88 / 103
お試しの居場所編(後)
54 お揃いの記念品とともにキュン。(前半)
しおりを挟む一階のジュエリーショップに、到着。
長い道のりだった……。
残念ながら、都合よくは、ペアブレスレットは置かれていなかった。
ペアリングとかは、あるんだけど、それも少なめ。
「諦めましょうか」
「いや、ちょっと見ておこうよ」
『七羽ちゃんが気に入った物を、俺も発注してもらえばいい』
数斗さんは、全く同じ物をつけたいらしい。
「数斗さん。何もここで買おうとしなくてもいいのでは?」
「ここじゃないとダメだよ」
なんてキッパリと言葉を返された。
「今日の初デートをした場所で買って、ここでどんな風に過ごしたのかって、買ったブレスレットを見て思い出せるでしょ?」
数斗さんは私に微笑むを向けると、そっと顔を寄せて。
「たくさん好きって言い合ったことも、思い出せて浸れる。そんな初デート記念のペアブレスレット」
そう甘めに囁いた。
耳のそばで囁かれて私は、若干身を引く。頬の火照りを感じながら。
「わ、わかりました……」と、応じるしかなかった。
ウィンドウケースにあるジュエリーを覗く。
「どれが好み?」
『七羽ちゃんはどれが気に入るかな』
数斗さんの手首を気にながら、ウィンドウケースの中を覗いていたら、数斗さんはまた私の好みを尋ねた。
「数斗さんは、私の意見ばっかり聞くんですね。私だって、数斗さんの好みを知りたいんです。一緒に好みのものを見付けましょう?」
ちょっとむくれ気味に言ってから、小首を傾げて見上げる。
『ンンッ! そんな顔で上目遣いっ、可愛い』
「うん……俺の好みも知ろうとしてくれてありがとう。じゃあ、一緒に探そうか」
『俺のことも知りたがってくれて、嬉しいな』
数斗さんは、嬉しそうに微笑んで承諾。
「でも、まぁ……シンプルなら、いいって思うんだよね」
「私のアクセサリーを選んだ時は?」
「それはもちろん、七羽ちゃんに似合いそうな、可愛い物を考えて選んだ」
「んー、じゃあ、私も数斗さんに似合いそうな……綺麗な物を考えて選びます」
『健気、可愛すぎる』
コックン、と深く頷く数斗さんには、私が健気に見えたらしい。
「七羽ちゃんのそういう俺の気持ちに応えようとして、思いやって考えてくれるところ、堪らなくて嬉しくて、好きなんだ」
数斗さんの右手が、私の頭をひと撫でしてきた。
「十分、想ってくれているって感じるし、伝わっているんだよ」
『決して、俺への想いが、弱いだとか、そうは思わない。ただ俺の方が強いだろうね』
内心でちょっと得意げに笑っている数斗さんは、優しい眼差しで見つめてくる。
「七羽ちゃんが満足するほど納得出来ないって言うなら、まだまだ強い想いを伝えられるって自分で思っているからじゃないかな? もっと強くしたいって言うなら、もっと時間が必要だろうね」
想いを伝える。もっと私は、数斗さんに強い想いを伝えられるのではないか。
今までは納得出来なかったから、気に病んでしまっていたのもしれない。
『延命を。間違った、延長だ。延長してほしい。お試し期間の延長を』
「今日の進捗はどう?」
『延長。答えを出してくれてもいい。正式な恋人に』
にこりと冗談みたいに軽く笑いかける数斗さんの心の声は、延長を繰り返して言う。
また二週間じゃないですか……まだ三週間ほど残っています。
あと、答えは一択ではありません……。
「……多分、勢い任せには言っていないので、心は込めていると……思います」
「そっか。そう思えたなら、前進したってことだね。ちなみに、俺は全部、想いがこもってるって伝わったよ」
数斗さんは、ポンポンと掌を頭の上で弾ませた。
『行きの車の中だけでもキャパオーバーだと思ったけれど、やっぱり七羽ちゃんの想いは全部受け取れる』
幸せそうに口元を緩ませる数斗さんは、ウィンドウケースに目を戻す。
サラッと、数斗さんの耳にかかっていた明るいグレージュの髪が、落ちる。
じっと、よく見えるようになった耳たぶを見つめた。ピアス穴はあるけれど、そこにピアスがついているところはみたことがない。
『ん? 何を見てるんだろう?』
視線に気付いた数斗さんは、小首を傾げたけれど、私は何も言わずに、ウィンドウケースに視線を落とす。
「……これ、レディース向けですよね。ほぼ全部」
「んー、まぁでも……こういう細いチェーンで、控えめな存在感の物でも、俺は全然身につけられるよ? 七羽ちゃんとお揃いなら、なおつけたい」
特に数斗さんは、完全にレディース向けのデザインだとしても、抵抗がないそうだ。
あまりアクセサリーを好んでつけていなかったから、本当にこだわりがないんだろうな……。
