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◇15 旅支度

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 女性神官達にあれやこれやと採寸をされた。そのうち、ボフンとぴよこ姿に戻った。

 身長が二十センチ近くも縮んでいた……ちっちゃい……わたし、ちっちゃい。
 と、ショックを受けたけれど、ぴよこ姿の方がちっちゃかった。もういいよ……。

 その採寸結果を頼りに、買い出しに出掛けた。私はセブが気掛かりでしょうがないので、買い物はなるべく手早く済ませてもらった。まぁ、レオとシンが吟味して談義はしていたけれども。

 面白いことに、靴にも衣類にも、魔物素材が使われていて、魔法付与をされているとのことだ。

 気難しそうな靴職人の老人は、ぴよこ姿の私を見るなり、相好を崩して説明をしてくれた。一人前の職人は魔法付与は必須で、適した魔物素材で『軽量化』や『丈夫さ』を付与出来るそうだ。

 例えば、レオが推すのは鰐蜥蜴という名の魔物の革で出来たブーツで、付与されているのは『移動速度向上』と『完全防水』とのこと。

 シンが推すのは、ハーピーの羽根とカギ爪で作ったお洒落なパンプス。サイドに羽根、カギ爪がヒール部分になったらしい。付与されているのは『超軽量化』と『疲労軽減』だそうだ。

「旅するなら絶対こっち!」
「そもそもご主人様はぴよこ姿なので、人化したら絶対にこっちです!」
「こっちならなんでも合わせやすい!」
「こちらもお洒落でいてシンプルです! 合わせやすいです!」

 どうして口論しているかというと、私が靴は一足でいいと言い切ったからである。
 そういうことで、自分が選んだ靴を推し合っている現状。

 結局、私が折れて二足とも買ってもらうことにした。

 その後も、冒険者向けの衣服店で、私に着てもらう服を選びまくった二人。

「これ似合うでしょ、ご主人様」と言うレオと「これ着てほしいですね、きっと似合います」と言うシンの即決の買い物だった。ワンピースと短パンだったり、ポンチョだったり。可愛くて動きやすそうな服がお買い上げされた。

 シンが物欲しげにお洒落な婦人服店に視線をやっていたけれど、流石に却下した。シンはしょげて、虎耳をぺしゃんこにしていたけれど、心を鬼にしておく。

 私の服は何着も購入したくせに、レオとシンは自分達の服を二三着しか購入しなかった。自分達はこれで十分なんだと。いや、基本ぴよこな私の方がそれを言いたいのだけれど。


 ギルドマスターに教えてもらった店で、マジックパックも購入。四つ。

 ポーチのような一つ目は、衣類やテントや寝袋をしまうマジックパック。テントや寝袋も同じく購入した。寝袋はセブの分も購入したのに、私の分がないのはなんでだろう。ぴよこだからいいけれども。

 同じくポーチのような二つ目は、調理器具などの必需品や、折り畳みの椅子やテーブルをしまうマジックパック。

 一回り大きなポーチのような三つ目は、魔物本体や素材をしまえるマジックパック。昨日貸してもらったマジックパックより、容量は約十倍だそうだ。すごい、十倍。これも『超軽量化』の付与がされているそうだ。満杯でも、それほど重さを感じないらしい。すごい。

 ショルダーバッグのような四つ目は、冒険の必需品、コンパスや地図など。それとお金などの貴重品。

 他にも、旅に必要そうな魔道具も購入。毛並みと羽毛を気遣って、ドライヤー。寝ずの番も安心、結界を張れるランプ。目に留まったコーヒーマシーンとミキサー。
 ……旅? これ、旅支度……ん?

