16 / 21
◇16 飛べないぴよこでも癒し
しおりを挟む目覚めると水魔法で濡らしたハンカチで目元を拭ってもらい、そのあとにブラシで羽毛を整えてもらう。シンが私のブラッシングを鼻歌まじりに行っている間に、レオが朝食を準備。
昨日のストーンボアの肉で煮込みスープと携帯食パン。パンを浸して食べる。お肉はホロリとして食べやすい。朝の胃に、優しい味付けのスープに、ほっこり。
朝食を済ませたら、食後の運動がてら、飛ぶ練習。
シンが片付けをして、レオが練習の補佐をしてくれた。
「はい、バタバタ~」
「ん~!!」
四つの翼をバタバタするけれど、足をつけている地面の砂ぼこりを立てるだけに終わる。
……飛ぶって、難しい。浮きもしないよ。なんてこった。
「じゃあ、ちょっと上から落ちながらやってみよう」
そう言って、レオは私の身体を両手で持ち上げる。だいたい十五センチくらい持ち上げて、そこから手放す気らしい。この高さなら、大丈夫そうだ。
よし、来い! と、私は翼を広げて構えた。
バタバタ~。ぽて。
「……」
「ご主人様、もう一回」
バタバタ~。ぽて。
「……」
ただただ、落下した。
しょぼん……。私は……飛べぬぴよこです。
「異世界転生四日目です。いわばご主人様は雛なのですから、そう焦らなくてもいいのですよ」
片付けを終えたシンが私を拾い上げると、なでなでしてくれた。
片付けも済んだので、移動開始。
目指すは最果ての街、『ドムスガンド』である。瘴気の谷という魔物が跋扈する危険地帯に近いこともあって、手練れの冒険者が多く滞在する武装強めの領地だ。ちゃんと二人の冒険者カードを得てよかった。
徒歩でだいたい三日ほどかかる計算だから、昨日獣化で疾走した分短くなったはず。私がしがみつく体力を考慮して、今日は歩いて移動してくれるそうだ。
けれども、半日が経とうとした頃、魔物の死骸に遭遇。
「これは……魔物の縄張り争い?」
「ううん、これは冒険者の仕業だね。素材だけ採取されてる」
ムスッと顔をしかめたレオが、そう断定した。
「あー、やだやだ。困った冒険者がいたもんだ。こうやって死骸を残されると、他の魔物が群がって来るのに」
「悪いと瘴気を発するそうですよ」
文句を零しつつ、レオは地魔法で地面に穴を作ると、火魔法で火葬する。
どうやら冒険者の決まり事の一つらしい。死骸を放置することなかれ。色々問題が起きるらしい。シンが言うように有害な瘴気が発生するなら、なおのこと後処理をしないといけないではないか。ルール違反をした冒険者に、レオがしかめっ面をするのも理解出来た。
「ここから離れたところで、昼食にしよう」
レオの提案で、昼食。
昼食はシンが作ると調理器具を出したあとは任せて、レオが変身の練習に付き合ってくれた。しかし、今日は変身が出来なかった。あの羞恥の過剰スキンシップを思い出しても、不発。
「今日は調子悪いのかぁ」と、レオは特段急かさなかった。
しょぼん。そう簡単じゃなかったよ……。靴を履かせようと用意してくれたのに、すまぬ……。
昼食を済ませて、移動再開して一時間強ほど経つと、鼻をひくつかせたレオが足を止める。
レオが私を抱っこする番だったので、私を抱えたまま道を逸れていくと、ゴブリン数体の死骸が転がっていた。どう見ても、戦ったあとだ。魔物同士の戦いではない。人相手との戦いだろう斬撃の跡がある。
「まただ」と、レオが眉間に深くシワを寄せた。
またもや、他の冒険者の不始末をレオが地魔法と火魔法を駆使して処理する。
「オレ、ちょっと先を偵察してくる。酷かったら、まだ同じことがあるかもしれない」
「わかった。気を付けてね」
「うん、いってきます」
シンに私を渡すレオは、私に明るく笑いかけると頭を撫でてくれて、獣化で偵察に向かった。
残ったシンは、いつでも戦闘が出来るよう手が空けるためか、私を右肩に乗せる。私は足のカギ爪を食い込ませないように加減して掴んだ。
「痛くない?」
「全然大丈夫ですよ。むしろ、ご主人様に穴を開けられるなんてご褒美です」
「なんて?」
「いっそ、ご主人様が掴みやすいように、肩部分に爪を差し込むピアス穴のようなモノを開けた方がいいかもしれませんね」
「なんて???」
正気か、コイツ……!!
