心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

文字の大きさ
上 下
58 / 103
お試しの居場所編(前)

36 大切にしてくれる友だちを。(真樹視点)(前半)

しおりを挟む


 真っ直ぐに部屋に戻った。

「すみません。数斗さん、新一さん、帰りましょう」
「え? あ、うん」
「……ん」

 数斗が歌っている最中だったけれど、声を上げて、七羽ちゃんは伝える。
 すぐに終了ボタンを押して、数斗はマイクを置いた。隣にあった七羽ちゃんのバックを持って立ち上がる。
 新一も、おれと七羽ちゃんをじっと見ながらも、おれの荷物も持って立ち上がってくれた。

「え? どした?」
「ごめん、アオ。帰るね、ホントごめん」

 戸惑う葵ちゃんに、七羽ちゃんは、申し訳ないと両手を合わせて謝る。
 アイツのカノジョでも、信用してるのか……。


「アホな先輩のこと、シメておいて」


 そう笑顔で、言い退ける七羽ちゃん。
 数斗も新一も、ギョッと目を見開く。

「え? うん、まぁ……わかった」

 首を捻りつつも、葵ちゃんは自分の恋人をシメることを承諾。
 え、シメるんだ……?

 数斗から受け取ったバックから自分の財布を出すと、一万札を「今日のカラオケ代」と葵ちゃんに渡す。
 ん!? 一万は出しすぎじゃない!? てか、出すなら、おれが!

「祥子。私言ったよね? 高校の時に遊んでた他校の男子、彼とは付き合ってないって」
「え? いきなり、何?」

 直接対決!?
 七羽ちゃんが、祥子ちゃんの前に立った!

「先輩から聞いたよ。私のこと、そう思ってたんだね。長い付き合いでいつも一緒にいた友だちに、男子と付き合ってること、嘘ついて隠してるって? どうして私が翔子達に、嘘ついて隠し事する人間だって思ったの?」

 次の予約曲が流れようとしたけど、イントロで七羽ちゃんが終了ボタンを押して止めて、また祥子ちゃんを腕を組んで見下ろす。

 祥子ちゃんも腕も足も組んだまま、七羽ちゃんを睨むように見上げている。

 女同士の険悪ムードに、固唾を飲む。

 新一から荷物を受け取って、数斗からも事情を聞きたそうな視線を受けるけど、この場で説明して邪魔出来る雰囲気じゃない。
 七羽ちゃんに限ってないとは思うけど、取っ組み合いでも始めたら、仲裁が出来るように、そばにいないと。

「いや、別に……そんなんじゃないし」

 そっぽ向いては、自分の髪を掻き上げて、はぐらかす。

「そうやってキレないでよ。せっかく遊んでたのに、雰囲気ぶち壊しちゃってさ。自分で集めておいて、こんな騒ぎ、やめなよ」

 は!? 何、七羽ちゃんが悪いみたいに言ってんの!?

 次の予約曲が再生されたから、また七羽ちゃんがボタンを押して切った。

「元凶作ったのは、祥子だから。私が異性と珍しく仲良くしてるだけで、全員セフレだと思うんだ? おかげでアホな先輩が思い込んで、会ったばっかの真樹さんに向かって侮辱してくれたんだけど? 下種な勘繰りはしないでって言ったのに、セフレだとか話してさ。ああ、そっか。いい友だちだってことも、嘘だと思ってるんだ? 天真爛漫ぶった猫被り女だから、なんも信用出来ない?」

 セフレって言葉が七羽ちゃんの口から出たから、おれはつい、数斗と新一の反応を盗み見る。

 二人して、目をひん剥きそうなくらい驚いた顔をしていた。
 それから直接侮辱されたって聞いて、おれに目を向ける。
 なんとも言えないって表情を作るしか、出来ない。

「そう思うのも無理ないじゃん! いきなり男子連れてさ、ニッコニコしちゃってさ! クラスじゃ、男子とそんな風に話さなかったのに、付き合ってないとか信じられないし! こんなハイスペックのイケメンを三人も連れて来るとか、偶然出会って友だちとして仲良くなったとか! 無理あるでしょ!」

 げ! 責任転嫁で逆ギレ気味!?
 信じられないから、嘘だと思って当然ってこと!?

「なんで私がそんな嘘貫かないといけないの? 何を思い込んでるか知らないけど、最低だね。陰で友だちをヤリマン呼ばわり? よくわかったよ。互いにサイテーな友だちだったってわかったね。絶交しようじゃん」

 七羽ちゃんは逆に声を上げられても、言い返す。
 ヤリマン、だなんて言葉まで七羽ちゃんの口から出たから、驚愕。
 い、いや、でも、天使だと思ってる子でも、嫌な言葉は口にしちゃうよね、う、うん。

 そして、きっぱりと絶交宣言。

 かと思えば、祥子ちゃんの後ろの壁に手をついて、屈んで顔を近付けた。
 何かを話してるけど、また曲が流れ始めるから、サッと葵ちゃんが止めてくれる。それでも、七羽ちゃんが何を話しているかは、開けっ放しのドアのそばに立つおれ達には聞き取れない。

 祥子ちゃんが歪ませた顔を真っ赤にして、手を振り上げたから、焦ったけど、手が上がることを予想でもしていたのか、七羽ちゃんは身を引いてあっさり避けた。平手打ちは、空振りだ。

