爆発音に誘われたのだろうが、これは危険生物だと直感した。


   ズンズンズンッ!


 近付く足音が、地面さえ揺さぶっている気がする。
 あまりにも、大きな大きな敵が迫った。


 
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