令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに

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一章 家出編。

19 令嬢の家路。

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 ルーシ達とスチュアート様の初対面は、すごく険悪の雰囲気だった。
 品定めをする眼差しは容赦がなく、もっと言えば攻撃的な視線。
 スチュアート様を、敵と認識している目だ。
 スチュアート様は相手が自分より大きめな鬼族だからなのか、挨拶を交わして以降、蒼白の顔を伏せて目を合わせないように心掛けていた。
 スチュアート様持ちで大型の荷馬車を雇い、一同で揺られて王都に向かう。到着は夜になってしまうだろうから、あらかじめ手紙を送っておいた。
 荷馬車の中の空気も、悪い。
 スチュアート様の居心地が、至極悪そうだ。
 見張るように、ルーシ達が視線を向け続けていた。
 鬼族に殴られないだけマシだと思ってほしい。
 私の膝の上にスライムの姿のラムが、そのうち、私の家族について質問を始めた。

「私とお母様は外見がとても似ているわね、姉妹と間違えられるくらい若々しくて美しい人なの」
『へぇ! じゃあ美人なんだね!』

 そんな会話をしながら、到着を待つ。
 魔獣も出でこない穏やかな帰り道だった。

「お。この辺だよな。主と会った原っぱ」
『そうなの?』

 気が付いたルーシが、荷馬車から身を乗り出した。

「話したろ、ラム。主ってば、一文無しの手ぶらで家出してきたから、お腹空かせてオレ達のところに来たんだぜ」
「あなた達に会えてなかったら、シゲルの街に到着していたか、疑わしいわ……」

 笑い話をするルーシ。
 今、思い出しても恥ずかしい。お腹の虫を鳴かせ、聞かれたこと。

「運命的な出逢いですね」

 モーリスが言った。

「モーリスが分け与えるって言い出してくれたの。ルーシは見返りを求めていたわね」

 ラムにそう話す。

「なんだよ、根に持ってんの? 主」
「ふふ」

 じとっと見てくるルーシに、笑って見せる。

「それにしても、初めて料理したものを食べさせてもらったけれど、絶品だったわ。塩胡椒で味付けたお肉は魔獣のものよね? どれに乗せたチーズの相性は抜群だったわ」
『絶品!? 聞いてるだけでヨダレ出そう!』

 牛肉にも似たお肉に乗せたトロッとした濃厚チーズ。美味しかった。

「ああ、言ってないのか? あれ、モーリスの趣味だぜ」
「はい、私の趣味です。好物のチーズを作って、料理したものにかけるという、ね」
「まぁ。趣味で作っていたの? すごいわ」
「でも、色んな味のチーズがあるって言っても、流石に飽きてきたぜ」
「私は飽きません」

 にこやかに笑うモーリスに、呆れ顔のルーシ。

「そうだった。食事を分けた見返りに、ルーシが手合わせしろって言ったのよね」
『ルーシ、好戦的すぎ!』
「手合わせじゃなくて勝負な。だってよ、冒険者になるために身一つで出てきた水属性を無詠唱で出す小綺麗な格好の美少女だぜ? どんだけ強いか、見極めたくなるじゃん」
『ならないよ!』
「ならないのかよ」

 ツッコミを入れるラム。ルーシは反省の色なく、ケタケタと笑う。

『でもでも! ルーシって、火属性が得意なんだよね? 相性悪いのに、よく勝負挑んだね?』
「そうよね。よほど腕に自信があるのだと思って、私、とても警戒したわ」
「実際、自信はあったんだよ。でも火属性が無効なんて思いもしねーじゃん?」

