イケもふ達とぴよぴよご主人様の異世界ライフ!

三月べに

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◆20 【セブ】

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 めんどくさい奴だって自覚はあった。

 素直じゃないから、捨てられたのかと思った。

 最後に見たのは泣いていたご主人様。
 慰めもしないから、見捨てられたのかと思ったんだ。

 久しぶりのログインの気配がしたかと思えば、異世界。

 悪だと罵られて、石だけではなく魔法もぶつけられた。捕らえられては、明らかに立ち入ってはいけない谷に追いやられた。空気は呼吸がしづらい明らかな有害がある。

 時折回復魔法をかけながら、追いやられた谷をうろついた。

 なんで、こんな目に遭うんだ……。

 弱音を吐いても、ご主人様に撫でてもらえない。

 ご主人様はいつも撫でてくれた。

――よしよし。

 そう優しい声をかけてくれて、慰めてくれたのだ。

 でも、オレは慰められなかった。

 あの時、ご主人様を慰められなかった報いなのかもしれないと弱気になった。


 このまま虚しく死ぬのだと思っていたら、オレを呼ぶご主人様の声が耳に届いた。


 今更だとそっぽを向いたが、抱き締めてくれた。天使みたいなご主人様だった。

 眩しい金髪と金色の翼で仄かに白く光る少女。つぶらな水色の瞳は、間違いなくご主人様の優しい瞳だった。


 嗚呼、一緒にいてくれるんだな……これからずっと。


 酷い目に遭ったんだ、ご主人様。だから慰めてくれ。

 黒い毛並みってだけで、この世界では迫害されてしまう。だから、そばにいてくれ。ずっと。

「よ、よし! 一旦、街に戻ろうか!!」

 気を取り直したように、ご主人様が切り出して立ち上がった。その足は、裸足だった。

「あ、待って。今がチャンス。靴を履こう、ご主人様」
「そうだね。……本当に靴を履いても、変化したら消えちゃうの?」
「そういう魔法だよ。ほら、魔法少女だって着ていた服が変わったり、武器が出てくるでしょ。あれとおんなじ」
「何故、魔法少女が例えに……わかったけれども」

 レオがマジックバックから取り出したブーツを膝をついて履かせるから、オレとシンは左右からご主人様の小さな身体を支える。

 履き終えると、ぴょんぴょんと飛び跳ねるご主人様。社会人だったはずだが、今はどう見ても少女。

 可愛い……。

「よし! じゃあ、私がみんなを瘴気から守るよ!!」

 ふんすと鼻息を荒くするご主人様は、翼でオレもシンも包み込む。キラキラしている金色のそれは、浄化の効果があるらしい。なるほど。これで呼吸が楽になったのか。

 オレ達三人を包み込みながら守ると息巻いていたご主人様だったが、ボフンと金箔の煙を撒き散らすと、シンの両腕にポトリと落ちた。

 真ん丸ふわふわな金色のひよこのような大きめな鳥だ。

 可愛い……。

 本人は「ぴよ……戻っちゃった……」としょげているが、やはり可愛い。

 抱き締めたかったが、シンが抱え直して隠してしまう。

「返せ! オレはご主人様がそばにいないと迫害されるんだろ!?」
「迫害を理由にご主人様を独占しようとしないでください! さっきからレオとあなたはご主人様に抱き着いているじゃないですか! 僕の番です!」
「お前が独占したいだけだろ!! だいたい、お前達はずっと一緒にいたんだからオレに譲れ!!」
「嫌です!!」
「落ち着いて、二人ともぉ」

 肩を掴んで揺さぶっても、シンは首を振って拒む。

「いいじゃん、セブ。さっきドラゴンを倒したんだから、シンもご主人様に労ってほしいんだよ。ちゃんとお礼を言ってよね」
「フーン、そうやって二人相手なら敵でもない魔物から助けたことを大袈裟に言うのか」
「めんどくさ!!」
「どうせオレはウザい奴だ」
「ウザいとまでは思ってないよ、めんどくさいとは思ってるけれど」