「確かに、存在感が控えめな細い物がいいですよね……かつ、綺麗な物」
「かつ、可愛い物。でも、七羽ちゃん。俺はかっこいいより、綺麗なんだね? まぁ、こういうアクセサリーなら、綺麗系がいいだろうけれど」
私には可愛い物を、数斗さんには綺麗な物を。
お揃いのアクセサリーだってこともあるけれども……。
「私は数斗さんのことをもちろん、かっこいいとは思いますけど……数斗さんの第一印象って、美人、でした」
「美人? 美形とかじゃなく?」
「はい。物腰柔らかそうな美しい人ってことで、美人、って表現したくなる人だと思いました」
ちょっと不満げな顔を一瞬見せたけれど、数斗さんは「そうなんだ」と納得したように頷いた。
「俺は、可愛すぎる子だなって思った」と、私に一目惚れした瞬間を、数斗さんは思い浮かべる。
あの時は、聞き間違いだと思ってしまうほど、信じられなかった。
「後付けだけれど、心が綺麗だから、その瞳と目が合って、一目惚れしたのかなって思う」
煌めくジュエリーのウィンドウケースから、私に細めた目で見つめてくれる。
「前に言ったか。ぶっちゃけると、七羽ちゃんは初対面の時に口説いた俺は、怖かった?」
「え?」
「ほら、引き気味だったでしょ?」
「あー……戸惑っちゃって。数斗さんほどの男性がなんで私なんかに、って。最早、混乱でした」
「そこまで? 七羽ちゃんは可愛いのに。自信持って。そんな七羽ちゃんは、ピンクゴールドが似合うよね。これ、どうかな?」
数斗さんは一つのブレスレットを人差し指で示す。ケース越しなので、ちょっとどれかすぐにはわからなかったけれど、数斗さんの考えを読んで、見付けた。ピンクゴールドで小さな粒が均等にチェーンの間にあるデザインのものだ。
んー。これは、やっぱり、女性ものだから、数斗さんにはどうかな。
「あれ? 気に入らない?」
「数斗さんがつけるとなると……やっぱり女性寄りですよね?」
「でも、それはしょうがないんじゃないかな? 俺はつけるけど?」
「ほら、また。私にばかり合わせているじゃないですか。二人の初デート記念ですよ?」
『……キュン』
二人の初デート記念品を選ぶ。それをしっかり考えていることに数斗さんはときめいているみたいだけれど、それが目的のはず。やっぱり、私に合わせる気じゃないか。
22
お気に入りに追加
1,069
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった
あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。
本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……?
例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり……
異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり……
名前で呼んでほしい、と懇願してきたり……
とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。
さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが……
「僕のこと、嫌い……?」
「そいつらの方がいいの……?」
「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」
と、泣き縋られて結局承諾してしまう。
まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。
「────私が魔術師さまをお支えしなければ」
と、グレイスはかなり気負っていた。
────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。
*小説家になろう様にて、先行公開中*

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。


愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。


3回目巻き戻り令嬢ですが、今回はなんだか様子がおかしい
エヌ
恋愛
婚約破棄されて、断罪されて、処刑される。を繰り返して人生3回目。
だけどこの3回目、なんだか様子がおかしい
一部残酷な表現がございますので苦手な方はご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる