【R18】死に戻り悪役令嬢は悪魔と遊ぶ

三月べに

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○1 一回目、二回目、そして三回目。

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 死の直前に呼んでいた小説の中に悪役令嬢転生を果たした私は、最初は正攻法で、小説のヒーローであり私の婚約者と絆を深めていき、断罪を回避することにした。
 最初は、順調だった。そう。順調に婚約者と仲を深めて、それなりの信頼を築いていた。

 なのに。
 ヒロインが登場すると、急変。

 コロッと婚約者の好意は彼女に注がれてしまい、私は二人の仲を引き裂く悪役だと周囲に囁かれ始めて、あれやこれやと身に覚えのない罪を被せられてしまった。
 どれも原作シナリオ内の罪状。それもそのはず。
 ヒロインもまた、転生者だったからだ。嵌められた。
 そのまま原作通り、ヒロインを襲った冤罪を吹っ掛けられては、彼女の護衛騎士に切り捨てられて、デッドエンド――――。


 かと思えば、ヒロインと出会う少し前の時期の朝に目覚めた。
 混乱したが、とりあえず、ヒロインがヒーローと結ばれたいのならば、と潔く私は婚約解消を選んだ。
 そもそも、あんなコロッと心変わりをする婚約者などに未練など残るはずもない。
 しかし、そんな未来を知らない婚約者は、”今まで築き上げた信頼はどうするんだ”と怒って反対。

 チッ。どうせ死に戻るなら、婚約者と友好な関係を築く前に戻りたかったわ。

 政略的な意味合いもあった婚約。親も親で納得してはくれず、私も正当な婚約解消の理由が提示出来ず、仕方なしに条件を突き付けた。
 『意中の相手が出来たら、速やかに婚約解消してください』と。
 『そんなことはありえない! 私には君だけだ!』と、婚約者は言い切ったが、前回はすぐにヒロインに傾倒した婚約者を胡乱気な目で見るしかなかった。
 それから、ヒロインが現れるまでの辛抱だと言い聞かせて、出来る限り、婚約者を避けに避けまくった。
 そして、ヒロインと運命的な出会いをした彼は、一度目以上にコロッと昏倒。クソ浮気野郎が。
 私が冷たくした分、癒してくれたとのたうちまわったくせに、婚約解消の話をすれば、苦い顔をしてしぶったのだ。
 なんでだ、と首を傾げたが、そのうち、ヒロインに嫌がらせをした噂が湧いて出て来たし、敵を見る目て睨まれるしで、嫌な流れとなった。
 あとは婚約解消だけなのにどうしてだ! と父に苦情を、相手の親にも手紙を送りつけたが、毒を盛られて死亡したので返事は聞けずじまい。
 毒で死ぬとかないわ。


 そして、またヒロインと出会う少し前の時期の朝に目覚めた。

 なんでだ。

 転生後に死に戻りループって何故だ。あと何回死ねばいいのよ。
 死に戻りって何回繰り返されるものなの? ゲームでの最大のライフって99だけど、まさかそんな99回も死に戻りしないよね? 99回も殺されて、正気を保てる気がしない。切られるのは痛いし、毒も苦しくて痛い。嫌だわ。
 どうしろって言うのさ。
 ヒロインも転生者で、ハッピーエンドを望んでいる。婚約者は婚約解消をしぶるし。
 あの毒は、きっと婚約者の差し金だろう。彼は婚約解消するような事態にならないと堂々と宣言した手前、認めることが出来なかったのだ。
 ヒーローこと現状婚約者は、清廉潔白な融通が利かない頑固者である。私を裏切ることも、自分の宣言を覆すことも、意地でもしたくなかったのだろう。
 その結果、私を追い込んで毒殺とは……。


 もうすでにお前への情は、すっからかんに消えたわ!!


 ええー? 冤罪作って殺しにかかるなんてお似合いだな? なんでそんなヒロインとヒーローのために、私は殺されなければいけないんだろう。
 悪役令嬢やめたい。
 そもそも悪役令嬢らしいことしてないわよ、ちくしょうめ。


 悪役令嬢、ディナ・アクアート伯爵令嬢、三回目。

 さて、どうしよう。
 白銀のストレートの髪を投げ出し、赤い瞳で天井を見つめて、ベッドに仰向けになって呆ける。


 …………。
 ……ぶっちゃけ、もう投げやりなんだけど。
 悪役は、不憫な人生だ。
 もう好きでも何でもない相手の婚約者として葬られる定め……嫌じゃ嫌じゃ。精神面ロリババになって駄々こねてやるー!

 三回目も、マジで何をしても死に戻りするかどうか、試してみよう。
 二度あることは三度あるってね。三度目の正直で死んでもいいよ。この人生嫌。いいことください。

 とりあえず、婚約解消は申し立てた。当然どういうことかと問い合わせが来たが、完全スルー。結局、心変わりする浮気野郎なんか、まともに対応する時間はない。
 だいたい一年しか期間がないんだから。もったいないわ。
 家族には、婚約者に浮気された挙句に毒を盛られて殺されたと言ってやったが、正気を疑われたので、もうスルーすることにして遊び回った。
 前回までは貴族令嬢として矜持を守っていたけれど、キツいコルセットを緩めて、村娘のようなワンピースで、屋台を食べ歩き。曲芸人が観客を集める大公園を闊歩。それら全て、護衛も侍女も振り払って、一人で満喫した。

 うん。正気を疑われた。

 医者が差し向けられたので、診察されながら、真顔で。

「婚約者に浮気したくせに婚約解消しないで、私の命を奪うために毒殺をしたのです。そしたら時間が巻き戻っていたのですが、やはり婚約解消をしてもらえず、死が繰り返されるなら楽しみたいと思ったのです。何が悪いのですか!」