 レオ……正直な奴だ。
 シン、お前はいつまでご主人様を抱いているつもりなんだ。譲れって。

「ああ!! ご主人様! セブが僕の肩を握り潰そうとしてます!!」
「!! ちょっと力を込めただけだ!」

 シンがすぐ告げ口をするから、慌てて手を離した。

「……仲いいね、三人とも」
「「「…………そう?」」」

 ほっこりしたような顔をしているご主人様が、そう言うなら別にいいけれども。

「じゃあ、森までシンが抱っこして。次はレオ。それから街ではセブね!」

 ご主人様が決定したので、しぶしぶ受け入れた。

 瘴気が駄々洩れているドラゴンに、練習がてら浄化したご主人様。それをマジックバックにしまう。あんな巨体をしまえるとは、すごい魔法のバックだ。

 街が見えてきて憂鬱な気分になったが、ご主人様が頭の上に乗ってくれたので気が楽になる。

「目立つ方がいいからね!!」

 ふんすふんすと翼を広げつつも、頭の上に乗った理由を話すご主人様だったが、鳥って頭の上に乗るのは下に見ているって習性があったような……。まぁ、実際、オレはご主人様のペットだから下に見られていても、全然問題ないんだがな。

「落とさないでくださいね? ご主人様、髪の毛を引っこ抜いてもいいので、しっかり握っていてくださいね?」

 シンは、オレに厳しくないか……?


 街に入ってみれば、安堵と恐怖が入り混じった表情の住人がひれ伏していた。
 帰り道で聞いた通り、ご主人様は神様の眷属として崇められているから、そんなご主人様の僕であるオレを害したことで罰が下されることを恐れているらしい。

「一泊させていただきます。明日には発ちますので」
「そんな! ごゆっくりなさってください」
「結構です。仲間が迫害された場所では心から休まることなど出来ません」

 シンの物言いはキツイが、事実、オレも気まずさもあるし身構えてしまって気が抜けないだろう。

「で、では、せめて心からのおもてなしを」
「それも結構。迫害するような輩から出される料理など、安心して食べられないし、ご主人様の口には入れられない。食材だけはもらうから、余計なことをしなくていいよ」

 レオまで冷たく言い捨てた。オレへの迫害の罪もあるし、何より万が一にもご主人様に害を与えるようなら、陽気なレオだって冷たい声を出すのは理解出来る。

 領主であろう男は真っ青な顔で弱々しく「かしこまりました」と項垂れた。

 手入れが行き届いた空き家を好きに使っていいと言われて、今夜はここで過ごすことに決定。

「ムキー!!」

 ずっと黙っていたご主人様が、オレの頭の上で叫び出した。

「なんだろうね!? あの被害者面見たいな雰囲気! 腹立つー!!」

 住人達の様子が気に入らなかったらしい。そんなご主人様が暴れるものだから、腕に抱え直そうとした途端に、ボフンとまた金箔を撒き散らして人の姿になった。

 天使……可愛い。

「あ! 人の姿になれた! よっしゃ! 今のうちに料理する!!」
「!?」

 ご主人様の口から料理と聞き、思わずバッとレオとシンを振り返った。

 ビックリした表情の二人の様子を見て気付く。さては、二人もご主人様の料理はまだか。
 まだ変身が不安定だと聞いたし、今回がご主人様の初手料理。

「これでも一人暮らしで自炊頑張ってたからね! みんなに振舞うよ!」

 明るく笑いかけてくれるご主人様に、オレは笑みを返して床に降ろした。

「待っててね」

 ご主人様は手を伸ばすので、自然と頭を差し出したオレを撫でてくれた。

 ああ、いい子にするよ。ご主人様。

 だから、もっと愛でてくれ。愛しのご主人様。


 
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