 武器屋も物色したけれど、解体用の大ぶりな包丁と、レオが剣を一つ買っただけ。シンは身軽がいいのだと、微笑んで見せる。

「ポンポン買ったけれど、お金まだ大丈夫?」
「全然大丈夫。レッドワイバーンを討伐した報酬がまだまだ減ってないよ」
「たんまりいただきましたからね」

 レッドワイバーンの討伐報酬すら減っていない買い物だったのか。どんだけ大金の報酬だったの。

 まぁ、余裕があって何よりだ。ストーンボアの魔宝石は、大変価値があるから高値で買い取ってもらえたし、当分お金には困らなそう。

 昼には神殿に戻り、またご馳走をいただき、やってきたギルドマスターに例の街までの最短ルートを教わった。

「赤が最短ルートです。念のため、次の最短ルートは青の線で書きました。何か不足の事態があった場合は、ルートは変更するように」
「わかりました、参考にさせていただきます」
「こちらがルートに出没するであろう魔物のリスト、そして対処方法。あと頼まれた通り、辺りの植物のリスト、香草も毒草の資料もある」
「ありがとうございます!」

 ギルドマスターは地図だけではなく、植物のリストと資料まで用意してくれたのである。レオが頼んだらしい。レオは喜んで早速確認した。

「本当ならもう少し準備をしていただきたいところですが、眷属様のペットの身が危ないので止む負えません」
「何から何まで、ありがとうございます。ギルドマスター」
「いえ! 眷属様にお礼を言われるなど、誉です……!!」

 私からもお礼を伝ると、ギルドマスターは顔を真っ赤にして照れ出す。そして、やっぱり涙を流した。

 ギルドマスターに限ったことではなく、私達が出発することに神殿関係者一同はしくしくと悲しんだ。

 行かないでとは言わないけれど、存外に言っているような「眷属様ぁ」と泣き縋る声を絞り出す。

 多分戻ると思うけれど、確約は出来ないので“いってきます”を込めて、翼で手を振っておいた。死屍累々になったのは、大袈裟すぎやしないか。


 何はともあれ、最初の街『マローネ』を出発。先ずは見晴らしのいい草原を馬車で移動。

 東南にある森の入り口まで送ってもらって、降ろしてもらった。

「んー! 早く今日の寝床を確保しないとね」

 背伸びするレオは、冒険者コスのジャケットはそのままに、ショルダーバッグを胸にかけて、腰には剣を帯剣している。薄黄色の半袖シャツと、焦げ茶のズボンと『疲労軽減』が付与された新しいブーツ。腰の後ろにはポーチが二つ並んでいる。

「出来れば夕食も仕留めたいところです」

 私を抱えるシンは、わざと肩部分が露出しているデザインの薄い水色のジャケットと、白のシャツとグレーのズボンと同じく『疲労軽減』が付与されたブーツ姿。腰の裏にはポーチが一つ。

 なんとも身軽に見える冒険者一行だよね。

 携帯食料も持ってきているけれど、念のため減らさない方がいい。不足の事態のために取っておくべき。

「じゃあ、獣化で駆けるか」
「ぴよ!?」

 オレンジの獅子と白銀の虎が、森の中を全力疾走するものだから、獅子の鬣にしがみついた私は絶叫した。

 ストーンボアが出てきたので、戦闘。二人同時に風魔法で仕留めた。オーバーキルだと思う。

「シン、オレに先手を譲ってよ」
「仕方ありませんね」

 ゲームではバトル時はランダムで動くけれど、現実となると連携も話し合わないといけないらしい。

 今日のストーンボアの角はただの石。価値はないと言うことで、手早く解体すると、今日食べる分だけ残してマジックパックに収納した。保存機能があるそうで、腐らないらしい。

 解体作業をシンがしている間、レオは香草採取と周辺の確認に行ったので、私は大人しくシンのそばにいた。

「シンも解体上手いね」
「肉食ですから」

 ……関係あるの? 肉食。

 優雅に微笑みられると、反応に困るなぁ……。

 その後、レオが見つけた広場でテントを張って、簡易な焚火を作り、テーブルを出して調理に取り掛かった。レオが採取した香草をまぶして塩コショウで味付けした串焼きにしたボア肉は、硬めだったけれど噛む度に旨味が出る感じがいい。

 レオが、最初の寝ずの番。あとでシンが交替するらしい。ぴよこな私は、してもしょうがないということで、潔く諦めて寝る。

 就寝は早かった。昨夜が寝不足気味だったせいだろう。テントの中で、シンの腕の中で、すぴー。


 
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