 心配した数斗が、七羽ちゃんの肩を掴んで、怒り心頭な様子の祥子ちゃんから引き離そうとする。

「思い込みで人を判断して言いふらすの、やめた方がいいよ。思い込み激しすぎ。毒舌を開き直りすぎ。イケメンが友だちってだけで、やっかみを爆発させて、八つ当たりをぶつけるのも、全部直した方がいいよ。欠点だからけで、性格悪すぎ」

 それでも七羽ちゃんは、辛辣に言い募った。

 おれも七羽ちゃんを掴んで止めようと思ったけど、新一が手を上げて遮る。
 絶交宣言したから、最後に言わせてやれってこと?
 理解は出来るけど、逆上している子の手がまた上げられて、七羽ちゃんが怪我でもしたら……。


「一つ、嘘ついたこと、白状するよ」


 七羽ちゃんは、そう言うと、自分の肩を掴む数斗の手を外すと、ギュッと握って見せた。


「数斗さんは、ただの友だちじゃなくて、私の恋人。私の好きな人だよ。


 そう打ち明ける七羽ちゃんは、葵ちゃんの方だけに、笑顔を見せる。

「初めての恋人だから、からかわれたり冷やかされるの、恥ずかしくて嘘ついたの。ごめんね」

 葵ちゃんに申し訳なさそうに苦笑を向けると、すぐに祥子ちゃんに冷たい表情の顔を戻した。


「先週から付き合ったばかりで、清い交際してるの。だから――――私はまだ処女だ、バァアカッ!!」


 度肝を抜かれる発言が放たれる。

 七羽ちゃんは、べーっ! と舌を出して見せると、驚きのあまり棒立ちしてるおれと新一を軽く押して出るように促し、数斗の手を引いて部屋を出た。

 アホな先輩がいつの間にか、廊下にいて「ナ、ナナっ、ごめん」と謝る。

「謝罪はもう結構です。二度とあだ名で呼ばないでください」

 見向きもしないで、ただ中指を立てて見せて、冷たい言葉で突き放す。

 おれも顔色悪いアホな先輩を一瞥するだけで、先頭を歩く。


 ……なんで、こうなっちゃったんだろう。
 おれが提案しちゃったから? 七羽ちゃんの交友関係を、勝手に見直そうと企んで、集まってもらったせい?

 でも、かえって、七羽ちゃんを酷い思い込みで嫌な認識をしていたってことがわかって、絶交してくれたのはよかったかもしれないけど……。
 でも、もっと穏便に別れさせる方法とか、それがあったはず。

 でも、あんな風に、おれに直接言うから……。
 でも、胸ぐら掴むなんて、バカだよな。
 でも、頭に血も昇る。全然、七羽ちゃんをわかってなかっただけじゃなく、酷く悪く思ってたんだ。
 でも、高校時代の七羽ちゃんを、知らなかったおれには、何かを言う資格なんてないのかも……。

 なんであんな奴らが、七羽ちゃんのそばにいたんだ。傷付ていた七羽ちゃんのそばで、上辺だけの遊び仲間でいたのかよ。
 一緒に遊ぶのが楽しいかったから、高校時代からずっと付き合いが続いて、七羽ちゃんにとってはいい遊び仲間だったはず。
 それなのに……こんな形で終わらせちゃうなんて……。

 自分だけ悪く思われているって知っても、七羽ちゃんは逃げるって選択肢を取って、知らないフリをしただろう。
 あの祥子ちゃんに、最近チャラくなったと悪口を言ったの聞いちゃったから、ドタキャンしてレストランに逃げ込んだ時みたいに。そう、おれ達と出会ったあの日みたいに。

 避ければいい。七羽ちゃんなら、きっと連絡を絶つことで、そっと関係を静かに終えたかもしれない。
 新一に相談すれば、上手い具合に数斗と一緒に、機転利かせて、なるべく七羽ちゃんが傷付かないように、解決させたかもしれない。

 ……なのに、七羽ちゃんに全部任せちゃった。
 酷く後悔が、押し寄せる。

 アホな先輩の胸ぐらを掴んでしまったことを謝るように言われたことに、ショックなんて受けちゃって、アホなのはおれじゃん。

 喧嘩していた子どもを宥めて、互いに謝らせた。
 年下なのに、七羽ちゃんは一番大人な対応だった。
 年の離れた下の兄妹二人のお姉ちゃんの面だったのかな。

 そして、怒った七羽ちゃん。
 溜まりに溜まったものを吐き出すように、でも声を荒げるとかじゃなくて、突き刺す言葉を放っていた。
 チクチクというより、グサグサッて感じ。容赦なく、間違いを否定して、切って捨てるみたいだった。

 その溜まりに溜まった怒りの爆発は――――おれ達がきっかけだ。

 侮辱されたおれ達に謝った七羽ちゃんは、またおれ達のために怒ってくれた。
 遊園地で苦しそうに怒りを露に声を荒げた時とは、違うけれど。
 でも、おれ達には申し訳ないと誠意を込めて謝るのは、同じ。
 そして、おれ達のため。またおれ達のために。自分より、おれ達。

 自分だけなら、我慢しちゃうような子。

 不憫だ。なんで、傷だらけなの。
 守りたいのに、天使みたいないい子は、自分のことを蔑ろにしちゃって、他人のために声を上げる。
 どうやって、守ればいいんだ。
 守りたいのに。

 また下手踏んで。おれのせい。
 おれのせいで、長年の友だちと酷い別れ方をさせちゃった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

美人な姉と『じゃない方』の私

LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。 そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。 みんな姉を好きになる… どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…? 私なんか、姉には遠く及ばない…

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...