「フフッ、冗談ですよ」
ホントかよ!!
恍惚と頬を紅潮させている表情、さっきから変わってないけれど!?
ヤンデレ気味さに、ゾッとする。鳥肌。
「レオ。ちょっと怒ってたね」
話題を変えておこう。
陽気なレオが怒るほど、他の冒険者の不始末はよろしくないのだろうか。
「仕方ありません。他の人にも当てはまることですが、ここは最短ルートですので、他にも通る冒険者や通行人がいるということ。そこに餌のように魔物の死骸を撒かれている状態です。あまりにも危険に晒す行為です。これではご主人様の身にも危険が及びますからね。僕だって起こりますよ」
「ああ、なるほど……。最短ルートっていうくらいだし、本来は安全ルートなんだね」
「当然です。神様の眷属様と崇めるご主人様が通る道なのです。比較的安全なルートに決まってます」
フフン、と鼻を高くするシンだけれど、そのルートを提示してくれたのはギルドマスターだからね。
餌をばら撒くような不始末だと言われれば、かなり罪深い不始末ということになる。
戻ってきたレオは、不機嫌な膨れっ面だった。あちゃー、この先も死骸が放置されていたのね。
「ナノカ様。ルートを変更した方がいいよ。この先も死骸の匂いに釣られて魔物がウロウロし始めてる。強行突破は出来なくもないけれど、場慣れしてないオレ達だとご主人様の安全が安定しないから不安」
「レオがそう提案するならそうするよ。でもそうすると、どのくらい時間がかかっちゃう?」
素直にレオの提案を受け入れることにして、別ルートは最短ルートと違ってどのくらいの時間がかかるのかを尋ねる。
レオはギルドマスターからもらった地図を広げて、シンに抱えられた私に見せてくれた。
「この青い線のルートが次に最短。沼地に足が取られると思うから時間ロスがあるね。取り返したいなら、沼地を抜けたあと、獣化で駆ければ二日以内にはつけるはず」
「二日か……」
最短ルートの赤い線と違って、大回りするルートの青い線。確かに沼地と書かれた場所を通るようだ。
予定より一日オーバーしてしまう。こうなると不始末をした冒険者達が憎い。こっちはセブを早く迎えに行きたいと言うのに。
他の青い線は、沼地を避けるためにさらに大回りルートみたい。黒い線にはバツ印があるから、危険だという表記だろう。次のルートは、沼地の横断がいいみたいだ。
「わかった。そうしよう。お願い出来る?」
「もちろんだよ、ご主人様」
「ご主人様、なるべく急ぎますが、無理はなさらないでくださいね」
「私は何もしてないよ……?」
ニコニコするレオとシンに、キョトリとしてしまう。
私は抱えられているだけだし、食べさせてもらっているだけだよ……?
「シン。ご主人様、返して」
「なんでですか。沼地を抜けるまで僕がお運びします」
「いや、ご主人様を持ってると癒されるから、回復したい」
「なんて???」
ん! と両手を伸ばすレオと、譲りたくないシンの攻防が始まったけれど、気になる発言に瞠目してしまう。癒しって何? 見た目がぴよこで可愛いとかではなく? 可愛いから癒されるとかではなく?
「ど、どういうこと? レオ」
「ご主人様を持っていると持ってないとじゃあ、疲れ方が違う。多分、癒しの効果があるんだと思う。ほら、冒険者カードの登録の時、指に針刺したあと、すぐに傷が塞がったの覚えてる?」
「お、覚えてる……」
「ご主人様の羽根からかもしれないけれど、治癒効果が出てるんだと思うよ。だから治るんだよ、疲れも癒えちゃう」
「ああ、なるほど。ご主人様だから癒されて安眠出来るのかと思っていましたが、それだけではなかったのですね」
レオが説明すると、シンも腑に落ちることがあるらしく、ふむと頷いた。
そういえば、トルトアウェス様の羽根は瀕死からも回復させるんだっけ? 私にも癒しの効果が……!
「よし! わかった! レオ、抱っこ!」
ならば、役に立てる! 疲れを癒そうぞ! と、翼を広げた。
「「グッ……可愛い!!」」
ぴよこに癒されよ! イケもふよ!!
337
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる