心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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一目惚れの出会い編

20 頑張れる想いの強さが欲しいが欲しい。

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 ソーダを飲み終えた私は、おかわりを頼もうとして、数斗さんの手元にコップがないことに気付いて、首を傾げた。

「……あれ? 数斗さん、飲み物は?」
「ん? あぁー……俺の分は、それだけど」

 すると、数斗さんは私が飲み干したばかりのグラスを指差す。

「……え!? 私、数斗さんの飲み物を奪っちゃったんですか!?」
「いや、俺が渡しただけだよ?」
「ぶふふっ! 気付いてなかったのかよ!」

 ケロッと答える数斗さんの目の前で、盛大に新一さんが噴き出した。

「奪っちゃった~。てか、そうだ~。七羽ちゃんって間接キスとか、気にしない人~? 数斗のソフトクリーム、ぱくんちょ、食べたよね~?」

 ふらふらーと左右に頭を揺らす真樹さんが、間接キスを話題に出してしまう。
 すっかり酔っ払いだ。
 思考が鈍いままに、尋ねてきている!

『いや……あの時、恥ずかしがってたから、気にしないタイプでは…………ないな』『ないな』

 数斗さんと新一さんが、返答するまでもなく、断言した。
 私が、さらに顔を赤らめたからだ。お酒でほんのり赤らんでいたやつが、悪化した。

 私は誤魔化すために、店員さんを呼び付けて、数斗さんとおかわりのジュースを頼んで、一旦、お手洗いへ逃げ込んだ。
 綺麗な店だけあって、そこそこ広くて、これまたお洒落なお手洗いだな、と感想を抱いた。

 ふぅー、と深く吐く。
 火照る頬を濡らした手を当てて、冷やす。

「ねぇ、真ん中の席の三人組、イケメンじゃない? 一緒に飲まないか、ナンパしようよ」

 あとから、トイレに入った女性が話す。

 ……100パー、数斗さん達のことだ。
 数斗さんと新一さん、イケメンすぎるからな。真樹さんは自分はモテないだなんて、卑下するけど、イケメンの分類に入るはず。顔、整っているもの。
 ちょっと言い方がアレだけど、数斗さんと新一さんの顔が良すぎるだけなのである。

 こうやって、注目する女性達に、数斗さん達といるところを見られると、また妹だの不釣り合いだの、心の声で言われてしまうのだろう。

 嫌だなぁーなんて。
 そんなことを、ぽー、と考えたけれど。
 数斗さんの声を思い出す。


 釣り合わないと言われたことが嫌だった、とか。
 好きだから付き合いたい、とか。


 切実な声だったなぁー、とぽーと思う。


 私が、気にしない、と振り切れるほど、


「グレージュの髪で、水色のシャツの人、よすぎない!?」
『絶対狙う!』
「わかる~! 話しかけようか!?」
『ワンナイトだけでもお願いしたい! 男だけなら、あたし達も入り込みやすいっしょ!』
『ちょうど隣が空いてたから、その席を、この子より先に座らないと!』

 ムッ!
 女性二人に、ムカついてしまう。

 まったく! 大切な彼らに、気安く言い寄らないでほしい!
 まぁ!? フレンドリーな真樹さんならともかく!? お目当ての数斗さんは拒むし、新一さんだってひと蹴りしますがね! 玉砕するからやめときなさい!

 なんて。忠告してやるなんてお節介だし、そんなお人好しではない。

 サッとすれ違えば、香水のキツさに咽せそうになった。ケバい人達だ。

 むぅー、と唇を尖らせたまま、席に戻る。

『おっと』
『あ、戻ってきた』

 数斗さんの方に、顔を寄せていた新一さんと真樹さんが姿勢を戻す。
 大方、作戦会議でもしていたのだろう。私と数斗さんについて。
 それを探る気はなく、私はストン、と数斗さんの隣に座り直した。

「おかえり。どうかした?」
『ご機嫌ナナメ……?』

 数斗さんが、首を傾げる。

「女性二人が、三人をナンパしたいって、お手洗いで盛り上がってました。モテモテですねー」
『へそ曲げてるぞ、これ』
『立て続けの女性問題! 付き合う前から、モテすぎて拗ねられてる! モテるって大変だな!?』
「そうなんだ。俺は一人の好意しか受け付けないのにな」
『ご機嫌ナナメな顔も可愛いけど、今日はもう、笑っててほしいな』