 熱意を込めて訴えてみた。どうせだめだろうと思っていたけれど、医者は冷や汗を拭いながらこんなことを言った。

「もしや、……なんてことをしていませんよね?」

 
 この世界の常識としては学んだ存在ではあるけれど、原作には一切出てこなかった。その単語だって出てこない。
 ふと、思ったのである。


 それほどのまでのイレギュラーなら、何か変わるかもしれない。


 私の死に戻りを阻止してくれ、という願いも叶うかもしれないし、そもそも死自体を避けられるかもしれないのだ。
 そういうことで、私は改めて、悪魔について学んでみた。お付きを振り切って、図書館でせっせと悪魔について調べてみたのである。
 悪魔召喚。願いを叶えてもらう対価。魂。

 いっそのこと、死を避けてもらうために、寿命を全うしたあとに魂をあげる取り引きでもしようか。
 奥の手よね。それで死に戻りが阻止できるかは、賭けなんだけど。


 ヒロインことミンティーと、ヒーローことアレキサンドが運命的な出会いをしたその頃、私も身近に悪魔が封印されている情報を得て、またもや護衛を振り払って、その場所へ。
 いわくつきの館。不気味すぎて買い手がつかないそこの隠し地下の扉の向こうに悪魔が封印されているらしい。そこで悪魔召喚をすれば、自ずと封印されている悪魔が出てくるというわけだ。
 他の方法だと、悪魔を呼び出すには生贄とかが必要で正直手間。生贄のために小動物を買うなんて出来ず、かといって王都を出て魔物を倒してそこで儀式するのも大変そうだったので、ここが一番手っ取り早かった。

 せっせと魔法陣を描いて、蝋燭を立てたあと、そのど真ん中で、魔力で火を灯して、呪文を唱えて悪魔召喚した。

 そうして固く閉じられた扉が錆びた音を響かせて開くと、青年が出てきたのだ。

「んー! 出してくれてありがとうー!」

 青に艶めく黒髪の好青年は、陽気な笑みで第一声を出した。

「で? お願いは、なーに? お嬢様♪」

 場違いに思えるほどにキラキラした見目麗しい顔立ち。
 二重の円の中に瞳孔がある不思議な金色の瞳を細めて、にんまり笑う悪魔。
 それが悪魔・ゼノヴィスとの出会いだった。


 単刀直入に、あと九ヶ月後ぐらいに死ぬかもしれないから死を避けてほしい、という願いは受け入れてもらえるか、尋ねた。
 そうすれば、詳しい事情を知りたいとゼノヴィスは、聞き上手に聞き出しては最後まで聞いてくれた。
 そう。最後まで話してしまったのである。

 出会い頭で死に戻りの話をした悪役令嬢は私です★


「マジで!? 超可哀想! 二回も死んで怖かったよね!? よしよしよし!!」

 ゼノヴィスはあやし上手でもあったので、頭をなでなでされた私は泣いた。

「ううー! 厳密には三回死んでるのー!」
「え? どういうこと? 二回、死んで戻ってるんだよね?」

 うっかり口を滑らせたので、出会い頭で転生の事実も話した悪役令嬢は私です★


「浮気男と略奪女の運命に巻き込まれてるってこと!? 超絶可哀想!! よしよしよし!!」
「うわーん!」

 悪魔にあやされてガチ泣きした悪役令嬢は私です★(泣)


 ゼノヴィスにひっしり抱き着いていれば、抱き締め返してくれては頭を撫で続けてくれて、背中までポンポンしてくれた。

「そっか。死に戻りかぁ。原因もさっぱりだし、悪魔だって時間を巻き戻すなんて、とんでもない対価が必要になるんだけどなぁ……想像もつかないくらい。でも、オレというイレギュラーを入れたのはいいのかもしれないね! もうどんどんそのシナリオから外れていけば、死に戻り以前に死も避けられるかもしれない。ディナは、何かしたいことある?」
「? ゼノヴィスへ支払う対価はどうなるの?」
「いや、オレへの対価ってぶっちゃけここから出してくれたことで十分なんだよね。普通の悪魔なら、それはおくびにも出さないだろうけれど、ディナは可哀想だから……」
「えっ……! いい悪魔……。ゼノヴィス、悪魔はもっと狡猾でいいと思うの。損しちゃうよ?」
「いや、でも、ほら、まだディナの死に戻りを阻止出来るって確約が出来ないし、調べながら、対価をもらうってことでいい? でも本当に自由を得ただけで、オレってば十分対価を支払ってもらったと思うんだよね」
「ううぅ! いい子! いい子の悪魔!」

 なんでこの子が悪魔なのか、わからないぐらいいい子。
 私は涙ぐみながら、ゼノヴィスの頭を撫で回した。
 そしたら、撫でられるのは慣れていないらしく、頬を真っ赤にして照れた。
 可愛すぎか。なんでいい子なの、この悪魔。


 そういうことで、ゼノヴィスをさらっと従者にして連れ回して、買い物。
 と、見せかけて、冒険者登録してからの依頼遂行に王都の外へ出かけた。
 ゼノヴィスが守ってくれるし、魔法も戦い方も教えてくれた。


 えー! 超楽しい! と冒険者業をエンジョイした。


 ゼノヴィスは100年ぶりのシャバにはしゃぎ、過去との違いも楽しみ、一緒にワイワイした。色々教えてくれるものだから大助かりするし、絶対に守ってくれるから安心して一緒にはしゃげるしね。



 
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