 私が水属性が得意と最初にわかっていながら、不利な火属性が得意なルーシは勝負を挑んだ。
 そこで思わず口を開いたのは、黙って気配を消していたスチュアート様だった。

「火属性が、む、無効!? 何故!?」
「ああん?」
「ひっ!」

 ドスの利いた声を出すルーシは、まるで「会話に参加していいなんて言っていない」と言いたげに睨み下ろす。スチュアート様は、怯えた。

「おや、聞いておられないのですか?」

 はぁ、と呆れた息を吐くモーリス。

「火属性のドラゴンの加護をもらっているリディー様に、火属性の魔法は効かないのです。火属性の魔法が無効化されるほどの加護ですから、相当強いドラゴンでしょうね」

 モーリスが、私にちらりと視線を送る。
 ラグズフィアンマ様が、竜王だとはまだ話していない。

「水属性と火属性はレベル10なんだよな? 我が主」

 ルーシがニヤニヤしながら、確認する。

「レベル、10……!? 反対属性がレベルマックスなんて……! 聞いたことがない!」

 またもやスチュアート様は、蒼白の顔をする。

「どうして話していないのですか? リディー様」
「する必要はないと思ったからよ」

 私は思ったより、冷たい声を出してしまった。
 ビクッとスチュアート様は、肩を震わせる。

「まぁそうだよなー。婚約破棄野郎に、ステータスをわざわざ教えることなんてない」
「うっ……」

 婚約破棄野郎と強調をして、ルーシは吐き捨てた。

「いや、逃した魚がどんなに大きかったか、知らしめることは大事ではないか?」

 沈黙を保っていたソーイが、口を開く。

「それもそうだ。いいだろう? 主、精霊の話しても」
「え? ええ……別に構わないわ」

 話すことは構わない。でもスチュアート様が後悔するような話し方はやめてほしいと思う。しかし、彼らにとったら、単なる主の自慢なのだろうか。させておこう。スチュアート様も、蚊帳の外で話をされているよりはいい、はず。

「迷いの深い森の精霊、知ってるか?」
「ああ、もちろん」
「その精霊を助けて気に入られた主は、加護をもらった」
「えっ!? あの森の精霊の加護まで!?」

 驚愕のあまり、ガッコンッと鳴りそうなほど口を開けたスチュアート様。
 うん。やっぱり外れそうだわ。顎。

「精霊様曰く勇者に加護を与えて以来、初めて人に与えたそうですよ。ご存知でした?」
「た、確かに、勇者……私の先祖はあの森の精霊の加護をもらっていたと、代々身内だけに語り継がれてきた……」

 モーリスが確認すると、スチュアート様は頷く。
 なるほど。身内にだけ語り継がれていたのか。

「加護をもらって、主は木属性の魔法を獲得したんだぜ。それもレベル10のな」
「三つ目のレベル10の魔法!!?」
『え。うるさ』

 スチュアート様の大きすぎる声に、ぷるんとラムが私の膝の上で震え上がった。
 そんなスチュアート様は、もう腰を抜かしている様子だ。座っていてよかった。

「エルフの得意魔法で、人間が獲得が難しいと言われている木属性魔法……私も、勇者の末裔なのに獲得出来なかったそれを……レベル10で獲得するなんて……」
「どうだよ? 我が主をフるなんて、身の程知らずにもほどがあるって理解した?」

 絶望を隠し切れていないスチュアート様とニヤニヤしているルーシを交互に見て、私は苦笑を零してしまう。
 恵まれ過ぎよね。私。

「王家としては勇者レベルのリディー様を身内に出来ず、大きな損失でしょうね。見限られて当然です」
「うぐっ」

 モーリスが毒を吐くように言った。
 突き刺さったようで、胸を押さえるスチュアート様。
 私の家族の怒りを買っただけでも見限られたのに、その上、私が勇者レベルの冒険者だって知られれば、どれだけ責められるのだろうか。

「それでも、私は恋に落ちてしまった! 心に嘘をついて結婚するよりずっとよかったはず!」
「は? ふざけんな、婚約破棄野郎に変わりねーだろうが。恋に落ちただ? 一度婚約している身で落ちるような恋なんざ、薄っぺらいんだよ。婚約破棄する資格があるのは、主の方だぜ」

 男前な発言をするルーシの怒りに触れてしまったようだ。

「そのことなら、ちゃんと言ったわ。ルーシ。ちゃんと話し合って婚約を解消するべきだったって」

 そうフォローを入れた。

「例え真実の愛を見付けたとしても、すでに婚約を決めていたリディー様に筋を通すべきでしたね」
「全くその通りだと思う」
「うむ」

 モーリスとソーイだけではなく、ガーラドも頷く。

「そもそも、その恋に落ちたっていう令嬢は、お前が王子じゃなくなったってこと知ってるわけ?」

 またニヤッとしたルーシが、不安を煽るようなことを言い出すから、私は声を上げた。

「あっ! ここよ、ラグズフィアンマ様に会った場所。多分」

 話を逸らすことに成功した。一同は、荷馬車の外に目をやる。

「ラグズフィアンマ様が食べ物の魔獣を探していた時に、私の馬車を襲った魔獣を見付けて舞い降りてきたの。正直、怖かったわ。でも人の姿で話してくれて、優しい方だとわかったわ」
「こんな王都の外れで会ったのか……」
「ええ、とても素敵な人なの。あ、ドラゴンと言った方がいいかしら。ほら、私の故郷が見えてきたわ」

 すっかり陽が暮れてしまって、空は薄暗い藍色になっているけれど、明かりがつき始めた王都が見えてきた。
 いよいよ、家に帰る。そう思うと緊張してきた。
 帰ることを知った家族は、どうしているだろうか。
 どんな風に迎えてくれるだろう。
 ドキドキと、心臓が高鳴って、私は無意識にスライムのラムを抱き締めた。


 
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