 しれっとナンパなんて興味はないと流して、数斗さんは私のご機嫌直しを考えた。

『あれ? さっきまで空席だったのに、女がいる……?』

 本当にナンパしに来たか。
 振り返って、改めてナンパチャレンジャーの女性二人を見る。

『なんだ、こんなガキんちょ、誰かの妹か。その席寄越しなさいよ』
『うっわ、童顔。飲み屋にいるってことは、成人してるだろうから……後輩か何か? 釣り合わない~。隣、退きなさいよ~』

 二人はいわゆるギャルで、派手なメイクと明るい髪色で、露出高めな服装。
 お手洗いで私とすれ違ったことに気付いていないもよう。私なんて、眼中になかったのだろうなぁ。

 逆に、自分達はどうして、数斗さんに釣り合うとか思うのだろうか。
 いや、まぁ……そうやって勝手な価値観を出すのは、数斗さんが嫌だって言ったのに。
 身勝手な考えだ。

 私自身が、数斗さんに釣り合わないって思っていることも。


 ――――好きだから、付き合いたい。


 その数斗さんの声が、耳にこびり付いている気がする。

 心の声だから、正しくは頭の中に、かもしれない。

 ナンパしにテーブルの隣に来た瞬間、また香水の匂いが鼻をついたものだから、身を引いた。
 ドッ、と左隣の数斗さんに身体を寄せる形になってしまう。

『え?』と、数斗さんが私の接近に驚いて、目を見開いた。その顔が間近にある。

「す、すみません! !」

 慌てて姿勢を戻す。


『『『『『『えっ』』』』』』


 しかし、うっかり、この場を凍らせる発言をしてしまう。
 やってきた女性二人が来るなり、臭いと発言。

「あ、いえっ、ちがっ、そのっ! 香水がキツくて! あっ」

 臭いと貶したかったわけじゃないと二人を見上げて弁解したが、二人の香水が臭いと感じたことを白状しただけになってしまい、さらに二人を凍らせてしまった。

「ぶふっ!!」

 新一さんが遠慮なく盛大に噴き出しては、テーブルに突っ伏して、大笑い。

 数斗さんも「クッ」と喉を鳴らして、笑いを堪える。

 真樹さんは両手で顔を覆って沈黙。しかし、肩がワナワナ震えているので、笑わないようにしていることはわかった。というか、ナンパ未遂の二人を気遣って『笑っちゃダメ笑っちゃダメ』と念じている。
 真樹さんが、唯一の良心だった。


「じゃあ、俺の香水の匂いは? どう?」


 数斗さんが肩を抱き寄せてきて、甘く微笑んだ。

 何そのとびっきりの甘い笑み。
 腰砕く気ですか、そのイケボ。

 ひええっ。イケメンが近い。

「さっき抱き締めた時は、嗅がなかったの?」

 、親密さを……!!

『えっ……何……? 意味わからない……』
『やる前から惨敗だ……ヤケ飲みしよ』

 結局、ナンパ未遂のまま、二人は声すらかけることなく、通り過ぎていった。

「ちょっと待て。抱き締めたってなんだ?」
「泣いたので、あやした」
「なんだと?」
「やましい気持ちはなく、腕の中で安心して泣いてもらっただけ」

 キリッと目付きを鋭くさせる新一さんの問い詰めに、数斗さんはしれっと答える。

「あ、あの、私から歩み寄ったというか、そうしてもらいたかったんですよ。号泣しちゃったので」
『数斗が弱みに漬け込んだとかじゃないのならいいが』

 すっかり私の味方のお兄ちゃんモードな新一さんだ。
 険悪ムードは、やめてほしい。私のために争わないで~、案件だ。

「いっぱい泣いたのー? ごめんねー? アイス食べる? マンゴー味シャーベットあるよ?」

 しょげた声で、償いとしてデザートを勧めてくる真樹さん。

「いいです。アイスはあまり得意じゃなくて」
「え!? ソフトクリーム食べたのに!? 言い出したの、七羽ちゃんじゃなかったっけ!?」
「あ、嫌いではないんですけど、しょっちゅうは食べられないんですよ。冷え性なんで。お昼みたいに遊び回ってポカポカしている時ならいいですけど、また夜にももう一個アイスは、ちょっと……」
「ああ。寒いのが苦手って言ってたもんね」
『冬とか、こうしてくっ付いてくれたりするのかな。俺で暖を取る七羽ちゃん……可愛い』

 数斗さん。まだ私の肩から手を離さないのだけど……。

「俺はこたつでガリガリとアイス食べるの、好きなんだけど」
「あ~、あったまってアイスを食べるのいいじゃん。でも寒がりだと、それも嫌だったりするの?」
「あっ! 高校の時に、放課後のコンビニで、雪ダイフクを買って食べてから、両手で持った肉まん食べたりしましたよ!」
『……絵面が可愛い。制服の七羽ちゃんが、肉まんで暖を取りながら、両手で食べるとか……誰かその写真撮らなかったかな』

 撮りませんよ、数斗さん。

「すっかり空が暗くなったかと思えば、ひらひらと粉雪が降り始めて、ほう、と白い息を吐いたあの瞬間……青春の一ページ」
「青春とは、なんか違くない? それ。いや待って? 文才ない? 七羽ちゃん。小説とか書いたことあったりする?」
「な、何故それを!?」
「アタリ!?」

 びっくりしたけど、リアクションは冗談で大袈裟にした。
 サムいポエミーを言っただけなのに。

「物書きなのか?」
「いやいや、そんな大層なものじゃないですよ。中学のイラスト部で、リレー小説書いた経験があるくらいで」
「え、何? リレー小説って」
「順番に、小説の続きを書く遊びですよ。次の人次第で話の流れが変わるという……ストーリーの迷走っぷりが楽しい遊びでした」
「迷走したんだ! 面白そう!」
「イラスト部なのに、小説って!」

 新一さんに物書き否定をして、けらりと話せば、真樹さんと揃っておかしいと笑い声を上げて面白がってくれる。
 本当は色々と書いたことあるんだけどね。未完成の小説が。言わなくていいよね。

『今日は色んな七羽ちゃんを聞けたし、知れたな……もっと詳しく聞きたいし、知りたいな』

 数斗さんも楽しげだ。
 それはいいのだけど……。

「数斗さん……いつまでこの体勢なんでしょうか?」

 数斗さんに肩を抱き寄せられたままの姿勢は、いつまで続くのやら。

「んー……ずっとがいいかな」

 なんて軽く笑い退ける数斗さん。

『様子見で受け入れてもらうって話だったのに、急接近しすぎでは? まぁ、七羽ちゃんが嫌そうじゃないなら、いいけども』
『まぁ、古川から接近したようなもんだから、拒まないなら、逃げられないぞ~』

 新一さんも真樹さんも生温かい目で見るだけで、指摘しない。
 新一さんなんて、ニヤついている。意地悪お兄ちゃんめ!

 さっきは、様子見で口説く作戦にしたみたいだけど、これ様子見してないよね!?


 何故こうなった!?

 あ、数斗さんが牽制みたいに、あのナンパ未遂ギャルの前で、香水を確かめさせるためにも、こうして肩を抱き寄せたんだっけ。

 数斗さんの香水?
 泣きじゃくっていたし、抱き締められた時は、嗅いでいる余裕なんてなかった。今だって、料理やお酒の匂いでわかりにくい。

 顔を上げれば、すぐそこに数斗さんの首元。
 香水って、首元につけるよね。

 顔を寄せて、スン、と嗅いだ。

 数斗さんの首をかすめた鼻は、優しいフローラルな匂いを吸った。
 肩を掴む手の力がなくなったので、そっと身を引いて離れる。

「優しい花みたいな匂いがしますね」
「あ、う、うん……そう、だね……」

 曖昧な返答をする数斗さんは、顔を赤くしていた。片方の手は顔を、もう片方の手は首を押さえている。

 え。今、鼻先で触れただけで…………そんな真っ赤になります?

『顔近かったっ……うわ、顔熱い。首に鼻先が触れるくらいの近さ……ドキッとした』

 赤くなった数斗さんに、ギュッと胸を締め付けられては、顔がボンッと熱くなってしまって俯く。


『『リア充が自爆した……』』


 一部始終をしっかり見ていた真樹さんと新一さんとも顔を合わせられずに、私はテーブルに突っ伏した。

 そこで、はた、と気付く。


 今更ながら、自覚した。


 ――――


 そう自分が思っている。

 わ、わわ、私……!
 前向きに頑張れるくらいに、好きって想いが増えることを、待ってる……!?

 いや、待って! そんな!
 いやいや! ホント、待って!

「ううっ……!」
「え? 七羽ちゃん? 大丈夫? 気分、悪い?」
「ち、違います、大丈夫ですっ」

 耐え切れず呻いてしまった声を聞いて、数斗さんが心配してくれる。


 優しい声。優しい気遣い。優しい香り。

 とっても素敵な数斗さんを想うならば、頑張って釣り合う努力はしたい。


 その想いの強さが、欲しいだなんて……。

 耳まで熱くなって、溶けて落ちてしまいそうだ。

 顔が上げられなかった。


 
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